《悪魔の証明 R2》第151話 089 アカギ・エフ・セイレイ(2)
「彼はこう言った。あなたのリーダーは噓をついている。私が今からあなたに本當のルールを教えてあげるわ。乗客で生存者が許されるのはひとりのみ。さらに、ARKのチームで生存が許されるのもひとり。そして、リーダーはその仲間を全員殺害しなければならない。生存者が複數いた場合、後でチーム全員が組織に始末される」
何だ、その無茶苦茶なルール?
開口一番クロミサから告げられた臺詞に、僕は眉を顰めた。
だが、それがなんであったとしても、彼の言葉に合わせて聲を発するしかない。
「あなたのリーダーはあなたが生き殘れると言ったと思うけれど、それは噓。現に私は、あなたたちの弾を利用してすべての仲間を殺した」
クロミサの口から放たれる馬鹿げたルールの補足に思わず閉口しそうになったが、必死で気を取り持ち言葉を続けた。
「……私たちはあなたたちがルールを破ったときに、あなたたちを処理する役割を任されているの。あなたたち本隊はもちろんのこと、リーダーやその仲間が裏切った場合、ルールに従わなかった場合。そして、私と私が率いていたチームは、組織にとってそのようなケースを抑える保険みたいな存在となる」
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要はエリシナの所屬していたチームは、メインチームを監視するような役割を擔っていたということなのだろう。
クロミサが言った通りの臺詞を述べながら、僕はそう思った。
「そして、あなたのリーダーは現在、乗客の生存者はひとりのみとするルールを破ろうとしている。だから、あなたは私と協力してリーダーを始末する必要がある。そうすれば、あなたがリーダーになれる」
エリシナのいはルールを良く知らないアルフレッドにとって、渡りに船だったのではなないだろうか。
クロミサの聲に同調している最中、そのような推察が頭を過った。
「なぜ私があなたにこのようなことを教えるかというと、リーダー同士は生き殘れるからよ。ARKと乗客に名乗るのはあなた以外のメンバーの誰かに任せればいいわ。最後に殘る乗客は後で私が選別してあなたに伝える。だから、今はむやみに人を殺さないで。けれど、後ろからくるあの男はもう用済みだから殺していいわ。この話を信用するかしないかはあなたの自由。けれど、私があなたを殺さなかったという事実。そして、あなたたちの計畫を知っているという事実。これらふたつを踏まえて、考えなさい」
長い臺詞だったが、なんとかクロミサの調子に合わせてすべてを言いのけた。
クロミサと口裏を合わしている最中、これではスピキオさんを殺害したのはエリシナさんのようなものじゃないかとか、最初から全部教えろよとか、ルールに縛られ過ぎじゃないかとか。とにかく々な言葉が心の中で渦巻いた。
「まあ、こんなところね」
獨白を終えたクロミサが、そう言ってからドヤ顔を見せる。
「こんなところね、じゃない」
僕はぼそりと小聲で呟いた。
「なぜ、あなたが口調なのかは除外したとして……どうしても、私をテロリストと斷定したいみたいね」
エリシナが抑揚のない聲で、そう言葉を返してくる。
その振る舞いからは、ショックをけたような素振りは見けられなかった。
事実と違ったところでもあったのだろうか。
一瞬迷いが頭にちらついたが、すぐに首を橫に振った。
よく見れば、エリシナの額にはし汗が滲んでいる。
やはり、クロミサが語った容はすべて真実だ。
彼の汗を見つめながら、そう確信した。
さらに追いつめなければ。
そう思った僕は、今度はクロミサの助けを借りず自分の言葉で話し始めた。
「ええ、僕は斷定します。ついでにもうひとつ斷定すると、誰かはわかりませんが――エリシナさんがその誰かに聞かされた乗客の生存者をひとりのみとするルール。それは間違っている」
と、告げる。
この僕の臺詞にエリシナの片眉が上がった。
この反応――やはり知らないのか。
そう思いながら、説明を続ける。
「テロリストのリーダーであると思われるフリッツさんがその気になったのであれば、シャノンさん、フリッツさん、アルフレッドの三人で、僕たち全員を殺すことができたはずです。エリシナさんが寢臺車の部屋に籠った後、六號車には僕とクレアスさんしかいなかった。この狀況で拳銃を持った三人が襲ってきたら、僕たちはひとたまりもありませんでした。クレアスさんは寢ていましたし、素人の僕なんて、まったく戦力になりませんからね」
言葉を終えると、軽く頭を振った。
「確かに乗客はひとりのみ生存させるというルールに縛られたテロリストにとっては、千載一遇のチャンスだな。それにもかかわらず、フリッツさんは襲撃してこようとはしなかったのは不自然だ」
クレアスはそう述べてから、チラリとフリッツの死が眠る寢臺車の方へと目を送る。
「ええ、クレアスさん。その通りです。エリシナさんのルールでは、乗客はひとりしか生き殘らせることでしか目的は達されないのにもかかわらず、フリッツさんはそうしようとはしなかった」
僕はクレアスの臺詞に補足をれつつ、彼の見解を後押しした。
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