《悪魔の証明 R2》第155話 091 アカギ・エフ・セイレイ(2)

「クレアス、匿名で私設警察本部に電話をかけたのは私よ。チームスカッドとしてこの列車に乗り込むには、それしか方法はなかった」

エリシナは訥々と告白する。

拳銃を下ろす気配はまったく見せていない。

「エリシナさん、やめるんだ」

クレアスと同じような臺詞を述べ、僕は彼の行の制止を試みようとした。

だが、エリシナは僕の言葉に耳を貸さず、クレアスへと顔を向ける。

「クレアス……非番のあなたが出勤してきた時點で、私はこうするべきだったの。そう、セネタルを生存者に選べないとわかった時點で、こうするべきだった。あなたがいないのであれば、セネタルは救える。そう思っていたのだけれど……ついてなかった」

と、悲しげな目をして述べる。

「エリシナさん。ARKであることが、乗客に見破られたら死ななければならないなどというルールは、この手帳に書かれていません。存在しないルールに乗っ取って死んでも意味はない。止めてください」

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エリシナの自殺を抑止しようと、必死になって臺詞を並べ立てた。

だが、

「その手帳に書かれたルールが、絶対に合っているという確証があるのかしら。私が教えられたルールには、その文言があったわ」

エリシナは反論してくる。

「そ、それは……」

僕は口籠った。

確かに、この手帳の容が絶対に合っているという確証はない。

僕の困を見かしたように、エリシナは口を開いた。

「絶対でなければだめなの。萬が一にでも、レイに危険が及ぶ可能があるのであれば」

と、述べる。

レイ? いったい誰のことを言っているのだろうか。

いや、今はそんなことはどうでもいい。

そう思い直しながら、聲を振り絞る。

「エリシナさん。もう一度言います。自殺したって何も解決しない」

月並みな臺詞が口をついた。

そんな言葉しか頭から出てこなかった。

「ありがとう、アカギ君。でも、もういいの」

エリシナは大きく吐息をついて、首を橫に振った。

「クレアス。お願いがある」

そう言ってショートパンツのポケットから財布を抜き出すと、クレアスの方へとそれを放り投げた。

「どういうつもりだ、これは?」

財布を手にしたクレアスが、エリシナに尋ねた。

「そこに私が今まで稼いだお金がっている銀行のカードがあるわ。こんなことになるなんて、思ってなかったから、まだ生き殘るつもりで、馬鹿みたいに持ってきたの。ARKからの金もあったからかなりの額になっているわ」

エリシナは、場にそぐわない文言を述べる。

「そんなことはどうでもいい。どういうつもりかと俺は訊いているんだ」

クレアスが、語気を荒げながら言葉を投げかけた。

「今までずっとそこから小額を毎月妹の口座に金してきたのだけれど、私はもういなくなる。すべて、あの子――妹のレイに渡してしいの。私のカードの暗証番號とレイについての報――住所や口座番號が書かれたメモも財布の中にっている。手渡しでも振込でもいいからお願い」

語りを終えた瞬間、エリシナは拳銃を握り直す。

ギリッと鈍い鉄の音が、六號車に響き渡った。

「エリシナ、やめろ! 頼むからやめてくれ。俺はきみのことを……」

クレアスが車両が壊れるかと思うほどの大聲でぶ。

「そんなことしたって、何になるんだ、エリシナさん!」

僕も力の限り呼びかけた。

「クレアス……」

エリシナは囁くようにクレアスの名を呼んだ。

その先を聲にしようとはしない。

だが、彼が最後に何を言いたかったのかは口の形だけでわかった。

エリシナの行を止めようと、僕とクレアスは同じタイミングで駆け出した。

いや、僕たちだけではない。

クロミサまでもが行を始めている。

次の瞬間、けたたましい銃聲が鳴った。

エリシナは、糸が切れた人形のようにぱたりと床に倒れ込んだ。

唖然として、僕はその場で足を靜止した。

なぜ、どうして――

いろんな疑問が頭を過った。

クレアスがふらふらになりながらも、ようやくエリシナの元へ辿り著く。

だらけになった彼の頭を手で抱え起こした。

そのままを立たせようとしたが、途中で行をやめた。

そして、泣きぶわけでもなく、慟哭するでもなく、エリシナのをそっと抱きしめた。

彼らの傍らでは、クロミサが表を変えずにとなったエリシナを見下ろしていた。

やはり、何のも抱いていないのだろうか。

そう思ったが、クロミサの手を観察して考えを改めた。クロミサは拳を握りしめ、小刻みにその手を揺らしていた。

を噛み締めながら、天井を見上げる。

許さない。絶対に、許さない。

ARK? トゥルーマン教団? それともラインハルトグループ?

首謀者は何だっていい。

あいつらを絶対に許さない。

僕が……あいつらを潰してやる。

誰にともなく、そう心に誓った瞬間だった。

鈍い音を立てて六號車のドアが開いた。

ざわざわ、という聲がした後、ふたりの男がサイレンサー38式を手にもって、六號車の中へとってきた。

の位置を確認するかのように僕たちを見回してから、ふたりはお互いに顔を見合わせる。

そして、肩を叩き合うと片方の男が顔を元に戻した。

僕の元に近づいてきたかと思うと、おもむろに手を差し出してくる。

私設警察の人たちか。

ようやく彼らの服裝からそう認識した僕は、すぐに彼の手を握り締めた。

労いの意味を込めてなのだろうか、男に肩を叩かれる。

だが、それと同時になぜか腕を捻り上げられた。

そして、痛みに耐えかねた僕が聲を発する前に、男は尋ねてくる。

「俺はラインハルト社施設警察ナスル・イズマイロフだ。まずは質問に答えろ。おまえたちはテロリストなのか?」

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