《魂喰のカイト》25話 決意
ダンジョンの外に出て、再び大通りにやってきた。
いいじに日が傾いており、夕焼けがきれいだ。
夕食を取るのにちょうどいい時間帯だと言えよう。
さて、今日もステーキ食いに行くか。
運して疲れたし、一段と味しく食べられるだろう。
今から楽しみだ。
そんなことを考えながら歩いていく。
と、そこである噂話が聞こえてきた。
「なぁ、魔の大群が王國に攻めってきてるって噂、本當なのか?」
「知らねぇ。でも、やばいんじゃないか? なんか軍の方も慌ただしいらしいし」
「はぁ。恐ろしいな。もし本當だったら王都は助かるのか……?」
「おいおい、こっちには勇者さまがいるんだぜ? 萬が一もねぇよ」
「……そうだな。俺らはいつもどおり生活してればきっと問題はないか」
おいおい。
その話、本當かよ?
魔の大群って……。
確かリディルも魔が増加傾向にあるとか言ってたな。
今日ダンジョンに行ったのもそれの対策が目的だったし……。
Advertisement
なにかしら関係あるだろう。
もし、だ。
本當に王都に大群が迫ってたら、俺はどうしよう?
市民と同じようにいつも通り生活を続けるか?
――とにかく、店でリディルと話してみよう。
何かいい報が聞けるかもしれない。
足早に通い慣れた店へ向かう。
言われてみれば、通行人がし騒がしい。
聞き耳を立ててみれば、話題は魔についてのことばかりだ。
この噂は既にかなりの人數に広まっているらしい。
俺がダンジョンに潛っていたのはほぼ半日だから、噂が広まったのはこの半日の間だ。
半日でここまで広がる噂は中々ない。
あるとしたらよっぽど信憑のあるものだろう。
自然と気分がソワソワしてくる。
焦りにかられているのだ。
それがなぜなのかはよくわからない。
心に焦りをじたまま、店の前に辿り著き、扉を開ける。
いつもなら心地よいドアベルの音を聞きながらゆったりとるのだが、今はそんな余裕はない。
ってすぐに、リディルの姿を探す。
Advertisement
――いた。
いつもの席に腰掛けている。
だが、その姿はどこか気落ちしているように見える。
すぐに隣の席に座り、話しかける。
「よう、リディル」
「ああ、イルム。こんばんは」
そう言うリディルの面影は暗く、憂鬱さを隠せていなかった。
「何か知りたそうな顔だね」
「ああ、々とな」
リディルは俺の心を見かしているかのように言う。
おそらく、俺が何を聞きたいかはあらかた見當がついているのだろう。
俺の返答を聞いたリディルは薄く笑みを浮かべ、いつもとは違い重くなっている口を開く。
「はは、そっか……。まあ、多分その知りたいことはボクにも関係していることだろうね。いいよ、イルムには話そう」
そう言うと、リディルは誰も気づかないほど薄い結界のようなものを2人がすっぽりとるように作り出す。
おそらく周りに聞かれないようにするための対策だろう。
防音になっているのは先程まで聞こえていた他の客の話し聲が聞こえなくなったことから明白だ。
この店の客は數はないがまばらにいる。
重要な話だとしたら正しい判斷だろう。
リディルはちゃんと結界がはられているか、一瞥だけして確認し、改めて俺に向き直って話を始める。
「イルムが聞きたいのはこの半日で王都に流れ出した噂について……だよね? だとしたら、それは真実だよ。王都には今、魔が進行してきている」
「おいおい……ただの噂であってしかったぞ……」
「ははは……。でもこれは事実だよ。ボクや冒険者、軍の兵士には既に命令が降りているからね」
「命令?」
「うん。魔との戦い。王都に至るまでに殲滅しろってね。これから3日後に出陣だ」
ああ……これは本格的に戦爭紛いのことになりそうだ。
軍までくんだ。
魔の大群とはそれほどの規模なのだろう。
「今回まずいのは敵の規模もそうなんだけど、もう1つあるんだ。それが、敵個々の実力。偵察隊によると最弱の魔でもDランク以上の魔力を持っているらしいんだ」
「最弱でDランク以上だって……? そんなの勝てるのか……?」
「おそらく無理だろうね。良くて戦いは均衡、最悪この國が滅びてしまう可能もある。損害も計り知れないだろうね」
「くそっ、そんなにやばい狀況なのかよ……!」
自然とが強張り、歯ぎしりをしてしまう。
その様子を見たリディルは、苦笑いをして続けて話しだす。
「魔の大群の頂點には必ず統帥する魔がいる。この規模だとおそらく魔王だろうけど……そいつを潰せば希が見えてくる」
「そうなのか?」
「統べている力ある魔は配下全員に力を分け與えている可能が高いからね。そいつさえ倒してしまえば配下は大幅に弱化するんだ」
「なるほど、じゃあ絶対に勝てないわけじゃないんだな?」
「そうなるね」
そうか。
希が無いわけじゃないのか。
し安心できた。
リディルは俺が安心したのを見てか、し微笑んだ。
「今回、數鋭を組んで敵の大將を速攻で倒すことになったんだ。その間の足止めが軍と冒険者ってわけだね。幸い、居場所はわかってるんだ。王都から歩いて1週間ほどの距離のところにある城……『魔城』と呼ばれるところに居ついてる」
魔城、か。
聞くからに騒な名前だ。
魔を統べるものが潛むにふさわしいと言えばふさわしいな。
「――とボクの持ってる報はここまで。ここからは愚癡になるんだけど……聞いてくれないかな?」
「ああ、いいぞ。困ったときはお互い様だ」
どんとこい、というように余裕を持った笑みを作って言う。
本當はさっきから得の知れない焦燥に襲われている上に、いきなりの危機的狀況に頭が混しているのだが……。
親友と呼べるリディルの頼みだ。
聞くことにした。
俺の返事に安堵を覚えたリディルは溜め込んでいたものを吐き出すかのように話しだす。
「実は、さ。その數鋭に選ばれちゃったんだ」
――が、いきなりやばい話題だった。
數鋭って!
魔のリーダーとも呼べる存在と戦うのか!?
リディルが!?
確かに良い剣を持ってたし、腕がたちそうなことは見てれば自然とわかったが……。
なんだが信じられないな。
近な人がそんな重要な役割を擔う人だったなんて。
「正直、逃げ出したいよ。でも、こんな役割を得たから逃げるわけにはいかないんだよね……。本來の力も失ってしまったし、勝てるかは怪しい。下手したら死ぬかもしれないんだ。ただひたすらに、怖い」
「…………」
そりゃあ、怖いだろう。
相手の強さは的にはわからない上、命をかけた戦いになる。
恐怖をじないのはよほど自分に自信があるものか、死場を探しているものくらいだろう。
それに、リディルは力を失ったと言った。
おそらく、何かの事があって本調子が出せないということだろう。
だとしたら自尊心も削がれているはずだ。
そんな狀態での戦い。
きっと辛い。
「ちょうど3年くらい前にね、これよりは規模は小さいけど戦爭が起きたんだ。それも今回と同じ魔と人間のね」
これまで苦笑いを浮かべていたリディルから表がなくなる。
だが、どこか悲しそうで、悔しそうに見える。
「そこで……大事な、大事な仲間を1人死なせてしまったんだ。ボクが守れなかった。それから、戦うのが怖くなって……震えが止まらなくなる。また何かを失うんじゃないか、って。まあ、結局その後も嫌々ながら戦わされたんだけどね」
リディルの瞳がどんどん虛ろに染まる。
と、そこでリディルはハッとし、またいつもの苦笑いを浮かべた。
「ごめん、話しすぎたね。イルムには関係のないことだった。聞いてくれてありがとう。幾分か楽になったよ」
――ああ、そりゃあ、辛いよな。
実際に経験したことのない俺には到底知り得ない大きさなのだろうが、ただ、辛かったってのはわかる。
そうだ、リディルだけじゃない。
今回起こる戦いで喜んで戦うものなんてほぼいないはずだ。
統率者を潰せば希はあるとは言え、あまりにも絶的すぎる。
「リディル、俺も戦うよ」
「――えっ?」
――今なら分かる。
先程からじた焦りの正はきっと、もし魔が攻めってきていたら、命をかけた戦いをしなければならないという事実からきた恐怖に似ただったのだ。
そもそも魔と戦わずに王都で普通の生活を送っている、という選択が俺の中には無かったみたいだな。
きっと、ここで戦わなかったら、たとえ赤の他人でも戦死者を見たときに後悔する。
あのとき俺が戦ってたらこの人は生き殘ってたんじゃないか、こんなに人が死ぬことは無かったんじゃないか、ってな。
それを無意識のうちに理解してたんだろう。
よし、大群は迫ってきている。
その事実を認めて、覚悟を決めようじゃないか。
「た、戦うってどういうこと?」
「もちろん、俺も戦線に立つ。というか、どちらかと言うとリディルの數鋭に混ぜてもらいたい」
「いや、申し訳ないんだけど、無理だよ。イルムは多腕がたつとは思ってたけど……多じゃダメだ。君を死なせたくない」
ああ、まあそういう考えになるよな。
だが、俺も引かないぞ?
頑固だからな!
「じゃあ、俺の実力を試してくれよ。もしも無理そうだったら素直に大群の方に回るからさ」
「……本気で言ってるの?」
「ああ、もちろんだ!」
「……ふふ……はははは! いいよ、模擬戦でもしようか」
リディルはそう笑った。
「――っとその前に、まずは腹ごしらえだ! ステーキを食ってこう。もちろんリディルもステーキだよな?」
「ああ、そうだね。今日はステーキを食べてみようか」
その日の模擬戦前の夕食はリディルと同じメニューだった。
聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】
「私は聖女を愛さなければいけない。だから君を愛することはない」 夫となるユーリ陛下にそう言われた私は、お飾りの王妃として靜かに日々を過ごしていくことを決意する。 だが、いざ聖女が召喚されたと思ったら……えっ? 聖女は5歳? その上怯え切って、體には毆られた痕跡が。 痛む心をぐっとこらえ、私は決意する。 「この子は、私がたっぷり愛します!」 身も心も傷ついた聖女(5歳)が、エデリーンにひたすら甘やかされ愛されてすくすく成長し、ついでに色々無雙したり。 そうしているうちに、ユーリ陛下の態度にも変化が出て……? *総合月間1位の短編「聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、夫と聖女の様子がおかしいのですが」の連載版となります。 *3話目だけ少し痛々しい要素が入っていますが、すぐ終わります……! *「◆――〇〇」と入っている箇所は別人物視點になります。 *カクヨムにも掲載しています。 ★おかげさまで、書籍化&コミカライズが決定いたしました!本當にありがとうございます!
8 142【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎の虐げられ令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される〜
【DREノベルス様から12/10頃発売予定!】 辺境伯令嬢のクロエは、背中に痣がある事と生まれてから家族や親戚が相次いで不幸に見舞われた事から『災いをもたらす忌み子』として虐げられていた。 日常的に暴力を振るってくる母に、何かと鬱憤を晴らしてくる意地悪な姉。 (私が悪いんだ……忌み子だから仕方がない)とクロエは耐え忍んでいたが、ある日ついに我慢の限界を迎える。 「もうこんな狂った家にいたくない……!!」 クロエは逃げ出した。 野を越え山を越え、ついには王都に辿り著く。 しかしそこでクロエの體力が盡き、弱っていたところを柄の悪い男たちに襲われてしまう。 覚悟を決めたクロエだったが、たまたま通りかかった青年によって助けられた。 「行くところがないなら、しばらく家に來るか? ちょうど家政婦を探していたんだ」 青年──ロイドは王都の平和を守る第一騎士団の若きエリート騎士。 「恩人の役に立ちたい」とクロエは、ロイドの家の家政婦として住み込み始める。 今まで実家の家事を全て引き受けこき使われていたクロエが、ロイドの家でもその能力を発揮するのに時間はかからなかった。 「部屋がこんなに綺麗に……」「こんな美味いもの、今まで食べたことがない」「本當に凄いな、君は」 「こんなに褒められたの……はじめて……」 ロイドは騎士団內で「漆黒の死神」なんて呼ばれる冷酷無慈悲な剣士らしいが、クロエの前では違う一面も見せてくれ、いつのまにか溺愛されるようになる。 一方、クロエが居なくなった実家では、これまでクロエに様々な部分で依存していたため少しずつ崩壊の兆しを見せていて……。 これは、忌み子として虐げらてきた令嬢が、剣一筋で生きてきた真面目で優しい騎士と一緒に、ささやかな幸せを手に入れていく物語。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※書籍化・コミカライズ進行中です!
8 173凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】
現代ダンジョン! 探索者道具! モンスター食材! オカルト! ショッピング! 金策! クラフトandハックandスラッシュ! ラブコメ! 現代ダンジョンを生き抜く凡人の探索者が3年後に迫る自分の死期をぶち壊すために強くなろうとします。 主人公は怪物が三體以上ならば、逃げるか隠れるか、追い払うかしか出來ません。そこから強くなる為に、ダンジョンに潛り化け物ぶっ倒して経験點稼いだり、オカルト食材を食べて力を得ます。 周りの連中がチートアイテムでキャッキャしてる中、主人公はココア飲んだりカレーやら餃子食べてパワーアップします。 凡人の探索者だけに聞こえるダンジョンのヒントを武器に恐ろしい怪物達と渡り合い、たのしい現代ダンジョンライフを送ります。 ※もしおはなし気に入れば、"凡人ソロ探索者" や、"ヒロシマ〆アウト〆サバイバル"も是非ご覧頂ければ幸いです。鳥肌ポイントが高くなると思います。 ※ 90話辺りからアレな感じになりますが、作者は重度のハッピーエンド主義者なのでご安心ください。半端なく気持ちいいカタルシスを用意してお待ちしております。
8 183男子が女子生徒として高校に入りハーレムを狙っている件(仮)
表紙は主人公の見た目イメージです。お気に入り設定とコメントして下さった作者様の小説読みに行きます。花間夏樹という男子高生が高校に女子として入り、男の子に告白されたり、女の子と一緒に旅行にいったりする話です。宜しければお気に入り設定と コメントお願いします。
8 198無冠の棋士、幼女に転生する
生涯一度もタイトルを取る事が出來なかったおっさんプロ棋士。 最後の挑戦として挑んだ名人戦は敗北し、一人家で晩酌を楽しんでいた。 そして、いい加減眠ろうと立ち上がった所で意識を失い、命を落としてしまった。 そして気づくと、幼女になっていた。 これは幼女に転生した無冠のプロ棋士おっさんが、史上初の女性プロになり名人のタイトルを手に入れようと努力する、そんなお話。
8 89異世界でもプログラム
俺は、元プログラマ・・・違うな。社內の便利屋。火消し部隊を率いていた。 とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。 火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。 転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。 魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! --- こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。 彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。 実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。 第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。 誤字脫字が多いです。誤字脫字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。 【改】となっているのは、小説家になろうで投稿した物を修正してアップしていくためです。第一章の終わりまでは殆ど同じになります。
8 95