《異世界で鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》35 8人の騎士と孤獨な姫

王城部、普段は兵たちのブリーフィングに利用される石造りの部屋に、王國の誇る騎士団は勢揃いしていた。

普段は各地に散り散りになっている彼らがこうして一堂に會する事は滅多にない。

ついに開戦か、あるいは先にあちらから手を出してきたのか。

どちらにせよ急事態が起きているはずだと確信して、大急ぎで王都へと戻ってきたわけだが――

「はあぁ? 理由もわかんないだって!?」

アーシェラ・フォスハンザは苛立ちを隠しもせずに吐き捨てた。

は後ろで束ねられたのように赤い髪、同じくのように赤い瞳、そして彼が出た戦場は必ずの海になるという逸話から、”鮮の戦鬼”と呼ばれている。

噂が事実かどうかはさておき、自分の長ほどある巨大な斧を振り回すその力が、人間離れしていることは確かだ。

「ふざけんじゃねえっての、あたいだって暇じゃないんだ。王を出しな、王を!」

「落ち著くのですよ、アーシェラ。リリィが困っているではないですか」

ラライラライ・アヴォータは優しい聲でアーシェラを諌めた。

外見からも荒々しさがにじみ出ているアーシェラとは異なり、彼は銀の髪、満な、そして和な表から穏やかな人であると読み取れる。

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その心の広さは”王國の聖母”と呼ばれるほどで、兵たちにもんな意味で・・・・・・慕われている。

「おうおう、ラライラライは相変わらず心が広いねえ。さすが王國の・母サマだ」

「聖母などと恐れ多い、わたくしはただ一人でも多くの人に幸せになってもらうため、で彼らを包み込んでいるだけですわ」

「回りくどい言い方してるが、ただがゆるいだけじゃないか。この売が」

「あら、わたくしはを売ってなどいませんわ、いつでも無料でしてよ?」

「余計に悪ぃっつの!」

睨みつけるアーシェラに、それでも微笑みを崩さないラライラライ。

2人は會うと、いつもこんな調子だった。

そんな様子を見ていた騎士団長のリリィは、頭を抱えながら大きくため息をつく。

本來ならここで私が靜止するべきなのだろうが――そう思いつつも、聲が出てくれない。

リリィなどが口を出した所で、この2人が止まるはずがないのだ。

そうやってうじうじと悩んでいると、先に別の団員が口を開いた。

「ガハハハハッ! アーシェラの兇暴さも相変わらずだな。ここで発散するのは勿無い、あとで俺に付き合え!」

「ちっ……橫槍れんじゃないよダヴィッド」

「止めてくれてありがとうだろう、そこは。どうせ君たち2人が分かり合うことはないんだからね、延々と言い爭いをされても困る」

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「マディスまで言うなよ、わかってるっつの」

騎士団に所屬する2人の男――長2メートルほどはある巨軀が特徴的なダヴィッドと、白を纏い眼鏡を付けたいかにも知的そうなマディスが、それぞれ口を挾む。

親しいダヴィッドと、冷靜なマディスに言われてしまうと、いくら暴れ馬のアーシェラでも黙るしか無い。

そんなやり取りを見て、傍から見ていたナルキールは苦笑した。

「アーシェラあなた相変わらずねェ、もっとワタシみたいにらしくなったらいいのに」

「てめぇはらしさを履き違えてんだよ、このオカマ野郎が!」

「視野が狹いわねえ、しさに別なんて関係ないのよ。男だろうと、だろうと、あるいはオカマだろうと、ワタシのしさはまばゆいほどに輝き続けるの!」

まるでのように細いをくねらせながら、ナルキールは高らかに宣言した。

化粧も濃く、髪も派手なピンクと特徴的な外見をしており、一般的な”しさ”とは縁遠い彼だが、しさへの飽くなき探究心は本である。

また、”強さもしさの一部”という信念から、鍛錬も欠かさない。

金屬製の鞭を使った戦闘においては、格的に圧倒的な差があるダヴィッド相手でも引けを取らない、紛れもない実力者だった。

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「……にコンプレックス持ってるくせに良く言うよ」

もっとも、アーシェラの指摘した通り、彼は『しさに別は関係ない』と言いながらに対して歪んだコンプレックスを抱いており、そのせいで非常に王國としても扱いに困っているのだが。

「んで結局さ、王はどうしたんだよ騎士団長サマよぉ」

「王は……」

ついにリリィに話が振られてしまった。

は暗い表で口ごもる。

元より、騎士団の面々をここに集めたのは彼ではない。

確かに彼は騎士団長ではあるが、そのような権限は持たされていないのだ。

全ては、突然思いつきのように言い出した王の責任。

しかし――チームのリーダーとして、そのような責任転嫁が許されるわけもなかった。

「まさか、呼び出した理由は”なんとなく”とでも言うんじゃないだろうなぁ?」

「それはさすがにわたくしでも困りますわね、王からの帰還命令と聞いて急いで參りましたのに」

「実は……王は、ここしばらく姿を見せていないんだ。食事は普通にしているようだから、病に倒れているわけでは無さそうだが……」

ガンッ!

それを聞いたアーシェラが、苛立たしげに機の足を蹴った。

リリィはびくっとを震わせる。

「ざけんじゃねェぞ、こっちだって暇じゃねえんだよ! 出てこねえってんなら上等だ、あたいが部屋から首を千切ってでも無能な引きこもり野郎を引きずり出してやるよ!」

憤怒に顔を歪ませ部屋から出ようとするアーシェラ。

そんな彼に、ナルキールが茶化すように言った。

「あら騒ね、王にそういうこと言ってると、セインツが黙ってないわよ。ねえ?」

「王は神の代行者なり、その王を侮辱するとは言語道斷ですぞアーシェラ!」

「ほら、怒っちゃった」

彼の言葉に導され、アーシェラの怒りの矛先はあっさりとセインツの方に向けられる。

アーシェラはあまり頭が良くないのである、だからこうしてナルキールたちにあっさりと導されてしまう。

「構うもんかよ! セインツよぉ、だったらこの場でやり合ってどっちが正しいか決めてみるか? あぁん!?」

「それが神の威厳を守ることになるというのなら、お相手しましょう!」

アーシェラは2本の剣の柄に手をかけ、セインツは拳を構える。

この様子だと、本當にやり合ってしまいそうだ。

通常の建造は騎士たちの戦闘に耐えられるほど頑丈じゃない、止めなければ部屋どころかこの城ごと滅茶苦茶になってしまう。

2人の放つ殺気に気圧されながらも、リリィは強い責任で必死に聲を絞り出した。

「……2人とも、待ってしい」

鋭い視線が一気にリリィに向けられる。

背筋が凍るほど怖かったが、拳を握ってどうにか耐えた。

「騎士団長サマには何か良い案があるってのか?」

「わざわざ騎士団全員を呼び出したんだ、部屋から出てこないことも含めて何か理由があるはずだ。必ずそれを突き止めて、話を聞いてみせる」

「結局何も無いんじゃねえか……ったく」

「そうかっかするな、アーシェラ。王に関しては団長に任せておけばいいんだ、ボクらは久々の休暇でも満喫することにしよう」

「マディス、お前は部屋で怪しい薬の研究できりゃ良いんだろうがなぁ、あたいはそう暇じゃないんだよ!」

「まあまあ、それならここで出來る仕事を探せばいいだけですわ」

「時間があるならオレの訓練に付き合え、アーシェラ。久々に腕比べと行こうぜ!」

「……あーもう、仕方ねえな。わーったよ、訓練所に行くぞダヴィッド! ストレス解消がてら相手してやる!」

特に解散が宣言されたわけではないが、団員たちは各々部屋から出ていく。

やがて6人が居なくなり、殘されたのは――リリィと、そんな彼の隣にちょこんと立つ、小柄で無表だけだった。

の名はキシリー・ヴァラッズ。

騎士団の中では最も新りの、リリィが戦場でスカウトしてきたという珍しい経緯を持つ団員である。

存在が薄く、戦闘能力も未知數。

お飾り団長のリリィが連れてきた、という経緯もあって、あまり他の団員からは気にられていない。

部屋を出て行く歳、彼に唯一手を振って挨拶をしたのはラライラライぐらいのものである。

しかし、そんな現狀をキシリー自はあまり気にしていないらしく、先程の會議中も表を変えずにずっとそこに突っ立っていた。

「すまないなキシリー、わざわざ戻ってきてもらったのにこんなことになってしまって」

「構わない。でもリリィ、これからわたしはどうしたらいい?」

「……王が部屋から出てくるまでは何とも言えないな。キシリーも休暇を取ると良い」

「休暇。よくわからない」

「まあ、どうしても暇になったら私の部屋に來ると良いさ、暇つぶしの相手ぐらいはするぞ」

「わかった、リリィの部屋に行く。それまでは自分の部屋でを休めておく」

「ああそうしてくれ」

キシリーはラライラライがそうしたように、リリィに対して手を振ると、靜かに部屋を出ていった。

城には、騎士団員全員分の部屋が用意してある。

普段はほとんど使われていないが、常に清潔が保たれているはずなので、休暇という目的ならば十分に使いになるはずだ。

「だが、アーシェラの不満ももっともだな」

リリィはひとり呟く。

城で出來る仕事と言っても限界がある、特にアーシェラやダヴィッド、キシリーなど戦うことを自らの役割とする騎士たちが出來ることなどたかがしれている。

騎士団の面々は、誰もが一筋縄ではいかない人間ばかりだ。

今の調子でフラストレーションを溜めておくと、何が起きるかわからない。

早く王から”なぜ騎士団を全員招集したのか”、その理由を聞き出さなければ。

「ふぅ……」

今のこと、そして未來のこと。

考えるだけで思わずため息が出てしまう。

リリィは、騎士団長でありながら、騎士団の中で最も弱い人間だった。

とは言え、普通の兵に比べれば遙かに高度な剣の腕を持っているのだが、しかし団員ほど人間離れしているわけではない。

ならばなぜ騎士団長になれたのか。

それは――彼が名家の生まれだからだ。

王と父の間でそういう約束に・・・・・・・なっていたらしく、リリィはい頃からいずれ名譽ある騎士団長になるべく育てられてきた。

本來なら男が就くべき役職であり、両親も男の子が生まれることをんでいた節があるが、王はむしろリリィがであったことを喜んだ。

の地位向上、それは民衆の王への支持を盤石のにするための格好の材料だったからだ。

そして彼は、騎士団長に相応しい人間になれるよう、い頃から厳しい訓練をけさせられてきた。

リリィにプライベートの時間は存在せず、両親にも親のを向けられず、友人もおらず、笑顔も無く、全てを、何もかもを騎士団長になるために捧げてきた。

だがそれでも――あくまで彼は”優れた人間”止まり、騎士団長に相応しいとは言い難い。

両親の失のため息が聞こえる。

民衆が口を囁いている。

自分自も、期待に答えられなかったリリィを蔑んでいる。

そして”団長”と言うあまりに荷が重すぎる地位は、日々確実に彼を押しつぶしている。

「リリィ、また辛そうな顔してるです」

聞こえてきた聲に、リリィは目を見開いて反応した。

聲の主は――ふわりとした、輝く金の髪を揺らしながら、上目遣いでこちらを見上げる

どうやらリリィが考え事に耽っているすきに、いつの間にか部屋にってきたらしい。

「姫様……なぜここに」

「大きな聲が聞こえてきたので、リリィが心配になって見に來てみたのです」

「……申し訳ありません、お恥ずかしい姿を見せてしまいました」

「謝っちゃだめです、余の前では素直になるよう命令したはずです。辛いなら辛いと言ってくれればいいのです、そしたら余がめてあげるのです」

「申し訳ありません」

「むぅ……」

はサーラ・ミリオソール。

この國の主である王の娘、つまりは姫だ。

お飾り騎士団長であるリリィを唯一眼鏡無しで見てくれる存在であり、誰よりも彼のことを慕っている。

「また父様がリリィを困らせているのですか」

「そんなことはありませんよ、王は何か考えがあって行しているだけですから」

「……父様は、そんなに素敵な人間じゃ無いのです」

「いけませんよ姫様、父親にそのようなことを言っては」

諌めるリリィの言葉に、サーラはぷくりと頬を膨らました。

あまりに素直過ぎる意思表明。

それを見たリリィは、思わず笑ってしまった。

「父親の権利を主張するなら、父様はもっと余のことを娘らしく扱うべきです。最近は口も聞いてくれないのです」

「それは……忙しいんですよ、普通の父親と違って王は王ですから」

部屋を出て、示し合わせたわけでもなく自然とサーラの部屋に向かいながら、2人は會話を続けた。

「だったら、父様は父様を名乗る資格なんて無いのです。母様だって……」

「姫様……」

「余の家族は、リリィだけです。それだけで、十分なのです」

そこまで言ってもらえてリリィは嬉しくないわけがない。

しかし――素直に喜べるわけでもない。

サーラの王に対する発言のほとんどが、年相応の親に甘えたい気持ちから來るだとリリィは知っている。

すべきだ、そして王に直訴すべきだ、もっと子供との時間を大切にしてください、と。

だがあくまで、それはリリィ・クリアライツという人間個人の意思である。

には騎士団長としての意思を優先する責があった、自己を優先するように親に教えられた覚えが無かった。

だから姫に優等生のように口酸っぱく言うのだ、「王にそのようなことを言ってはいけませんよ」と。

「むー……そういえばリリィ、し前から王を警備する兵たちの雰囲気が変わったのです」

「ああ、例の事件で以前の兵士はみな死んでしまいましたから。れ替わったんですよ」

「でも……やけにが多くないです?」

それはリリィも気になっていることだった。

今の王が民衆からの支持を気にしてか、要職にを使うようになったのは周知の事実である。

そもそものきっかけは、し前、農作の生産量が減を始め、飢饉の兆候が見え始めた頃に民衆の不平不満をしでも和らげるためにはじめたことだ。

結果的に、その後は生産量が元に戻り、飢饉が起きることは無かったのだが――思った以上に反応が良かったからか、王はその方向を継続した。

その影響か、最近はの兵も増えつつある。

だが、それにしたって新しくってきた兵士のうち、の占める割合が大きすぎる。

と言うより、全員がではないだろうか。

それも全員が、世の男が思わず振り向いてしまうほどので、みな白で、付きも良く、揃って妖艶な魅力を備えている。

そのせいか、城の中の雰囲気はすっかり変わってしまっていた。

「確かに、妙ではありますよね」

「やっぱりリリィもそう思っていたのですか。父様は本當に、何を考えているのです?」

サーラのその問いに、リリィは答えられなかった。

何から何までわからない。

いくらお飾りの地位とはいえ、ここまで何も知らされないとさすがに慘めになってくる。

それでも、しでも騎士団長としてが張れる存在になれるように、落ち込んでばかりではいられない。

部屋から出てこない王。

突如集められた騎士団のメンバー。

そして、だらけの兵士たち。

全ての謎を王から聞き出して、必ず彼らの不満を解消してみせる。

リリィは、そう強く決意するのだった。

……城を兵士として堂々と歩く、半吸鬼デミヴァンプたちの存在にも気づかずに。

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