《魂喰のカイト》プロローグ

俺、時雨海人しぐれかいとは道に迷っていた。

理由は簡単。

同人誌即売會の帰りに財布を落として電車に乗れず、徒歩で家に戻ることになったのだ。

社會人になって早2年。

業務にもある程度余裕ができ、久しぶりの即売會だったんだが、このザマだ。

思えば昔からそうだった。

面倒ごとが起きてはなすりつけられ、鳥が糞を落とすのも全部俺だ。

財布を落としたのはお前の管理が緩いせいだ、と言われると返す言葉もないが、これまでの人生の不運を鑑みるにしは幸運があってもいいと思う。

暗い夜道をどんよりとした歩調で進む。

電燈はないし、他に目立った明かりもないため、なんだか不気味だ。

家まであと何キロあるんだろうな……。

スマホのマップを頼りにひたすら歩く。

それにしても驚くほどに人がない。

通ったことない道だから不安でそうじるのか?

丁度そんなことを考えていたとき、前から人が走ってきた。

格からして男か?

暗くて顔はよく見えない。

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「あの、どうかしたんですか――えっ?」

至近距離となって男の格好の大が見えてくる。

し違和を覚え凝視してみると、なんとその男は手に包丁を持ち、覆面で顔を覆っていたのだ。

普通ではない出來事におもわず思考が止まるが、は既にき出していた。

「はっ、はぁっ、はぁっ、なんでっ……!!――――がっ!?」

走って間もなく、運の悪いことに足元の石につまづいて転び、顔面から思いっきり倒れてしまった。

の味がする。

口が切れ、鼻も出してしまったみたいだ。

覆面の上からでも分かるほどのしたり顔をしたその男は、こちらに駆け寄ってくる。

そして俺にったと思ったら次の瞬間――手に持っていた包丁で刺した。

「うぐっ! ああああぁぁぁ!」

焼けるような痛みが走る。

背中越しからは気味の悪い笑い聲が聞こえてきた。

コイツ……完全に狂ってるじゃないか。

今も背中は燃えるように熱い。

を流しすぎているのだ。

ああ、せっかく買った同人誌がで濡れていく……。

くそっ、こんなやつに殺されるなんて……俺、不幸すぎだろ……。

徐々に視界が薄れていく。

くそっ……くそぉ……せめて……しでも……しっぺ返しをしてやる……ッ!

「ひっ、ひぃ!?」

気合で腕を持ち上げ、よろよろとしたきで背後にいる男の顔の近くまでかすと、意表をついたようで短い悲鳴を上げさせることができた。

一種の火事場の馬鹿力といったものだったのだろうか。

普通の人間ならこんなに出していてきがとれるわけがない。

だが、その力はあくまでも一時的なもの。

俺の腕はそれ以上を許してはくれなかった。

ボトリ、と腕がり落ちる。

同時にまぶたが落ちてきた。

あっ、もう……ダメだ……。

でも……一矢報いれた……よな……?

ここで意識は完全に途切れた。

――と思われたが、気づいたら黒い空間の中を流されていた。

意識があったのだ。

なんだよ、ここ。

現在進行形で天國に送られてるってことか?

はぁ、こんなの見ちゃったら確実に死んだって分かっちゃうじゃないか。

まだ誰かが助けに來て、奇跡的に助かるかも、って希があったのに。

ああ、まだ生きたかったな。

も作りたかったし、友達と集まって騒ぎたかったし、まだやってないゲームあったし、同人誌読みたかったし……。

そんなじに一人で愚癡っていると、黒い空間の中で浮いているいくつかのの塊に気づいた。

俺自が流されているので、そのは後ろに向かって真っすぐいている。

なんだろう、これ。

塊のの一つに手にれてみる。

すると――

《ユニークスキル【魂喰ソウルイーター】を獲得しました》

の塊が俺に吸収され、脳に聲が響いてきた。

ユニークスキル?なんだそりゃ。

よくわかんないけど、れたから手にれたんだよな?

せっかくだし貰えるは貰っておくか。

そう思い手當たり次第にれていく。

《ユニークスキル【鑑定】を獲得しました》

《スキル【剣LV8】を獲得しました》

《スキル【火魔法LV9】を獲得しました》

《ユニークスキル【叡智】を獲得しました》

とりあえず塊を全部回収した。

俺のは未だ流されたままだ。

変わった點と言えば――しポカポカするかな?

心地よい暖かさだ。

お? あれは出口かな?

流されるのが楽しくじるようになってきたころ、が見えた。

さっきのような塊ではなく、

窓から差し込む朝日のような――

って、うわああああ!?

に吸い込まれる。

今までは流・さ・れ・る・が正しかったが今度は吸・い・込・ま・れ・る・だ。

手足が地についてなく、自由でもない俺はまんまとの中にってしまった。

こうして俺の異世界での語が始まるのだった。

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