《ガチャって召喚士!~神引きからはじめる異世界ハーレム紀行~》第四話 初心者の落とし

「ここが初級冒険者の行ける唯一のダンジョン、たしかヤヌアル神殿とかいったっけ……」

俺はぽつりと呟いた。今日は初めてのダンジョン探索。

楽しみではあるけれど、期待と不安が半々くらいだ。

なんだか落ち著かない気分だったので、約束の時間より早くにダンジョンの前についてしまった。

待っていると後ろから足音が聞こえてきた。

「あんた、結構早いわね。私もかなり早く來たつもりだったのに」

程なくしてやってきたアリサから聲をかけられる。

こんなに早い時間に來るなんて、アリサも俺と同じ気持ちだったのだろうか。

「まあね、年甲斐もなく昨日はワクワクして寢付けなくってさ。こんなのは小學生の遠足の時以來かな」

「えんそく? なにそれ、異世界の言葉? ……まあいいわ。とりあえず今日はよろしく」

アリサは不思議そうな顔をして俺に挨拶した。すると、

「……よろしく……お願いします」

アリサの影からシルヴィアの顔がひょこっとでてきた。なんだ、一緒に來ていたのか。

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「こちらこそよろしく! そいじゃ、早速行きますか! 準備はできてるか?」

「もちろんよ」

「……うん」

俺は二人の返事を聞くと、神殿の中へと先陣を切ってっていった。

――――――――――――――――――――

神殿の壁には人が住んでいてもおかしくないくらいの裝飾が施されていた。……俺が思っていたダンジョンとちょっとイメージが違うな。

「こんなところに本當にモンスターがいるのか?」

「あたりまえじゃない、居るに決まってるわよ。ほら、そこに」

アリサは呆れたように指を差した、その先にはおどろおどろしい狀のモンスター、ダンジョンRPGではど定番ともいえるスライムが數匹見える。

「お、記念すべき最初のモンスターってやつだな。俺に任せておけ!」

俺は息巻いてイフリートを召喚した。

――グアアアァァァ!

イフリート灼熱の咆哮が俺の気持ちを高ぶらせる。

ちなみに今日裝備している召喚はイフリート、オーディン、ジャック・オー・ランタンの三だ。

「えーと、イフリートってどうやって使えばいいんだ? ……こんなじかな?」

俺は片手をゆっくり前に出して、構えをとる。手の先にはスライムの群れだ。

「――そいやっ!!」

半ばやけくそにぶと、手のひらから炎弾が放たれた。線上にびる大きな炎を浴びたスライムたちは、文字通り一瞬にして消え去り、小さな結晶となった。

「やりぃ!! 案外あっけないもんだな。この調子でガンガン稼ぐぞー」

「ちょっ……、あんた」

調子に乗ってはしゃいでいたが、アリサが口をはさむ。

「いきなりスライム相手にイフリートを召喚するなんて、何考えてるの!? イフリートの召喚時間ってどのくらいかわかってるの?」

「えっと、確か三十分だったっけ……?」

「知ってたのに使ったの!? この長いダンジョンを乗り切るための策が他にあるんでしょうね? イフリートの加護がなくなったらどうするつもり?」

策? あぁ……、俺はイフリート以外に戦闘に使える召喚ってオーディンしかないんだった。

ここで一つ目のカードを切るのは早すぎたかな。

「いや、特に考えてなかった……。そんなにダンジョン攻略って時間かかるもん?」

やっちまったーという顔をして質問をする。

「はぁっ……。呆れた。」

アリサからの冷たい視線が刺さる。

「……早いけど一旦休憩にするわよ。何も知らないあんたに、ヤヌアル神殿攻略のいろはを教えてあげるから。それにここのモンスターをいくら倒したって、二束三文にしかならないんだからね」

「えっ!? 冒険者ってモンスターを討伐して生活してるって聞いたのに違うの?」

俺がわけも分からず混していると、アリサは語気を強めて言う。

「いい? 初級冒険者なんてものは、冒険者であって冒険者じゃないのよ」

……どういうことだろう? 噛み合わない會話をこのまま続けても仕方ないので、俺はアリサの話を聞くことにした。

「冒険者は人々を襲うモンスターが町にでることのないように、ダンジョンに出向いて討伐を行ってるってのは知ってるわね?」

たしかローザがそんなこと言ってたっけかな? 俺は大袈裟に首を縦に振りうなずいた。

「だけど、このヤヌアル神殿は別なの。ここは教會管轄下の施設で、冒険者育のための施設なのよ」

それは初耳だ。俺はてっきり町のみんなを守るために神殿のモンスターを倒すものだと思ってここに乗り込んだというのに。

「つまり、教會が見習いの冒険者でも倒せそうなお手頃モンスターを集めてここに配置しているってわけ。そしてここでやるべきことは、神殿最奧に一日に一回放たれるトロールを倒すことなの。初級冒険者から中級冒険者になるためにはこのトロール討伐が必須よ」

アリサは人差し指を立てて先生のように解説した。

「へぇ……。つまりはそのトロールってやつを、他のパーティーに先を越されないように急いで討伐する必要があるってことだな?」

アリサは軽く頷くと、諭すように俺を見つめながら、

「そうよ。だから、絶対にオーディンはボスまで取っておくこと。 い・い・わ・ね!」

俺はアリサの気迫に押されて口の端を引きつらせながら頷いた。

「あんたのイフリートの効果が切れた後の道中は私がけ持つわ。最奧までたどり著けばトロールの出現待ちのパーティーがたくさんいるだろうから、その他の魔の襲撃を恐れる必要はなくなるはず。そこまでの辛抱ね」

説明が終わるとすぐにアリサは歩き出したので、俺とシルヴィアは後を追った。

そこからは圧巻だった。アリサ劇場とでも言えばいいだろうか。

は襲い來る魔に対して、まずはシルフ召喚による突風できを止め、その後手持ちのナイフ止めを刺していた。

この一連のきは見ほれるほどに流麗で、俺とシルヴィアの出る幕は全くなかった。

「それにしても、一いつまで続くんだろうな。この神殿」

アリサが戦っている後ろで、俺とシルヴィアは並んで話している。

「……わからない……けど、きっともうすぐ」

おそらく拠のないシルヴィアの返事にハハッと苦笑いする。

「ところでさ、その杖って何かに使えるのか?」

シルヴィアは昨日會った時と同じ大きな帽子を被っているが、それに加えて今日は杖も持っているのだ。

「これは……。魔力を増幅してくれる……」

「へぇ、そんな効果があるんだ。アリサもナイフを持ってるし、俺もなにか武を用意してくるんだったかな。……もしかしてその帽子も何か効果あるの?」

シルヴィアには大きすぎるんじゃないかって、ずっと気になっていたのだ。もし帽子にも魔力アップの効果があるなら、無理して裝備しているのも納得なのだが。

「これは……お姉ちゃんがくれた。特に効果はないけど……お守りだって……」

目を伏せ、はにかみながら彼は言う。

「そっか、そいつは大事にしないとな」

「うん」

シルヴィアは嬉しそうに笑った。

ここまでだといい話だなーで終わってしまうが、俺はそれだけではすませない。ふといたずら心が芽生えてしまった。

「――よっと」

俺は勢いよくシルヴィアのとんがり帽子を手でつかみ、取った帽子をの後ろ側へと回した。

「ひゃぅ!?」

シルヴィアは素っ頓狂な聲を上げたあと、俺の後ろに回り込み帽子を取り返そうとする。俺は取られないように帽子を前に回したり後ろに回したりしながら彼を翻弄した。

「……ぐるぐる……目が回る」

シルヴィアは懸命に取り返そうと走り回っているが、やがてあきらめての子座りでへたり込んでしまった。

「ははっ、ごめんごめん。返すよ」

座り込んでいるシルヴィアの頭に帽子をぽんっとおいた。

「……ユートの……いじわる」

シルヴィアはいじけた顔をして言った。いじけた顔もまた可いな。

俺はそんな馬鹿なことをやっていると、ふいに後ろから聲が聞こえてきた。

「やあ、君はこの前オーディンを引き當てたユート君だね?」

漆黒の剣と重そうな鎧を裝備した男に聲をかけられた。

「……ど、どうも」

ダンジョンで他の冒険者と遭遇するのはこれがはじめてのことだったので、俺は恐る恐る返事をする。

「どうだい? うちのギルドにってみないかい? 結構有名なギルドだし、力になれると思うよ」

なんだ、また勧か。俺はうんざりしながら、斷り文句を唱えた。

「どこのギルドにるかは大事なことみたいだから、よく考えてから決めたいと思っています。今はまだその時じゃないかなって……ごめんなさい」

「そうか、殘念だ。こちらとしても無理にう気はないさ。でもこの先ダンジョンで困ったらうちのギルドに來るといい」

鎧の冒険者はそう言って神殿の奧へと消えていった。

アリサとシルヴィアが仲間になったし、オーディンもあるからギルドになんてらなくても大丈夫、だよな……? 自分をそう納得させようとするも、不吉な予が拭えずにいたのだった。

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