《悪魔の証明 R2》第153話 090 アカギ・エフ・セイレイ(2)

エリシナは僕を無視して、

「それで、クレアス」

と、クレアスに聲をかける。

「あなたは、アカギ君の言うことを信じるのかしら」

続け様に確認した。

クレアスの表が挙不審に歪む。

まだ、僕を信用していないのだろうか、肯定も否定もしない。

クレアス・スタンフィールド……なんて、優不斷な男だ。

彼をこちら側に引きれるため、さらに思慮を張り巡らせた。

「……クレアスさん。エリシナさんが、あなたが発から逃れるような案をしてきた、といったことがありませんでしたか?」

咄嗟に思いついたことを尋ねる。

「そういえば、エリシナから時間までに戻って來てとしつこく確認されたような……」

クレアスが薄い聲で、答える。

「それです、クレアスさん。エリシナさんのルールに沿えば、あなたが……」

そこまで言って、僕は臺詞を止めた。

エリシナが拳銃の照準を僕の額に合わせてきたからだ。

一方のクレアスも、エリシナへと拳銃を向けた。

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「止めろ、エリシナ」

と、呼びかける。

この期に及んでようやくエリシナがテロリストだと認識したようだ。

僕はし安堵した。

だが、期待に反するかのように、クレアスの拳銃を持つ手は地面へと下がった。

何をしているんだ、この人は……

僕はかつてない程の絶を心に覚えた。

「エリシナ、待て。アカギ君を殺すんだったら、俺を殺せ」

クレアスは言う。

「そんなこと……そんなことできるわけないじゃない」

と聲をらしながら、エリシナが迷いを見せた。

先ほどの冷徹な表が噓かのように、眉間が歪んでいた。

「乗客をひとりしか殘せないんだったら、それで計算は合うだろう」

クレアスが自己犠牲を想起させるような臺詞を述べる。

だが、

「クレアスさん。殘念ながら、殺されるのは僕です」

と言って、僕は首を橫に振った。

「なぜそう思う? 俺でいいだろう」

クレアスが僕の判斷に疑問を呈してくる。

「先程述べたエリシナさんの知っているルール。そして、エリシナさんの行や言から推察すると――乗客でひとりだけ生き殘る生存者は、僕ではなくあなただ。そして、エリシナさんの行原理はすべてこの、乗客ひとりだけ生存、というルールに支配されている」

すぐに、回答を提示した。

「おい、アカギ君。それはいったい……」

そう聲を零してから、クレアスは困の表を浮かべた。

「まず、先程六號車でなされたエリシナさんの推理を考えてみてください。何かがおかしいと思いませんでしたか?」

僕は尋ねた。

「ああ、し強引だとは思ったが……」

クレアスにも思い當たる節があったのか、そう口から想らしきものを零した。

「そうです、強引すぎです。逆に言えば強引な推理を述べなければならない程、エリシナさんにとって、フリッツさんとシャノンさんが死亡したのは、計算外のことだったのです」

「計算外? 何が……」

「本當はもっと違った計算があったはずということです」

クレアスの臺詞を遮るかのように、僕は聲を重ねた。

「エリシナには他に思があったということか?」

クレアスが訊いてくる。

もうエリシナがテロリストであることは疑いようのない狀況なので、視線は彼にやったままだった。

「アルフレッドに彼らを殺すチャンスを與えて、彼が最後のテロリストだとクレアスさんに疑わせるような、そんな計算があったはずです。だけど、予想に反してふたりは自殺してしまった」

「まさか、そんな……」

言わんとすることにようやく気がついたのか、クレアスが曖昧な言葉を返してくる。

「だから、セネタルさんやスピキオさんが生きていたなどという荒唐無稽な推理を披せざるを得なかった」

「外に向かう口実がしかったということか」

僕の臺詞を先読みをするかのように、クレアスが言う。

「ええ。だから、先ほどエリシナさんはクレアスさんと一緒に外に出ようとしたのです。アルフレッドに僕を殺させるためにね。そして、帰ってきてからそのアルフレッドを殺せば、エリシナさんの目的は達できる」

推察というのには確か過ぎる説明を、眉間に皺を寄せ続けているクレアスに伝えた。

「計算外だったことはわかった……しかし、なぜそのような面倒臭い方法を取る必要があるんだ?」

クレアスが目を見開いて、尋ねてきた。

「アルフレッドが最後に言ったどちらにしても口裏を合わせるという臺詞とエリシナさんが彼に言った臺詞から推測すると、おそらく、乗客に自らがARKと名乗らなければならないルールが彼らにはあったのです。無論、そう名乗る人は最後に殺される。乗客にテロリストと名乗るのですから、生きて帰れたとしてもそのまま捕まって、良くて刑務所暮らし、ほぼ確実死刑。そんな役回りは誰もやりたくはない。それはアルフレッドやエリシナさんも同じです」

まだ説明を続けるつもりだったが、僕はそこで一度臺詞を切った。

エリシナの目がぎろりと僕の瞳を抜いてきたからだ。

すぐにでも撃たれてしまうかと思ったが、クレアスがエリシナを落ち著かせるためだろう手を前に差し出す。

そして、僕の推理を引き継ぐかのように、

「となると、本來であれば、エリシナはフリッツさんかシャノンさんに組織名を名乗らせたかったってことになるな。だが、計算外にふたりは自殺してしまった。こうなってはどうやっても、ふたりにARKと名乗らせることは不可能だ。ARKを認知した乗客ひとりを生存させるためには、生き殘ったテロリストの中で誰かをARKと名乗らさなければならないのに、そうすることはできなくなってしまった」

と、述べた。

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