《最強になって異世界を楽しむ!》鎧の魔族

「はい、今日の練習は終わりです。ワタルさん筋がいいですよ。もう十分様になってます」

「リナさんの教え方がいいからですよ」

魔法を教わり始めて1週間、実戦でも使えるレベルになっていた。

討伐の依頼も何度もこなし、素振りや筋トレなどの基本も欠かしていない。

この生活に飽きることはなく、充実した毎日をワタルは過ごしていた。

「いえ、私は普通に教えただけですよ。ですが、もしワタルさんが謝してくださるなら、ちょっとやってもらいたいことがあるんです」

「なんですか?」

「実は今、東の巖山に1人の魔族が現れたんですが、その魔族は人間を無差別に襲わず、それどころか和解をんでいるんです」

「いい事じゃないですか」

「それだけならいいんですけど、和解する代わりにお願いがあると言われて、そのお願いが『私より強い人間を連れてきてほしい』ということだったんです」

「そのお願いの意味はわかりませんけど、手練の冒険者なら普通に勝てるんじゃないですか?」

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「はい、私たちもそう思って今王都にいる冒険者に聲をかけました。ですが、結果は全員負けました」

王都は人間にとって首都ということで、強力な冒険者も多い。

Lv.100を超える冒険者もいるため、し強力な魔族でも問題なく討伐できる。

「1対1とはいえ、流石に負けが続きすぎるとギルドの面目にも関わります。そこで、私の知る限りで1番強いワタルさんに向かってもらいたいんです」

「めちゃくちゃ強い魔族じゃないですか。俺勝てる気しませんよ……」

いくらステータスが高くても、ワタルはまだ実戦経験がほとんどない。

ステータスが近く実戦経験の富な相手であれば、簡単に負けてしまう可能がある。

「念のため、當日は私と私の友人が一緒に付いていきます。危なくなったら頑張って止めますので、大丈夫ですよ」

「なにが大丈夫なんですか。まあ、やりますけど」

「ワタルさんならそう言ってくれると信じてましたよ。ワタルさんは押しに弱いですからね。最悪土下座でもすればけてくれると思ってました」

そこまでするつもりだったのかと思ったが、それも當然かもしれない。

ギルドの冒険者が魔族に歯が立たなかったと広まれば、ギルドへの依頼は減るだろう。

それは避けたいはずだ。

「出発は明日の朝、王都の東の門に集合です」

「わかりました。準備しておきますね」

***

「リナさんと……鍛冶屋のおじさん?」

「エリヤだ。久しぶりだな、兄ちゃん」

そこには私服と思われるきやすそうな服を著たリナと、大きな斧を背中に持った鍛冶屋のおじさん改め、エリヤがいた。

「あ、ワタルです。そういえば、リナさんとエリヤさんは知り合いでしたね」

「まあ、そんなところだ」

「エリヤは鍛冶屋のくせに腕は立ちますから、今回の助っ人です。さ、行きましょう」

エリヤとの簡単な自己紹介を終え、王都を出て歩いていく。

リナが馬車を手配しており、3人は馬車に乗り込み巖山を目指す。

「そういえばワタル、ステータスを見せてもらってもいいか?」

「ステータス、ですか」

馬車の中でエリヤにそう言われ、ワタルはリナを見る。

「本の冒険者カードを見せても大丈夫ですよ。エリヤは顔は怖いですけど、信用できますから」

「そういうことなら、はい。これが俺のステータスです」

ワタル Lv.253

ステータス

筋力:756

技量:501

敏捷:536

耐久:647

魔力:321

スキル

神の加護

召喚【デスペリアスライム】

「とんでもないな。こんなステータス初めて見た。これなら俺やリナが一緒に行く必要はなかったんじゃないか?」

「萬が一を考えてのことですよ。保険は大事です。そういえばワタルさん、エリヤに作ってもらった武はどうですか? 壊れてませんか?」

「大丈夫ですよ。今では手にも馴染んで、とっても使いやすいです」

そんなやり取りを馬車でしながら2時間。

目的地の巖山に著いたらしく馬車が止まる。

馬車から降りて歩くこと30分。

開けた場所に出た3人の視線の奧に、黒いフルフェイスの鎧を纏い、大剣を持った人がいた。

「何用だ」

「あなたのおみ通り、強い人を連れてきましたよ。とびっきりの」

目の前の黒い鎧の人が対象の魔族らしく、リナは鎧の魔族に話しかける。

「その男か。どれほどのものか、試させてもらおう」

鎧の魔族はこちらへ視線を向けると、地面を蹴り一気にワタルとの距離を詰める。

その勢いを乗せたまま、大剣を上段から振り下ろす。

「重っ!」

咄嗟にワタルも盾で大剣を防ぎ、その衝撃に耐え押し返す。

「ほう、どうやら今までの相手とは違うらしい。本気でやるぞ」

鎧の魔族は腰を落とし、こちらへ一気に突っ込んでくる。

普通ならこんな単調な攻撃、盾で防いで返す刃で勝負はついただろう。

だが、敵はそんな簡単な相手ではなかった。

鎧の魔族が地を蹴った瞬間、ワタルはには消えたように見えた。いや、ワタルが見失ったのだ。

「ぐっ!?」

防げたのは偶然だろう。

たまたま鎧の魔族が攻撃した場所に、盾があったに過ぎない。

真っ直ぐというこれ以上なく単調なきだが、鎧の魔族はそれを消えたと錯覚させるほどの速度を持っていた。

「このっ!」

「なんだ? 素振りか?」

ワタルもグラムを引き抜き、鎧の魔族との距離を詰めて橫薙ぎに振るが、鎧の魔族はそれをバックステップで簡単に回避する。

それを追うように一歩踏み込み、返す刃で首を狙う。

しかし、それは再び地を蹴りワタルと顔がれ合うほどの距離に迫った鎧の魔族に避けられる。

ーー次の瞬間、ワタルの腹を鈍い痛みが襲い後ろへと飛ばされる。

毆られた、それがわかったのは壁に叩きつけられてからだった。

「げほっ、げほっ!」

「なんだ、こんなものか。期待外れだな」

思わず咳き込みながらも立つワタルへ、鎧の魔族が再び腰を落として突っ込む姿勢となる。

「本気でやりますよ」

本気を出さないという約束を破ることをリナに言い、正面にグラムを構える。

「今までは本気じゃなかったとでも言いたげだな。なら見せてみろ」

そう言って鎧の魔族は地を蹴り、こちらへ突っ込んでくる。

相変わらず視認できないが、それでも問題ない。

「召喚【デスペリアスライム】」

ワタルがアイオライトを持った手とは反対の手を前へかざし、その言葉を唱える。

魔力をかなりつぎ込んだからか、ワタルの正面には壁になるように、巨大なデスペリアスライムが召喚される。

「なっ!?」

鎧の魔族は予想外だったのか、デスペリアスライムの壁へと突っ込む。

鎧の魔族が持っていた大剣は破壊され、破片となり地に落ちる。

さらに腕を深くデスペリアスライムに突っ込んだのか、抜けずにきが取れなくなっていた。

「水よ、叩け!」

その鎧の魔族へ、剣先に水の塊を作りそれを飛ばす。

貫くというより強い衝撃を與え、戦意をなくすつもりだったが、予想外に水の塊が大きく鎧の魔族の黒い鎧を全て破壊してしまう。

「え、?」

「くっ、私の負けだ。離してくれ」

聲が鎧でくぐもっていてわからなかったが、鎧の魔族はだった。

ピンクの腰まである長い髪と、髪のと同じピンクの綺麗な瞳をしていた。

その頭には獣の耳が生えており、それはどう見ても作りには見えなかった。

鎧の魔族にしだけ見れるも、鎧の魔族の言葉を聞いてワタルは慌ててデスペリアスライムを退散させる。

「強いな。お前となら私の願いも葉えられそうだ」

「お前となら?」

「なんだ、聞いていないのか? 私の目的は魔王を倒すことだ。そのために、強い人間の協力がしかった。お前も魔王討伐が目的だろう? 私はお前はこれから仲間だ」

「そういうことで、ワタルさん。頑張ってくださいね」

ハメられた。リナへの文句を言う暇もなく、鎧の魔族は立ち上がりこちらへ近づいてくる。

「私の名前はエレナだ。よろしく頼む」

「う……ワタルです。よろしくお願いします」

エレナに手を差し出されれば、それを拒否することなどワタルにはできずに手を握り返す。

ワタルに魔族の仲間ができた。

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