《勇者のパーティーから追い出されましたが、最強になってスローライフ送れそうなので別にいいです》彼らはようやく帰還して
「おおアンタ達! 良く帰って來たな!」
集落へと戻ると、り口では何人もの獣人達が俺たちのことを待ち構えていた。その集団の中から、慌てた様子で先程俺と話した男が駆け寄ってくる。
  背負ったベリオを下ろすと、彼もまたフラついた足取りで男へと駆け寄る。いや、駆け寄るとは言っても足を怪我している為非常に非常に遅いものだったが。
「狂獣の吠え聲が響いてたから皆心配してたんだ。ロジスにあんなことがあったばかりで、その上ベリオまでやられてしまったら……ってな。本當に無茶しやがって!」
「フルさん……すいません。でも俺、このペンダントだけはどうしても見捨てられないんです。だから……」
  深刻な表で元のペンダントを握りしめるベリオ。そんな彼に対して、フルと呼ばれた男は困ったような表で頭を掻く。
「別に責めるつもりは無いんだ。ただ、お前の事をそれだけ心配している奴がこれだけいる……その事を知ってしかったんだ」
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  フルは背後に並ぶ人々に向かって顎をしゃくる。子から老人まで、様々な人々が皆一様に不安げな顔をしてこちらを見ている。
  自の行為がどれだけ周りに気を遣わせていたのか、ベリオは漸く思い知ったようだ。大きく目を見開いた後、悔やむようにほぞを噛む。
「……ありがとうございます。俺……」
「その先は俺が聞くべき言葉じゃない。ほら、妹さんが待っているぞ……これに懲りたら、もう暴走はやめるんだ」
  ベリオは軽く一禮すると、り口で待つ人々に向かって歩き出す。その姿を見送ると、フルは俺の方へと顔を向けて來た。
「アンタにも禮を言わなきゃな……ベリオの事、守ってくれて助かった。なんだかんだ言うが、アイツのお袋さんのペンダントは探すつもりだったからな」
「いや、俺もあいつと飛び出した時點で同罪だ。禮をける謂れはないよ」
  頭を下げてくるフルに、俺はやんわりと否定の意を示す。そもそも、俺のやった事は打算まみれの行為だ。それが結果的にある程度人助けとなっただけ……偽善以外の何者でもない。
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  そんな行為に対し頭を下げてくるこの男は、純樸でありっからの善人なのだろう。そんな人を利用し、俺は裏切った……自の犯した行為に後ろめたさをじつつも、それを口に出す事は決してない。俺も隨分とひん曲がってしまっただ、と心のでため息をらす。
「そう言ってくれると助かる。迷かけたな旅人さんよ……おっと、確かもう旅人じゃないんだっけか?」
「ああ、改めてラトラの家に滯在することになった。名前はバグス。バグス・ラナーだ。好きなように呼んでくれ……それにしても、ここを出る前のやり取りなんかよく覚えてたな?」
「へへ、生憎記憶力には自信があってね。おみならばこの集落の達ののスリーサイズ全部言って見せようか?」
「いや結構……って、え゛」
  シリアスな雰囲気から唐突に振られた下ネタ。思わず直してしまった俺を見て、フルはニヤニヤとした笑みを浮かべている。
  一瞬の靜寂の後、彼は大口を開けて盛大に笑い始めた。
「ハーッハッハッハ!!!  いや、なんだよその惚けた面!お前、鳩が豆鉄砲どころか猟銃でも食らったかのような顔してるぜ!  ヒーッ、ダメだ笑い死ぬ!」
「あんた……」
どうやら自分はからかわれていたようだ。笑い転げるフルのことを腕を組みながら冷たい目で見下ろしていると、ようやく笑いが収まったのか彼は目じりから流れる涙を拭い、呼吸を整える。
「冗談冗談! そんなの俺が調べられる訳無いだろう? いやー、兄ちゃん意外と初心だねぇ。もしや未経験かい?」
「……だったらなんだって言うんだよ」
  フルのにやけ笑いから目を背ける。別に俺もそ・う・い・っ・た・事に興味が無い訳ではない。ただ、勇者パーティーとして活していた最中には現を抜かす程の余裕がなかったというだけだ。
  大勇者パーティーに加したのが俺が二十一の頃。まだ夢を見れた時期で、初めては好きな人となどとのたまっていた辺りだ。そこから二年かけ、パーティーから追い出される時期になるまでは仲間に追い付こうと日がな一日魔獣との戦いに明け暮れる毎日だった。
  つまり、俺は二十三にして未だ貞だ、という事である。あまり積極的に口にはしたく無いが、事実なのだから仕方がない。
  俺のほぼ肯定とも取れる臺詞を聞くと、フルはニヤニヤとした下世話な笑みを浮かべ肩を組んでくる。
「いやいや、そう落ち込みなさるなって。幸いにして、お前さんの下宿先には集落一の人がいるだろ?」
  耳元で囁かれる言葉。若干の気持ち悪さとくすぐったさをじた為、俺はフルの腕を振り解く。
  集落一の人……まさかラトラの事ではあるまい。確かに將來的には人に育ちそうだが、この集落の人々がを崇めるロリコンの集まりでは無い限り違うはずだ。となると、一緒に住んでいるもう一人の同居人か……。
「……サウリールの事か?  別にあいつと俺はそんな関係じゃ」
「だーっ!  それはこれから育んでいきゃいいんだよ!  いいか、想像してみろ?  アイツがっぽくお前に迫ってくる景を!」
「そんな、迫ってくるって……」
  戸いながらも、頭の中には自然と景が浮かび上がってしまう。兎耳とその大きなを揺らしながら、バニーガールの服裝で此方をっぽく見つめるサウリール。ベッドに座った俺が唖然としていると、彼は網タイツを纏った足をベッドに乗せ、ゆっくりとにじり寄ってくる。やがて俺の目の前にその魅の谷間を近付けると、持ち上げられたがマシュマロのようにふにょんと変形し……
(って何を考えてるんだ俺は!!??)
  慌てて頭かぶりを振って脳の妄想を打ち消す。なんだバニーガールって。確かに同じ兎モチーフだが、それにしたって安直過ぎないだろうか。というか人生でバニーガールを見た事など數える程しかないというのに、隨分と妄想逞しい頭である。
  俺の様子を見て何かを察しているのか、フルは相変わらずニヤついた笑みを浮かべている。その笑みに若干苛ついて、思わず彼の肩を小突いてしまう。
「ハハハ、悪い悪い。でもサウリールさんが集落一の人ってのは本當だぞ?  幸薄そうな雰囲気とっぽい見た目が大人気だ。ライバルは多いから注意しとけよ」
「余計なお世話だよ。ったく……俺は帰るから、後は頼んだ」
  そう言い殘し、呑気に手を振るフルを目に俺はラトラ達の家に戻ろうと歩を進める。取り敢えず、帰ってから今後の方針を決める必要があるだろう。霊の取り扱い方も話し合わねばならないし、星魔王の事もある……問題は山積みだ。
  と、足早に集落のり口を抜けようとした時、背後から聲が掛かった。
「あ、待ってくれバグス!」
  振り向くと、そこにはベリオとその親戚の方達が。面識が無い相手の方が多いが、皆一様に真剣な顔を此方へ向けている。
  その中からベリオが一歩前へ出ると、彼は深く俺へ向かって頭を下げた。
「今回の件、全部バグスが居たから出來たことだ。有難う、本當に謝している!」
  唐突の謝辭に戸っていると、後ろに並んだ親戚達も一斉に頭を下げた。小さい子供から老人まで、皆一様に。
  その禮からは、欠片としておざなりなは見當たらない。全ての人が例外なく、俺へと純粋な謝を向けているのが分かる。分かってしまう。人から向けられる悪については、人一倍敏になっているから。
「っ……こういうのには俺、あんまり慣れてないから止めてしいね」
  俺は慌てて背中を向ける。そうでもしなければ、この真っ赤に染まった頰を見られてしまうかもしれないから。
  勇者パーティーとして活する中で、こういった事はもしかしたらあったかも知れない。ただ、二年の旅路の中で小さな記憶は磨耗していき、他の無い過去として処理されていく。今殘っているのは、目的と努力の跡のみだ。
「その…………此方こそ、ありがとう」
  裏返りそうな聲を必死に抑え、漸く言葉を絞り出す。だが、絞り出せた勇気はそこでガス欠となったのか一気に奧から恥ずかしさが込み上げて來た為、それだけを言い殘し俺はより早足でその場から歩き去った。
  將來の事など全く分からない。星魔王の事や、同じ地にいる元仲間の事……不安要素は盡きる事がない。
  だが。偶然に立ち寄った集落だが、縁えにしもない人ばかりだが、ちょっとだけ。
(……ここで暮らして行くのも、悪く無いかもな)
  自の頰がだらし無く緩んでしまっている事に気付いたのは、それから暫く後霊に指摘されてからだった。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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