《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》44 もうずっとずっともやもやおむねがくるしいからはやくおかえりなさいがしたいのです

辺り一帯の木の幹が傾ぐくらい強い風に飛ばされないように、桑の木の枝に足をしっかり踏ん張って幹にしがみつきました。

激しくばたつく葉れの音と、どんぐりや桑の実が風を切るように飛んでいく音。

渡り鳥が列を作って飛ぶように、川が波打ちながら流れるように、群れをした木の実が竜のいる辺りに吸い込まれていきます。

できました!旦那様がしてくれたのと同じ"切り裂け"です!

旦那様たちと竜がいる辺りを照らしていたとりどりのの粒はもう消えていて、真っ黒な森の影が砂みたいな星の散る夜空を切り取っています。

魔王であった頃に、いつも村を眺めていた場所でした。

その時見つめていたのは多分ちょうど今私がいる辺りです。あの頃はまだこの桑の木もどんぐりの木もなかったと思います。一番最初においもをくれたあのちっちゃいにんげんが住んでいた場所に、今私が立っていて、魔王がいた場所を見ているのはなんだか不思議な気がします。

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おいもをくれたにんげんは、おっきくなるにつれて森にくることがなくはなったけれど、しわしわでちっちゃくなっても魔王に會いにきてました。その子どももそうだった。その子どもの子どもも。

だけどそれは今思うとあっという間だったようにじます。

にんげんはあっという間にいなくなってしまう。

竜は怒るのをやめたのがわかりました。突然どんぐりが降ってきたからびっくりしたはずです。

それでいいのです。

今はここに第四王子がいますから、仕返しにくるにんげんが千匹とかになっちゃいますし。

「おお奧様!奧様!大丈夫でござっひぃいいいいい!かないでくださいませえ!奧様ぁ!」

タバサがんだので下を覗き込んだら、真っ白な顔して元に縋りついていました。もしかするとタバサは木登りができないのかもしれません。

「タバサ、右手の橫にあるその枝を摑むと登るのにちょうどいいですよ」

「ぶふっ」

「違います!降りてっ降りてくださいませ!いえ!いやあああ!そのっそのままっ」

俯いたままの第四王子の肩が震えて、護衛たちはちらっと見上げては橫を向いたりとうろうろしています。タバサはかないでとか降りてとか、どっちがいいのでしょう……困りました。

前にドリューウェットの領都で大きな焚火を消した時には鼻が出たものですけれど、あの頃の私とは違います。ちゃんと旦那様から習ったとおりに詠唱もしましたし。

ただちょっと膝が震えている気がして上手に飛び降りれないかもしれませ――

「「「うぉわああああ!!」」」

頭の後ろがふわーっとしたと思ったら、もう足が枝から離れていました。

「あら?」

「奧様!奧様!ご無事ですか!」

タバサがぺたぺたとあちこちでてさすっています。仰向けに倒れている私を、護衛たちが囲んで「うぉぉ……」って息をつきながら見下ろしていました。背中に何本も腕や手があたってますし、どうやら落ちた私をけ止めてくれたみたいです。さすがお城の人だっただけあります。

「落ちました!ありがとうございます!」

「よ、よかった……怪我でもされたら考えるだけで恐ろしい……」

第四王子はなぜか橫で座り込んで呟いてます。タバサが痛いところはないですかってうるうるしてるので、確かめようとを起こしてみるとあちこちが痛いです。これは筋痛。鼻は出なかったのに。地面に降ろしてもらって立ち上がろうとしたら、足がぷるぷるして痛い。旦那様をお迎えに行きたいのに。

ちょうど目の前で中腰になって両手を広げたまま固まっているハギスと目が合いました。

「ハギス!おんぶして走ってください!」

「え!?僕!?やめてください!主様に殺されます!って、ハギス!?」

「いやそれより早く出発するよ。君たちそのまま夫人を馬車にお連れして」

「奧様、失禮します」

義父上と同じ年くらいの護衛が、私を抱き上げました。この護衛は旦那様が小さいころからお城にいた人だと聞いています。時々飴をくれるのです。それはいいのですけどなんで馬車?護衛の橫を小走りしながら私の手をゆるく包むタバサの手を握りました。

「タバサタバサ、旦那様をお迎えに行きたいです」

「奧様……主様はすぐに追いついてこられますよ。タバサと一緒にお待ちしましょう」

「夫人、先輩は何か策があるようだったけど、それでも今はスタンピードがあると思ってかなきゃいけないよ。先輩だってそう思うから夫人のことを僕に頼んでいったのだから」

「スタンピード……そうでした!」

「――ええっ!?何その反応!まさか忘れてたとかじゃないでしょ!?」

そうでした。旦那様は竜が來るっていうのじゃなくてスタンピードだと第四王子に説明してました。そうすると今は竜のことを言ってはいけないはずです。多分そう。もう竜は怒ってないのに。

「でもタバサ」

第四王子がいなければすぐお知らせできますのに。そうしたら旦那様をお迎えにいけます。

タバサは優しく手を握り返してくれるのですけど。

「タバサタバサ、なんだかおがもやもやします」

「まあ!やはりどこかぶつけたのではないですか!?ちょっと!もうちょっと揺らさず!水平に!」

「は、はいっ」

どこもぶつけてません。痛いのは筋痛です。ちがうのです。もやもやはずっと中のほうです。なんでしょうこれ。

靜かに急いでとタバサにせきたてられた護衛が、そうっと馬車の中へと私を運びれました。馬車の扉のへりをつかんでがんばってみます。

「ちょ、夫人、その手放そう?ね?案外力あるね!?」

私の指を第四王子は開かせようとしますけどがんばります。腕痛いですけどもがんばるのです。

お迎えに行けなくても、ここで待ってた方が早くおかえりなさいをできるのですから。

「旦那様はもうこっちに向かってます。だから出発しちゃだめです」

「向かってるって……」

「奧様?」

第四王子に斷りをいれて、タバサが私の口元に耳を寄せてくれます。やっぱりタバサは気がついてくれました!もう竜來ないですよって緒で教えられた!でもまだもやもやは治りません。

きっと旦那様が帰ってきたら治るのです。きっとそうです。

タバサは一瞬だけ考え込んでからひとつ咳ばらいをして、第四王子に説明してくれています。

「――殿下。我が主が任務達をしたようです。スタンピードは回避されたと思われます」

「なんで今それがわかるのかとかもう々わかんないよね」

「詳細は主からお願いいたします」

旦那様がこっちに向かってきているのがわかります。さっきよりもずっと速いので馬に乗ってるのでしょう。私はまだ馬に乗せてもらったことないです。腰で結んだ紐に差したサーモン・ジャーキーを抜いて、端っこを口にいれました。

「いやいやいや……もしかして夫人って何かすごい天恵(ギフト)あったりする?さっきの風魔法だって」

「詳細は主からお願いいたします」

「ねえ、夫人、さっきって、え、おやつはじまった!?」

私がサーモン・ジャーキー食べてるのに、第四王子はいつまでもうるさい。ちょっとお勉強が足りないと思います。

ポケットにいれていた小さいほうのサーモン・ジャーキーを第四王子のお口にいれてあげました。

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