《ドラゴンテイマーにジョブチェンジしたら転生してた件》締まらない旅立ち
お爺様から竜王國ドラグヘイムに向かえと言われた後、僕は自室で旅の準備を進めていた。
と言っても、著替えとか食料とかの生活に必要なものはバロンが用意してくれるらしいから、そんなに用意するものもないけど……
「で、竜王國ドラグヘイムって?」
ソファでくろいでいるリーチェは、足をぶらぶらさせながら聞いてくる。
「僕もさっき聞いたことしか知らないけど……」
竜王國ドラグヘイムは、竜人族が作った國で、人と竜が共に生きる國と呼ばれている。
國の中央には、雲で隠された空高くまでびる塔……ダンジョンがある。
そのダンジョンには、一生遊んで暮らせるほどの財寶、國寶レベルの強力な武防、どんな損傷や病気でも完治する霊薬などが眠っていて、夢見た人達が日々挑戦を続けている。
他國の人でもダンジョンに挑むことができるため、ドラグヘイムにはたくさんの人が集まるらしい。
凄腕の冒険者はもちろん。ダンジョンから採れる潤な資源に釣られた職人達なども集まっていて、ダンジョン攻略をサポートするものも充実している。
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そして、一番重要なのがこの國には僕が使役できるであろう竜系統の魔が多いということ。
修行となるダンジョン、參考になる強者達、充実した裝備やアイテム、僕の力となる魔……
まさに僕が強くなるためにうってつけの場所だ。
……だが、良いことばかりではない。
まず、ドラグヘイムは結構遠いところにあるため、ここからだと最速の魔導船を使っても最低でも1ヶ月はかかるらしい。
次に、ダンジョンのレベルが高く、世間一般の低ランク冒険者程度だと1階層も越えられないということ。
最後に、ドラグヘイムは多種族が集まっているため、種族間のいざこざに巻き込まれることもあるのだという。
「ってじらしいよ」
僕の説明を聞いたリーチェは納得したように頷いた。
「なるほどね。あなたにぴったりの場所じゃない。當然行くんでしょ?」
「うん。強くなれる絶好のチャンスだからね。……よしっと。荷は大まとまったかな?」
々詰め込んだ背嚢の中には、野外での訓練で使っていたものがっている。
小ぶりのナイフ、著火の魔道、水筒の魔道、清潔な布、ロープ、薬をれるポーチ、使い古された皮の防一式、僕の全お小遣いがった財布……
そして、皮の裝備と同じように使い古された一本の槍。
この槍は父様が5歳の誕生日の時に贈ってくれた槍だ。
當時は持ち上げることすらできなかったけど、今ではこの國の一般兵士程には使いこなせるようになった。
父様……
僕、頑張るから。
「思いにふけっているところ悪いんだけど、そろそろ行ったほうがいいんじゃない? 門の前でおじさん達が待ってるわよ?」
「えっ?! 急がなきゃっ!」
背嚢と槍を手に僕は急いで門へと向かう。
「はぁ……まったく。締まらないわね……」
背後でリーチェの呆れた聲が聞こえたような、聞こえなかったような……
▽▽▽
門の前には、お爺様、アレスおじさん、ジェラルドさんの姿があった。
「ご、ごめんなさい。遅くなりましたっ……!」
「やっと來たか……」
お爺様が呆れた聲でそう言った。
「旅立ちの日だっていうのに締まらねえやつだな!」
ジェラルドさんが笑う。
「ルシエル、準備はいいか?」
騎士のフル裝備をしたアレスさんが僕を心配する。
「はい。大丈夫……ってアレスおじさん、そんな恰好してどうしたの?」
自然に話しかけてきたので、危うくスル―するところだった。
「儂がお主について行くように命じたのだ。そんなにルシエルが心配なら共に行けとな」
お爺様が溜息をつく。
「まあ、下手に護衛を雇うよりはアレスに任せたほうがいいだろう。領地のことはアレスがおらんでも儂一人で十分だしな」
アレスおじさんがついてきてくれるのか!
心強いし、楽しい旅になりそうだ。
「ガレアス様、馬を連れてきました。いつでも出発できます」
2頭の馬を連れたバロンがやってきた。
「うむ。ルシエルよ。まずはお主の母に會ってこい。話は通してあるから力になってくれるはずだ」
えっ? なんでここで母様の話が?
「あの? お爺様は魔師の母様のことが嫌いだったんじゃ……」
それを聞いたお爺様は苦い顔をする。
「たしかに儂は魔法が好きでないが、息子がした嫁を嫌うわけはなかろう……お主を引き取った理由は、お主の母の神がし不安定だったからだ。まあ、詳しい話は本人から聞くがよい」
母様の神が不安定だった?
そういえば父様が亡くなってから、あまり母様とあっていない気がする。
僕の知らないところで何があったんだろう……
「ともかく、一度母親に會って挨拶しておけ。……最後の別れになるかもしれんしな」
「は、はい! わかりました!」
「ではアレスとバロン、ルシエルを任せたぞ……」
「はっ!」
「かしこまりました」
アレスおじさんはに手を當てて頷き、バロンは綺麗な禮をして答える。
その返事を確認したお爺様は僕のほうに振り向く。
「ルシエルよ……この國を変えられる男となって帰ってくることを待っておるぞ」
お爺様が僕の頭に手を乗せる。
「ルシエル、ジジイが死ぬまでに頼むぞ」
「お主は黙っとれっ!」
茶々をれたジェラルドさんにお爺様が怒鳴る。
「おほん! では行ってこい!」
「じゃあな! 兄貴、バロン、ルシエル! また會おうぜ!」
「はい! 行ってきます!」
ここから僕の冒険が始まるんだ!
そんなことを思っていた僕は、脇の下に手をれられて持ち上げられる。
「へ?」
後ろを振り向くとアレスおじさんの顔があった。
アレスおじさんは、そのまま僕を馬に乗せて、アレスおじさん自も僕の後ろにまたがる。
「では、行って參ります! はっ!」
そう言うとアレスおじさんは馬を走らせた。
「えっ? アレスおじさん! 馬車は?」
あれ? 冒険って言ったら馬車じゃないの?
パーティーメンバーが控えることのできる馬車は必須でしょ!
僕が困しながら聞くと、アレスおじさんは笑って答えた。
「馬車なんて使ったらルシエルのためにならないだろ? 馬に乗ってを鍛えておけ!」
「そ、そんなぁ!」
背後からやってきたバロンが馬を並走させる。
「坊ちゃん、もしおの皮がむけても私が治しますので頑張ってください!」
わざわざ橫に來て言うことがそれか!
はぁ……
乗馬するとが凄く痛くなるって聞くけど、僕耐えられるかな……
そんな僕を笑うかのように、上空で青白いがキラリと舞ったような気がした。
▽▽▽
「行ったな……」
「そうだな。ルシエルがいなくなるとこの屋敷も寂しくなる。でもいいのかジジイ、ルシエルをドラグヘイムになんか行かせて」
「相変わらず口の悪いやつだ。……正直、儂もまだここで力をつけたほうがいいと思っておったが、あやつの目を見たらもしやと思ったのだ」
「まあ、俺もあのルシエルがあんな大それたこと言うとは思わなかったわ。あの泣き蟲小僧が立派になったもんだ……」
「お主は、鼻垂れ小僧だったがな」
「うるせえジジイ。なんにせよ俺達は無事を祈るだけだぜ」
「そうだな。……それで、いつまでお主はここにおるのだ? さっさと仕事に行かんか!」
「わあってるよ! 今から行こうと思ってたんだよ!」
ぶつくさ文句垂れおって……
確かにドラグヘイムに10歳の小僧を向かわせる判斷をしたのは早まったかもしれない。
だが、あやつの目と気迫に、一瞬この儂が気圧されたのも事実。
それにバロンとアレスもつけ、腹立たしいがあやつにも手を回しておるし問題はなかろう。
……あやつは儂を超えるだろうな。
ルシエルよ。儂が死ぬまでには、もう一度姿を見せてくれよ……
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