白い靄が晴れると、そこは何もない真っ白い空間だった。

「何だここは…」

俺は慌てて周囲を見渡す。広がる限りのだだっ広い空間。そこには無い。只の白い世界が広がるのみ。

何処かの施設にでも運ばれたか？

そんな自分の考えを否定する。

あの煙が睡眠ガスだとしても俺は眠った覚は一切無かった。それともから吸収するタイプか？いや、それ以前に意識が途絶えた覚が無かった。一番近い表現で言うと飛ばされた・・・・・、と例えるのが近いだろう。

「お兄ちゃん、ここの重力は地球と違う。地球以外の何処かに飛ばされたんだと思う」

そう言えば若干が軽い。宇宙空間と迄はいかないにしろ、地球でないのは明らかだ。

「ワープか？」

「わからない…でも、ワープなんて現代科學では実現不可能。地球の人間が行ったものではない」

「地球の人間以外の存在？宇宙人とでも言うのか？」

真偽を確かめるために雫が制服のポケットから用のスマホを取り出す。

「駄目…人工衛星からの位置報もデタラメになってる…」

雫が開いたスマホの晶には黒いマップが広がっており、現在位置不明の文字が表示されていた。

まさに萬事休す。二人が別の探索手段を模索していると、突如背後に気配をじる。

「──まさか説明も何も無しに、真実に近づくとは流石ですね」

聲に驚いて振り向くと、まるで桜のような淡桃ピンクの腰まで屆きそうな髪を持った、この世の存在とは思えない程のが立っていた。

「──！？」

何時からであろ。もしや初めから居たのではないから。そう錯覚してしまう程、彼からは気配がじ取れない。

気配をじなかったことから、先程の白い靄の現象はこの人間が引き起こしたものだと推測する。

俺は咄嗟に臨戦態勢を取るが、そのはただ立っている。何もしない。

俺は即座にでも相手の行に対応できるように構える。

「真実とはどういう事だ」

「貴方がたの推測は答えに近いという意味です。正確には私は人間ではありませんが」

は俺の心の中の疑問に答えるような言葉を口にする。

心が読めているのか…？

し探る必要がありそうだな。

「人間ではない？宇宙人とでも言うのか？」

「いえ、神です」

「神、だと？」

そんなの言葉に息を詰まらせる。

日常でそんな答えを返されたのなら冗談だと笑い、真にける事はない。

だが、の容姿がそんな俺の常識をけ付けない如く否定する。

目の前にいるは、神だと稱されても不思議ではない程の貌の持ち主だ。それこそ神の如く。

普通の男なら即、惚れているであろう。

決して俺は自稱神から目を離さない。

それは俺が彼に惚れたとかそういう意味ではない。

例え真に神だとしても生であることに変わりはない。ならばその真意、確かめさせて貰おう。

俺は自稱神を見つめる。

彼の本質を確かめる、と言った方が正しいだろう。

俺は生まれつき人の心、いや魂・が視える。

相手の魂が黒く塗り潰されていれば、その人間は何らかの罪を犯した、もしくは罪を犯す予兆があるといったところだ。

反対に清い人は明るく穢れのない魂を持っている。…まぁ、後者の魂を持つ人間なんて千人に一人居ればいい方だろう。

それ程まで人間の心、もとい魂は穢れているのだ。この能力が幸か不幸かは察しの良い人なら分かるだろうな。

そんな暗い気持ちを振り払い、俺は目の前のの表を観察する。今までの経験から、このは何かを狙っている気配がする。

…注意は必要だ。

「神だと言ったな。そんな話、簡単に信じるとでも？」

「勿論、簡単に信じて頂けるとは思っていません。ですので神の力の片鱗、今から見て頂こうかと思います」

そう言うと、自稱神が俺達の目の前から消えた。

比喩ではない、本當に目の前から姿を消したのだ。

「なっ、何処に行った！？」

「お兄ちゃん、雫も確認できなかった！高速で移したとしても空気抵抗で空気の流れが変わるはずなのに、それすらもじなかった。ワープしたとしか思えない！」

「馬鹿な！そんなものが存在するのなら、チートだろ！」

暫くすると、再びが目の前に現れる。

「信じて頂けましたか？」

は華の咲くような笑顔で尋ねてくる。

俺の背中に冷や汗が流れる。

今のが戦闘だった場合、俺は一瞬で死んでいたのだ。今の俺ではこのには勝てない、勇敢と無謀を履き違えるほど死に急ぐつもりは頭ない。

隣でも雫が今の現象を計算しているが答えは出ていないようだ。

そうなると信じるしか無いようだ。

「分かった、あんたが神ということは理解した。けど、そんな神様が直々に俺達をこんな所に呼び出して何のようだ？」

「ご理解いただけたようで何よりです。実は貴方がたには異世界へと行って貰いたいのです」

「異世界だと、何故？」

「実は今から行って貰う世界に邪神が生まれてしまったのです。その討伐の為に転移してしいのです」

る程、異世界転移で邪心討伐ときたか…。

これはまたテンプレなお願いだな。

「お前は俺達よりも確実に強い。お前が戦った方が勝率があるのでは？」

「ふふふ、これでもか弱い乙ですよ？戦うだなんて、そんな」

「…ほざけ」

俺から背後を取っておいて、良くもまぁぬけぬけと冗談が言えたものだ。

俺は心中で神への苦言をらしながらも、気を緩めない。

「そのお願いには俺達への利益をじられないな。そんなモノに対して素直に頷くとでも？」

今の舞臺フィールドでは俺達より目の前のの方が立場の優位が高いことぐらい分かっている。

だが、はいそうですか、と二つ返事で了承するほど落ちぶれてはいない。それに彼も力を誇示するような事はあっても俺達を脅すような臺詞は口にしていない。承諾するしないにしても、しばかりの報酬は求めても敵対心は抱かれまい。

「無論こちらのお願いを了承して下さるのでしたら、そちらのお願いも出來る限りの葉えます。それにこれは私の勝手な予想なのですけれど、貴方達は元の世界に飽き飽きしていたのでは無いでしょうか？」

「───！？」

俺は彼の疑問に思わず息を詰まらせる。

…確かに俺達はこの力を使い余していた。

だから俺達は最低限の仕事しかけ付けないでいた。歯応えがないからだ。イージーゲーム程つまらない遊戯はなかった。

隨分俺達の事を観ているようで。

逃げ場なし、そんな雰囲気が漂う中、俺は大きく息を吐く。

「…対価というか、返答する前に１つだけ聞いておきたい事がある」

「何でしょうか？」

神からその質問が投げ掛けられた時點で俺の返答はほぼ決まっているようなものだった。これはただの自への言い聞かせに過ぎない。

「そっちの世界は、俺達でも楽しめるのか？」

「えぇ、魔法もありますし竜ドラゴンや魔も存在しています。きっと貴方達を大いに楽しませてくれるでしょう」

そんな予想通りの返答に俺は顎に手を當てて思案顔になる。

確かに神の提案は魅力的なものだとじる。

唯一不安があるとするのなら、この神は何かを隠している。

先程述べた通り、俺は相手のを何となくでじとることができる。

その俺の勘から言うとこの神、確かに邪神の討伐も本心からのお願いだろう。

だが、話の核心に繋がるような容を隠匿いている。そんなじがする。

果たして、そんな相手の提案に乗るのは一抹の不安が殘るな…。

當然、雫も力量の差は気付いているだろう。

それでも俺は雫が嫌と言うのなら…。

そう結論付け雫の方へ視線を向けると、雫は小聲で「もしかしたら…」などと呟いていた。

あれ？何だか嫌な予が…。

雫の様子を見て背中に謎の悪寒をじていると、雫が顔を神の方へ向けて口を開く。

「雫からも１つ、質問がある」

「何でしょうか？」

雫と神の間に靜寂が生まれる。

そして一拍程間を置いた後、雫がゆっくりと口を開く。

「──あっちの世界では兄妹は結婚できる？」

「はい、出來ますよ」

雫の質問に何気も無く肯定の言葉を述べる神。

は？いやいやいや、何を質問して下さっているんでしょうか！？そんでもって神様、今なんて言いました！？えっ、兄妹で結婚できるの？俺の貞の危機レベル上がっちゃうじゃん！

「分かった。すぐ行く」

「いやいや、雫さん！？ちなみに何を理由にそう決斷したんでしょうか？」

「勿論お兄ちゃんの貞を手にで「オーケー、聞いた俺が馬鹿だった。よし、すぐに地球に帰ろう。お兄ちゃんワールドシックになっちゃったから」…だが斷る」

いやだーー！？異世界に行ったが最後。

俺の貞が妹に奪われてしまう未來しか見えない。

「神様！やっぱり異世界には行きませ──」

俺は慣れない敬語を使い、神への敬意を誠心誠意表す。

「良かったです。行っていただけるのですね。それでは転移を開始いたします」

「話聞けや！」

俺が騒いでいるのはどこ吹く風。神が手をかざすと、地面が白く輝いて、俺の視界が白く塗り潰される。

───あぁ…さよなら俺の貞。

◇

神は太達を異世界へと転移させた後、１人天界に佇んでいた。

「申し訳ありません。また二人を戦いに巻き込んでしまって…。どうか二方に幸があるようお祈り申し上げます」

──神は手を合わせながら目を瞑り、そう願うのであった。

その願いは靜寂に包まれた空間に溶けていくかのように消えていった。

「そういえば、神が神に祈るのはお門違いですかね？」