《魂喰のカイト》35話 分斷

「隨分と威圧的な扉……。やっぱりこの奧が魔城の主の部屋だよね」

「……ああ。奧の気配からしても間違いない」

アリシアがし怯えたように確認をし、それにフィオンが答える。

アルダスと別れてからしばらく移し、玉座の間の前の扉へとたどり著いた。

寶の効果で魔城のほとんどの魔は力盡きたようで、魔とは先程から一度も遭遇してない。

扉は人間の高さに合わせて作られているものではないようで、五メートルは優に超えるほど高い。

これが長の高い魔に合わせて作ったであろうことは想像に難くない。

また、吸い込まれそうなほど純粋な黒が得の知れない恐怖を掻き立ててくる。

から見ても大して何もじないだろうが、人間にとっては不吉の象徴のようなにさえ見える。

「さあ、行くよ」

リディルが空間の裂け目を作り出し、腰に下げている剣を片付ける。

更に、裂け目から二本の翼を模したしい剣を取り出し、アリシア、ロプト、フィオンの三人に聲を掛けた。

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聲掛けに三人が靜かに頷いたことを確認し、リディルは両手に持っている翼剣を握り締め、扉を蹴り飛ばす。

勢い良く扉が開かれ、玉座の間が視界にった――

「――っ!!」

――その瞬間。

リディル達それぞれに向かって一本ずつ、計四本の線が迫ってくる。

その線の存在に気づいているのは、リディルとロプトのみ。

フィオンとアリシアは、あまりに早いこの一撃に気づけていない。

《俺がアリシアの方を対処する! お前はフィオンの方を撃ち落とせ!!》

ロプトの思考が飛んでくる。

リディルは瞬時にその思考を理解し、行に移す。

右から左へ、のバネを全開に使った回転斬り。

向かってくる線よりも早いその一撃は、見事に二本の攻撃を撃ち落とした。

ロプトは手に持っていた長剣を橫に構え、撃ち落とすのではなくけ止めて対処する。

は大きかったのだが、こちらも見事に耐えきり、アリシアの安全を確保できていた。

ロプトの足元で、カランと何かが落ちる音が鳴る。

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リディルが橫目で確認すると、それは投げナイフだった。

何者かに投げられた投げナイフが、一本の線に見えるまで高速で迫っていたのだ。

フィオンとアリシアはこの出來事に遅れて気づき、掠りでもすれば致命傷であったであろうその攻撃に戦慄する。

「ご、ごめんなさい、ロプト……」

「気にするな。それより前を――」

ロプトがそう言いかけ、前を向いたときだった。

「ふふふ……はっはっは!! 今ので三人まとめて殺すつもりだったのだがな。そこの包帯は予想外の獲のようだ」

投げナイフを投げた張本人、玉座に居座るものが笑い聲を上げた。

その人は、玉座の間に立ち込める瘴気で姿もろくに捉えさせないまま、言葉をつなぐ。

「思えばそうだ。なんだ、あのは。魔城の魔がほぼ全て消えた。あのようなことは初めてだ――」

ここまで聞いたとき、リディル達は玉座に座っている人が、怒りに溺れて狂っているのだとじた。

それほどまでに、味方が死んで笑い聲を上げる人が奇妙だったのだ。

怒り狂うのも仕方ない。

味方である魔たちが一瞬のうちに死んでしまったのだ。

なにも不自然なことではない。

「――最高に面白い」

――そう思っていた。

「大どのようなことが行われたのかは検討がつく。恐らく、魔導の類だろうな。それも國寶級であろう。珍しいものを見せてもらった。謝するぞ」

あろうことか、玉座に座っている者はこちらに謝の言葉さえこぼし始めた。

わけが分からない。

コイツには味方の魔の命など頭にっていなかったということか?

そこまで考えてロプトは頭を振った。

ダメだ、アイツのペースにのまれてはいけない。

冒険者として、いや、直でそう判斷したのだ。

ここで、ロプトはふとリディルの方に視線を移す。

すると、そこに立っているリディルは妙に発汗していた。

目の前の相手の異常さ、そして強さからみて張し、多なりとも汗は掻くだろう。

しかし、それにしてもおかしい。

よくよく見てみれば呼吸も淺い。

どうしたのだろうか。

ロプトがそう考えていると――

「おおっと、瘴気が邪魔のようだな」

そう言い、玉座に座る人は立ち上がり、指を鳴らした。

その音と同時に瘴気がパッと晴れる。

瘴気が晴れて見えたのは玉座の前に立つ長の男。

額には二本の角を攜え、不健康そうな青白いをしている。

しかし、その風格は本であり、魔を統べる者であることがはっきりと分かる。

これは油斷できない。

そう思い、ロプトが警戒心を更に強くしたときだった。

「えっ、バース……?」

アリシアがあっけにとられたような表で小さく呟く。

それを聞いてか聞かずか、リディルが大聲でぶ。

「なっ、なんでバースが! お前はボクがこの手で!!」

そのリディルの焦りようを見て、バースと呼ばれた魔は更に笑みを深くした。

「何故、か。私にとってそれを教えることに意味はないな」

さぞ愉快な様子でそう言うバース。

その言葉にリディルは熱くなりかけるが、湧き上がるを制し、それならばと剣を構えた。

「あのとき確かにボクは殺した。しかし、今ここに、バースは存在している。あれは影武者だったのか、もしくは何か別の逃げ道でも準備していたのか……その理由は分からない。でも、分からなくても戦うしかないんだ」

リディルはすぐに落ち著きを取り戻す。

しかし、その瞳には憤怒、闘志、殺意、憎悪……様々なが宿っていた。

それに対して、リディルの行がどうしても可笑しくて仕方がないバースは、さきほどから口端が上がりきっている。

だが、リディルはそのことは気にしていない。

もう、バースを殺すことしか頭にないのだ。

リディルが一人、バースに攻撃を仕掛ける。

まるで疾風のような速さで駆け、バースとの距離をめた。

そして、そこからバースを挾みこむように両手に持つ剣を水平に振る。

バースはその剣を、後ろにを引くことで回避する。

常人の目には捉えることさえできないリディルの太刀筋が、簡単に見切られてしまったのだ。

しかし、リディルも無策に飛び込んだわけではなかった。

「《加速せよ》、カーテナ」

振り切り、差している剣の左手に持っている方をバースに向け、さらにその剣に向かって言葉を唱える。

直後、バースに向かって左手に持っていた剣が、風切り音を鳴らしながら飛ぶ。

その速度はかつてイルムを相手にしたときとは比にならない。

だが、バースはそのカーテナすら回避する。

後ろに引いて不利な姿勢なのをともせず、右寄りにしゃがむことで避け切ったのだ。

そして、しゃがむときに地面に付いた手を軸に、リディルに足払いをする。

リディルはその反撃を高く飛び上がることで回避。

そして、飛び上がった反を上手く活かし、右手に殘った剣を縦に振り抜く。

しかし、バースはそれすら避けた。

大きく右にステップを踏み、距離を取ることで回避したのだ。

と、そこで異変をじたバースが後ろを振り向き、ソレを摑む。

「うっ、ぐっ!?」

摑まれたのはロプトの左腕。

バースに攻撃を仕掛けたつもりが、いきなり流れた左腕への激痛に、ロプトは思わず聲を出してしまう。

しかし、それと同時に右腕を握られなくて良かったと安堵した。

剣を奪われてしまったら攻撃手段が減ってしまうのだ。

まだ反撃できる、とロプトは顔を歪ませ、笑みを作った。

「邪魔をするな。包帯」

しかし、バースはロプトがそのように安堵していることも知らず、そのままロプトを上空に振り上げ、重力で目の前に戻ってきたときに、その腹を強靭な足で蹴りぬく。

「――ッ!!」

蹴られた衝撃で呼吸音を鋭くらしながら、腹が突き破れそうになる覚とともにロプトは吹き飛ばされ、玉座の間の壁にめり込む。

「がっ! はっ、ああっ!!」

壁の瓦礫と共に地面に崩れ落ち、そのまま腹部を抑え、うずくまるロプト。

バースはそれにゴミを見るような視線を送り、飛ばされた先が丁度アリシア、フィオンがいる場所だと気づくと、また面白そうに顔を歪めて、その位置に向けて腕を突き出した。

「なっ、なにを!!」

リディルがそれを見て、急いで間にろうとするが間に合わない。

すでにバースの魔は行使されていた。

一瞬の閃

そのが去ったとき、先程アルダスを捉えていた結界が、リディルとバース、ロプトとフィオンとアリシアとで分斷するように現れていた。

そして、異変はそれだけではない。

「主よ、何用か」

ロプト達の結界の中に、狐がそのまま人型になったかのような、上品な尾と耳、髭、そして高い鼻を持つ二足歩行の剣を持った獣が立っていた。

「命令だ。私が勇者と戦闘をしている間、そこの雑魚どもの相手をしておけ。殺しても構わん」

意」

その言葉を聞き、人型の狐は靜かに返事をする。

そのことに、リディルは恐怖に近いを覚えていた。

「はっはっは! 瀕死が一匹に、が一匹に、今にも倒れそうな男が一匹。その中に強力な魔だ。どうだ、今にも仲間を失ってしまいそうな恐怖は。早く私を倒さねばな?」

そして、バースはそのことを見かし、面白そうに言い當てる。

バースにとって楽しいのは最大の力を出した勇者との戦い。

またもやバースはリディルを追い込んだのだ。

「……ぐっ!!」

リディルはその悔しさを表すかのように下を噛んだ。

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