《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-59:力を合わせて

『霜の宮殿』から離れた場所でも、魔との戦いは続いていた。

湖の街で、鉱山の街で、王都で、そしてアスガルド王國を離れた世界中で。

空が黃昏に染まった時、原初の巨人は封印を緩めた。影響は、世界中の迷宮に及ぶ。魔の大発生をしのぐため、多くの冒険者が戦っていた。

あるパーティーは迷宮の中を走っていた。

を切り捨て、囲まれないよう仲間と共に駆ける。

「こっちだ!」

「追いつかれるぞ!」

もう何頭目かもわからない狼型魔を倒した時、ダンジョンに咆哮が響き渡る。

――オオォォオオオオオ!

地の底から沸き上がるような雄び。

本能的に震え、冒険者達は青ざめる。

彼らは知らなかったが、同じ頃、リオンとユミールがギンヌンガの空隙で戦っていた。世界の外で放たれた咆哮が、魔力を伝って迷宮にまで響いてくる。

怯えた冒険者達は、魔の群れにぶちあたった。

彼らが恐慌しなかったのは、勵ますような音が咆哮の恐怖をかき消したから。

角笛。

世界中の迷宮に、強く、優しく、目覚ましの角笛(ギャラルホルン)の音が渡っていく。

迷宮の外でも、魔の脅威は同じだった。

アスガルド王國の王都では、街を守る戦いが続いている。魔達は一度は勢いが衰えたかに見えた。だが、空にユミールの吠え聲が轟くと、再び狂ったように戦い始める。

ここでも、目覚ましの角笛(ギャラルホルン)の音が響き渡った。

小人のや、戦士団の長、それに角笛の年の母は、黃昏の空を見上げる。

「リオン」

小人のサフィは、金鎚を振るって城壁に魔法文字(ルーン)を刻み直す。

「リオンさん」

パウリーネは、大塔の地下でスキル<封印>を使い、しでも魔を弱める。

「リオン……」

聖堂で負傷者を治療しながら、リオンの母は窓を見上げた。角笛の音はまだ続いている。

誰もが、年の手で背中を押された気がしていた。

勝てるぞ、と誰かがぶ。いくぞ、と応じる聲。

角笛は鼓舞であり、魔との戦いを続ける人々を勵ました。

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――勝ってくれ!

全ての人が、全ての戦いに、願った。

世界中で起こる冒険者達の歓聲は、天界にも屆いていた。

老神オーディンは目を見開く。

角笛の音が王都や迷宮に響けば、逆に、各地の願いもまた遠い『霜の宮殿』へ運ばれていく。世界中が鼓舞しあっているようなものだ。

目覚ましの角笛(ギャラルホルン)の音だけならまだしも、ただの人間の言葉が遠い土地に伝わるなど、考えづらい。

神が力を貸しでもしなければ。

オーディンは後ろを振り返る。

「の、ノルン……か……?」

いつの間にか、老神の背後には黒髪、黒裝束の神が影のように控えていた。

神ノルンはオーディンの問いに顎を引く。

「私が獨斷で、角笛の音を世界中に屆けました」

に黒をまとう神は、まるでオーディンが僕とするだ。

の能力は、冒険者達にステータスやメッセージを伝(・)達(・)すること。

「外にいる人間には、全メッセージを用いて、角笛の音を聞かせています。迷宮には、伝達用の神『世界樹(ユグドラシル)の水鏡』を利用しました」

「多くの魔力が要っただろうに」

神ノルンは一禮する。

「冒険者を長く見てまいりましたので。多はございます」

「……ふむ」

髭をなでるオーディンに、ノルンは顔を伏せた。

「主神よ。獨斷で冒険者への伝達をなした私を、罰しなさいますか?」

神ノルンが伝達する容は、オーディンが決める。神自の意思で『何か』を伝えたことはかつてない。

オーディンは目を細め、首を振った。

「……もはやこの狀況すべてが、彼らの力だ」

天界の水鏡には、『霜の宮殿』の様子が映されている。

大勢の冒険者達が、原初の巨人を囲っていた。10メートルを超える巨長したユミール。首や腰、関節部で赤黒い炎が燃えている。山脈のようにうねる筋が、朝日に白々と照らされていた。

『霜の宮殿』には、世界中から聲が送られた。

――リオン!

――負けるなよ!

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――勝ってくれぇ!

年は聲援をけ止めるようにを張る。青の瞳はユミールを見上げ、揺らがなかった。

オーディンは靜かに告げる。

「優しい最強か……」

かつてこの世界を見捨てる策略を練っていた自分さえ、彼らのために、この世界を守ろうとする人間のために、何かをなそうとしている。

そしてそのためにも、主神はまだ力を使い果たすことはできなかった。

今更言えることは、一つだけだ。

「勝てよ、年」

リオンが、拳を振り上げる巨人へと踏み込んだ。

空隙から、僕は地上に戻ってきた。朝日が眩しいけど、溫かい。白い息だって、しきらめいて見えた。

神殿へと続く大階段で、僕らは巨人と向かい合う。

僕とソラーナは、ルゥをユミールから守るように立っていた。神様達は、トール、ロキ、ウル、シグリス、ヘイムダルが勢ぞろい。ミアさんとフェリクスさんは、數十人の戦士団を率いて、ユミールを囲っていた。

僕は聲を張り上げる。

「みんな!」

目覚ましの角笛(ギャラルホルン)へ息を吹き込んだ。

鳴り響く角笛が、大階段に集まった神様を、冒険者を、い立たせる。

――――

<スキル:目覚まし>を使用しました。

『角笛の主』……角笛の力を完全に引き出す。

――――

冒険者達が歓聲をあげる。彼らのとりどりのが燃えた。神様から引きけた魔力が、角笛でさらに強化されたのかもしれない。

薬神シグリスが大きな匙を取り出して、僕に微笑みかける。

「リオンさん!」

僕は頷いて、スキルを起き上がらせた。

――――

<スキル:太の加護>を使用しました。

『黃金の炎』……能力の向上。時間限定で、さらなる効果。

――――

――――

<スキル:薬神の加護>を使用しました。

『ヴァルキュリアの匙』……回復。魔力消費で範囲拡大。

――――

シグリスが高く飛び上がり、両手に持った特大の匙で黃金の炎をすくいとる。そして、それを戦場全に振りまいた。

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冒険者みんなのを、『黃金の炎』が包み込む。

ユミールが咆哮をあげた。

――オオオオォォオォオオオオオオオオ!

が吹き飛ばされそうだ。

ユミールは『氷炎の心臓』を喰らい、本來の力を取り戻している。は大きくなり、高さはもう15メートル近い。

ほとんど裂け目に飲み込まれてしまった神殿だけど、口だけはまだ殘っている。巨大な門には、幅3メートルくらいの大柱が3本あった。ユミールの顔は、その柱と天井の境目あたりだ。

「……お兄ちゃん!」

「ルゥ、下がってて!」

僕はルゥを制した。

深呼吸して辺りを見回す。大階段の先には、ユミール。雪原にはまだ魔がいて、階段下を守る冒険者と戦っていた。戻ってきたユミールが、またどこかに裂け目を開けて魔を呼び寄せたのかもしれない。數がだんだん増えている気がするもの。

妹を守るのに安全な場所はない。

ミアさんとフェリクスさんが駆け寄ってきた。

「おい、なんかユミールでかくなってないか!?」

「ええ! 巨人サイズ、どころか、さらに巨大になっているようにも……!」

僕らが見ている間に、ユミールはメリメリと音を立てながらさらに巨大化する。

神殿の門に手をついた。ついに、頭が大神殿の高さを超える。

――オオオオォォオォオオオオオオオオ!

びりびりと空気が揺れた。

ソラーナが金髪をなびかせながら、告げる。

「ユミールは、氷炎の心臓を奪ったのだ」

ミアさんがいた。

「ま、まじかよ……!」

大笑が空を覆った。雷神トールが鎚ミョルニルを振りかぶっている。

「関係ねぇ! やることは同じだろ!?」

ユミールがぎょろりと目をむき、トールを睨む。右腕を振ると、トールに向けて巖塊が放たれた。

『創造』したんだ!

トールは巖を避けながら鎚を投じる。けれど、ミョルニルはユミールのを大きく外れた。巨人の背後へ消えていく。

すでに、全長20メートルにもなったユミール。唸りながらトールへ拳鎚を振り上げる。

「……外したと思ったか?」

にやっと雷神が笑う。

――そうだ、この神様、戦神でもあるんだ。戦いで外すわけがない。

「狙ったのは、足場だ」

弧を描いて戻ってきたミョルニルが、ユミールの足元に命中した。大階段の端が砕ける。ユミールはバランスを崩して、雪原へ落下した。

大きすぎるは、足場が不利ってこと。

巨腕に摑まれた神殿の柱が無殘に折れ、殘っていた神殿り口も崩壊しだす。

ルゥが悲鳴をあげていた。

「お、お兄ちゃん……!」

「ここで待ってて!」

僕はルゥを抱きしめた。

何人かの戦士団に、妹のことを任せる。

「必ず帰ってくる。いいね?」

「……うん!」

僕は大階段の端に駆けて、落下したユミールを見下ろす。唸り聲を轟かせながら、ユミールはゆっくりとを起こしていた。

僕らがいる階段でも、あの巨人が直立したら腰の高さだろう。ここ、3階くらいのはずなのに。

ヘイムダルが上空でぶ。

「ユミールが落ちたぞぉぉおおおお!」

フェリクスさんも、呼応した。杖を振り上げて、冒険者に向かって聲を張る。

「神殿、右方向ぉおお! 冒険者全員、戦力をユミールに集中なさい!!」

冒険者達が喚聲をあげて、雪原でき始めた。赤、青、紫――神様の魔力と同じが、雪原を素早く移していく。

こちらの戦力は、角笛で鼓舞された神様に、100人ほどの冒険者達。

向こうの戦力は、ユミールと新たに呼び出された魔

「みんな、行こう!」

僕らは大階段から雪原へ飛び降りた。

ユミールが立ち上がっていく。

――――

<スキル:狩神の加護>を使用しました。

『野生の心』……探知。魔力消費で、さらなる効果。

――――

ユミールを覆う、真っ赤な。かつてない強力な魔力反応にゾクゾクする。

でも、僕は違和に気づいていた。

魔力反応が、2つある。

一つはユミールの巨から放たれる、圧倒的な魔力。でももう一つ、の中央あたりに、さらに強大ながあった。どくん、どくん、と赤黒く脈打つそれは――

「……心臓だ」

僕はを鳴らした。

の輝きをふりまいて、ソラーナが僕の傍へ舞い降りる。

「わたしも、あやつのから強い魔力をじる。あそこがあの魔の中樞だ」

じろり、と巨大な眼球が僕を見下ろした。首や腰、それに関節に赤黒い炎が宿っている。

雪原に立つユミールを、冒険者と神様が囲んでいた。他の魔も追ってきているようだけど、トールやウルに遠間から數を減らされていく。

朝日に照らされて、僕らはユミールと対峙した。

巨人の目が、ほんのし、僕らを探るように細められる。

『お前たちの強さはなんだ?』

そんな質問を思い出した。

「ユミール」

僕は言った。

「確かに、獨りでは弱いけど……だからこそ獨りじゃ戦わない」

恐ろしい魔だ。

一度瀕死にまで傷つけて、これだけ神様や冒険者を集めて、それでも僕らはまだ危機にいる。

でも、この魔にも変化の兆しはあったのかもしれない。

例えば、神話時代に人間の営みを目にした。例えば、神々と信徒の絆を見た。例えば――ただのの子が原初の巨人に立ち向かい、固い腕を創造する意思を見た。

誰かがいないと得られない強さがある。

だから、ルゥの腕にも興味を持った。

もちろんいくらかは想像だけど。

けれど、この巨人にとって、この世界は自分の力から生み出されたもの。を取り戻したい気持ちが、飢えになって、あらゆる気持ちを塗りつぶすとしたら。

この巨人にとって、『理解』とは『喰らう』ことなのだとしたら。

「――あなたを倒すよ、ユミール」

僕は短剣を突きつけた。

「そうしないと、あなたの寂しさは終わらない!」

徐々に大きさを増す巨人。

本來の格は、どれくらいなんだろう? あるいは果てがなくて、無限に巨大化していくんだろうか。

――オオオオォォオォオオオオオオ……。

野太すぎる聲は、咆哮というより、風鳴りだ。もう魔ではなくて、嵐とか、火山とか、そういう自然そのものを前にしたような畏れをじる。

ユミールが拳を振り上げた。

が遮られ、巨大な影ができる。僕らにとっては城が倒れてきたようなものだ。

それでも、僕はソラーナと前へ出る。

拳と腕が雪原に打ち付けられた。猛烈な雪煙で視界が奪われる。

衝撃は、神様が魔力障壁で防いでくれた。

「なんという威力だ……!」

も一瞬跳ね上がる。余波だけで骨が震えた。

「はぁ!」

巖山のような腳を切りつけた。一瞬が流れ出るけれど、すぐに止まる。

しかも――

「ギギギ……!」

「ギギィ!」

拳を打ち付けた地面から、魔が現れた。ゴブリン、コボルト、サハギン。ミアさん達が対処するけれど、魔を生み出す無盡蔵の魔力に空恐ろしくなる。

「ソラーナ、さっきまでとは、全然違う!」

「敵は天界で、創世のための魔力を半分喰らっている。心臓を取り戻し、腕をも破壊した今、喰らってきた全てを己のに変えている」

だが、とソラーナは言葉を継いだ。

「それでも空隙よりもマシなのだ。あそこには冷たい魔力が満ちていた。それゆえ、無限に力を得ただろう」

ぞくりとした。

出できて本當によかったと思う。

「ユミールがこのまま魔力を力に変え、わたし達が手出しできぬほど強大になれば、こちらの負けだ」

「その前に、心臓を狙えば……」

「相手の長は止まる」

「……競爭ってことか」

ユミールが振り回す腕。

暴風のように雪を巻き上げながら、足元にり込んだ僕を狙う。砕けた巖がこめかみを掠め、が流れた。

衝撃で平衡覚が狂う。真っ白の飛沫に、視界もきかない。

が僕の前に躍り出る。

「おっと!」

ヘイムダルが、剣で腕をけ止めた。赤い鎧の神様は、大きなからにっと笑う。

「不思議だな! 原初の巨人!」

からからと聲を響かせながら、目覚ましの神様は輝く剣を振り抜いた。魔力が奔り、雪煙が切り裂かれる。

晴れた視界。ヘイムダルが剣を突き上げると、金のレリーフが誇らしげにを弾いた。

「満創痍の俺達より、今はお前の方が、弱く見えるぞ!」

剣で、ユミールの拳を打ち返す。

「さぁ、行けぇ!」

猛攻はヘイムダルへ向かう。一つ一つの攻撃で、神様から金の魔力が散った。文字通り、命を削る守り。

それでも神様は僕へ向かって聲を張る。

「見えているんだろう、あの巨人の弱點が!」

目覚ましの神様は、ボロボロになって吹き飛ばされる。それでもすぐに起き上がり、雪煙を巻き上げて驀進した。

「あの巨人のを貫ける魔力は、今、君とソラーナだけにある! 走って、跳んで、決めてこい、年!」

おお、と冒険者達がぶ。

「聞こえたかぁ!」

「リオンをユミールに集中させろぉ!」

「外側の魔は大した連中じゃねぇ!」

「手が空いてる奴ぁいるかぁ!」

一際大きな聲は、フローシアからやってきた冒険者、石鎚のロイドさんだ。

「リオンにチャンスを作ってやれ! 俺達は、ユミールの後ろからいくぞぉ!」

あえて注意を引くように聲を出しながら、冒険者の一群がユミールの背後から突進する。地響きと雪煙をあげながら、ユミールが反転。巨大なのだけど、を低くした、獣のようなきだ。

作に巻き込まれるだけで、即死しかねない。

ユミールは、ヘイムダルの追撃を振り切りながら、巨大な一歩でロイドさん達に迫る。

ロイドさんがんだ。

「散開だぁ!」

冒険者の直で、ベストなタイミングで散った。ユミールの足による一撃(スタンプ)は回避される。

でも、相手は原初の巨人だ。口に炎が宿りだす。

「な――!」

薙ぎ払う炎が、口から吐き出された。

必死にユミールを追走しながら、僕は聲を張ってしまう。

「ロイドさぁん!」

赤黒い炎が雪原に広がり、ロイドさん達を完全に飲み込む。

やられた、と思った。

けれど炎が止んだ時、氷の壁が現れる。ロイドさん達は壁に四方を守られて、無事でいた。

呆れ聲が降ってくる。

「まったく人間は無茶をする」

上空で肩をすくめているのは、黒いローブの魔神ロキ。

パチンと指を鳴らした瞬間、氷塊が崩れた。

「周りにこれだけ雪があれば、氷塊に転用できる。原初の巨人が放った炎とはいえ、數秒は耐えられるってワケ。環境に救われたねぇ?」

魔神様はタレ目の片方を閉じて、さらっと怖いことを言う。

ロキはさらににんまりした。

「では、次は僕の番だ! 『霜の宮殿』に積もった魔力を帯びた雪、利用させてもらうよぉ!?」

地面から次々に雪がびあがる。雪はアーチを描きながらロキの周りで合流した。10メートルほどの塊になると、一瞬の炎で水になり、再び氷結。

ロキの後ろには、いつのまにか無數の氷弾が浮かんでいた。

「この手の技が気にるといいけれど」

ロキが一禮すると、氷弾が降り注いだ。

ユミールは魔力障壁でけ止める。けれどもその歩みは、完全に止まっていた。

「ボクもいこう」

狩神ウルの、囁くような聲。いくつもの輝く矢が、魔力障壁の隙間からユミールのに放たれる。

相手は、すでに20メートルをゆうに超える巨だ。矢は、きっとトゲが刺さったほどの痛みもない。

でも、狩神様は確かにユミールの注意を引いていた。金に輝く巨眼が、狩神様を追尾する。

僕は走りながら言った。

「みんなが、隙を作ってくれてる……!」

ソラーナが頷く。

「ああ! わたし達が接近し……心臓の宿るを、魔力で撃ち抜く」

ぎゅっと短剣を握る。

一緒にユミールに追いついたヘイムダルも、攻撃を再開していた。神様は剣で魔力を放ち、ユミールの肩を穿つ。

僕らはもう巨人の足元まで來ていた。

ヘイムダルが笑いかける。

「援護しよう!」

「ありがとうっ」

ソラーナと、僕と、ヘイムダル。3人で跳びあがる。ユミールはもう30メートルほどになって、見上げないと頭が見えないほどだ。

――オオオオオオオ!

ユミールがぶ。

咆哮には魔力が宿って、の辺りにまで跳びあがっていた僕らは、一気に弾き飛ばされた。僕は空中でソラーナにけ止めてもらう。ユミールは足踏み。近づいていた冒険者達を威圧すると、二つの拳をの前で握った。

右手に炎が宿り、左手に霜がまとう。

「氷と、炎――?」

空中から、僕は聲を震わせてしまう。

ユミールが2つの拳を――氷と炎を突き合わせると、そこからボトボトと闇が溢れてきた。

雪原に落ちた黒い塊は、見る間に腕を、腳を、頭を形する。僕は息をのんだ。冒険者の聲も消えている。

産み出されたのは、火を帯びた長8メートルほどの巨人だった。アルヴィースにいたような、『炎の巨人』だ。それが3。一回り小さい『巨人兵』も、雪原に落ちた闇の塊から現れる。

きがれた。

「巨人を、創造してる……!?」

ユミールのが波打ち、さらに大きくなる。

ヘイムダルが唸った。

「いかん。これ以上大きくなったら、いよいよ手が付けられないぞ」

ユミールが巨を旋回させた。まるで竜巻だ。雪原にいた冒険者が余波で跳ね上げられる。

が僕らを捉えた。

「ソラーナ!」

「うむ!」

ソラーナは僕を抱いたまま、高度を低くする。ほとんど真っ逆さまに落下。ユミールの視線を切って逃げる。

巖盤のような足が持ち上がり、あとしで僕らを踏み潰すところだった。

地上では巨人に加えて、さらに小型の魔も産み落とされている。ユミールを中心に、魔の黒い波が円狀に広がっていく。

「お兄ちゃん!」

神殿の大階段から、ルゥがこっちを見ていた。

負けられないって想いが、もう一度燃える。

「平気!」

僕らを握りつぶそうと迫る掌を、急上昇で回避。

応じるように、空で青の鎧がきらめき、僕らとすれ違った。

「皆さん!」

シグリスが地面に降り立った。石鎚のロイドさんのところに、さらに10名ほどの冒険者を引き連れて現れる。

「私に続いて、前へ」

戦乙(ヴァルキュリア)に率いられて、冒険者達がユミールへ迫る。黒い波を切り裂いて進む様子は、流れ星みたいだ。

上空で、何かがる。鎚だ。それは雷をまといながら、ユミールを襲った。

轟音が鳴って、魔力障壁にヒビがる。

「トール!」

雷神は大笑。に染まった切れ切れの裝束が、この神様も激闘していたことを思わせた。

「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

ソラーナが問う。

「後方の魔は!?」

「倒しておいたぁ! 後は、ユミールだけだ」

トールの鎚と連攜して、ウルの矢やロキの魔法が別方向から襲い掛かる。魔力障壁を張るユミールは思うようにけてない。

地上では冒険者やシグリスがユミールに迫り、ヘイムダルも魔を斬り払っている。広がろうとする黒い波と、みんなの抵抗がせめぎあっていた。

――オオォォォォオオオオ!

ユミールは、さらに両手の氷と炎を打ち合わせる。

地面に落ちた闇の塊から、さらなる巨人が現れた。暗がりの中から、巨大な蛇の頭と、狼の頭さえ這い出ようとしてくる。

世界蛇(ヨルムンガンド)や、フェンリルを、もう一度産み出そうと……?

本能が危機だと絶した。

このままだと、本當に、ユミールから魔の軍勢が――終末が再開する。

「リオン!」

「ああ、急ごうっ」

時間がない!

僕らは地面に降りて走った。空中からだと、魔力障壁と巨腕に妨害される。地面の魔との戦に紛れて、死角から近づくしかない。

じゃらりと鎖の音。

走ってきたミアさんやフェリクスさんと合流した。

「ユミールの足元だな!」

「援護します!」

フェリクスさんが炎魔法で巨人兵を遠ざける。霊石で突風まで放ち、ユミールの足元に空白地帯を作っていた。

ミアさんがぶ。

「こっちだぁ!」

鎖斧を、ユミールの腕にひっかける。

僕とソラーナはミアさんの左手をとった。

「摑まってなよ!」

ユミールが巨腕を振り上げた勢いで、僕と、ソラーナと、ミアさんは鎖で一気に上まで運ばれる。

「頼むぜ!」

ミアさんは下へ落ちていく。僕とソラーナは、勢いでさらに飛翔。

ユミールの眼前へ浮き上がる。

「ユミール……」

僕は相手を見つめる。僕の長と同じくらい巨大な目が、僕を睨んでいた。

「終わりにしよう」

空に聲が渡った。

――リオン!

――勝ってください!

――無事で、戻って……!

サフィや王様、それに母さん。知っているの人の聲や、知らない人の聲。

の溫かさが、熱になる。

僕は神様へ目くばせをして、ポケットのコインに手をばした。あの寒い冬に古屋さんからけ取った金貨は、朝日を浴びてきらめいた。

神様は微笑む。

「ゆくか」

ソラーナが金貨の中にる。

コインは涼やかな音を立てて、短剣の柄にくっついた。手に熱が宿る。金貨が黃金に輝きながら、青水晶の短剣と融合していく。

みるみるうちに、僕の両手にの剣が生まれた。

――――

<スキル:太の加護>を使用します。

『太の娘の剣』……武に太の娘を宿らせる。

――――

僕のから腕、そして短剣へと膨大な熱が駆け抜ける。

溢れる黃金のは、ユミールの長に匹敵する巨大な刀を形した。

原初の巨人と視線がわる。

「お終いだ、原初の巨人」

ユミールの燃える目つきから、一瞬だけ、怒りや戦意が剝がれ落ちた。怪訝そうな目が僕に問いかける。

――おれは、敗れるのか。

頭にユミールの聲が響いた気がした。

「そうだ」

構えを変えながら、僕は言う。

「お前には、決して屆かない強さがある」

傷つけたり、喰らったりするだけでは。

黃金の刀を真っすぐに。狙うは、ユミールの中央だ。

――それが、俺が喰らえぬものか。

ユミールの目が靜かだったのは一瞬だけ。すぐに瞳に戦意が燃え上がり、僕に向かって腕をばす。

僕らのびはじり合って互いの間に響きあった。

の刀を突きいれ、黃金の魔力を心臓に向けて撃ち放つ。ユミールのを、の奔流が穿ち抜いた。

僕らの熱さが、冷たい巨人にも屆くように。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は11月27日(日)の予定です。

(2日、間が空きます)

【コミカライズ版 コミックノヴァで連載中!】

・第3話(前半)が公開されました!

ソラーナとリオンが近いを結ぶシーンです!

幻想的な雰囲気が出て、素敵な場面となっておりますので、ぜひご覧くださいませ。

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