《魂喰のカイト》30話 出撃

現在、鋭隊は大きな狼の魔の上に乗り、王都外へとつながる門に向かって街中をゆっくりと進んでいる。

すぐ後ろには冒険者と兵士を混じえた本隊。

そちらは徒歩だ。

天候は晴れ。

雨で進行が遅くなっても困るし、良いスタートを切れたと思う。

が、しかし。

ここで問題がある。

これは非常に個人的な問題で、特に周りに迷をかけるものではないのだが、俺が気になる。

とても気になる。

その問題は何かと言おうとすると、まず説明しなければならないのが、鋭隊のメンバーについてだ。

メンバーというのは、リディルから話を聞いていたとおり、勇者パーティの一員と現在最強の冒険者だった。

時間がなかったためまだ話をしたことはないのだが、きらびやかな裝備に強者が持つ獨特な風格。

し通りかかっただけでも目を奪われてしまいそうな人たちだ。

つまり、すごく目立つ。

次に、俺は鋭隊の一員であり、騎乗用の魔にまたがり歩かせているということ。

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鋭隊であるということは、必然的に軍の先頭にいるということになる。

そして、本隊とは違う、鋭隊である証とも言える騎乗用の魔

つまり、すごく目立つ。

最後に、これは戦爭に向かっている最中であるということ。

現在は街の真ん中を通過しているのだ。

さらに、向かう戦爭はこの國の今後を決める大きな戦い。

當然街の人も集まる。

つまり、すごく目立つ。

ここまで述べれば分かる通り、問題というのは非常に目立っていることだ。

名の売れている鋭の中に一人ぼっちで全く名聲が無い俺。

周りにはたくさんの人。

いや、視線が痛い!

周りの一般人かられる言葉も『誰こいつ?』 みたいなのばっかりだし、こんなの拷問だよ!

俺の隣でこれまた魔を歩かせるリディルは周りの人たちに手を振っていたのだが、俺を見るなり苦笑いだ。

これはひどい。

この世界に來て間違いなく一番ひどい。

店開いてることやその他諸々の関係から、リディルが頭からスッポリ隠れるフード付きマントのようなものはくれた。

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それのおで確かに顔が隠れて元がバレることもないのだが、視線はどうにもならない。

この視線に耐えるしか無いということだ。

早く門にたどり著けー!

そんなことを思いながら魔を歩かせていると、一つだけ、違和を覚えるような視線をじた。

何かと思って視線の方に振り向くと、視線を向けていたのは同じ鋭の一人だった。

背丈は俺と同じくらいで、ボロボロのマント――恐らく良い魔皮で作られた高級品――をに著けている男だ。

顔と腕には包帯が巻かれており、顔は目と口以外が隠れて人相がわからないくらいで、腕は全が覆い隠されるくらいだ。

視線からじたのは妙な寒気。

俺が振り向いた後すぐに目を逸らされたため、よくは分からなかったが、良いものではなかった。

相手が好意的であろうと敵対的であろうとこちらにとってはあまり良くじない視線だ。

それに、なんだろうか。

この人を見ていると何か心に靄がかかるというか、あまり関わりたくなくじる。

生理的に無理、というやつだろうか?

どんな人間にも、會ったときからなんとなく相まみえることができなさそうな人間がいると聞く。

そういうものだろう。

目もすぐに逸らしたし、今回限りの付き合いだ。

別に気にすることもないだろう。

そう思い、そのまま門まで魔を歩かせ、外に出た。

外に出て、鋭隊のみんなはゆっくりとした速さのまますぐに本隊から逸れた。

逸れたのは、今騎乗している魔を使って近道を使い、魔城までショートカットするかららしい。

本隊と別行だから逸れたということだな。

作戦の容を思いだしながら付いていっていると、すぐに鋭隊の一員である青髪のの子が聲を出した。

「思念伝達を発します!」

その聲に反応して、周りが頷く。

それと同時に、何か得のしれないものがを覆うような覚をけた。

思念伝達というスキルの効果でこうなったのだろうか?

《聞こえるか?》

太く、男らしい低い聲が頭に直接響いてきた。

おそらく勇者パーティの一員らしい巨漢の言葉だろう。

耳から音をひろったような覚はない。

頭に響いた、という認識で會っていると思う。

《聞こえるよ。それじゃあ速度をあげようか》

リディルの聲が響き、すぐに皆の乗っている魔の速度が上がる。

それにおいていかれないように、俺も魔を走らせる。

おお、案外速度出るな。

が流れていく。

さすがに俺が走る速度よりは遅いが、それでも今まで見た魔よりは斷然早い。

馬を使うよりよっぽど早いだろう。

軽やかだから悪い地形も無視できる。

《さて、じゃあイルムの紹介でもしようか》

リディルの聲が響く。

そういえばリディル以外の人について全く知らなかったな。

向こう側も同じで俺のことを知らないだろうし、ここで自己紹介するのが妥當か。

って、聲を発するのってどうやるんだ?

念じれば良いのかな?

試してみるか。

《あー、あー。よし、聞こえてそうだな。えーと、武屋やってるイルムっていいます。リディルと々あって鋭にれてもらうことになりました。よろしくお願いします》

念じたら、無事に思念伝達が発したような覚があったので、そのままできるだけ丁寧に挨拶をした。

最初の一発が大事だって言うしな。

これで悪印象は持たれないはず――だった。

《リディルから話は聞いてたが、武屋なんか連れてきて大丈夫なのか? それなりに腕はたつんだろうが魔城に乗り込むのに足手まといはいらんぞ。それともなんだ、使い捨ての武の整備役にでもするのか?》

巨漢がそう言った。

やはりいきなりってきた特に名聲もない、特徴もないような俺はれがたかったらしい。

そりゃそうだ。

誰もこんな重要な役に見ず知らずの人間なんか參加させたくない。

変に弱い人間をれて死なせてしまったら參加を許してしまった自の気が病むし、何より実力も無いのに參加させられた人がかわいそうだ。

多分、そういうことを思って言っている。

チラと見えた巨漢の表からは悪意がじられなかったからな。

なんとなくだが、この推測は間違っていないだろう。

この言葉は今この場でも逃げるのには遅くない、という意思表示か。

それなら――

《ははは、使い捨てになんかなりませんよ。今回來たのは武の整備のためじゃなくて戦闘のためです。安心してください、実力はリディルが保証してますから!》

忠告はありがたいが、それでも俺だって覚悟を決めてんだ。

ちょっとビビリな俺は敬語でできるだけフレンドリーに言い返してやった。

現狀はこれ以上返したところで意味は無いし、やっぱり実戦で実力を見せるのが一番だしな。

ベストな回答だっただろう。

《アルダス、イルムは大丈夫だよ。決して足手まといにはならない》

リディルが俺の援護をしてくれた。

これは助かる。

リディルは勇者だし、格から見て人もある。

きっとここはアルダスというらしい巨漢も引き下がってくれるだろう。

《はぁ、リディルの言葉じゃ仕方ないな。イルムといったか、お前を仲間と認めよう。俺の名はアルダス=ミラード。斧を使っている。よろしくな》

やはり、リディルはすごかった。

予想していたとは言え、本當にあっさりと引き下がってくれた。

助かるな。

アルダス=ミラード。

巨漢であり、筋骨隆々の漢といったじの人だ。

両手で持つタイプの斧を得としている戦士で、に例えるなら獅子だな。

勇敢での気の多いというのが見ているだけで伝わってくる。

《じゃあ私も自己紹介します!》

そう言って、左隣を走っていた青髪のの子がこちらに笑顔を向け、手を振りながら思念伝達で挨拶をしてきた。

《アリシア=メイリーって言います! よろしくね、イルム!》

アリシア=メイリー。

青髪を肩で揃えていて、明るくてかわいいの子だ。

先程、思念伝達を発したのもこの子で、武を短剣と杖にしているところから、あまり戦闘は得意ではない補助タイプであることが伺える。

歳はリディルと同じくらいかな?

人ではなくだ。

こちらも手を振り返し、被ったフードの下から笑顔を作って返す。

それで、勇者パーティ最後の一人だが――

《……フィオン=ラガルド。……足は引っ張るな。以上だ》

なんかすごく辛辣だな!

フィオン=ラガルド。

で、アルダスほどではないが高めの背である。

きやすい黒い布の裝備。

これがただの布で作られた裝備でないことは想像に難くない。

きっと魔の特別な素材から作られたのだろう。

の雰囲気から暗殺者ってじの人だ。

さて、最後だが……。

先程の生理的に無理な人だ。

《…………ロプト》

なんだか機械みたいな聲だな。

風邪を引いてガラガラになったで出した聲みたいな。

しだけ違和を覚えた。

でもまあ聲なんて人それぞれだしどうしようもない。

それに生理的に無理とじたのも影響してるのかもしれないしな。

ロプト。

容姿は先程と変わらず顔と腕に包帯、ボロボロになったマントをに著けていて、人相はわからない。

背丈は俺と同じくらい。

は腰の後ろに橫向きに付けている長剣だ。

はこれまた包帯でぐるぐる巻きにされており、よく見えない。

最強の冒険者らしいが、どのくらいの実力なんだろうか。

気になるな。

《これで全員の自己紹介が終わったかな? それじゃあ敵襲に気をつけながら魔城まで進もうか》

リディルがそう聲かけ、俺たち6人は更にしだけスピードを上げ、まっすぐと駆けていった。

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