《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-59:力を合わせて
『霜の宮殿』から離れた場所でも、魔との戦いは続いていた。
湖の街で、鉱山の街で、王都で、そしてアスガルド王國を離れた世界中で。
空が黃昏に染まった時、原初の巨人は封印を緩めた。影響は、世界中の迷宮に及ぶ。魔の大発生をしのぐため、多くの冒険者が戦っていた。
あるパーティーは迷宮の中を走っていた。
魔を切り捨て、囲まれないよう仲間と共に駆ける。
「こっちだ!」
「追いつかれるぞ!」
もう何頭目かもわからない狼型魔を倒した時、ダンジョンに咆哮が響き渡る。
――オオォォオオオオオ!
地の底から沸き上がるような雄び。
本能的に震え、冒険者達は青ざめる。
彼らは知らなかったが、同じ頃、リオンとユミールがギンヌンガの空隙で戦っていた。世界の外で放たれた咆哮が、魔力を伝って迷宮にまで響いてくる。
怯えた冒険者達は、魔の群れにぶちあたった。
彼らが恐慌しなかったのは、勵ますような音が咆哮の恐怖をかき消したから。
角笛。
世界中の迷宮に、強く、優しく、目覚ましの角笛(ギャラルホルン)の音が渡っていく。
迷宮の外でも、魔の脅威は同じだった。
アスガルド王國の王都では、街を守る戦いが続いている。魔達は一度は勢いが衰えたかに見えた。だが、空にユミールの吠え聲が轟くと、再び狂ったように戦い始める。
ここでも、目覚ましの角笛(ギャラルホルン)の音が響き渡った。
小人のや、戦士団の長、それに角笛の年の母は、黃昏の空を見上げる。
「リオン」
小人のサフィは、金鎚を振るって城壁に魔法文字(ルーン)を刻み直す。
「リオンさん」
王パウリーネは、大塔の地下でスキル<封印>を使い、しでも魔を弱める。
「リオン……」
聖堂で負傷者を治療しながら、リオンの母は窓を見上げた。角笛の音はまだ続いている。
誰もが、年の手で背中を押された気がしていた。
勝てるぞ、と誰かがぶ。いくぞ、と応じる聲。
角笛は鼓舞であり、魔との戦いを続ける人々を勵ました。
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――勝ってくれ!
全ての人が、全ての戦いに、願った。
◆
世界中で起こる冒険者達の歓聲は、天界にも屆いていた。
老神オーディンは目を見開く。
角笛の音が王都や迷宮に響けば、逆に、各地の願いもまた遠い『霜の宮殿』へ運ばれていく。世界中が鼓舞しあっているようなものだ。
目覚ましの角笛(ギャラルホルン)の音だけならまだしも、ただの人間の言葉が遠い土地に伝わるなど、考えづらい。
神が力を貸しでもしなければ。
オーディンは後ろを振り返る。
「の、ノルン……か……?」
いつの間にか、老神の背後には黒髪、黒裝束の神が影のように控えていた。
神ノルンはオーディンの問いに顎を引く。
「私が獨斷で、角笛の音を世界中に屆けました」
全に黒をまとう神は、まるでオーディンが僕とするだ。
彼の能力は、冒険者達にステータスやメッセージを伝(・)達(・)すること。
「外にいる人間には、全メッセージを用いて、角笛の音を聞かせています。迷宮には、伝達用の神『世界樹(ユグドラシル)の水鏡』を利用しました」
「多くの魔力が要っただろうに」
神ノルンは一禮する。
「冒険者を長く見てまいりましたので。多のはございます」
「……ふむ」
髭をなでるオーディンに、ノルンは顔を伏せた。
「主神よ。獨斷で冒険者への伝達をなした私を、罰しなさいますか?」
神ノルンが伝達する容は、オーディンが決める。神自の意思で『何か』を伝えたことはかつてない。
オーディンは目を細め、首を振った。
「……もはやこの狀況すべてが、彼らの力だ」
天界の水鏡には、『霜の宮殿』の様子が映されている。
大勢の冒険者達が、原初の巨人を囲っていた。10メートルを超える巨に長したユミール。首や腰、関節部で赤黒い炎が燃えている。山脈のようにうねる筋が、朝日に白々と照らされていた。
『霜の宮殿』には、世界中から聲が送られた。
――リオン!
――負けるなよ!
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――勝ってくれぇ!
年は聲援をけ止めるようにを張る。青の瞳はユミールを見上げ、揺らがなかった。
オーディンは靜かに告げる。
「優しい最強か……」
かつてこの世界を見捨てる策略を練っていた自分さえ、彼らのために、この世界を守ろうとする人間のために、何かをなそうとしている。
そしてそのためにも、主神はまだ力を使い果たすことはできなかった。
今更言えることは、一つだけだ。
「勝てよ、年」
リオンが、拳を振り上げる巨人へと踏み込んだ。
◆
空隙から、僕は地上に戻ってきた。朝日が眩しいけど、溫かい。白い息だって、しきらめいて見えた。
神殿へと続く大階段で、僕らは巨人と向かい合う。
僕とソラーナは、ルゥをユミールから守るように立っていた。神様達は、トール、ロキ、ウル、シグリス、ヘイムダルが勢ぞろい。ミアさんとフェリクスさんは、數十人の戦士団を率いて、ユミールを囲っていた。
僕は聲を張り上げる。
「みんな!」
目覚ましの角笛(ギャラルホルン)へ息を吹き込んだ。
鳴り響く角笛が、大階段に集まった神様を、冒険者を、い立たせる。
――――
<スキル:目覚まし>を使用しました。
『角笛の主』……角笛の力を完全に引き出す。
――――
冒険者達が歓聲をあげる。彼らのでとりどりのが燃えた。神様から引きけた魔力が、角笛でさらに強化されたのかもしれない。
薬神シグリスが大きな匙を取り出して、僕に微笑みかける。
「リオンさん!」
僕は頷いて、スキルを起き上がらせた。
――――
<スキル:太の加護>を使用しました。
『黃金の炎』……能力の向上。時間限定で、さらなる効果。
――――
――――
<スキル:薬神の加護>を使用しました。
『ヴァルキュリアの匙』……回復。魔力消費で範囲拡大。
――――
シグリスが高く飛び上がり、両手に持った特大の匙で黃金の炎をすくいとる。そして、それを戦場全に振りまいた。
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冒険者みんなのを、『黃金の炎』が包み込む。
ユミールが咆哮をあげた。
――オオオオォォオォオオオオオオオオ!
が吹き飛ばされそうだ。
ユミールは『氷炎の心臓』を喰らい、本來の力を取り戻している。は大きくなり、高さはもう15メートル近い。
ほとんど裂け目に飲み込まれてしまった神殿だけど、口だけはまだ殘っている。巨大な門には、幅3メートルくらいの大柱が3本あった。ユミールの顔は、その柱と天井の境目あたりだ。
「……お兄ちゃん!」
「ルゥ、下がってて!」
僕はルゥを制した。
深呼吸して辺りを見回す。大階段の先には、ユミール。雪原にはまだ魔がいて、階段下を守る冒険者と戦っていた。戻ってきたユミールが、またどこかに裂け目を開けて魔を呼び寄せたのかもしれない。數がだんだん増えている気がするもの。
妹を守るのに安全な場所はない。
ミアさんとフェリクスさんが駆け寄ってきた。
「おい、なんかユミールでかくなってないか!?」
「ええ! 巨人サイズ、どころか、さらに巨大になっているようにも……!」
僕らが見ている間に、ユミールはメリメリと音を立てながらさらに巨大化する。
神殿の門に手をついた。ついに、頭が大神殿の高さを超える。
――オオオオォォオォオオオオオオオオ!
びりびりと空気が揺れた。
ソラーナが金髪をなびかせながら、告げる。
「ユミールは、氷炎の心臓を奪ったのだ」
ミアさんがいた。
「ま、まじかよ……!」
大笑が空を覆った。雷神トールが鎚ミョルニルを振りかぶっている。
「関係ねぇ! やることは同じだろ!?」
ユミールがぎょろりと目をむき、トールを睨む。右腕を振ると、トールに向けて巖塊が放たれた。
『創造』したんだ!
トールは巖を避けながら鎚を投じる。けれど、ミョルニルはユミールのを大きく外れた。巨人の背後へ消えていく。
すでに、全長20メートルにもなったユミール。唸りながらトールへ拳鎚を振り上げる。
「……外したと思ったか?」
にやっと雷神が笑う。
――そうだ、この神様、戦神でもあるんだ。戦いで外すわけがない。
「狙ったのは、足場だ」
弧を描いて戻ってきたミョルニルが、ユミールの足元に命中した。大階段の端が砕ける。ユミールはバランスを崩して、雪原へ落下した。
大きすぎるは、足場が不利ってこと。
巨腕に摑まれた神殿の柱が無殘に折れ、殘っていた神殿り口も崩壊しだす。
ルゥが悲鳴をあげていた。
「お、お兄ちゃん……!」
「ここで待ってて!」
僕はルゥを抱きしめた。
何人かの戦士団に、妹のことを任せる。
「必ず帰ってくる。いいね?」
「……うん!」
僕は大階段の端に駆けて、落下したユミールを見下ろす。唸り聲を轟かせながら、ユミールはゆっくりとを起こしていた。
僕らがいる階段でも、あの巨人が直立したら腰の高さだろう。ここ、3階くらいのはずなのに。
ヘイムダルが上空でぶ。
「ユミールが落ちたぞぉぉおおおお!」
フェリクスさんも、呼応した。杖を振り上げて、冒険者に向かって聲を張る。
「神殿、右方向ぉおお! 冒険者全員、戦力をユミールに集中なさい!!」
冒険者達が喚聲をあげて、雪原でき始めた。赤、青、紫――神様の魔力と同じが、雪原を素早く移していく。
こちらの戦力は、角笛で鼓舞された神様に、100人ほどの冒険者達。
向こうの戦力は、ユミールと新たに呼び出された魔。
「みんな、行こう!」
僕らは大階段から雪原へ飛び降りた。
ユミールが立ち上がっていく。
――――
<スキル:狩神の加護>を使用しました。
『野生の心』……探知。魔力消費で、さらなる効果。
――――
ユミールを覆う、真っ赤な。かつてない強力な魔力反応にゾクゾクする。
でも、僕は違和に気づいていた。
魔力反応が、2つある。
一つはユミールの巨全から放たれる、圧倒的な魔力。でももう一つ、の中央あたりに、さらに強大ながあった。どくん、どくん、と赤黒く脈打つそれは――
「……心臓だ」
僕はを鳴らした。
金の輝きをふりまいて、ソラーナが僕の傍へ舞い降りる。
「わたしも、あやつのから強い魔力をじる。あそこがあの魔の中樞だ」
じろり、と巨大な眼球が僕を見下ろした。首や腰、それに関節に赤黒い炎が宿っている。
雪原に立つユミールを、冒険者と神様が囲んでいた。他の魔も追ってきているようだけど、トールやウルに遠間から數を減らされていく。
朝日に照らされて、僕らはユミールと対峙した。
巨人の目が、ほんのし、僕らを探るように細められる。
『お前たちの強さはなんだ?』
そんな質問を思い出した。
「ユミール」
僕は言った。
「確かに、獨りでは弱いけど……だからこそ獨りじゃ戦わない」
恐ろしい魔だ。
一度瀕死にまで傷つけて、これだけ神様や冒険者を集めて、それでも僕らはまだ危機にいる。
でも、この魔にも変化の兆しはあったのかもしれない。
例えば、神話時代に人間の営みを目にした。例えば、神々と信徒の絆を見た。例えば――ただのの子が原初の巨人に立ち向かい、固い腕を創造する意思を見た。
誰かがいないと得られない強さがある。
だから、ルゥの腕にも興味を持った。
もちろんいくらかは想像だけど。
けれど、この巨人にとって、この世界は自分の力から生み出されたもの。を取り戻したい気持ちが、飢えになって、あらゆる気持ちを塗りつぶすとしたら。
この巨人にとって、『理解』とは『喰らう』ことなのだとしたら。
「――あなたを倒すよ、ユミール」
僕は短剣を突きつけた。
「そうしないと、あなたの寂しさは終わらない!」
徐々に大きさを増す巨人。
本來の格は、どれくらいなんだろう? あるいは果てがなくて、無限に巨大化していくんだろうか。
――オオオオォォオォオオオオオオ……。
野太すぎる聲は、咆哮というより、風鳴りだ。もう魔ではなくて、嵐とか、火山とか、そういう自然そのものを前にしたような畏れをじる。
ユミールが拳を振り上げた。
太が遮られ、巨大な影ができる。僕らにとっては城が倒れてきたようなものだ。
それでも、僕はソラーナと前へ出る。
拳と腕が雪原に打ち付けられた。猛烈な雪煙で視界が奪われる。
衝撃は、神様が魔力障壁で防いでくれた。
「なんという威力だ……!」
も一瞬跳ね上がる。余波だけで骨が震えた。
「はぁ!」
巖山のような腳を切りつけた。一瞬が流れ出るけれど、すぐに止まる。
しかも――
「ギギギ……!」
「ギギィ!」
拳を打ち付けた地面から、魔が現れた。ゴブリン、コボルト、サハギン。ミアさん達が対処するけれど、魔を生み出す無盡蔵の魔力に空恐ろしくなる。
「ソラーナ、さっきまでとは、全然違う!」
「敵は天界で、創世のための魔力を半分喰らっている。心臓を取り戻し、腕をも破壊した今、喰らってきた全てを己のに変えている」
だが、とソラーナは言葉を継いだ。
「それでも空隙よりもマシなのだ。あそこには冷たい魔力が満ちていた。それゆえ、無限に力を得ただろう」
ぞくりとした。
出できて本當によかったと思う。
「ユミールがこのまま魔力を力に変え、わたし達が手出しできぬほど強大になれば、こちらの負けだ」
「その前に、心臓を狙えば……」
「相手の長は止まる」
「……競爭ってことか」
ユミールが振り回す腕。
暴風のように雪を巻き上げながら、足元にり込んだ僕を狙う。砕けた巖がこめかみを掠め、が流れた。
衝撃で平衡覚が狂う。真っ白の飛沫に、視界もきかない。
巨が僕の前に躍り出る。
「おっと!」
ヘイムダルが、剣で腕をけ止めた。赤い鎧の神様は、大きなからにっと笑う。
「不思議だな! 原初の巨人!」
からからと聲を響かせながら、目覚ましの神様は輝く剣を振り抜いた。魔力が奔り、雪煙が切り裂かれる。
晴れた視界。ヘイムダルが剣を突き上げると、金のレリーフが誇らしげにを弾いた。
「満創痍の俺達より、今はお前の方が、弱く見えるぞ!」
剣で、ユミールの拳を打ち返す。
「さぁ、行けぇ!」
猛攻はヘイムダルへ向かう。一つ一つの攻撃で、神様から金の魔力が散った。文字通り、命を削る守り。
それでも神様は僕へ向かって聲を張る。
「見えているんだろう、あの巨人の弱點が!」
目覚ましの神様は、ボロボロになって吹き飛ばされる。それでもすぐに起き上がり、雪煙を巻き上げて驀進した。
「あの巨人のを貫ける魔力は、今、君とソラーナだけにある! 走って、跳んで、決めてこい、年!」
おお、と冒険者達がぶ。
「聞こえたかぁ!」
「リオンをユミールに集中させろぉ!」
「外側の魔は大した連中じゃねぇ!」
「手が空いてる奴ぁいるかぁ!」
一際大きな聲は、フローシアからやってきた冒険者、石鎚のロイドさんだ。
「リオンにチャンスを作ってやれ! 俺達は、ユミールの後ろからいくぞぉ!」
あえて注意を引くように聲を出しながら、冒険者の一群がユミールの背後から突進する。地響きと雪煙をあげながら、ユミールが反転。巨大なのだけど、を低くした、獣のようなきだ。
作に巻き込まれるだけで、即死しかねない。
ユミールは、ヘイムダルの追撃を振り切りながら、巨大な一歩でロイドさん達に迫る。
ロイドさんがんだ。
「散開だぁ!」
冒険者の直で、ベストなタイミングで散った。ユミールの足による一撃(スタンプ)は回避される。
でも、相手は原初の巨人だ。口に炎が宿りだす。
「な――!」
薙ぎ払う炎が、口から吐き出された。
必死にユミールを追走しながら、僕は聲を張ってしまう。
「ロイドさぁん!」
赤黒い炎が雪原に広がり、ロイドさん達を完全に飲み込む。
やられた、と思った。
けれど炎が止んだ時、氷の壁が現れる。ロイドさん達は壁に四方を守られて、無事でいた。
呆れ聲が降ってくる。
「まったく人間は無茶をする」
上空で肩をすくめているのは、黒いローブの魔神ロキ。
パチンと指を鳴らした瞬間、氷塊が崩れた。
「周りにこれだけ雪があれば、氷塊に転用できる。原初の巨人が放った炎とはいえ、數秒は耐えられるってワケ。環境に救われたねぇ?」
魔神様はタレ目の片方を閉じて、さらっと怖いことを言う。
ロキはさらににんまりした。
「では、次は僕の番だ! 『霜の宮殿』に積もった魔力を帯びた雪、利用させてもらうよぉ!?」
地面から次々に雪がびあがる。雪はアーチを描きながらロキの周りで合流した。10メートルほどの塊になると、一瞬の炎で水になり、再び氷結。
ロキの後ろには、いつのまにか無數の氷弾が浮かんでいた。
「この手の技が気にるといいけれど」
ロキが一禮すると、氷弾が降り注いだ。
ユミールは魔力障壁でけ止める。けれどもその歩みは、完全に止まっていた。
「ボクもいこう」
狩神ウルの、囁くような聲。いくつもの輝く矢が、魔力障壁の隙間からユミールのに放たれる。
相手は、すでに20メートルをゆうに超える巨だ。矢は、きっとトゲが刺さったほどの痛みもない。
でも、狩神様は確かにユミールの注意を引いていた。金に輝く巨眼が、狩神様を追尾する。
僕は走りながら言った。
「みんなが、隙を作ってくれてる……!」
ソラーナが頷く。
「ああ! わたし達が接近し……心臓の宿るを、魔力で撃ち抜く」
ぎゅっと短剣を握る。
一緒にユミールに追いついたヘイムダルも、攻撃を再開していた。神様は剣で魔力を放ち、ユミールの肩を穿つ。
僕らはもう巨人の足元まで來ていた。
ヘイムダルが笑いかける。
「援護しよう!」
「ありがとうっ」
ソラーナと、僕と、ヘイムダル。3人で跳びあがる。ユミールはもう30メートルほどになって、見上げないと頭が見えないほどだ。
――オオオオオオオ!
ユミールがぶ。
咆哮には魔力が宿って、の辺りにまで跳びあがっていた僕らは、一気に弾き飛ばされた。僕は空中でソラーナにけ止めてもらう。ユミールは足踏み。近づいていた冒険者達を威圧すると、二つの拳をの前で握った。
右手に炎が宿り、左手に霜がまとう。
「氷と、炎――?」
空中から、僕は聲を震わせてしまう。
ユミールが2つの拳を――氷と炎を突き合わせると、そこからボトボトと闇が溢れてきた。
雪原に落ちた黒い塊は、見る間に腕を、腳を、頭を形する。僕は息をのんだ。冒険者の聲も消えている。
産み出されたのは、火を帯びた長8メートルほどの巨人だった。アルヴィースにいたような、『炎の巨人』だ。それが3。一回り小さい『巨人兵』も、雪原に落ちた闇の塊から現れる。
きがれた。
「巨人を、創造してる……!?」
ユミールのが波打ち、さらに大きくなる。
ヘイムダルが唸った。
「いかん。これ以上大きくなったら、いよいよ手が付けられないぞ」
ユミールが巨を旋回させた。まるで竜巻だ。雪原にいた冒険者が余波で跳ね上げられる。
眼が僕らを捉えた。
「ソラーナ!」
「うむ!」
ソラーナは僕を抱いたまま、高度を低くする。ほとんど真っ逆さまに落下。ユミールの視線を切って逃げる。
巖盤のような足が持ち上がり、あとしで僕らを踏み潰すところだった。
地上では巨人に加えて、さらに小型の魔も産み落とされている。ユミールを中心に、魔の黒い波が円狀に広がっていく。
「お兄ちゃん!」
神殿の大階段から、ルゥがこっちを見ていた。
負けられないって想いが、もう一度燃える。
「平気!」
僕らを握りつぶそうと迫る掌を、急上昇で回避。
応じるように、空で青の鎧がきらめき、僕らとすれ違った。
「皆さん!」
シグリスが地面に降り立った。石鎚のロイドさんのところに、さらに10名ほどの冒険者を引き連れて現れる。
「私に続いて、前へ」
戦乙(ヴァルキュリア)に率いられて、冒険者達がユミールへ迫る。黒い波を切り裂いて進む様子は、流れ星みたいだ。
上空で、何かがる。鎚だ。それは雷をまといながら、ユミールを襲った。
轟音が鳴って、魔力障壁にヒビがる。
「トール!」
雷神は大笑。に染まった切れ切れの裝束が、この神様も激闘していたことを思わせた。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
ソラーナが問う。
「後方の魔は!?」
「倒しておいたぁ! 後は、ユミールだけだ」
トールの鎚と連攜して、ウルの矢やロキの魔法が別方向から襲い掛かる。魔力障壁を張るユミールは思うようにけてない。
地上では冒険者やシグリスがユミールに迫り、ヘイムダルも魔を斬り払っている。広がろうとする黒い波と、みんなの抵抗がせめぎあっていた。
――オオォォォォオオオオ!
ユミールは、さらに両手の氷と炎を打ち合わせる。
地面に落ちた闇の塊から、さらなる巨人が現れた。暗がりの中から、巨大な蛇の頭と、狼の頭さえ這い出ようとしてくる。
世界蛇(ヨルムンガンド)や、フェンリルを、もう一度産み出そうと……?
本能が危機だと絶した。
このままだと、本當に、ユミールから魔の軍勢が――終末が再開する。
「リオン!」
「ああ、急ごうっ」
時間がない!
僕らは地面に降りて走った。空中からだと、魔力障壁と巨腕に妨害される。地面の魔との戦に紛れて、死角から近づくしかない。
じゃらりと鎖の音。
走ってきたミアさんやフェリクスさんと合流した。
「ユミールの足元だな!」
「援護します!」
フェリクスさんが炎魔法で巨人兵を遠ざける。霊石で突風まで放ち、ユミールの足元に空白地帯を作っていた。
ミアさんがぶ。
「こっちだぁ!」
鎖斧を、ユミールの腕にひっかける。
僕とソラーナはミアさんの左手をとった。
「摑まってなよ!」
ユミールが巨腕を振り上げた勢いで、僕と、ソラーナと、ミアさんは鎖で一気に上まで運ばれる。
「頼むぜ!」
ミアさんは下へ落ちていく。僕とソラーナは、勢いでさらに飛翔。
ユミールの眼前へ浮き上がる。
「ユミール……」
僕は相手を見つめる。僕の長と同じくらい巨大な目が、僕を睨んでいた。
「終わりにしよう」
空に聲が渡った。
――リオン!
――勝ってください!
――無事で、戻って……!
サフィや王様、それに母さん。知っているの人の聲や、知らない人の聲。
の溫かさが、熱になる。
僕は神様へ目くばせをして、ポケットのコインに手をばした。あの寒い冬に古屋さんからけ取った金貨は、朝日を浴びてきらめいた。
神様は微笑む。
「ゆくか」
ソラーナが金貨の中にる。
コインは涼やかな音を立てて、短剣の柄にくっついた。手に熱が宿る。金貨が黃金に輝きながら、青水晶の短剣と融合していく。
みるみるうちに、僕の両手にの剣が生まれた。
――――
<スキル:太の加護>を使用します。
『太の娘の剣』……武に太の娘を宿らせる。
――――
僕のから腕、そして短剣へと膨大な熱が駆け抜ける。
溢れる黃金のは、ユミールの長に匹敵する巨大な刀を形した。
原初の巨人と視線がわる。
「お終いだ、原初の巨人」
ユミールの燃える目つきから、一瞬だけ、怒りや戦意が剝がれ落ちた。怪訝そうな目が僕に問いかける。
――おれは、敗れるのか。
頭にユミールの聲が響いた気がした。
「そうだ」
構えを変えながら、僕は言う。
「お前には、決して屆かない強さがある」
傷つけたり、喰らったりするだけでは。
黃金の刀を真っすぐに。狙うは、ユミールの中央だ。
――それが、俺が喰らえぬものか。
ユミールの目が靜かだったのは一瞬だけ。すぐに瞳に戦意が燃え上がり、僕に向かって腕をばす。
僕らのびはじり合って互いの間に響きあった。
の刀を突きいれ、黃金の魔力を心臓に向けて撃ち放つ。ユミールのを、の奔流が穿ち抜いた。
僕らの熱さが、冷たい巨人にも屆くように。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月27日(日)の予定です。
(2日、間が空きます)
【コミカライズ版 コミックノヴァで連載中!】
・第3話(前半)が公開されました!
ソラーナとリオンが近いを結ぶシーンです!
幻想的な雰囲気が出て、素敵な場面となっておりますので、ぜひご覧くださいませ。
聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】
「私は聖女を愛さなければいけない。だから君を愛することはない」 夫となるユーリ陛下にそう言われた私は、お飾りの王妃として靜かに日々を過ごしていくことを決意する。 だが、いざ聖女が召喚されたと思ったら……えっ? 聖女は5歳? その上怯え切って、體には毆られた痕跡が。 痛む心をぐっとこらえ、私は決意する。 「この子は、私がたっぷり愛します!」 身も心も傷ついた聖女(5歳)が、エデリーンにひたすら甘やかされ愛されてすくすく成長し、ついでに色々無雙したり。 そうしているうちに、ユーリ陛下の態度にも変化が出て……? *総合月間1位の短編「聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、夫と聖女の様子がおかしいのですが」の連載版となります。 *3話目だけ少し痛々しい要素が入っていますが、すぐ終わります……! *「◆――〇〇」と入っている箇所は別人物視點になります。 *カクヨムにも掲載しています。 ★おかげさまで、書籍化&コミカライズが決定いたしました!本當にありがとうございます!
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捻くれ者の雨宮優は、異世界転移に巻き込まれてしまう。異世界転移に巻き込まれた者達は皆強力なステータスやスキルを得ていたが、優の持つスキルは〈超回復〉だけだった。 何とかこの世界を生き抜くため、つくり笑顔で言葉巧みに人を欺き味方を増やしていく優。しかしその先で彼を待ち受けていたのは、まさに地獄であった。 主人公最強の異世界モノです。 暴力的な表現が含まれます。 評価、コメント頂けると勵みになります。 誤字脫字、矛盾點などの意見もお願いします。
8 184《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
【第Ⅰ部】第1話~第49話 完結 異世界転移した先は、クロエイという影を食うバケモノのはびこる世界。その世界の人たちは、血液をエネルギーにして生活していた。血の品質の悪い者は、奴隷としてあつかわれる。そんな世界で主人公は、血液の品質が最強。血液でなんでも買えちゃう。クロエイだって倒せちゃう。あと、奴隷少女も救っちゃう。主人公最強系戀愛ファンタジー。 【第Ⅱ部】第50話~第96話 完結 セリヌイアの領主――ケルゥ・スプライアは酷い差別主義者で、庶民や奴隷の血液を多く集めていた。「セリヌイアに行き、虐げられている者たちを助けてやって欲しい」。フィルリア姫に言われて、龍一郎はセリヌイアへ向かう。そのセリヌイアの付近には、絶滅したはずの龍が隠れ棲んでいるというウワサがあった。 【第Ⅲ部】第97話~第128話 完結 龍騎士の爵位をもらいうけた龍一郎は、水上都市セリヌイアの領主として君臨する。龍一郎は奴隷解放令を施行して、みずからの都市の差別をなくそうと試みる。そんなとき、サディ王國の第一王女がセリヌイアにやって來て、人類滅亡の危機が迫っていることを告げる。
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