《最強になって異世界を楽しむ!》レクシアの力
王都へと道程での野営中、見張りをしているマリーに、通路から持ってきた本を見せてみた。
「マリー、これ読める?」
「本か。題名はないようじゃし、どこから持ってきたものじゃ?」
「あの空間の通路の奧で拾った」
「なるほどのう。し待っておれ」
マリーは本をけ取ると、1枚ずつページをめくっていく。
速読なのか、素早くページをめくり最後まで読み終わると、マリーはため息を1つつく。
「悪いが、わしには読めん文字ばかりじゃった。それにしても、初めて見る言語じゃな」
「マリーでもわからないなら、俺たちのパーティでわかりそうな人はいないかな」
「わしの方でも、この言語を解読してみよう」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
「お安い用じゃ」
マリーは神年齢こそ低い部分があるが、ワタルたち4人の中では、恐らく最も知識を持っているだろう。
そのマリーがわからない言語となれば、必然的に選択肢は絞られてくる。
例えばワタルが日本語で日記を書けば、それはマリーやこの世界の住人にとって、見たことのない未知の言語となる。
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それと同じで、あの本に書かれている言語もこの世界のものではない可能だってある。
その可能を考えているのはワタルだけであり、マリーやエレナはそんなこと考えつくことはないだろう。
今急いで調べる必要もないため、この本のことはゆっくり解読していくことにした。
これが、1回目の野営の出來事だ。
2回目の野営では、ワタルが自分の見張り擔當の時に、レクシアに話しかけた。
レクシアは鞘がないため、抜きの魔剣の姿でワタルが腰に差し、管理している。
「レクシア、ちょっといいかな?」
「はーい。何か用かな、マスター?」
レクシアはワタルの呼びかけにすぐに答え、人間の姿となってワタルの隣に座る。
「起こしちゃってごめんね」
「大丈夫。封印されている間は暇で、ずっと寢てたから眠くないよ」
夜中に呼び出してしまったことを詫びたところで、ワタルは本題にる。
「俺がレクシアを使うにあたって、聞きたいことがあるんだ」
「スリーサイズ?」
「違うからね?」
バッと自分のを両手で覆うような仕草をするレクシアの言葉を、ワタルは即座に否定する。
1つ咳払いをして、改めて話題を戻す。
「魔剣レクシアの力を教えてほしい」
「私の力って、斬れ味とか耐久力とか?」
「それも気になるけど、魔剣って言われるぐらいなんだし、特別な能力があるかなって思ったんだけど」
「うんうん、マスターが私に興味を持ってくれて嬉しいな。私は魔剣、もちろん他の剣にはないような力があるよ。それには、私の出生から説明しようか」
レクシアはどこか嬉しそうに笑いながら、夜空を見上げて、昔を思い出すように話し出す。
「名乗った時に言ったと思うんだけど、私は神殺しの剣でね……」
レクシアは自分が作られた理由、そしてその目的を話していく。
はるか昔に、無謀な人間の男が神を殺すために神に挑んだ。
男は優れた武、優れた防で完璧と言える準備をして、神へと挑んでいった。
その結果は、見るも悲慘なほど慘敗だった。
男は命からがら逃げ出したが、まだ神を殺すことを諦めていなかった。
男はその頃の最高峰と言われる鍛冶師を複數人集め、1本の剣を作らせた。
魔力を込め、魔法を使い、普通の方法では到底作れないような最高の剣を作った。
その剣は神をも殺す可能をめ、男は再び神へと挑んだ。
男自も技量を上げており、剣の力もあって神との死闘は三日三晩続いたという。
そして、男はついに神をその剣をもって殺した。
喜び、武勇を他の人間たちに伝えようとした男だったが、その願いは葉うことなかった。
男は剣の力の反に耐えられず、神を殺した後に死んでしまったのだ。
それ以降、その剣は持ち主を変えたが、後にも先にも神を殺したのはその男のみだったという。
剣の持ち主は例外なく力に耐えられずに死んでおり、いつしかその剣は魔剣と恐れられ、人間たちが使うことはなくなったという。
「その魔剣が、レクシアってことだよね」
「そうだよ。私は持ち主を殺す呪われた魔剣。使うのが怖くなった?」
どこか曇った笑顔で、一瞬だけ乾いた笑顔を見せたレクシアへ、ワタルはを張って答える。
「怖くないよ。仲間を怖がるなんて、俺たちのパーティではありえない」
思えば、エレナも魔王軍の魔族から嫌われ、マリーも他の魔たちから嫌われていた。
だが、そんなことは関係ない。
エレナもマリーも、そしてレクシアだって、既に仲間なのだ。
なくともワタルは、仲間を怖がり避けるようなことは絶対にしない。
「変わってるね、マスターは」
「あー、ずっと気になってたんだけど、そのマスターって呼び方やめない? そんなふうに呼ばれるとむずくてさ」
「マスター以外の呼び方……ワタルくん?」
「そっちの方が俺は落ち著くよ」
會った時から気になっていた呼び方を変えてもらい、2人で笑い合う。
レクシアとも、かなり打ち解けられたと心でガッツポーズをするワタルだった。
「それじゃあ、ワタルくん。私の力について説明するよ」
「あっ、そうだったね」
そういえばレクシアの力について教えてもらうのだった、ということを忘れていたワタルが、慌てて聞く姿勢を作る。
「私には2つの力があってね。1つは私本來のもので、ドーピングって言ったらわかりやすいかな?」
「反がすごい大きいってやつ?」
「そうそう。これは能力を底上げして、一時的に人間でも神と対等の力を手にれることができるの。だけど、使えるのは5分が最大だと思って。それ以上使うと、が壊れて死んじゃうから」
「奧の手ってことか」
「そういうこと」
レクシアが持ち主を殺してしまった力。
それが今聞いたものなのだろう。
「もう1つが、殺した神々の力を奪うってやつでね。ちょっとやってみるよ」
レクシアは適當な地面に手を向けると、その瞳が黃金から茶へと変わる。
すると、手を向けた地面が盛り上がり、土の柱が飛び出す。
マリーが雷帝との戦闘で使った、土魔法と似ていた。
「これは最初に殺した神の能力。それと、もう1つ」
今度はし遠くにあった木に手を向け、瞳のが茶から黃へと変わった。
そして、次の瞬間手を向けていた木へ、一筋の雷が落ちる。
「これは、雷帝の?」
「そうだよ。あの人も神様。だけど、かなり低位の神様みたいだね。力も地上だから満足に使えてなかったみたいだし」
いつの間にか神を殺してしまっていたことに焦りながらも、レクシアの力はだいたい理解した。
1つが人強化のドーピング。
こちらは5分が限界で、それを超えると死ぬと。
もう1つが殺した神の能力を奪う力。
今は土と雷をる2つがあり、どちらもかなり強力なものらしい。
「チートだよね」
そう、レクシアの力は武としては考えられないほど強力で、それこそおとぎ話に出てくるような、伝説の武にも引けをとらないものだった。
「ちーと?」
「いや、こっちの話だよ。これからよろしね、レクシア」
「ワタルくんは、死なないでね?」
「わかってる。俺は絶対に死なないよ」
持ち主が次々と自分の力で死んでしまい、死というものに恐怖を抱いているのだろう。
ワタルが差し出した手を握らなかったレクシアだったが、ワタルのその言葉を聞き、目を見て手を握り返す。
「約束だからね」
「うん、約束だ」
それから2人で何気ない雑談をしながら、その夜は更けていった。
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