《異世界で吸鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》34 最強かつ最悪の人間たち
『あとは、8人いる騎士さえ……どうにかできれば、國は終ったも、同然なんじゃないかな』
私はしばらく前に、レイアからそんな話を聞かされていました。
『城に唯一居る、王族を護衛してる騎士、リリィ・クリアライツって言うんだけどね』
『確か、カミラを倒した騎士でしたよね』
『うん、そして騎士団長、でもある。でもあの人は……たぶん、私より弱いと思うから。ご主人様だったら、簡単に、倒せると思う』
つまりは、騎士団長たるリリィがあの強さなのだから、他の騎士も問題なく倒せるはずだ、という理屈のようです。
そこで私は、すでに脳を弄ってり人形になっている王に、こんな命令を下しました。
”騎士を全員城に集めろ”
さすが脳が腐っても王様、その一聲で王國各地に散らばっていた騎士たちは一斉に城に集まったのです。
しかしそんな中、唯一1人だけ到著が遅れている者が居ました。
それが私の前方を走る馬車に乗っている男、自稱”世界で最も神にされた人間”ことセインツ・ジャッジメント。
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偽名ではないのかと疑ってしまうほど骨な名前ですが、これでも本名だそうで。
親の代から隨分と信仰心の深い家族だったそうです。
ですが神なんてこの世にはいませんから、さっくり始末してり人形にでも変えてしまうことにしましょう。
私は草木の影から影へと移を繰り返し、馬車との距離を詰めていきます。
そしてついに、馬車の真下の影へと潛り込みました。
ここまで來ると、セインツの聲も聞こえてきます。
し移すると、車の中の様子を見ることも出來ました。
セインツは、し細の、至って普通の神父といった容貌をしています。
「ときに者の男よ」
「は、はい」
「君はぁ……神を、信じるかね?」
「神、ですか。まあ、それなりに信じています」
「そうかそうか、良いなあ、君は実に良い。近頃は嘆かわしいことにも神を信じていない不躾な人間が増えていてなあ、嘆かわしいことだ」
戸う者にも構わずに、彼は説法めいたトークを繰り広げていました。
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まるでタクシーの運転手に絡む面倒な客のようです。
「だがしかし、君が神を信仰する正しき人間だというのならば、神にされた私にはその意思を代行する責がある。つまり、救わねばなるまい」
「はあ……」
「良いか青年、今すぐ馬車を止めるんだ。そして降りて、そうだな……地平線の向こうぐらいまで逃げると良い」
「へ? な、なんでですか?」
「つべこべ言わずに逃げろと言っているのだッ!」
迫力のある聲に、者の青年は驚いています。
「ひっ!? わかりましたぁぁっ!」
そして、そのまま素直に馬車を降りて逃げてしまいました。
どうやらこの男、、私の存在に気づいたようですね。
そう言えば、セインツは魔退治を得意としている、なんてこともレイアが言ってましたっけ。
「おお、慈悲深き神よ、わたくしにまた魔を殺す機會を與えてくださるのですね。謝の極み、報いるはこの汚らわしき”影”を払う以外にありませんな、そうでしょう神よ!」
影の中まで屆く訳がない――そうたかをくくっていた私でしたが。
馬車の車の中で、彼の腕に集中する魔力の存在を察知すると、慌てて影の中を飛び出して馬車から離れました。
死にはしないにしても、まともに喰らえばダメージは避けられないほどの強大な”の魔法”だったからです。
「散れぇいッ!」
裏返った聲でびながら、セインツは馬車の床を叩きました。
すると彼自の腕力で床板が砕け散り、さらにはの魔法によって周囲10メートルほどがのドームに包まれていきます。
無論、に包まれたその中で影など存在できるわけがありません。
つまりとっさに逃げた私の判斷は正しかったわけです。
が止むと――そこには、セインツを中心として直徑10メートルほどの巨大なクレーターが出來上がっていました。
仕留めきれなかったことは向こうとて気づいているはず。
セインツはゆっくりと周囲を見渡すと、私の姿を見つけ、にっこりと笑いながら口を開きました。
「すばしこいですねえ、まったく忌々しい」
その時、私は悟りました。
この男がレイアより弱いなんてことは絶対に有り得ない、と。
つまり――思うに、騎士において最弱は、レイアの話していたリリィ・クリアライツなのではないでしょうか。
だって、1人だけ王城の警護なんてほぼ必要ない仕事を任されているんですから。
お飾り団長に、実力で上り詰めてきた騎士たち。
力の差が歴然であるのは當然のことです。
私は彼の背後の影より腕をばし、顔にまとわりつかせました。
以外なことに、影の存在に気づいても彼は表1つ変えず、そこに立ったままです、油斷しているんでしょうか。
そのまま影に力を込め――ゴギィ! と首を折ります。
普通の人間ならこれで仕留められるはずです。
ですが、なぜか不思議なことに、全くそのような覚はありませんでした。
相変わらず表は笑顔のままですし、筋が弛緩して糞尿が垂れ流されるなんてこともない。
試しに影を引いてみると、セインツは自らの両手を頭部に當て、そのまま力を込めて元の狀態に戻しました。
そう、折れたはずの骨は、たったそれだけで治癒してしまったのです。
「化ですね」
「面白いジョークだ、これはただの質ですよ」
「それこそ面白いジョークです」
そんな質があってたまるものか。
しかし、現実として彼の骨が治癒した以上は、信じるしかないのでしょう。
「その表は道理です。もちろん異常であることは理解していますよ、つまり、これぞ、神が與えたもうた奇跡なのです。わたくしは生まれたその瞬間から神にされていた! その証明なのですよ!」
まだ両親が実は人間じゃなかった、と言った方が現実味がありそうなものですが。
ですが、彼の目に宿るのは狂気めいた陶酔。
すなわち強い信仰心、私が何を言おうとすれが揺らぐことはないでしょう。
「その顔は信じていませんね? ああなんて哀れな、人として生まれなかったばかりに神の存在すら信じられなくなってしまうとは、やはり魔はわたくしが浄化せねば!」
「私は元々人間ですよ」
「ならばなお哀れだ! 神の寵をけられなかったばかりに魔などという汚らわしい存在にそのを貶めてしまった! 哀れ、哀れ、哀れ、おおぉぉ、なぜこんなことに! これは悲劇だあぁぁぁぁ!」
セインツの表から笑顔が消えたかと思えば、続けざまにボロボロと涙を流し始めました。
緒不安定極まりありません、これでよく王直屬の騎士なんかになれましたね。
選考基準は、きっと強さ以外に何も無いのでしょう。
「やはり、浄化が必要ですね……あなた、お名前は?」
「はぁ……チグサといいます」
「チグサ! なるほど悲劇的な名前だ。確かにその名、わたくしの魂に刻み込みましたよ。あなたの悲しいヒストリーはすでにわたくしの一部、二度と失われることはありません。だから安心して――」
セインツは大げさに手を広げ嘆いたかと思うと、広げた手のひらを握り、をまとわせながら私を睨みつけました。
「天に、召されよ」
「お斷りします」
地面がえぐれたかと思うと、瞬時に私の目の前まで移してきたセインツ。
私は影に姿を隠し、彼の背中に回り込みます。
そしてさっさと殺すために心臓に向けて爪を繰り出すと、彼は振り返ってからの手の甲でそれを弾きました。
この反応速度、さすがに騎士と言うべきでしょうか。
これで気持ちの悪い笑顔さえなければもうちょっと素直に褒められたんですが。
もっとも――どのみち男を生かしておくつもりなんてありません。
繰り出された拳を首を傾けながらわすと、私は手を前方に突き出し、彼の脳の”影”をり、握りつぶそうとします。
最も人間を手っ取り早く壊せる方法がこれです。
「ふゥんッ!」
しかしセインツは、掛け聲と共に私の影を吹き飛ばしてしまいました。
こんな馬鹿げた蕓當ができてしまうとは、本當に人間なんでしょうか。
「今、影でわたくしの中を壊そうとしたのですね? 無駄ですよ、わたくしはも心もで溢れている。なぜならっ! 神に、されているから!」
「思い込みもここまで來ると心します」
「魔法など思い込みが全てですよ、出來ると思うから実現する、出來ないと思えば消えてなくなる。その意志が、わたくしの方が強かっただけの話です」
なるほど、彼の信仰心に、私の”影”に対する自信は劣っていると。
確かにそうかもしれませんね。
私は狂信者にはなれませんから、つまり小細工を弄して殺そうとしても無駄だということ。
真正面からぶつかるしか無い、と覚悟を決めた私は、自らの背後の影より、九尾の狐のごとく9本の影を引きずり出し、うねらせました。
「なるほど、手數で勝負すると。ならばお付き合いしましょう――そしてけ止めなさい、神にされたわたくしに魔が勝てる未來などありえないと言うことを」
やたら濃いキャラに辟易しつつも、私は素早く影をしならせ、セインツに向けました。
四方八方から遅い來る影を、しかし彼は全て両手だけでいなします。
文字通り目にも留まらぬスピードで全をひねり、ねじり、さらには攻撃の度に腕を折り回転で威力を増しながら。
「わたくしの拳には神が宿る、わたくしの足には神が宿る、わたくしのには神が宿る! 神が、神が、神が! ああ、足の先から頭の頂點に至るまで神が詰まっているううぅぅぅぅ!」
それでもさすがに全ての攻撃をさばききれるわけではありません。
セインツのには次第に傷が刻まれていきましたが、気づけばそれも治癒で消えています。
厄介な、疲れるのであまり増やしたくは無いのですが。
このままでは埒が明かないので、私はさらに攻撃に員する影の數を増やしました。
その數、18本。
影の鞭が倍に増えたとなると、さすがに騎士といえど避けきれません。
さらには治癒も追いつかず、みるみるうちにセインツのはボロボロになっていきます。
「そうだ、この高揚! 魔と対峙している瞬間にのみじられる生の実こそがまさしく神の祝福!」
ですが、傷ついていくとは裏腹に、セインツの頬は赤らみ、顔は壊れたように笑顔で満ちていくのです。
下半も起しているようで、彼が魔との戦いに的興を覚えているのは明らかでした。
結局のところ、神だ信仰だとか言っておきながら、おそらく彼は魔を殺すことに的快楽を覚える魔専屬のシリアルキラーなのでしょう。
ある意味でとても人間らしく、そして今すぐ消してしまいたいほど汚らわしい。
「ははははっ、これがっ、これこそがっ! 神の與えたもうた! 神域の絶頂――エクスタシィである! くはははははははぁぁあぁぁああッ!」
仰け反りながら達す姿など見たくはありません。
私は躍する拳の間をい、影でセインツの心臓を刺し貫きました。
瞬間、彼はをびくんと痙攣させます。
「お……おおぉ、神……よ……わた、くし、も……そこに……」
完全に逝った目でそうつぶやくと、口からを吐き出し、力盡きます。
私はずるりと部から影を引き抜くと、すぐさま傷を埋め、彼の死を生前の狀態に戻します。
數日もすれば腐敗するでしょうが、死の狀態でもしばらくはり人形として使えます。
セインツが來ないとなると、城に集まった騎士たちも警戒してしまうでしょうから、これを代わりにしてしまいましょう。
「ふぅ……それにしても、とんでもない人間でした」
1人目でこれとなると、他のリリィを除く6人の騎士も碌な人間ではないのでしょう。
城に全員を集めて一網打盡、と簡単に考えていましたが、これは慎重を期す必要が出てきたようです。
下手を打つと怪我人が出てしまうかもしれませんから、それだけは避けたいところ。
「……ひとまず、城に殘っているみんなが心配です。戻りますか」
私はそうつぶやくと、影の中を這いながら急いで城へと戻っていきました。
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