《ガチャって召喚士!~神引きからはじめる異世界ハーレム紀行~》第四十三話 ポーカーフェイス
「さあ、早く手を出してください」
ゴスロリっ子が勝負を急かしてきたので、彼が前に出した指を俺の四本指でがしっと摑む。彼は何戦も戦ってきたのだろう、手はし汗ばんでいた。
「ユー子ちゃん頑張って~!」
さっき戦った……というか一方的に負けてくれた俺の信者からの聲援が聞こえる。
「私……か弱いから負けちゃうかもしれないな。えへっ☆」
つい信者にぶりっ子でアピールしてしまった。プレートがないやつにび売る必要はないのになにやってるんだ俺。
「よそ見するとは余裕なのね。……それにしてもあなたの手、違和があるわ。見た目よりがっちりしてるというか」
やばいやばい、さすがに手がれるまでいくと幻覚と実態のずれに気付いちゃうもんなのか。信者たちは誰も気づかなかったようだけど、彼らはユー子というアイドルと握手できたことで神狀態が普通じゃなかったんだろう。……ここはなんとかごまかさないとな。
「もう、そんなことないってば~。私って存在ありすぎるってよく言われちゃうから、それで手まで大きく見えちゃってるだけなんじゃないかな~」
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「……まあいいわ。あなたがなんの召喚を使ってるかは知らないけど、わたしも全力で行かせてもらうから」
抑揚のない聲でゴスロリっ子は言った。全力ってことは向こうも召喚を使うということだろう。覚悟してかからないといけないな。
「それじゃあいくよ……3……2……1」
ゴスロリっ子がカウントを始めたので、俺も一緒に聲を合わせる。
「「スタート!!」」
開始の掛け聲を上げた瞬間――ゴスロリっ子は勢いよく腕を引っ張り、俺は転びそうなくらいにバランスを崩してしまう。
――なんてパワーだ、この子見た目よりずっと……強い!
「……あなた、力もなければテクニックもない。この勝負――わたしの勝ち!」
ゴスロリっ子の親指が俺の親指を完璧に捉えて抑え込んでしまった。
「くっ……! うおぉぉぉ!」
俺は必死に親指を持ち上げようと力を込めるが、ゴスロリっ子の親指は鉛のように重たく全く持ち上がらない。
「3、4、5……」
ゴスロリっ子のカウントが進む。――ここは使うしかないな。
「6、7……」
「――オーディン!!」
俺はオーディンを召喚して力を解放した……しかし、いくら力を込めてもゴスロリっ子の親指を持ち上げることはできない。
「……9、10。わたしの勝ちよ」
なんてこった。オーディンを使ったあげく負けてしまうなんて。俺より彼の方がパワーがあるのか? あるいは親指の元まで押さえつけられていたのがいけなかったのか? ……くそっ! 考えてもわからん。もっと早くにオーディンを使っておけばよかったという後悔が俺の頭をよぎる。
「一枚貰うわよ」
ゴスロリっ子は俺が付けているネームプレートをさっと一枚引きはがして自分の腰に取り付けた。
「……まだだ。まだ一戦しか終わってない。続きをやるぞ……わよ」
「ええ。五枚渡してもらうまで帰さないから安心して」
ゴスロリっ子は冷徹な目で俺を見つめている。オーディンの発を見たにもかかわらず彼は微だにしていない。きっとその自信は彼の召喚にあるのだろう。さっきの戦いは一瞬の事だったので、彼が何を召喚しているか確認する暇もなかった。でも今度は俺も最初から召喚を発しているので、さっきみたいな一方的な展開にはならないだろうしきちんと確認しよう。
俺とゴスロリっ子は再び指をがっしりと組み、すぐに二戦目を開始した。ゴスロリっ子は一戦目と同様俺を引っ張ろうとするが、俺は歯を食いしばってなんとか持ちこたえる。
「ぐっ! ……ぐぎぎ」
「ふーん、オーディンって結構強いのね。でもわたしのほうが強い」
ゴスロリっ子は無表で言った。彼の顔立ちが綺麗なのも相まってまるで人形のようだ。くそっ、俺は必死に力をれてるっていうのにそっちは顔一つ変えないのかよ……。
「……わたしのほうが強いだって? こっちだって負けないんだから! 目にもの見せてあげるわ!」
俺が気合をれて引っ張り返すと、ゴスロリっ子が一瞬目を見開いた。……しは驚いたか?
勝負は最初の狀態に戻り膠著狀態になった。それからはお互い親指を前後させたり、腕を引っ張ったりして牽制しあって一歩も譲らない狀況だ。
「確かに思ってたよりは強いかも。でもオーディンの効果は三分? それとも五分? ……どちらにせよ待てば効果が切れる。そしてまたわたしの勝ち」
彼の召喚は俺のより持続時間が長いみたいだ。余裕があるわけじゃないけど、なんとか召喚を確認しないとまずいな。俺は空いている左の手でポケットからルーペを取り出し、彼の後ろに見える召喚を覗き込んだ。
『Aランク召喚獣 アトラス』 ●●●●●
オリュンポス神族との戦いに敗れたティータン神族の巨人。
彼はゼウスから罰として、世界の最果てで天が落ちてこないように
支えるという過酷な役割を命じられた。
加護をけたものは、腕力が超強化される。
【召喚持続時間:三十分】
――アトラスか。以前アデルから聞いた召喚だ。しかし驚きなのは最終開放されてるってところだ、この子まさか……。
「召喚を確認したところで無駄よ。わたしの召喚は弱點があるタイプではないから」
ゴスロリっ子は相変わらず無表で淡々と喋っている。……そのすました顔を崩してやりたい。
「諦めて降參したほうが疲れないわ。早く諦めて」
「まるで勝ったつもりのようだな」
「ええ、そうよ。さっきも言ったけど、持続時間が全然違う」
「――確かに違うな。でもそれは・・・・・持続時間だけじゃない・・・・・・・・・・」
俺は足で地面を思い切り蹴り上げ、まるでサーカスの劇団員のように逆立ちで宙を舞った。そしてその蹴り上げた反を利用してゴスロリっ子の親指を俺の親指でがっちりと抑え込むと、俺は勢を立て直しながら落下して再び地面に足をつける。
「お前の召喚は腕力強化。俺の召喚は全強化。俺は足を使うことだってできるんだ。……全然違うって分かったろ?」
俺は決め臺詞を言ってからカウントを始めた。
「1、2、3、4、5……」
腕力はほぼ互角なので、親指をしっかりと抑え込んだ場合に結果がどうなるかは一戦目の結果から明らかだった。
「うごか……せない」
ゴスロリっ子は口をわなわなと震わせ、目が泳いでいる。いいぞ、ついにそのポーカーフェイスを崩してやったぜ!
「……8、9、10! よし、今度は俺の勝ちだ! いやっほ~!!」
俺はの子に化けていることも忘れて素の言葉で喜びを発させた。……と、浮かれてる場合じゃない。時間もないし早いとこ続きをやらないと。
「さ、早いところ三戦目をやろう――」
俺が手を前に出した瞬間、會場にローザの聲が響き渡る。
「そこまで! 一次予選終了~! みんなお疲れ様!」
三戦目を始める前に、予選終了のアナウンスが告げられてしまった。
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