《最強になって異世界を楽しむ!》もしも

「2人とも! 全力出して!」

ワタルは視線の先、ラースを余裕のない表で相手しているマリーとエレナに、大聲でそうぶ。

それと同時に神殺しを地面に突き刺すと、ラースを中心にいくつもの土壁を出現させる。

「これで決めるつもりみたいじゃな」

「らしいな。私たちも全力でやろう」

「うむ」

2人は聲を聞くと、マリーはラースから距離をとるために大きく下がって魔力を貯め、逆にエレナは出現した土壁に向かって跳躍した。

「數分なら、お前は私にれることすらできない」

土壁に足を著けたエレナは、そう宣言して跳躍した。

狙いはラースではなく、別の土壁だ。

今までは地面しか立つ場所がなく、平面的なきしかできなかったが、土壁がある今ならば三次元のきができる。

「ちょこまかと!」

ラースもモラルタを振ってエレナを叩き落とそうとするが、その刃は當たるどころかかすりもしない。

「どうした? 素振りの練習か?」

「邪魔してくれる……死ね!」

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怒りに歯を軋ませたラースは、最初と同じようにエレナがれた瞬間、覚に任せてカウンターを仕掛けることにする。

そして狙い通りエレナはラースに攻撃し、カウンターは

「言っただろう。お前は私にれられないんだ」

間に合わなかった。

何度も土壁を行き來し、速度に乗ったエレナはラースですら初見では反応することも許さなかった。

慣れれば反撃できるだろうが、エレナの攻撃してくるペースが遅い。

このままならば、慣れるのに時間がかかるだろう。

宣言通り數分間もだ。

「貴様ッ!」

仕留めるというよりは、完全に時間稼ぎのき。

とはいえ、無視すれば一瞬で距離を詰められるために、厄介極まりない。

ダメージがなくとも勢を崩されるのは面倒だ。

「なら、これだ!」

ラースは怒りでモラルタを振り回すのをやめ、黒雷を土壁全てに落とす。

今のエレナは土壁があってこそであり、それさえ破壊してしまえば仕留めるのはそこまで難しくない。

「おかげで頭が冷えた。禮として一思いに殺してやろう」

土壁は黒雷によって崩れ、辺りは土煙に包まれる。

エレナの姿も見えないが、不意打ちで背後から攻撃されたとしても、反応できる。

「判斷を間違えたな」

「なんだと?」

エレナの言葉に反応した瞬間、土煙から現れたのはエレナではなく、マリーだった。

その手には、今までよりも煌々と輝く炎の剣、レーヴァテインが握られている。

「接近されても問題ないとでも思っていたようじゃな?」

マリーはニヤリと笑い、至近距離でレーヴァテインを振り上げる。

「魔め……黒炎!」

「レーヴァテインッ!」

ラースも咄嗟に黒炎で応戦しようとするが、火力に差がありすぎた。

黒炎はマリーの炎に為すなく、そのままラースまでも飲み込んだ。

「小癪な真似を!」

炎の中から現れたラースは、炎の勢いで大きく吹き飛ばされたものの、傷は負っていなかった。

鎧を纏う前ならば手傷の一つでも與えられたのかもしれないが、神であるあの鎧に攻撃を通すには同じ神、もしくは神殺しのような特殊な武でなければならない。

「さて、これで十分じゃろう。エレナ、わしらは下がるとするかのう」

「ああ、そうだな。ワタル、あとは任せたぞ」

ただし、今回は時間稼ぎが目的であり、それは達された。

2人は後方に下がりながら、逆にラースに向けて駆けていくワタルに聲をかける。

「うん、任せといて!」

そんな頼もしい返事を聞き、2人は安心してワタルを見送る。

「ラースッ!」

「ワタルに、神殺しか!」

ワタルは気合いと共に神殺しを橫薙ぎに振り、ラースも標的をワタルに絞ると、モラルタで迎撃しようとする。

また先程のように鍔迫り合いになる。

そう思っていたラースの予想は裏切られた。

「レクシア!」

「はい!」

神殺しはモラルタと接した瞬間、鍔迫り合いになるのではなく、まるで豆腐を切るように、なんの抵抗もなく切り落とした。

「なっ……これは、ハラルか!」

が簡単に斬られたことに驚きをわにするラースだったが、すぐに狀況を理解した。

神殺しがハラルの力を手にれたのだと。

「貴様ごときがハラルの力を……神の力を使うな!」

「ハラルは神の前に、俺の仲間だよ」

「そうそう! ハラルちゃんは仲間なんだから」

ラースが放つ黒雷を、レクシアが蒼い雷で相殺する。

「神殺しもハラルの力も、俺が手にれるべき力なのだ!」

折れたモラルタを振り下ろす。

しかし、ワタルが振った神殺しにより手首を切斷され、モラルタを握ったまま宙を舞っていく。

「お前なんかに、俺の仲間の力は使えない」

ワタルは両手で神殺しを握ると、腰を落として構える。

「やめろッ、俺はまだ! まだ死ぬべきでは」

「空斬からきりッ!」

一閃。

神殺しのしい刀が煌めき、ワタルがを払ってゆっくりと納刀する。

「仲間は渡せない」

背後でどちゃり、という音と共に上下に別れたラースのが崩れ落ちた。

「勝ったー!」

「ふぅ……うん。勝ったよ」

レクシアが元の姿に戻り、ワタルに飛びついて喜ぶ。

ワタルも笑顔でそう答え、遠くから駆け寄ってくるエレナとマリーにも手を振り、笑顔を浮かべる。

「貴方の負けですね」

「……俺はどこで間違えた」

そんな4人とは別に、ハラルはまだ喋ることの出來るラースに話しかけていた。

ラースのの粒子になり始めており、あと數分でこの世から消え去るだろう。

「やることなすこと全てです。下界に目を付けたのはよかったですが、ワタルが居たのが運の盡きでしたね」

「あいつは、なんなんだ?」

神を打倒した人間。

そんなもの、過去存在しない。

「転移者ですけど、正真正銘の人間ですよ。私が見込んだ、ね」

「そうか……」

笑顔で答えるハラルに、ラースも毒気を抜かれたように破顔する。

「……貴方のしたことは決して許されることではありません」

「わかっている」

「ですがもし、生まれ変わることがあれば……その時は仲良くしましょう」

「ハラル、し優しくなったか?」

「さて、どうでしょう。下界の影響かもしれませんね」

「そうだな。生まれ変われたら……今度は下界に來ることにする」

「それはいいと思います。もちろん、ちゃんとした理由で、ですけどね」

ハラルは元同僚に笑顔を、の粒子が消える最後まで絶やさずに見守る。

道を踏み外したとはいえ、神は神だ。

もしも、今度があれば次は下界での話をしてあげよう。

そう自分の心に決め、ハラルはワタルたちの元へと歩いて行く。

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