夕食は町のゴミ箱から拾ってきた殘飯に、闇市で買ってきた出処の分からないいびつな野菜。

私も食料あさりについていったおかげか、「いつもより今日は作だった」とエリスは笑いました。

そして部屋に戻るなり、喜んでそれを口に運びます。

私は不思議とお腹が減っていなかったので食事は遠慮して、じっと幸せそうに野菜を頬張るエリスを見ていました。

ふと彼が食事の手を止め、私の方を見ます。

その仕草が妙にらしかったので反的に微笑むと、エリスは頬をし赤く染めて、すぐに食事を再開します。

「幸せそうに食べるのですね」

「こんな毎日じゃ、食べることぐらいしか楽しいことなんてないからさ」

「大変なのですね、廃棄街で生きるというのは」

と影、栄と衰退。

廃棄街からそう遠くない場所にあるグロールの市街は、こことは対照的に非常に栄えていました。

と言っても、現代日本よりかなり技は遅れているようですので、発展途上、ということになるのでしょうが。

こうして、都合の悪いものから目を背けて、隅っこに追いやっているからこその、かな暮らし。

しかしそれはやがて膨れ上がり、直視しなければならない時が來ます。

それが、この廃材が積み重なった廃棄街という城なのだと、私は直的に思いました。

「それにしても、チグサは食べないでよかったの？　私としては助かるけどさー」

「構いません、元から食でしたから。一食抜いた程度では何もじません」

「それであの強さなんだもんなあ、どっからエネルギー補充してんだろ」

私も不思議ですが、の奧底から湧き上がってくる何かがあるのはじられます。

それが、半分吸鬼となった今の私をかす原力なのでしょう。

ですがその正を私は知りません。

「チグサ、い、いきなりどうしたの？」

……そしてこの衝もまた、私にとっては正不明なものでした。

ふいに彼のにれたくなる、この衝は私の原力と何か関わりがあるのでしょうか。

個人的には、ええ、まあ、嫌いではないのですが。

しかし生前・・の日向千草という人間の行からすると、不自然極まりないのです。

人とれ合うどころか、他者との會話すらままならないような欠陥品だったのですから。

それが今、初対面の相手に、こんなにも積極的にスキンシップを取れている。

「見知らぬ土地で1人ですから、人がしくなっているようです」

「そりゃ寂しくあんる気持ちはわかるけど……るなら、前もって言ってしいかな。あと、顔はびっくりするからだめ」

エリスは戸いを見せつつも、振り払いはしませんでした。

悪くない反応です。

「それでは、手を繋いでもいいですか？」

「手ならいいけど……なんか恥ずかしいな」

言葉通り顔は赤くなっていますが、向かい合いながら指を絡めても特に抵抗はありません。

まんざらでもない、そんな言葉が頭に浮かびました。

とくん、とくん。

私のからエリスの中に流れ込んでいく何かが、しずつ、彼の心を解していきます。

「あたたかいですね、とても安心します」

「ま、これぐらいでよければいつでも手は貸すよ」

「ありがとうございます。最初に出會ったのがエリスじゃなかったら、私、もっと苦労していたと思います」

「そうかなあ？　チグサぐらい綺麗なの子だったら、んな人が協力してくれると思うけど」

「エリスに言われると、思わず本気にしてしまいそうになります」

「本気だって！　チグサは可いし、綺麗だと思う。最初に見た時からそう思ってたもん」

他人に褒められることの無かった私にとっては、なかなかに衝撃的な験でした。

世の中の人間というのは、このような激を日常的にけていたのですね。

同時に、妙にエリスのことがおしく思えてきました。

私なんて比べにならない。

ああ、なんて可らしいのかしら。

健康的でハリのあるの良い、その向こうにはさぞ新鮮なが流れていることでしょう。

適度に引き締まり、しかしらかさもある。

食うにしても抱くにしても、極上の素材ではないでしょうか。

こうして顔を近づけてみると、ゴミ捨て場に暮らしているのに、まるで私の食をうかのような甘い香りがします。

しつり目気味の、澄んだ、汚れを知らない瞳が、まっすぐに私の方を見ています。

微かに潤んでいるような気がするのは気の所為でしょうか。

いえ――こんなに顔が近って、なおかつ顔を赤くし、呼吸を荒くしているのですから、気の所為などではないのでしょう。

この子は、発している。

初対面の、それも同のの子相手に、ほんのしれ合っただけで、まるで雌貓のように。

私の右手とエリスの左手は、まるでまぐわうように深く深く指を絡ませ、繋がっていました。

そして私は空いた左手を彼の頬に近づけ、中指の腹でするように優しく、頬にれます。

「あ……」

微かにれる聲と、震える。

しかし、彼は拒まない、まるで魅られたように私に吸い込まれていく。

とくん、とくん。

繋いだ手とれた指先から、何かが流れ込んでいく。

どくん、どくん。

私達の間に満ちる濃な空気が、違法薬のように心臓を高鳴らせる。

熱い、熱い、焼けてしまうほど、まるでではないかと錯覚してしまうほど、心とが、熱い。

中指から人差し指、薬指、そして全ての指が重なると、次は手のひらが彼の頬を包み込みます。

吐息がかかるほど顔と顔とが近づくと、エリスは自然と目を閉じました。

私は今――エリスと1つになりたいと、強く渇している。

そして彼もまた、私と同じように――

「おいエリス、居るのかー？」

その時、無遠慮に開かれたドアと聞きなれぬ男の聲に、私たちは一瞬で現実に引き戻されました。

慌てて手を解き、距離を取ります。

……ちぇ、いいところだったのに。

「居るなら返事しろよ……って、その、誰だよ」

「ライル、ってくるならノックぐらいしろって言ってるでしょ！？」

怒鳴るエリスが呼んだ名前――ライルとは、確か最初に彼に絡んでいたチンピラが出していた名前でしたね。

あの言い方からして、2人は人、もしくはそれに近い関係なのでしょうが。

しかし先程、私の口づけを容易くけれようとしたあたり、そこまで発展した関係では無いのかもしれません。

「鍵をかけないお前が悪い」

「鍵をかけたら、中にいいものがあるんじゃないかって余計に狙われやすくなるのよ！」

治安があまりに悪いとそんな理屈になってしまうのですね。

確かに、こんなボロボロの家では、鍵をかけても、鍵以外の部分を簡単に壊されてしまいそうです。

そんなものにお金をかけるぐらいなら、しでも多く食事を取った方がいい。

廃棄街の人々は、そう考えているのかもしれません。

「んで、もっかい聞くけど、そのは誰だよ」

「チグサと言います、行く宛が無かったのでエリスに寢床を提供していただきました」

「チグサぁ？　また変わった名前だな、服もこの辺じゃ見ないだし……でも上等そうな布使ってんな、売れば結構な金になるんじゃねえのか？」

「こらライル、品定めしないの」

「金になりそうなら何だってする、それが俺らだろ？　第一、寢床を提供したって言ってたけど、なんでお前がそんなことしてんだよ。正義にでも目覚めたか？」

この場所では、人助けは普通のことではない。

薄々勘付いてはいましたが、どうやらエリスが特別お人好しだっただけのようですね。

もしも彼以外の誰かについていっていたら、今頃私は、騙されてぐるみを剝がされていたのかもしれません。

「いいじゃない、絡まれてたところを助けてもらったんだから」

「助けてもらったって、この貧弱そうなにか？」

「言っとくけど、チグサはライルの何倍も強いから。大人の男を拳1つでボコボコにしちゃうんだからね！」

エリスの言葉をライルさんは信じていないようで、私に懐疑的な目を向けています。

當然ですね、私自も信じられていないのですから。

しかし、私がエリスを助けたということは事実。

ライルさんが疑えば疑うほど、彼の機嫌は悪くなっていきました。

「信じられないなら、実際にやりあってみたら？」

「いやいや、さすがにの子相手に手は上げられないって」

余裕を見せるライルさん。

私は特に何も言いませんでした。

試すというのならけるつもりでしたが、やり合わなくて済むのならそれに越したことはありません。

見知らぬ土地で、あまり目立ちたくはありませんからね。

「それでライル、一何の用事だったの？」

「いや、別に用事とか無いけど。いつもと一緒だろ、寢るまでの暇つぶしにエリスと話そうと思ったんだよ」

「だったら殘念だったわね、私の方は暇じゃないから」

「らしいな、さすがに2人に俺1人じゃ居心地も悪そうだわ。今日は諦めて寢るわ」

ライルはひらひらと手を振ると、ドアを閉めて去っていく。

「おやすみ」

「ああ、おやすみー」

エリスは自然に彼とそんな挨拶をわした。

親しい間柄であるのは間違いないようですが、なんとも言えない距離です。

「今の方……ライルさんとはどんな関係なんですか？」

「あいつとは、同じ育て親に拾われた、まあ兄妹みたいなもんでさ。親父が死んだ後も、何だかんだで隣同士の部屋に住むようになって、今みたいなじで毎日話してんの」

「そうなんですね。あまりに自然とってくるものなので、てっきり人同士なのかと」

「ちょ、ちょっと、ライルと人とかありえないから！　絶対に！」

エリスは顔を真っ赤にしながら反論しました。

なくとも、彼はライルさんに対して気があるようです。

2人は同じ親に育てられた、兄妹同然の馴染。

そんな2人が惹かれ合って、やがて人になる――なんて素敵なラブストーリーなのでしょう、私もそういうのは漫畫で見たことがありますから、嫌いではありません。

しかし、素直に楽しめるのは、それが他人事だから。

「確かに毎日會ってるけど、それは家族として會ってるだけで、別に、特別な意味なんて何も無いし……」

聞いてもいない弁明を繰り広げるエリス。

私は彼の頬に手を當てると、再び顔を近づけました。

正気の彼はもちろん、私の肩に手を當てて拒絶しようとします。

「待って、何……しようとしてるの？」

「ライルさんも居なくなったようですし、先ほどの続きをしようかと思いまして」

「さっきのは、ほら、なんとなく雰囲気に流されただけであって……って言うか、なんでチグサは、私にキ、キスなんて……しようとしてるの？」

「無に、あなたがしくなったからです」

エリスの瞳をじっと見つめ、先ほどよりも強気に迫ると、彼はそれ以上、拒絶の意志を示しませんでした。

許しを得た――そう確信した私は、そのまま彼を押し倒します。

こうして、に潤んだ表を見せるを見下ろしていると、征服が満たされていきます。

今までの私に無かったもの。

得ようとしても得られなかったもの。

人でなしになって初めて得られた、充足。

私は、自分がなぜここに居るのか、今、初めて気づきました。

今までの人生は、無味無臭で、冷たくて、常に串刺しにされているように痛く、地獄でした。

他人がみな、普通に、あるいは幸福に人生を過ごす中、私には普通すら許されなかったのです。

つまりそれを、今まで失ってきた分を、取り戻すためだったのですね。

「今なら、まだ間に合いますよ」

「……なに、が？」

「隣の部屋にライルさんが居るのですよね。だというのに、私とこのようなふしだらな行為をしていて許されるのですか？」

「ライルは……違う、から。そういうのじゃ、無いから」

「違うから、構わない、と？」

追い詰めるように問いかけると、エリスはこくんと首を縦に振りました。

もはや、彼の意志はに飲み込まれ、正常な判斷すらできないようです。

今日出會ったばかりのと、していたはずの馴染を裏切って口づけするなど、どう考えてもおかしいのですから。

それを言い出せば、私の方もおかしいのですが。

「実は私、ファーストキスなんですよ」

「うそ、でしょ？」

「本當ですよ、こんなに誰かのことを”しい”と思ったのは、エリスが初めてなんです」

エリスはそれを聞くと、目をとろんとさせて、酔ったように熱い吐息をらしました。

噓は言っていません、事実なのです。

だからこそ、そんな私が、こんなにもエリスのことを強くしていることは、やはり異常で。

異常だと理解していたとしても――は抑えられません。

「エリス」

最終確認に、と名前を呼ぶと、彼は吐息混じりにこう返しました。

「チグサぁ……」

甘えるような聲、もはや私への拒絶も、ライルさんへの罪悪も、微塵も殘っていないようです。

「っ……」

を重ねると、エリスのにきゅっと力がこもりました。

そのままじっとしていると、「んふー」という彼の鼻息の音が聞こえてきます。

その必死な様子がまた可らしくて、私はちょっとしたいじわるのつもりで、自分ので、彼の下を挾みました。

生ぬるく、らかな、弾力のあるをにじながら、繰り返し、マッサージでもするようにもみほぐす。

「ん、んふっ……ふっ、ふぅっ……」

すると、エリスはぎ聲にも似た吐息を零しはじめます。

その初心な反応に、私の悪戯心が再び鎌首をもたげました。

ちろりと、まるでヘビのように一瞬だけ、舌でエリスのにれます。

すると彼のがぴくりときます、驚いてくれたようです。

次はれるだけでなく、の上下の隙間をなぞるように舐め上げると――

「ん、ぁ……」

まるで私を舌を迎えれるように、エリスのが開きました。

私は遠慮せず、彼の口腔に舌をり込ませます。

ぬるりとした、なまあたたかい粘のが、私の興を高めます。

特に頬の側はまるで包み込むようならかさで、舌先でれているだけで楽しいほどです。

そうして彼の口を楽しんでいると、おずおずと、遠慮がちにエリスの舌がこちらへとびてきました。

まるで確かめるように舌先でれては引っ込み、れては引っ込みを繰り返し。

先に我慢できなくなった私が積極的に絡め取ると、エリスのからは「はひゃっ」という間の抜けた聲が出ました。

この慣れないじが、私のを高ぶらせるのです。

それからしばらくは私が一方的にエリスの舌をしていましたが、しすると気持ちが落ち著いてきたのか、彼の方からもき始めます。

私の舌のきに合わせて自らも絡め、さらにコツを摑むと、私がかずとも彼の方から積極的に奉仕し。

押し倒されて喜んでいたことと言い、勝ち気そうな彼ですが、ひょっとするとマゾヒスティックな癖を持っているのかもしれません。

その後も嬉しそうに私の舌を舐め、時折私が唾を送り込むと、十分に舌に絡めて味わってから、嚥下していました。

唾だけではなく、れ合う度に、別の何かも彼の中に送り込まれていく。

私のの一部が、エリスを侵食している。

そう思うと、が熱を孕んで止まりません。

エリスもエリスで、私の唾を自分のに取り込んでいる事が嬉しいのか、気づけば両手は私の首の後ろに回され、さらにをくねらせながらキスに夢中になっていました。

それから――一どれほどの長さ、を重ね続けていたでしょうか。

ファーストキスにするにはあまりに刺激的すぎる歓を終えた私たちは、ゆっくりとを離しました。

舌と舌が離れる瞬間、名殘惜しそうに、唾が銀の橋をかけます。

『はぁ、はぁ、はぁ』

お互いに肩で呼吸をしながら、自然とけた表で見つめ合っていました。

ひたすらに、目の前に居るが、この世で一番おしい。

つまり今の私の脳はエリスへのでいっぱいで、同じくエリスの頭の中も、私のことでいっぱいになっていることでしょう。

汗ばんでてかる、に潤む眼、そして半開きのから溢れる熱のこもった吐息。

全ての要素が、私をっているとしか思えません。

一度だけでは足りない。

抗う必要もない衝に任せて、私は再びエリスに顔を近づけていきます。

「まって……」

そんな私を、彼の聲が靜止しました。

しかしその聲に拒絶の意志をじなかった私は、素直にその場で止まります。

どうやら、何か言いたいことがあるようです。

「……今度は、私から、したい」

そう言って私の首の後に腕を回します。

主導権を得たいというよりは、自分から口づけがしたいだけの様子。

私は彼にを任せ、そのまま引き寄せられ――2度目のキスをわしました。

狹い部屋に響く水音と、甘い吐息、小刻みなぎ聲。

換気の悪い部屋であるがゆえに、汗に混じった甘酸っぱい匂いと、むわっとした熱気が充満しています。

それが、まるで薬のように私たちを酔わせて。

キスだけでは足りませんでした。

同士をれ合わせるだけでは足りませんでした。

私たちは、どちらか一方の力が限界を迎えるまでお互いを求め続けたのです。

私たちを遮るは無く、とをらせながら、も心もひとつになって。

何度も、何度も、何度も。