《異世界で吸鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》15 忘れ
日向さんに抱きしめられながら、私の頭は混しきっていた。
私は彼の死を確かに見たのだ。
巨大な魔法陣の書かれた部屋に、5名の生徒たちと”召喚”された時、その傍らで弾けた1人の――
欠損はしていたけれど、思い出すだけで鳥が立つような景だったけど、あれは間違いない、日向さんの顔だった。
なのに、どうして生きてるんだろう。
そして、なぜ私を抱きしめているんだろう。
「あ、あぁ……日向さん、本當に日向さんなの? 死んだはずじゃなかったの?」
「私を勝手に殺さないでください、こうして生きてるじゃないですか」
を離して確認しても、彼はやっぱり日向さんで。
けれどどうしても違和を覚えてしまうのは、再會して以降、一度も見せなかった笑顔を彼が浮かべているからだろうか。
「立ち話も何ですし、ひとまず座りましょうか」
「う、うん……」
私にも落ち著く時間が必要だった。
日向さんに促され、禮拝堂の長椅子に隣り合わせで腰を下ろす。
間にし距離が空いているようなきがするのは、私の考えすぎだろうか。
座ってから、一度深呼吸をした私は、改めて彼に問いかけた。
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「日向さんは、どうしてこんな場所にいるの?」
「私、気づいたらゴミ捨て場のような場所に居たんです。そこで目を覚まして町を彷徨っていたんですが、全然知らない場所で、頼れる人も居なくて。そこで助けてくれたのが、ここの教會のシスターだったんですよ」
「それ以降、ずっとここに?」
「はい、シスターであるナナリーの手伝いをしながら、食住をどうにか確保してます」
つまり日向さんが笑っているのは、ナナリーという人が彼に良くしてくれているからなのだろう。
あんなクラスに居た頃より、ずっと幸せなのかもしれない。
だとしたら……私は、來ない方がよかったのかな。
「影先生はどうしてるんですか?」
彼にその呼び方をされるたび、私のは締め付けられるように痛む。
自分も”日向さん”と呼んでいるのに勝手なものだ。
「城で暮らしてるの。最初は急に知らない場所に飛ばされてびっくりしたけど、私たちの待遇はかなり良いみたいで、特に不自由してることはないかな」
「どうして、そんな待遇で迎えられたんでしょう」
「それは……私たちを呼んだのは城の人たちだし、ゆくゆくは戦いにも參加しないといけないみたいだから、そのためじゃないかな」
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「呼んだということは――誰かの意志で呼ばれたんですね、私たちは」
ああ、日向さんは一度もレイアと話してないから、そのへんの事も知らないのか。
「私たちの世界の人間は、この世界に來るととても大きな力――いわゆる”魔法”ってやつを手にれるらしくってね、それが目當てみたい」
「その力を利用するために……私は、いつの間にかそれに巻き込まれたわけですか」
日向さんは手を閉じたり開いたりしながら、その様をじっと観察した。
大きな力に、思いあたりがあるのかもしれない。
私も、この世界に來てからというものの、以前とは比べにならないぐらいが軽くなった。
これも魔法の力のおかげらしく、し勉強すると、火を出したり、水をったりすることもできるらしい。
「ところで先生、私”たち”という言い方をしたということは、他の誰かも呼ばれているんですか?」
「私を含めて6人、かな。子が3人に男子が2人、ちょうどあの日、放課後教室に殘ってた人間みたいね」
「……そう、ですか」
なぜそこに私が居たのか、ということを彼は追及しなかった。
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私はほっとする反面、いっそ聞いてしかったとも思う。
私はあの日も犯されていた。
もはや全て諦めた私は、彼らにを委ねていた。
それは言うまでもなく私にとって恥ずべき記憶であり、その斷罪を彼に期待していたのかもしれない。
この期に及んで、そんな役目まで日向さんに押し付けるのか、私は。
「それじゃあ、今も城で一緒に暮らしてるんですね」
「それぞれ部屋は與えられてるから、一緒にって言えるかどうかは微妙かな。実際、私ももうしばらく生徒とは會ってないから」
「そうなんですね、先生なのに大丈夫なんですか?」
日向さんはし意地悪に、けれど至極真剣な表でそう聞いた。
私は答えに詰まる。
けれど、変に隠すよりは良いと思って、正直に吐き出すことにした。
「もう學校はどこにもないから、私が先生である必要も無いのかな、って。実際、今はとても穏やかな気持ちで生活を送れてるし」
それは包み隠さない、私の本音だった。
勝手な生徒に振り回されることもなく、脅されて行為を強要されることも無い毎日が、こんなに楽しかっただなんて。
趣味の道は無いし、親しかった友人とは連絡を取ることすら出來ないけど、それでも私は、今の方が良い。
そう、心の底から思っていた。
けれどそれは、言うまでもなく無責任な答えだ。
糾弾されても仕方ない、そう覚悟していたにも関わらず――日向さんは特に何も言わなかった。
いや、むしろ穏やかな笑みを口元に浮かべていたほどだ。
なぜ彼が、憎まれるべき私の勝手さを喜ぶのか、全く理解できなかった。
「場所と環境が変わるだけで、こんなにも生活は変わるものなんですよね」
そっか、日向さんも同じだったんだ。
ナナリーさんという優しい人と出會い、逃げられない地獄のような日々からようやくすることが出來たのだ。
あとは、心を縛り付ける懐かしく幸せな記憶と折り合いさえつけられれば、呪いから解放されることができる。
「あの、日向さん……」
私はまず、その一歩を踏み出すべく、彼の前に立って深々と頭を下げた。
「ごめんなさい」
萬の思いを込めたつもりだった。
けれどそれは、與えてきた苦痛の數萬分の一にも満たない、些細なものだ。
だから私は”一歩”と表現する、三千里の道のりを征くためのスタートラインなのだと。
「急ですね。先生は、それで私にどんな反応を求めてるんですか?」
それは今までと打って変わって、氷のように冷たい聲だった。
私のも凍りつく。
下手なことはいえない、間違えば終わりだ、そんな予があった。
「誰かを憎むのは、同時に誰かをしているということでもあります。最初からどうでもいいと思っている相手には、憎しみすら湧いてきません。だから、私は先生を憎みます」
冷たい――けれど、私にとってはほんのし、溫かい言葉。
なくとも日向さんが、私に対して一切無関心ではないということがわかったから。
つまり最初の笑顔は、いわば営業スマイルのようなもので――余所行き用だったのか。
氷解させた、と言うと聞こえは良いが、有りに言えば日向さんを怒らせただけのような気もする。
「……こんな人間らしいとはもう決別したはずだったんですが」
日向さんは虛空を見上げながら、自嘲ぎみに言った。
そんなことはできるわけがない、なくとも、私たちが人間である限りは。
「だからあえて、私は罵倒しますね、先生。ごめんなさい? その程度で許されると思っているんですか? 先生が私につけてきた傷は、そんな言葉で言えるほど淺くなんてありませんよ」
「わかってる……それでも、謝らせて」
「謝って、贖罪した気になって。自分自を許すためでしょう? 謝る自分は善人だと自分に言い聞かせるためでしょう?」
「そうよっ! でも、だとしても、謝らないと何も始まらないから!」
聲を荒げて見せても、日向さんの心はかない。
無表に、必死に謝る私を眺めていた。
「先生はこれまで、何度私を裏切ったか覚えていますか? 最初に裏切りはいつだったのか自覚はありますか?」
「中途半端に助ける素振りを見せて、見捨ててしまったのは悪かったと思ってるわ」
「自覚はあったんですね。思えば私の人生の転落は、先生との別れをきっかけに始まったような気もします」
それは間違いだ、全てが私のせいであるものか。
しかし――私にはその罪を背負わなければならない理由がある。
「ごめんなさい、何もかも私のせいだから。本當に、ごめんなさい」
ひたすらに頭を下げる、私はそれしか方法を知らない。
馬鹿の一つ覚えだ、許してもらえるわけがなかった。
私たちを見下ろす神像も、苦笑いを浮かべていることだろう。
「言葉なんて無意味です、私は実際に先生に裏切られ続けてきたんですから」
「なら……行で示せば、信用してくれる?」
「信用するかどうかは、示された結果で考えます」
「毎日會いに來るから」
「どうぞご勝手に」
「今度は、急に居なくなったりしないから」
「指切りも守れない人の言葉なんて信用できません」
「今度こそ絶対に、約束を守ってみせるから」
「できるものなら」
冷めたけ答え。
けれど、日向さんは私を拒絶していない。
そこに私は希を見た。
まだやり直せる、今度こそはうまくやってみせる。
――本當に?
もちろん、そんな簡単にいくわけないことはわかってる。
それでも、できると思わなければ、いつまでも出來ないままだ。
必ずできる。
ひとまず今は、そう思い込むことにした。
「暗くなってから、1人で外を歩くと危険です。そろそろ帰った方が良いと思いますよ」
「そうだね、今日のところはそろそろ戻ろうかな」
あまり長く居すぎても、重すぎるだけだろう。
私は素直に彼の助言に従い、「また明日」と告げて教會を去ろうとした。
そんな私の背中に向けて、こちらを見ること無く、座ったままの日向さんは言う。
「言っておきますけど、毆られたとか、笑われたとか、そこは気にしてませんから。先生にも立場があるってことぐらい理解してます。むしろ……一度でも助けてくれようとしたことに、謝してるぐらいです」
あんなに酷いことをしたのに、気にしてないなんて。
例え日向さんが私を許しても、自分は許さない。
それに――その言葉は一件優しいようでいて、私の罪を浮き彫りにする殘酷な言葉でもある。
つまり、日向さんの言う”裏切り”とは、い頃に私が去っていったこと、そして高校にってから一年間、彼を無視し続けたことに絞られるのだから。
言うまでもなく、償いが難しい罪である。
「言いたいことは、それだけです」
「うん、ありがとう」
禮を言うべきなのかは迷ったが、他に言葉を知らなかった。
「……また明日」
そして最後に、日向さんは小さめの聲で私にそう言った。
救われる。
償いのためにここを訪れたのに、彼を殺してしまったという罪を含め、數多の罪悪から私は救われた。
これじゃあ、どっちが償ってるのかわかったもんじゃない。
その分をお返しするためにも――明日からは、毎日絶対に日向さんに會いにこないと。
例え何があっても、這いずってでも。
◆◆◆
影先生が去った後も、私は禮拝堂でけないままで居ました。
まさか、よりにもよって先生が、この世界に居るだなんて。
何もかもを諦めたつもりでいました。
あらゆる期待を捨てて、だから誰からげられても、特定の誰かを憎むということは無かったのです。
なぜならば、と憎しみは表裏一だから。
誰かをすることが無ければ、誰かを憎むこともない。
しかし1人だけ、私には例外が居ました。
それが彼、影都です。
「お姉さま、こんな所に居たんだ」
扉からエリスが姿を現すと、駆け足でこちらに近づき、勢いをつけて隣に座りました。
肩同士がれ合います。
こんな何気ないスキンシップすら、私は先生との間で取ることができませんでした。
「珍しいね、お姉様がそんな顔してるなんて。いつも包み込むみたいに優しく笑ってるのに」
ここに來て、半吸鬼デミヴァンプになってからは、私は不思議な全能に包まれていて、あるいは彼の言うとおり常に笑っていたのかもしれません。
「さっきのが原因なの?」
エリスが言葉に殺意を篭めながら言いました。
私はそんな彼の方を見ると、無言でを重ねます。
ただそれだけで、彼の表に満ちていた憎悪は霧散しました。
エリスは私のことをとてもしてくれているようで、その想いが強すぎて、時折人間相手には嫉妬めいたの起伏を見せることがあるんですよね。
まあ、それも私がれれば全て消えてしまうので、大した問題では無いのですが。
「お姉さま、今の誤魔化したでしょ」
「エリスとれている間は、何も考えずに済むんです」
「答えになってないんだけど」
「今日は何も聞かずに、私に抱かれてもらえませんか?」
そう提案すると、エリスは苦蟲を噛み潰したような表をして――「仕方ないなあ」と頷いた。
「その代わり、めちゃくちゃに気持ちよくしてくれなかったら嫌だからね」
「わかっています、私も頑張るつもりです」
「本當にわかってるのかなあ。だったらさ、私が今、どうしてこんなに不安な気持ちになってるのか、お姉さまにはわかる?」
エリスは私の手を引き寄せると、自分の頬をれさせながら問いかけました。
瞳が不安に揺れている、それはわかりましたが、その理由までは私にはわかりません。
「さっきのお姉さま、まるで人間みたいな顔してたから。私を置いて人間に戻りやしないかって不安だったんだよ」
言われて、私は納得してしまいました。
確かにエリスの言うとおりかもしれません。
先生と話している間の私の気持ちは、まるで人間のようだったのです。
魅了をためらい、うまくれなかったり。
會うだけ辛くなると理解しつつも、毎日會うことを約束したり。
矛盾をはらみながら、非効率を繰り返す、実に人間らしい行為。
「戻らないよね? 私たちを置いてったりしないよね?」
「そこは疑う余地もありません。今やエリスやみんな、私の全てですから」
エリスのを押し倒すと、彼は従順に従いました。
そして寢そべった彼の上著をまくると、私のであることを示すハート型の印に指先をれさせます。
「ぁ……ん、あぁっ……お姉さま、好き……」
「ここをられるのが、ですか?」
「それも、だけど……はあぁ、ふ、ひゃうっ……お姉様のことが、好きなのっ……だから、絶対に一緒じゃなきゃ……やなのぉっ!」
ぎながら私への気持ちを吐する彼に、私のはきゅんと締め付けられます。
おしさが止まりません。
そう、これです。このさえあれば、なくともその間だけは忘れることができるのです。
「あぁぁっ、はへっ、ひっ、ん、あああぁぁぁああんっ!」
印をでられ、を仰け反らせながら快にぐエリス。
私はそんな彼に救われながら、長い長い夜に溺れていったのでした。
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