《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第3章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 5 過去と未來(2)

5 過去と未來(2)

「難しい話はあまり覚えてないけど、面白い話もたくさんあったわ。伊藤さんのいた時代の自車は、ぜんぶがぜんぶ自運転で、通事故なんて滅多に起きない。病気で死ぬ人もかなり減っていて、それなのに、子供があんまり生まれなくなったらしいんです。だからそのせいで、日本の人口もどんどん減っちゃうんですって……」

誰でも百歳くらいまで生き、ほとんどの場合、最期まで寢たきりや要介護などにならない。

誰もが自宅で穏やかに息を引き取り、それまでは特別な病気を除いて、歩行やら排泄だって自分一人の力でできるという。

寢たきりの仕組みが確立されて、還暦になると國民全員老化レベルが審査される。それによって、一人一人に見合った長壽プログラムが割り當てられ、否応無しに実施される……とまあ、こんなじの話らしい。

ところが智子にとって、こんな話こそが理解し難いことだった。

「歳を取ると、みんながみんな、寢たきりになっちゃうみたいな言い方するんですよ、おかしいでしょ?」

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そう言えば、昔は寢たきりなんて言葉、あまり耳にしなかったように思う。

「それにもっとおかしいのは、六十歳を過ぎると、一日何歩、歩きなさいとか言われちゃうんですって。サボったりしたらすぐにわかっちゃって、どうしても言うことを聞かない人なんかは、専門の施設にれられちゃうって言ってました。でも、おかしくないですか? すごい未來なのに、普通に歩けだなんて、なんだか笑っちゃいますよね?」

智子はそう言って、怒ったような顔を剛志に向けた。

歩數計などが生まれる以前のことだから、一般には歩くことの大事さなどそうは知られていないと思う。智子がそうじるのも當然で、二十年後の今だって、健康のために歩こうなんて考える世代はごく限られている。

平均壽命もあの頃なら、男で六十代中盤か、でも七十越えたかどうかだろう。それが二十年で男ともに七十歳をとっくに越えた。さらに來年はの八十越えも確実らしい。

つまり、たった二十年でおおよそ十歳。

単純計算なら百年で、なんと五十年も長生きすることになるのだった。

実際はこんな単純ではないのだろう。それでもこう考えてみれば、百歳生きるって話も夢語ってだけではない気もする。

伊藤の話にはそれ以外にも、デタラメとは言い切れないものがまだまだあった。

例えば電話だ。攜帯用が発売されて、それがあっという間に掌に隠せるくらい小さくなる。そんな端末さえ持っていれば、電話どころかカメラやテレビとしても使い放題になるらしい。

「手に隠れるくらいって、そんな小さな機械でテレビなんて見られないじゃない?」

そこまで小さい畫面なら、きっと蟲眼鏡が必要だ。そう言って笑う智子へ、彼はさらに訶不思議なことを言っていた。

そもそもその端末とは、リモコンのようなものだという。スイッチをれれば、何もない空間にスクリーン畫面が映し出される。それにれながら作すると、いろいろなことができてしまうということなのだ。

「いろんなことって、テレビを見るとか以外にも、何かができるっていうことなのかな?」

「よくわからないけど、それでね、世界中の報がすぐにわかっちゃうんだって、でも、世界中の報って、いったいなんなのかしら?」

まあ、智子によればそんなじだが、彼の説明はなんと言ってもザックリしている。

本當は、剛志の想像を遙かに超えて、もっと奇妙奇天烈な世界かもしれない。

ただこれだって、すでにある自車電話を考えれば、攜帯可能な電話だってあり得そうだし、テレビだって何年か前に、重量三キロちょっとのポータブルテレビが発売された。もっともっと小型化されれば、いずれ電話とテレビの複合機だって作れるようになるだろう。

ただ実際電話をしながら、さらにテレビを見るなんてことがあるかどうかは別として、それが掌に収まるくらいなら、ひょっとして百年なんてかからないんじゃないかという気もした。

ところが昭和三十八年を生きていた智子には、こうなった今でも信じ難い話のようで、

「きっと勉強のしすぎで、伊藤さん、頭が変になったんだって思ってました。だって、どう考えたってあり得ない話ばかりなんだもの……」

なんてことまで続けて言った。

しかし巖倉邸で目にしたものを考えれば、なんであろうと〝あるかもしれない〟と思うしかないし、実際に伊藤だって遠い未來から來たのだろう。

そして殘念ながら、彼がなぜ昭和三十六年に現れて、どんな理由によって殺されたのか? そんなことにつながる報を、智子は何も知ってはいなかった。

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