《魂喰のカイト》17話 卒業試験

 

魔法學園と呼ばれる場所に來た。

道行く人に建の大まかな特徴と道のりを訊いて來たのだが、これは素晴らしい。

以前見た冒険者ギルド、商人ギルドと比べても遜ないレベルだ。

立派な門から始まり、そこから王都と隔離されているかのように広がる校庭。

って歩くと噴水まで見えた。

もうし若かったら俺も學してみたかったなぁ。

卒業試験の會場は校庭らしいのでそちらに向かって歩を進める。

校庭につくと、生徒が並んでいるのが見えた。

後ろの列が長いところを見るに、まだ始まったばかりか始まる前らしい。

試験を見に來た人も結構いた。

客は生徒の數以上確実にいるため、見客と生徒の位置の間に柵があり、そこで區切られている。

さらに、生徒の奧には試験を評価する側だろうか、スーツではないが高価そうな服を著た人たちが並んでいる。

この試験の概要を知らなかったので近くの人に訊いてみると、どうやら得意な魔法を放ち數十メートル先の的に何かしらの影響をあたえることで、その規模、魔法の質、強度、威力を判斷するらしい。

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的とは地面に埋められている支柱での前あたりに固定されている鉄製の円盤だ。

――とにかく強い魔法を放てばいいってことだな。

ならルティアは心配無いだろう。

草原で放ってた魔法は威力も高かったからな。

試験の判定の他にもう1つ聞けたことがある。

見事この卒業試験1位の績をかざった生徒は宮廷魔師の助手に選ばれ、將來的に宮廷魔師になる可能が高いということだ。

どうりで生徒が過剰に張しているわけだ。

彼らにとっては今後の人生を決める一大行事なのだろう。

「ビリー=マクレーン、行きます!」

なりの整った金髪蒼眼の年が聲高々に宣言する。

ちょうどあの生意気な子どもの番のようだ。

どんな魔法か見屆けてやろう。

ビリーは腕を前に構えた。

手から水が放出され、球狀にまとまっていく。

さしずめ、ウォーターボールと言ったところか。

サイズは俺が作る暗黒魔法の塊の2分の1程度だな。

まぁ、純度や度が違うから比べようはないんだけど。

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ビリーはしばらく魔力を集め、ウォーターボールをどんどん大きくしていく。

ある程度――よく運會とかで転がされる大玉と同じくらい――の大きさになると、まるで見世でもしているかのように自分の周囲をグルグルと漂わせ始めた。

――調子に乗ってるな、これは。

首席だのなんだの言われて舞い上がってるのだろう。

確認してみるとビリーの顔はばっちりドヤ顔だ。

『俺はこれだけ魔力の制をできるんだぞー!』みたいなね。

なんと言うか……痛々しい……いや、逆に可らしいか?

まあルティアへのあの態度を考えるとそんな吹き飛んで哀れみしか殘らないのだが。

學園の生徒たちは『ビリーすげー!』『さっすが首席!』などと賞賛しているが、教師や試験の審査員たちはみんな溜息をつかんばかりの表を浮かべている。

要するに井の中の蛙ってわけだ。

この歳にしてはすごい、というようなレベルなんだろう、きっと。

ビリーは魔法を數十メートル先の的に向かって放つ。

速度は――まぁ、こんなもんだよな。

表現するとしたら、軽いキャッチボールをするときに投げた球。

その程度の速さだ。

バシャ!

水魔法が的に命中する。

的の金屬の円盤はし揺れた後、止まった。

あまり大きな影響は與えていないが、さすがは首席と言ったところか、やはりこの歳では優秀な部類だったらしく、審査員は魔法が命中したところを確認し、真剣な表で的を眺めて評価していた。

その様子を確認し、先程まで浮かんでいたドヤ顔を更に深くしたビリーはを張り、堂々と退場する。

そのとき――俺とビリーの視線が差した。

即座にビリーは俺のことを馬鹿にしているような薄笑いを浮かべる。

覚えてたのか。

黒髪だから目立ってたのかな?

とりあえず爽やかな笑顔を送り返してやった。

すると、ビリーは俺の曇りない顔に不快を覚えたのか、気分の悪そうな表を顔に浮かべ、去っていった。

「ルティア=バーゼル、行きます!」

おっと、俺とビリーが視線をわしている間にルティアの番が來たらしい。

視線を正面に戻すと、赤をポニーテールにした、変わりない俺の弟子の姿があった。

どうやらこの1週間でしっかりと魔法を慣らすことができたらしい。

ビリーとはまた違った、純粋な自信に満ちた表をしている。

きっと功する、そう思わせてくれる表だった。

そこで、周りの生徒の嘲笑や哀れみの視線が見えた。

だが、ルティアはなんとも思っていない様子だ。

だから俺も流すことにした。

どうせすぐにルティアの実力に目を剝くに違いない。

ルティアがチラと観客のスペースを見た。

誰かを探しているようだ。

家族を探しているのかな?

そう思っていると、ルティアは目的の人を見つけたのか、明るくニコニコした笑みを作った。

――俺に向けてだ。

探し人は俺だったらしい。

ルティアが的に向き直す前にこちらも笑みを返し、手を振った。

俺のその様子に満足したのか、ルティアは的に向き直す。

そして、目を閉じ深呼吸。

一呼吸を終えると、カッと目を開き、両手を前に突き出す。

――火魔法だ。

ルティアの中で最もスキルのレベルが高い魔法。

そのレベルの高さは伊達では無いらしく、高速で魔法が構築されていく。

出來上がったのは火球。

先程のウォーターボールと比較して言うならファイアーボールといったところか。

大きさはちょうど俺が作る魔法の球と同じくらいだ。

と、ルティアが魔法を構築したところで審査員の嘆の聲が耳にった。

ほんの小さなつぶやきだったのだが、このできすぎた耳はその音を聞き逃さなかったのだ。

そして、今はこの聴力に謝だな。

短い聲だったが、ルティアの魔法で驚かすことができたのは確かなのだ。

自分に近な子が褒められると嬉しいものである。

ルティアは更に魔力を込める。

ファイアーボールの魔力の度を上げているのだ。

こうすることによって純粋に威力が上がる。

幸いこの試験に時間制限は無いみたいだし、自分の最大の一撃を撃つことができるだろう。

5秒ほどで魔力を溜め終わったのか、ファイアーボールの魔力度の上昇が止まる。

そして、今度は出するための魔力を集め始めた。

こちらはすぐに終わった。

1秒もかかってない。

後は放つだけ。

「――!」

ルティアはそのまま、何度も修練を重ね、完した型のまま魔法を放った。

軌道はまっすぐ。

速度はビリーとは比べにならない。

ビリーのウォーターボールが徒歩ならこのファイアーボールはオートバイだ。

そのまま的に命中する――その寸前。

ファイアーボールが分裂した。

數は4つ。

分裂したことで方向が変わり、的に命中する道筋を大きく外れたが、その火球の目標ターゲットは立てられた金屬の円盤で固定されていた。

すぐに軌道を修正し、的である金屬の円盤に四方八方からファイアーボールが襲いかかる。

――命中。

4発すべてが見事に命中した。

背後に2発、正面に2発の火魔法をけた金屬の円盤はドロドロに溶けてしまっていた。

「素晴らしい!」

審査員の1人がたまらず賞賛の言葉を述べる。

それにつられて1人、また1人と拍手をし始める。

どうやらルティアの実力は認めてもらえたようだ。

ルティアは照れ笑いを浮かべている。

その様子に俺までほっこりとした気分になってしまった。

「な、なんでだよっ!!」

ビリーがぶ。

どうやら落ちこぼれだったルティアがここまでり上がったことが気にらなかったらしい。

ビリーはすぐにルティアのもとに向かおうとしたが、周りに見られている中での子1人に怒りをぶつけるのを躊躇ったのか、何故か俺の方に來た。

「お前がなにか橫から不正をしたんだろう!」

「いや、やってないしそれ以前にどうやってするんだよ」

「うっ、ぐ……!」

やはり事実を認めたくないだけらしい。

言い返すとすぐに黙り込んでしまった。

「くそっ、なんで、なんでだよっ! あいつは落ちこぼれのはずだろ……!? なんでエリートの俺が負けるんだよ!」

「はぁ、だから言ったろ? 『あんまり人を下に見てると痛い目みるぞ』ってな」

俺の言葉にビリーの顔の皺は更に深くなった。

「あのなぁ、言っとくけどルティアはずっと努力し続けてきたんだぞ? その間お前が何をしてたかまでは知らないけど、その差は大きいと思うぞ。それに、ルティアは才能が全く無いわけじゃなかった。ある病気にかかってただけなんだよ」

「病……だと?」

「そう、病。”魔力病”ってんだけど、から魔力が減する病気なんだ。その影響で魔力が減している狀態でもある程度の魔法が使えたんだ。逆に才能に満ち溢れてるといっても過言じゃない」

「……そう、だったのか」

ビリーは膝から崩れ落ちた。

自分より下だと思っていた者が実は自分より上だった。

その事実に落膽しているようだ。

だが、すぐに認めて怒りを靜めているあたり、案外落ち著いた格なのかも知れない。

「くそっ……!」

ビリーはそういい捨て、ルティアと向かい合う位置まで移する。

そして――――頭を下げた。

「今まで……すまなかった……俺が、悪かった。慢心しすぎて、周りが見えなくなっていたみたいだ……許してくれ……」

ビリーの拳は固く握られている。

それもが出るんじゃないかと思えるくらいに。

ビリーにも相當なプライドがあったと思うのだが……今までの行いを恥じて、悔い改めるためにすべて捨ててくれたらしい。

「えっと、その……頭を上げてください。ただ、今までの行が間違ってたって気づいてもらえるだけで十分ですから! 私は何も気にしてませんよ」

ルティアは優しく言う。

その言葉にビリーも頭をあげる。

ルティアの笑顔を見てほだされたのだろうか、ビリーもしぎこちないが、笑みを作った。

「……ありがとう」

ビリーがそう言うとともに周りから歓聲が上がる。

そういえばここ、試験場のど真ん中だったな。

周りの事がわからない人も雰囲気に乗っかって聲を上げてくれたようだ。

「あ、あはは」

一連の流れを見られたことが恥ずかしかったのか、ルティアがし顔を赤らめながら笑った。

――こうしてルティアの卒業試験が終わった。

結果はもちろん首席。

今まで落ちこぼれだと言われてきた生徒のり上がりに學園中がちょっとした騒になったらしいが、それもじきに収まるだろう。

ひとまず俺は、ルティアの試験合格と宮廷魔師の助手への就職を祝うことにしようか。

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