～ルナ皇視點～

長い出路を逆走すること數時間、目的地である帝城への口にわたくしとネルフィーさんは到著しました。ここから先へ進むタイミングは、阿吽さんかルザルク殿下からの連絡が來てから……。魔導の明かりを消し、暗闇の中で息をひそめてその時を待っていると、先ほどの襲撃の余韻も相まって心臓の音がいつもより大きくじます。

とはいってもここからが本番……。冷靜さを欠いて視野を狹めるなんていう愚行はしたくありません。一度靜かに、大きく深呼吸をし、目を瞑って鼓の高鳴りを抑えていると不思議と今までのことが思い返されてきました。

――わたくしはこのイブルディア帝國に皇族として産まれ、育てられてきました。

家族は皇帝である父、妃である母、皇太子である兄とわたくしの４人。本來皇帝は側室を持つのがある種の義務ではありますが、父はそれをしませんでした。

兄が産まれた時點で世継ぎが決まった事もありますが、皇帝位の継承爭いでが起きるのをしでも避けたいという理由を、期無邪気に弟や妹がしいとせがんだわたくしに「これは二人だけのだぞ」と、はにかんだ微笑みと共に語ってくださりました。

それが本音かどうかは分かりませんが、わたくしの中では紛れもない真実となっております。

父は自他に厳しくも常に帝國民だけでなくこのスフィン大陸全の事を考え、他國との協力制の構築を図ろうとされていました。そのひとつに魔導飛空艇の開発があったのです。

空路を開拓することで今までよりも格段に速く移が行え、大量の資を輸送できるようになります。そうなれば、各國間での貿易も活化されるだけでなく、島國である武京國や山脈に囲まれているオルディーラ國とも易を行えるようになり、自國民のみならず他國の民の暮らしをもかにできる。常々そう仰っていました。

ですが、５年前……あの合理的で理的な平和主義者だった父が突然変貌され、的で不條理な軍國主義へと舵を切られたのです。

當然反対する者は多くありましたが、そのほとんどが粛清(しゅくせい)されてからは恐怖による支配が帝都を覆うことになりました。

しかも……その粛清対象には、家族である母と兄も含まれていたのです。

母ガーネットは優しく賢明で、好奇心旺盛なわたくしの知りたい事、知ろうとすることを全て教えてくださいました。期より魔法や剣の家庭教師を付けてくださり、そのおかげでわたくしは學院でも同年代の者たちより突出した績を修める事ができました。また「皇族のたるもの不條理に屈してはならない」とわたくしに進むべき道を示してくださった方でもあります。

兄のロイとは歳が５つ離れておりましたが、わたくしを常に気にかけてくださる母譲りの優しさと父譲りの合理とを兼ね備えた方でした。父をして「安心して死ねる」と言わしめる、次代を擔う新たなるイブルディアの星……それがわたくしの敬する兄でした。

聡明な母と兄は、変貌された父に苦言を呈しました。いくら皇帝であろうと、度を超える言に言わざるを得なかったというのが正しいでしょう。

しかし、その結果は“粛清”という最悪の結果だったのです。

家族の中で唯一わたくしが生かされたのは、皇帝に何かがあった時に一番りやすいと魔族に思われたからでしょう。簡単に言えば“予備の傀儡(くぐつ)”。

もしかしたら洗脳されていないことも魔族には勘付かれていたのかもしれません。魔族がわたくしの事を取るに足らない小娘と油斷してくれたおで自由にくことができていたようにも思えます。

元々わたくしは、帝國のために命を賭してけるほどの大きなではないのです。ですが、そんなわたくしは今、２つの目的を糧としてき続けています。

そのひとつは復讐。大好きな家族をり、殺し、尊敬する父の名譽も栄譽も地に落とした憎き魔族に一矢報いること。

二つ目は父の暴挙を止めること。これ以上父を苦しめないようにするには、もう手段は一つしかありません……。

過去を回想し家族を想うと、緩みかけた気持ちが再び引き締まります。

絶しかなかった５年前から、なんとか現狀を打開できる(すべ)を考え、何度も気持ちが折れかけながら、それでも進み続けてきたのです。

アルト王國へ亡命する時には學院時代の級友であり、ともに冒険者として信頼し合った戦友(とも)達との今生の別れもありました。數多の犠牲の上に今があります。

……ついにここまで來たのです。後は、わたくしの手で幕を引くのみ！

≪ルナ皇殿下、ネルフィーさん。2人の魔族が帝都會議場に姿を現しました。作戦決行です！≫

≪了解した。帝城への潛を開始する≫

ルザルク殿下からの念話で深い思考の海から引き戻されます。

覚悟は決まった。やるべきことも明確。

閉じていた瞼をゆっくりと開き、左手につけている指を一度ギュっと握りしめ鍵となっている窪みへとそのまま押し付けると、帝城の地下牢へとつながる扉がゆっくりと開かれていきました。

待っていてください、お父様。

必ずその苦しみから解放してみせます。

次話は12/2（金）投稿予定です♪