なるべく目撃者を作らないよう人目を避けて帰路についた俺達は、あとしで國門が見えてくるところまで來ていた。

「やべぇよ、あれは。流石にやり過ぎだろ」

「うーん…まぁ、弱いよりはマシなんじゃない？」

「そうだけど…限度ってものがなぁ」

流石に山を消すのは過剰威力だと思うんですよ、お兄ちゃん。

そんな俺の訴えを気にも止めない我が妹は、さも當然かのように俺の背中に騎乗していた。

ちなみに叡羅は戦闘以外の時には空間収納の中にれてある。

その際に『空間収納にったらご主人様と會話が出來ないじゃないですか！』と駄々をこねていたが、幸いというかなんというか俺の脳と線パスを繋げることで言葉を口にすることなく叡羅との會話が可能になるらしい。

俺達人間は行を起こす際に2種類の神経を使っている。1つは脳や脊髄の中樞神経、もう一方は末梢神経だ。この末梢神経はさらに、眼や耳などの覚と中樞神経をつなぐ覚神経と、中樞神経と筋などの運をつなぐ運神経に分けられている。

や音、匂いや痛みなど、覚でけ取った刺激は電気信號に変えられ、まずは覚神経を伝って中樞へと送られている。そして中樞では送られた報を整理・解釈し、過去の経験や現在の狀況を見極めながらどのように反応すべきかを決定している。中樞神経はその名のとおり、指令本部のようなはたらきを擔う中継地點なのだ。中樞神経が存在している脳や脊髄は人間が考えたり、行を起こす際に通るのに避けては通れない部分である。

どうやら叡羅はソコから俺の思考を読み取って會話をしているらしい。

例えるのならラジオの周波數を合わせる覚に近いだろうか。

この機能は何気に有難い。

おで戦闘中に技の命令を口に出すことなく出來るからだ。

いくら俺の攻撃が速くてもく前に行方法を口に出していたんじゃ相手にバレて対策を取られる。

今も俺と雫の脳波を叡羅が中継になることで聲を発することなく脳での3人同時の會話を可能にしている。

ただ欠點があるとすれば──

『る程、る程。これがご主人様の癖ですか…』

「勝手に人の趣味覗くのやめてくれない？」

『ご主人様の趣味嗜好を知っておけば、もしもの時に対策が…』

「…俺のプライベート空間はないのか」

そう、叡羅が勝手に俺の頭の中を覗こうとすることだ。

どうやら脳や脊髄に保存されている俺の過去の記憶を読み取って閲覧しているようだ。

そのおで俺のの自行為ソロプレイの景までもが白日の元に曬されていた。

雫の監視を掻い潛って行うのも一苦労するんだぞ…

ちなみに行為タッグプレイは行った事はありません。

「叡羅、その記憶私にも寄越す」

『どーしましょーかねぇ、この負け犬である妹に慈悲を下さい、と言ったら考えてあげてもいいですけどぉ』

「なっ！あ、足下見やがって…！」

『いいんですかぁ？そんな態度を取って』

「く、くぅ…！ま…」

『ま？』

「…ま、負け犬である妹にじ、慈悲を下さい…！」

『ふぅ、しょうがないですねぇ、特別ですよ』

などと、脳では俺の自行為の記憶をスマホの映像に変換して、その畫を使った売買が行われていた。

どうやら叡羅の脳信は複數の人と同時に會話が可能のようだ。

…しかし、生みの親である雫と叡羅の優位が覆っているという、社會の食連鎖の恐怖を垣間見た気がする。

その話の種が俺の自畫というのがどうかと思うが…。

売買するなら、せめて俺の見てないところでやってくれ…なからず、當事者の背中の上で行う取引ではないのは確かだ。

──ん？これは…

そんなバカ騒ぎを脳で起こしていると、俺の気配探知の範囲に複數の反応を知する。

『ご主人様、一時の方向、距離200mの位置に20名の人間の生命反応を探知しました』

どうやら叡羅の方でもじ取ったのか、俺の気配探知よりも詳細な報を報告してくる。

俺の気配探知では種族までは區別が付かない。

せいぜい魔か魔じゃないかの區別ぐらいである。

後は、數や大の魔力量ぐらいだろうか。

こう聞くと俺の気配探知より叡羅の探知機能の方が優秀にじるが、叡羅の探知では探索対象が此方に悪意の有無までは察知できない。

そこら辺は機械より生の危険察知能力の方が優れている點だろう。

「どうするの、お兄ちゃん？」

「うーん…どうしようか？」

「取り敢えず、あの草原からはだいぶ距離も離れたから、もう見つかっても怪しまれる可能は薄い」

「じゃあ、いっか」

若干、隠れるのが面倒くさくなってきた俺達はこのまま道を真っ直ぐ歩き続けることにする。

それに國門の近くでコソコソしてたら、それこそ怪しまれそうだし。

覚悟を決めた俺達が道に沿って歩いていると、甲冑にを包んだ騎士団らしき集団が視界に映る。

──あれ？先頭にいる人って…

目を凝らしてよく視てみると、なんと騎士団を率いているのは國する際にお世話になっている門番のドランさんだったのだ。

まだ距離は150m以上あるので、向こう側は此方に気付いてなさそうだ。

え、なに？あの人もしかして偉い人だったりする？

初めて會ったときから、に纏う雰囲気オーラから強者つわものだとは思っていたが、まさか隊を率いるほどの地位にを置く人だったとは。

ドランさんとの距離が100mを切った辺りで向こうが此方に気付いたようで、ドランさんが隊の兵士に何か伝えた後で此方に向かってくる。

「ふぅ、やっぱりお前達だったか。依頼の帰りか？」

「えぇ、スライム討伐の依頼でし」

俺は余計なことにずかれないように、し言葉なめに返答をする。

可能としては希薄だが、ここで噓をついても冒険者ギルドで確認されたら俺達があの草原に居たことはすぐにバレることだろう。

「なにっ！？お前達、あの草原に居たのか！それなら、近くで強大な魔や怪しいものと遭遇したりはしなかったか？」

「いえ、特には…何かあったんですか？」

俺はなるべく平靜を保った表で返す。

勿論、騎士団が送られてきた大の予測はついているが、ここは知らない振りをして誤魔化すことにしよう。

「実はだな、お前達の居た草原の近くの山が謎の発により大きく抉れる事件があったんだよ。それで俺達、近衛騎士団が調査のため派遣されたという訳だ」  

「そうだったんですか。確かに何か大きな揺れをじましたが、スライム討伐に夢中で気づきませんでしたよ」

アハハハ、と笑いながらも冷や汗を掻く俺。

はい、すみません。十中八九、犯人は俺達です。

「そうか…何も知らないか。後からでも何か気付いたことがあったら教えてくれよな！」

「はい、勿論」

何か報が得られると期待していた分落膽が大きいのか、し落ち込んだ様子だったドランさんだったが、直ぐに気を取り直して騎士団の元へと走って戻っていく。

あっぶねぇ…バレるかとおもったぜ…。

張が解けた俺は作っていたポーカーフェイスの表を崩して大きく息を吐く。

「お兄ちゃんは口上戦には向いてない」

『私もそう思います』

「揃って俺をディスるの止めてくれない？」

頑張った俺をもっと労って！

「そう言うなら、雫が対応すればよかったじゃん」

「男の人と會話すると妊娠するって…」

「どこぞの都市伝説だよ！」

『えっ、妊娠するんですか！？』

おい、最先端の人工知能が騙されてどうする。

「お前も信じるなよ…というかその理論だと、俺と會話しても妊娠するってことになるけど？」

「お兄ちゃんなら、むしろウェルカム」

「さよですか…」

雫からの重い求アプローチに多の辟易をじながらも、國門に向けて再び足を進める俺であった。

◇

國門に著いてみると何時もは最低でも2人はいる門番が今は1人しか立っていなかった。

恐らく山の調査で騎士団の大半が出払っているからに違いない。

門番も何度か顔を合わせたことがある男だったので顔パスで通過することが出來た。

俺も隨分この街に馴染んだものだなぁ。

街にると、丁度お晝時の為か大通りは大勢の人々でごった返していた。

それは何時もの事なのだが、何やら何時もより人々がざわめき合っている事に気付く。

聞き耳を立ててみると、どうやら街の人達も先の山の崩壊の揺れをじ取っていたらしい。

すみませんねぇ、元兇は貴方達の目の前に居ますよ。

人混みが苦手な俺達は足早に依頼達クエストクリアの報告の為に冒険者ギルドへと足を運ぶことにする。

ギルド會館の扉を開くと館は冒険者達の喧騒に包まれていた。

晝間から酒を飲んだりする酔っぱらいでいつも騒がしかったり、め事やらで靜寂とは程遠いといえるギルド會館だが、今日は特に騒がしくじられる。

その喧騒の元の殆どが集まっていた依頼用紙がられているボードに向かってみると、ボードに1枚の紙が目立つようにど真ん中にでかでかと張られていた。

…何々？『原因不明の山を消し飛ばした理由を調査せよ。原因、又は犯人を特定した者には白金貨2枚を報酬として與える』

そんな事が紙には記されていた。

…oh my god！

などと、特段信仰もしていない神に語りかけてしまうのも無理はないだろう。

なんと、この騒ぎの本當の元兇は俺達でした。

しかも白金貨2枚って…日本円に換算すると約100萬円である。

何？俺達100萬円の懸賞金が賭けられているの？

マジかよ…衝撃の事実っ！

「…驚愕」

雫は隣で言葉とは裏腹に無表でそんな想を洩らしていた。

もっと驚こうぜ？指名手配されてるんだよ？

あっ、でも雫なら的証拠が揃っていても言葉だけで相手を説き伏せる事が出來そうだから、そこまで危機的狀況ではないのかもしれない。

「あっ、太さーん、此方に來てくださーい！」

本人達の知らぬ間に事が大きくなっていることに頭を悩ませていると、多くの冒険者でひしめき合っている館でシスティラの呼ぶ聲が聴こえる。

ま、まさか遂に逮捕ですか！？

何時もなら何の変哲のないシスティラの呼び掛けにビクビクしながらも俺達はシスティラの待っている付へと向かう。

「よかった…ご無事そうで何よりです」

システィラは俺達の姿を見て安堵の息を吐く。

「何かあったのか？」

「そうなんですっ！実は太さん達の向かわれた草原近くの山が突如消し飛びましてね。それでお二方も巻き込まれてしまったのではと心配で心配で…」

「へ、へぇ…そんな事が。と、とにかく俺達は無事だから安心してくれ。心配かけて悪かったな」

「い、いえ！怪我がなくて幸いでした」

かなり心配してくれていたのか、瞼に溜まった涙を服の袖で拭いながら答えるシスティラ。

…俺の良心にグサグサと突き刺さっています。

「あっ、そうだ。帰って來てそうそう申し訳ないのですが、ギルドマスターがお二人が帰ってきたら執務室に案してくれと言われております。あっ、依頼の方は私の方で確認しておきますのでご安心ください」

「メーヤが俺達を？分かった、スライムの核は此処に置いておくからな」

俺は言われた通り空間収納から取り出したスライムの討伐部位である核を全て付の上へと並べていく。

──1個、2個、3個、4個…

「あ、あの…太さん？討伐數は10で充分なんですけど…」

「うん？あぁ、しやり過ぎてな。まぁ、多いに越したことないだろ」

「そ、そうですけど…」

システィラが驚くのも無理はない。

目の前には付に取り付けられている討伐部位を置くためのプレートが溢れんばかりのスライムの核で埋まっていた。

數にして50は優に越えているだろう。

「それじゃあ、討伐數以外の余分な核は買い取っておいてくれ。よろしく～」

「は、はぁ…」

システィラに旨を伝え終えると、言われた通りメーヤの待つという執務室へ向かうため2階へ続く階段を上がって行く。