《魂喰のカイト》31話 開戦

開始から三日目。

日はとうに落ち、今は星のの下、篝火を囲んでいる最中だ。

俺たち鋭の六人はこの三日間で魔城と王都の中央にある谷の出口まで行き著いた。

二日後の夕方には魔城の近くまで付く予定だ。

そこから夜襲をかけるわけだな。

浄化の寶を使って弱い魔をすべて片付け、夜襲で混している片付けることができなかった魔を一匹ずつ倒す。

それが今作戦の要だ。

こうすることで余力を殘したまま大將を打ち取ることに専念できる。

ちなみに、魔城に向かう途中にある敵の砦は、すべて勇者パーティの、俺に辛辣な言葉をかけてきたフィオンの隠スキルで素通りすることができるらしい。

軍単位でそのスキルを使うことは無理だが、六人なら砦を抜けるくらい簡単にできるということだ。

これが今回鋭を送ることになった理由の一つになっているということみたいだ。

それにしても、魔に乗っての移は視點がグルングルン回ってきつかった。

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いや、正確に言うと的には特になんともなかった。

ただ、神的に疲れたのだ。

しかも、何時間も連続して走らせてきた。

が変わるとは言え、だんだんと退屈になってくるものである。

「軍は今朝開戦だったのか」

リディルが獨りつぶやく。

しかし、野営中いつも一人で何処かに行くロプトと、見張りをしているフィオン以外は篝火を囲っていたため、そのつぶやきは俺の耳にも屆いた。

「そうだったな。ロシュは大丈夫だろうか……」

つい自分の弟子のことを案じて聲を出してしまう。

「ロシュ? イルムの知り合い?」

俺の聲に反応したのか、青髪のの子、アリシアがこちらに質問をしてきた。

「冒険者をやってる弟子だよ。才能に恵まれた子で……將來はきっと強くなる子なんだ」

「弟子、かぁ。きっと無事だよ。イルムが教えた子なんでしょ? 自信持ちなって!」

アリシアは立ち上がり、笑顔でガッツポーズを作って勵ましてくれた。

とても元気をくれる仕草だ。

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思わずこちらも微笑んでしまう。

「そうだよ、イルム。君の弟子が弱いはずがない。きっと生き殘るさ」

リディルも俺に聲をかけてくれた。

いつもの落ち著いた笑みを浮かべて。

「お前の弟子の実力はよくわからんが、心配をしていても仕方がない。信じろ、自分の弟子を」

アルダスがその低い、どこか安心を與えてくれる聲で諭してくれた。

なんだろう、威厳も相まって『この人の言う事なら間違いはない』と思わせてくれる。

頼れる漢ってじだ。

「よし、そうだな。心配していても仕方ない。俺たちは魔城の攻略に専念すべきだよな!」

自分に言い聞かせるように大きな聲を出しながら立ち上がった。

そうだ、考えていても仕方ない。

俺は進むことだけに集中しよう。

◇ ◇ ◇

時間は遡り、行軍三日目の朝。

場所は王都と魔城の中央より王都側にある、最前線となる砦。

軍には張が走っていた。

兵士たちは各自配置につき、魔の襲撃に備えている。

防衛戦。

普通であれば人間側が有利。

しかし、いかんせん魔側の戦力が大きすぎる。

王國軍20,000に対し、魔達は約25,000。

さらにここから実力差があるのだ。

王國軍の勝利は絶的と言っていい。

軍団長の激勵により多している兵士たちだが、心の奧にある不安を拭うことはできていない。

「魔が攻めてきたぞー!」

一人の男が敵襲を知らせるびを上げた。

予想していた時間、予想していた場所での戦い。

ここまでは計畫通りだ。

後はどこまで時間をかせぐことができるか。

あわよくば敵軍を壊滅させられれば良い。

「魔導隊、発準備! ……3……2……1……発!!」

砦の頂上に陣取っていた魔導師、総勢1000人が同時に強大な魔法を放った。

混戦になった後には誤があるため放てない攻撃。

先制攻撃として、この數の差をしでも埋めることができれば良い。

そう思っての行だ。

基本となる火、水、土や、魔に特化したものが扱う雷、氷。

特別な才能を持つもののみが使うことを許される、闇。

各々が自の持つ最大の威力の魔法を放った。

轟音が鳴り響き、大地に煙がまった。

「続いて弓部隊、発!!」

合図とともに弓を持つ兵士、冒険者が弓をる。

弓部隊の者達はすべて特別な"眼"のスキルを持っている。

煙がまっていたとしても魔の姿が見えているのだ。

矢による雨が魔達に降り注ぐ。

各地から魔の悲鳴が聞こえてくる。

先制攻撃はどうやら功したようだ。

煙が徐々にはれてゆく。

眼を持っていない冒険者にも戦場を見渡すことができるようになった。

狀況は悪くない。

今の攻撃で魔を予想以上に倒すことができたのだ。

後は兵士と冒険者次第だ。

「全軍、魔共を向かい打て! 決してこの砦より先に通すな!!」

軍団長の聲が響く。

その聲に呼応し、兵士たちが鼓舞の雄びを上げながら魔の軍勢に突撃を開始する。

突撃した軍の後方、純白の短剣を攜える年もまた走っていた。

ロシュ=アトリー。

イルムの弟子であり、英雄のスキルを持つもの。

彼もまた、最前線に置かれた冒険者の一人だった。

「……っ! 危ない!!」

ロシュは一瞬上空を見上げ、そのまま見上げた空の真下に向かって加速した。

短剣が風切り音を鳴らすと同時に微量のが飛ぶ。

斬ったのは飛行型の魔、ガーゴイル。

しかし、その皮は赤く、普通の魔ではないことを匂わせる。

「す、すまねぇ。助かった!」

ロシュはこの魔を斬り、距離を離させることで狙われていた兵士を救ったのだ。

救世主メシアの効果による能力向上を使ったきであり、普段では到底できなかったきだ。

(救世主メシア、本當に持っててよかった……!)

心のそこからそう思う。

人を助けることができたことに安心を覚えている。

これこそが英雄ヒーローのスキルに選ばれた所以だろう。

ロシュは今斬ったガーゴイルをもう一度捉え直す。

「やっぱり、全く斬れてない……!」

赤いを持つガーゴイルの皮には傷こそつけられたが、斬り込みが淺い。

確かに首に傷をつけた。

しかし深くなければ致命傷にはなりえない。

(こんなに良い武を使っても斬れないなんて……。無力な自分が嫌になるよ……!)

心の中で一人愚癡をこぼすが、それは誰にも屆かない。

あのゴブリンと戦ったときのように危機に陥った自分を助けてくれる師匠イルムもいない。

自分でやるしかないんだ。

そう自分をい立たせ、短剣を持つ手に力を込める。

も待ってはくれない。

淺いが首に傷をれられたことに激高し、すぐにロシュへ突進をしてきた。

(確か僕が突進したとき師匠は――)

ロシュはイルムとの記憶を掘り起こす。

模擬戦をしていたとき、どうかれたか。

イルムのきを完全に投影する。

そして、く。

「――一歩進んで、腹に一閃!!」

ガーゴイルの腹部を貫通し、そのしい剣先がの向こう側に姿を見せた。

空中から向かってくる相手の下にもぐる形で一歩進み、そのまま腹に突きを繰り出したのだ。

模擬戦の最初、まだ戦いに慣れてなかった頃によくされた反撃だ。

手刀で寸止めだったが、ロシュは毎度、腹を貫通するかと思わせるあの突きにヒヤヒヤしていた。

「よしっ、やった!!」

ロシュが自分で魔を倒したという喜びを聲に出す。

しかし、喜ぶにはまだ早すぎた。

「おい! 後ろ!!」

誰かも知らない男の聲が聞こえた。

ロシュは、地面に落ちて瀕死のガーゴイルから短剣を抜くことも忘れ、後ろに振り向いた。

そこにいたのは今にも爪を振りかぶろうとしている竜。

6メートルほどしかない長からはではないことが読み取れるが、それでも竜だ。

4足を地面につけ、あまり大きくない翼をにピタリと収めているところから、おそらく地竜という種類だろう。

ですらAランクの末席に位置づけられる魔だ。

今のロシュに勝ち目など無い。

頭が真っ白になった。

何も考えることができなくなった。

ただ分かるのは、目の前にある死のみ。

はとうに生存を諦め、く気配はない。

(死ぬなっていわれたけど……竜相手にそれは無茶ですよ、師匠。……ごめんなさい)

死をれ、目を瞑る。

まだ死にたくない。

でも、どうしようもない。

そんな思いが頭を巡っていた。

――斬撃音。

生暖かいものが中に広がった。

ロシュはそれがだとすぐに理解する。

しかし、おかしい。

痛みがない。

からが失われる獨自の覚に襲われない。

燃えるような熱さに襲われると聞いたが、何もじない。

異変を理解し、ゆっくりと目を開く。

ロシュは眼前に広がった景に唖然とした。

あったのは首。

明らかに人間のものではない首。

見覚えがある。

先程まで自分に爪を振りかざそうとしていた竜の首だ。

ロシュは混している頭を働かせ、現狀を認識しようとする。

「なにを諦めている、ロシュ=アトリー」

前方から聲が聞こえた。

ここで、いつの間にか自分の前に人が立っていたということに気づく。

風になびく綺麗な金髪。

片手に持つ特徴的な紫の剣。

ロシュには思い當たる人がいた。

「あなたは――『紫閃』の!」

現最強冒険者、ロプトに隠れて大きく噂されたことはなかったが、若くしてBランクまで昇りつめ、さらにこの數週間で一息にAランクを勝ち取った天才。

その華やかな剣閃と、剣である紫の名剣から名付けられた二つ名『紫閃』を持つ

ロシュ含め冒険者の憧れである紫閃と呼ばれるは、ロシュの方へと向き直して口を開く。

「いかにも。ミラ=ケーティだ。私の尊者、イルム様の命で助太刀に參った」

「ははは……イルムさんは凄い人徳があるなぁ……」

ロシュはで零れ落ちそうになる涙をこらえ、同じく尊敬すべき人、自らの師匠が直々に作した短剣をガーゴイルから抜き、握り直す。

「背中は守る。生き殘るぞ」

「はいっ!」

との戦いは更に苛烈を極めた。

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