《異世界で吸鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》29 小手調べ、あるいはオードブル
風岡かざおか彩路さいじは退屈していた。
異世界に召喚され、強い魔力を持つ人間として、王國に仕える見返りにありとあらゆる贅沢の限りを盡くすことを許され、元より好きだった彼は――
『だったらあれやってみてえな、ハーレムっていうの?』
と半ば冗談で王に言った。
すると驚くべきことに、次の日には絶世のが複數人用意され、彼に全てを捧げていたのである。
しかしだ、いくら人相手でも、何度も抱けば飽きてしまうというもの。
試しに好みじゃないも抱いてみたりはしたが、それでも退屈は紛れない。
彩路はベッドの上でけた表のたちに囲まれながら、虛空を見上げため息をついた。
「……なあんか刺激的なことでも起こりゃあいいんだがなあ」
彼にとって最も刺激的だった人間が消えてしまったことも、彼の退屈に拍車をかけていた。
その人の名は、影都。
彩路のクラスの擔任教師であり、彼にとっては都合のいいを満たすための道だった。
合・・も良かったし、お気にりの玩だったのだが、つい先日、何の前れもなく城から姿を消してしまったのだ。
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そもそも、それ以前から、擔任教師のくせに自分の生徒とは一切顔も合わせようとはしなかった。
「いっそあのおっさんに頼んで、連れてきてもらうってのもアリかもなあ」
おっさんというのは、王のことだ。
彩路にとって、王もしょせんはただの太った人畜に過ぎない。
もっとも、王と召喚された人間はお互いに利用し合う、おそらく王も彩路たちのことを『に溺れる豚』だとあざ笑っているに違いない。
ならば利用できるだけしてやろうじゃないか――と言うのが彼の考えだった。
「ま、それまではこいつらで退屈でも凌ぐか」
彩路はベッドの傍らにある棚の上に置いてあった錠剤を手に取ると、それを口移しで抱き寄せたに飲ませた。
の目は次第に虛ろになり、全から発汗し、痙攣を始める。
その様子を見てにやりと笑った彩路は、暴に彼をベッドに押し倒した。
◇◇◇
しかし彩路がくまでもなく、それから數日後、都はレイアに連れられてひょっこりと城に戻ってきた。
彼が消えた理由はわかりきっている、生徒に嫌気が差したのだ。
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だから、もう二度と戻ってくることは無いと思っていたのだが――
彩路はのこのこと戻ってきた都と再開するや否や、にやにやと笑いながら彼に近づいた。
「よお先生、やっと帰ってきたんだな。やっぱ俺らのがしくなっちゃった?」
どうせこのは俺らに逆らえやしない。
そう確信していていた彩路だったが、予想に反して都は反抗的な態度を取った。
れられるのも嫌だと言わんばかりに彼の手首を握り、にこりと微笑む。
わす言葉は無かったが、その表に込められた迫力は、舐めてかかった生徒をひるませるには十分過ぎるほどだった。
「……なんだありゃあ」
思わずそう零す。
遅れて彩路の元に彼の友人、河岸かがん峰たかと土崎ちざき凰彌おうやが近づいてくる。
2人はどうやら遠くから先ほどのやり取りを見ていたらしく、峰は彩路の肩を叩いて「どんまい」と茶化すように言った。
「ありゃあ男が出來たんだな」
藪から棒に峰が言った。
それを聞いて彩路は眉をひそめる。
「なんでそう思うんだよ、峰」
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「があそこまで変わるっつったらしかないっての、町でさぞ良い男を見つけたんだろうさ」
「彩路より良い件に違いないな」
凰彌がぼそりと、皮めいて言った。
好き勝手いいやがって、とぼやく彩路。
「はっ、俺より良い件ねえ」
どんなにその男の人格が優れていようと、に刻み込んだ恐怖や快は消えやしない。
あれだけ自分にがされておいて、今更男が出來たからって普通に戻れるわけがないのだ。
彩路は、そんな風に自分の行為に対して絶対的な自信を持っていた。
言わずもがな、過大評価である。
世界は広い。
彩路は、よもやこの世界に、吸鬼などという人知を超えた存在が居ることなど知りもしないのだ。
そして殘念なことに、彼はそこそこに・・・・・優秀だった。
だから誰も彼の過大評価を指摘しない、さも正當な評価であるように取り扱う。
ゆえに彼はこう考えた。
男が出來たのなら、むしろ都合がいい――その生意気な心をへし折ってやろう、と。
弄ばれるのは自分の方だとも知らずに。
◇◇◇
彩路は、その日の晩にでも都の部屋に押しかけるつもりだった。
そこで力をちらつかせて押し倒せば、すぐに折れるはず。
そう簡単に考えていたのだ。
夜の楽しみを想像すると心が躍るのだろう、今日の彩路はやけに上機嫌である。
夕食時、どこか軽やかに見える足取りで兵士たちが使う食堂へと向かうと、看板の前で足を止めた。
そこには今夜のメニューが書いてあるのだ。
「今日のメニューは魚介か……ま、毎日ってのも飽きるしな」
「あれ、今日も彩路は食堂なんだ」
看板を眺めていた彩路の背後から、派手目のが聲をかける。
彼は秋空あきぞら桜奈さくな。
彩路同様、この世界に召喚された人間であり、クラスメイトであり、なおかつ元人でもある。
とは言え、二人の間にぎくしゃくとした雰囲気が流れることはない。
所詮は付き合ってきた大勢のうちの1人に過ぎないのだ、2人はそう割り切って、今はただの友人として付き合っていた。
「王族の食事とやらは口にあわないんだよ、雰囲気も固っ苦しいしさ」
「でも峰と凰彌は晩餐室で食べてんでしょ?」
「昨日は一緒だった、今日は贅沢したい気分らしい。そっちこそ、冬花はどうしたんだ?」
佐藤さとう冬花とうか。
桜奈とは対象的に地味な彼は、しかし彼の最高の理解者でもある。
こちらの世界に來てからも2人は常に一緒に行していたし、食事の時も例外では無かったはずなのだが。
「ああ、あの子は……ごめん、お腹すいたから話は食べながらでも良い?」
「構わねえけど」
2人は食堂にると、カウンターでトレイごと食事を取り、近場の席に向かい合って腰を下ろした。
今日のメインデュッシュは、魚のフライに甘酸っぱいたれのかかった料理だ。
クセのあるスパイスがかかっているあたりが異世界風で、日本食に慣れた2人には々刺激が強い。
それを和らげるのが、主食である芋で作られた薄いパンだ。
主食と一緒ならば、スパイスの刺激も抑えられて程よい味になる。
これがまた王族の食事となると、上品だったりクセが強くなったりして、々食べづらいのだ。
「んで、冬花だけどさ。都先生のとこに行ってる」
「都の? またどうして」
「わかんない、呼び出されたって。なんか都先生、様子違ったよね、何があったんだろ」
「峰が言うには男が出來たらしいけどな」
「男ねえ、確かに守ってくれる誰かが居ると気持ち的には強くなれるよね。でもそれとはちょっと違うような気もするんだけど」
料理をしずつ口に運びながら、桜奈は言った。
確かに、彩路のじがあの迫力は、ただ男が出來ただけと言うにはあまりにインパクトが強かった。
環境が変わったというよりは、彼自に何らかの変化があったと考えたほうがしっくり來る。
「……んー」
「どうした、桜奈」
じっと前を見て料理を頬張っていた桜奈が、おもむろに周囲をきょろきょろと見渡しだした。
「なんかさ、食堂の雰囲気違わない?」
「別に何も変わんねえだろ」
「そうかなぁ……なあんか、いつもより居心地いいって言うかさ、ちょっと靜かなような」
言われてみれば、というレベルの変化ではあるが、意識をするとたしかに。
彩路にも、いつもより食堂が靜かであるようにじられた。
普段なら兵士たちでごった返し、酒も出たりして下品な笑い聲が響いているのだが。
いや、今日も一応は聞こえてくる、しかしそのボリュームは小さい。
「……いや、でも理由まではわかんねえな」
「うん、まあ、気の所為ならいいんだけどさ」
いや、おそらく気のせいではない。
変化はあったのだ。
だが考えても無駄なことだ、そういう日もある、と彩路は思考を中斷し、食事に集中することにした。
結局、そのあと冬花が2人に合流することはなく、後日彩路が桜奈から聞くと、彼が都の部屋から戻ってきたのは深夜になってからのことだったらしい。
もちろんそんな狀況で彩路が都の部屋に行けるわけもなく。
その日の夜も、退屈に時間は過ぎていった。
◇◇◇
前日の食事がさぞうまかったのか、翌日の晩も峰と凰彌は食堂に來なかった。
だからなのか、それとも特に理由など無いのか、蟲の居所が悪い彩路は、今日は不機嫌に食堂の前の看板とにらめっこしていた。
「『ジェフの団子』って、なんだこりゃ」
この世界に來てしばらく経つが、聞いたことのない食材だった。
しかし、団子と言うからにはのなんだろうし、彩路とてこの世界のの名前を全て覚えたわけではない。
そういう生も居るのだろう、と納得して、食堂に足を踏みれる。
今日は――昨日よりもさらに靜かだった。
いや、意識しているからそういう風にじてしまうのか。
ふと食堂の奧の方へと目を向けると、そこには昨日と同じくの白い、綺麗なたちが座っていた。
いや、昨日と同じではない、人數が1人増えている。
いっそ聲でかけてみるか、とふらりとそちらに近づこうとすると――
「私を無視してナンパとか神経図太いよね、相変わらず」
真橫から、不機嫌な桜奈に話しかけられた。
「なんだ、居たのかよ」
「居たわよ、んでずっとあんたのこと見てたわよ」
「じゃあ呼べよ、視線だけじゃわかんねえっての、人じゃあるまいし」
「仮に人だったとしても、あんた気づかなかったじゃない」
実の篭った桜奈の愚癡を、彩路は見事にスルーした。
そしてカウンターで料理をけ取ると、向かいの席に座る。
サラダと、スープと、あとはジェフ団子なる料理に、主食の芋パン。
「結構味しかったよ、それ」
「ジェフって何なんだ?」
「さあ、なんかのなんじゃないの?」
何気なく口に運ぶと、香草で香り付けされたの味が一気に口の中に広がった。
確かにこれは味しい、しかし団子にして香草まで使ってるってことは、本來は癖の強いなんだろう。
「そういや冬花は? まさか今日も都のとこ行ってんのか?」
「そのまさか。ったく、何を話してんだろうね、昨晩も全然教えてくれないし、様子おかしいし」
「……大丈夫なのかよ」
「うわ、彩路が心配するとか珍しい」
「茶化すなよ」
「茶化すぐらいいじゃん、あの冬花の視線に曬された私をしは労れっての」
「あの?」
「なんていうか……ねっとり、っていうかさ。やらしい視線」
彩路は一旦団子を食べていたスプーンを止め、言った。
「あいつ、そういう趣味だったのか」
「できれば考えたくなかったのにストレートに言うなっつの!」
桜奈は彩路を睨みつける。
しかし相変わらず彼は平然としていた、この程度は長い付き合いになると慣れてくるものなのだ。
「でもほんと、都センセに何を吹き込まれたんだろ」
「直接聞きに行ったらいいじゃねえか」
「やだよぉ、1人じゃ怖いし。彩路が一緒に來てくれるなら……」
「峰でもって行ってこい」
「つっかえないヤツ」
桜奈が悪態をつくと、それきりで會話は止まった。
彩路は黙々と料理を口に運び、完食すると、特に言葉もかわさずに食を片付け、食堂を出ようとする。
その直前、カウンターで離す1人の兵士と、やけに綺麗な調理員のの會話が聞こえてきた。
「……ええ、では、明日はディルソンさんで」
「はい、はい、わかりました。本人には私から伝えておきますので」
「抜きの作業等もありますので早めに來るようお伝え下さい」
「わかりました、必ず」
明日のメニューに関する話し合いなんだろう。
特に彩路には関係のない話題だったので、すぐに興味は失せ、そのまま自室へと戻っていった。
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