ラライラライは、自分こそが聖であるという自覚があった。

なぜなら自分は誰よりも深いを持ち、実際に初対面の相手だったとしても、無條件ですることが出來るからだ。

そして彼のは、基本的に拒まれることはない。

それはラライラライが男にとって理想的なを持ち、心にはでもぐらりと來てしまうような母を宿しているからなのだが――

どういうわけだか、アーシェラとだけは上手くいかなかった。

なぜ彼は、自分のを拒絶するだけでなく、完全に否定するのか。

今までは力が拮抗していたから、自分のを信じることが出來た。

だが今回は、敗北してしまった。

「わたくしのが間違っていたとでも言うのでしょうか」

先日の喧嘩以降、ラライラライはずっとそれを考えていた。

正しいはずなのに、否定するアーシェラがなぜ勝利出來たのか。

だがどんなに考えても、結論は1つしか出てこない。

「を知らないからですわ、可哀想なアーシェラ」

ラライラライは呟く。

――だから、そういうてめえが嫌いなんだよ。

そんなアーシェラの愚癡が聞こえてきそうだ。

「一度抱き合えば分かり合えると言うのに、どうにかして一晩だけでもを預けてくれるといいのですが……」

そう言って、両手でカップを摑んでお茶を啜る。

このハーブティーを飲んでいると、がぽかぽかと溫まるそうだ。

溫を高めに保っておくのは、男を喜ばせる訣の1つらしい。

とは言え、現在彼が想定している相手はなのだが。

「ラライラライ、居るか？」

噂をすればなんとやら、というやつなのだろうか。

ちょうど彼のことを考えていた時に、ドアの向こうからアーシェラの聲が聞こえてきた。

ラライラライは運命をじずには居られなかった。

「居ますよ、すぐ開けますねっ」

そう返事すると、ドアに駆け寄って開き、満面の笑みで彼を迎える。

アーシェラはきっとしかめっ面をしているだろうと予想していたから、ならばせめて自分だけでも、といつもよりもしオーバーな笑顔だった。

だが予想に反して、姿を見せた彼は溫和な表をしている、機嫌も悪く無さそうだ。

「すまないな、急に來たりして」

その第一聲に、ラライラライは強烈な違和を覚えた。

彼の記憶が正しければ、アーシェラから謝罪の言葉を向けられたのは、これが初めてだったからだ。

それに、微笑みかけられることだって。

これは相當に良い事があったに違いない。

今の彼になら、ひょっとすると、自分のを伝えることが出來るかもしれない。

ラライラライはそんな希を抱き始めていた。

「気にしないでください、むしろアーシェラが來てくれて嬉しいぐらいですわ」

「そりゃよかった」

「すぐにお茶を煎れますから、座って待っててください」

ポットの方に向かいながらラライラライは言った。

アーシェラはそんな彼の背中に近づくと、両手を広げ――優しく抱きしめる。

「……アーシェラ？」

「お茶とかいいからさ、今日はラライラライに頼みたいことがあるんだ」

「何を、ですか？」

「今まで、あたいとあんたは喧嘩ばっかりしてきた。きっとそれは、お互いに思う””の概念がすれ違ってたからだと思うんだ」

そこまで聞いた時點で、アーシェラが何をんでいるのかはすぐにわかった。

だからラライラライのは彼をけれる準備を始める。

は火照り、が微かに紅に染まり、り気を帯びていく。

「きっと理解し合えば、あたいたちは本當の仲間になれる」

「アーシェラ……わたくし、ずっとその言葉を待っていましたわ」

2人は首を傾け、をれ合わせた。

ほどなくして互いに舌を絡めさせ、鼻がかった聲で鳴きはじめる。

さらにアーシェラの手が服越しにを這うと、ラライラライは躍るように腰をくねらせた。

「あ、はぁ……想像していた通り、とても熱的ですのね」

「あたいを想像して何をしてたんだか」

「そんなの決まっていますわ。あの戦いの後、どうして部屋から出てこなかったのか教えて差し上げましょうか？」

「言われなくたってわかってるよ。だってこの部屋、ラライラライの匂いで満たされてるから」

「……換気しますか？」

「何弱気になってんだか。悪くない匂いだ、嗅いでるだけでどんどんあんたのがしくなってくる」

「きゃっ！？」

アーシェラがラライラライのをお姫様抱っこで持ち上げる。

「意外と可い聲出すんだな」

言われた方は目を反らしながら、すねたように口を尖らせる。

そんな狀況を見かねたアーシェラが、ご機嫌を取ろうとまたを寄せた。

今度は舌は絡めずに、ついばむように口づけを繰り返す。

そして5度ほどキスが降り注ぐと、我慢しきれずにラライラライも自ら口を近づけ、また深くぬめる舌を絡めあった。

必死で互いのをわらせながらベッドまで移する。

優しくらかな布団の上に寢かされたラライラライは、アーシェラの求を察し、無防備にを曬した。

「お好きにどうぞ、アーシェラ」

「話が早くて助かるよ」

アーシェラは彼の元に手をばすと、荒々しく服を剝ぎ取る。

それからしばらくの間、部屋からは2人の甘い聲がれ出していた。

◇◇◇

事を終えたアーシェラとラライラライは――と言ってもまだアーシェラの方は満足していなかったが――汗を流すためシャワールームへとやって來た。

もちろん、使うのは一部屋だけだ。

狹い個室にを著させながらり込み、抱き合い、本來の目的も忘れて激しくを重ねる。

肝心の肢はりガラスに遮られて見えないが、誰かがシャワールームにった來たら、口の隙間かられる水音とぎ聲ですぐに2人の関係はバレてしまうだろう。

もっとも、それを気にするラライラライではないし、人間をやめたアーシェラもそのようなモラルは持ち合わせていなかったが。

「んちゅ、ちゅぅ……はふっ、れちゅ……っ」

「じゅるっ、ちゅ……んんっ、ぅ、は……ふ、んくっ」

「ふはぁっ！　ん……あぁ……はぁ……ねえ、アーシェラ……」

「どうしたの、あたいはまだし足りないんだけど」

「待って、わたくしはもう限界ですわ」

「えぇ？　男を相手にしてた時は、何日ぶっ通しでも平気な顔をしてたくせにね」

騎士なだけあって、2人の力は底なしだ。

それは男間の事においても憾なく発揮された。

だが今の彼はどうだ、ただキスをされただけで顔を真っ赤にして、息を切らしているではないか。

「もしかして、あたいとするのは嫌だったとか？」

アーシェラが意地悪に耳元でそう囁く。

「ち、違いますっ！　それだけはありませんわ！　喧嘩ばかりしていたアーシェラとし合えるだなんて、今日ほど嬉しい日はありませんでしたもの！」

「だったらどうして？」

「それが……わたくしにもわからなくて。どういうわけか、アーシェラ相手だといつものように行かないのです」

「……じゃ、仕方ないな。今日の所はここまでってことで。続きは明日にしよっか」

「明日も、するのですか？」

「嫌か？」

問いかけに、ラライラライはふるふると首を左右に振る。

場馴れしているはずの彼らしくない仕草に、アーシェラは口元に手を當ててくすりと笑った。

◇◇◇

「それで、今日は私の部屋に來たんだ」

「そうじゃなくても來るつもりだったんだよ。言ったろ？　あたいはもう、ミヤコ無しじゃ生きていけないって」

ここは都の自室。

一兵士と言うことになっている彼に、本來自室なるものは與えられないはずなのだが、現在城の全てを掌握している千草の計らいによってプライベートのスペースが與えられている。

贔屓というわけではなく、騎士を墮とす時に必要になるかもしれない、という判斷だ。

ラライラライと別れたアーシェラは、すぐさまこの部屋にやってきて、都に抱きついた。

朝から夕方まで続けて別のとを重ねておいて、まだまだ”足りない”と主張している。

「アーシェラが積極的すぎて、私のが持たないかもー」

「噓つけ、んなの匂いプンプンさせておいて何言ってんだか」

「あ、バレた？　晝も楽しかったよ、ラライラライが墮ちたら一緒にアーシェラも來なよ」

「ああ、そうするよ」

ベッドに腰掛ける都と、その膝の上に、向かい合う形で座るアーシェラ。

彼は都を見下ろしながら、じっと見つめ合う。

赤い視線が絡み合い、2人の気分は高まっていく。

自然と顔が近づき、艶やかな紅のリップを押し付け合った。

ラライラライの時とは違い、最初はゆったりとをこすり合わせ、次はしだけ舌を突き出して、先端をれ合わせる。

まるで人同士がじゃれあうように、焦れったさを楽しみながら、しずつ合は深まっていった。

位置はアーシェラの方が上、つまり分泌された唾は、自然と都の方へと流れ込んでいく。

舌を伝って注がれるおしい人のを、都はじっくりと味わって、転がしてから、しずつ嚥下した。

甘くて、まずい薬でも使ったみたいにくらくらする、が熱い。

それを自分だけが味わうのは忍びないので、あとで場所を変えてアーシェラにも楽しんでもらおう、都はそう決意した。

けど今は、されるがまま、ネコの狀態を楽しむ。

「あふ……ん、ぺちゃ……はぷ……ん、んー……っ」

最後に軽くアーシェラの舌を吸うと、2人は”ちゅぱっ”と音を出しながらを離した。

「今日はゆったりいちゃいちゃな気分？」

「激しいのはラライラライで満喫したからな」

「そっかあ、激しかったんだ。確かに、口の中にもいつものアーシェラ以外が混じってたもんね、あれがラライラライの味なんだ」

都はに人差し指を當てながら、うっとりと言った。

「間接的にじゃなくて、都だって直接味わったらいいだろ？」

「まだ早いよ、そこまで魅了は進んでないんでしょ？」

「まあな、でもあっという間だと思うし――」

「思うし？」

「たぶん、面白いものが見れるんじゃないかな」

今日、ラライラライはアーシェラとを重ねるたびに、恥心を強くしていった。

彼自、そのことに戸っていたようで、シャワールームでのやり取りがぎこちなかったのはその影響だろう。

なぜ後になるほど恥じらったのか。

それはおそらく――アーシェラによる魅了が進行したからだ、と思われる。

「ま、楽しみにしててくれよ」

「うん、ラライラライのことも、今からアーシェラが私にどんなことをしてくれるのかも、楽しみにしてるから」

◇◇◇

翌朝、アーシェラは早速ラライラライの部屋を訪れた。

一晩経っても、彼の様子は変わらない。

「確かに來るとは言っていましたが、こんなに朝早くからなのですね……」

「問題あるのか？」

「い、いえ、もちろん大丈夫ですよ。さあ、早く部屋にってください」

いつものラライラライなら、いつ相手が來ても、喜んでけれるはずなのだ。

だというのに、なぜか今は困していた。

それはとても単純な理屈。

けれど彼は知らない、なぜなら彼が生まれ育ってきた環境は、あまりに歪んでいたから。

2人はまず、ベッドに隣り合わせで座った。

ラライラライは太ももの上にゆるく握った手を置いて、張した面持ちでじっと固まっている。

アーシェラがそんな彼の腰に手を回すと、目を大きく開いてぴくんと反応した。

「どうしたんだよ、なんか様子がおかしいぞ？」

「そうでしょうか……」

「誰がどう見てもそう思うだろうさ、調でも崩したのか？」

「いえ、それはありません」

言いながら、ラライラライは手を元までかし、拳にきゅっと力を込めた。

「じゃあこっち向いてくれよ、キスもできないだろ？」

「あ、はい……」

ゆっくりと2人の顔は向き合う、だが視線は微妙にずれている。

ラライラライが、アーシェラの顔を見ようとしないのだ。

顔を真っ赤にしたまま、下を噛み締めて、をこまらせている。

まるで初に戸う清廉な乙のようだ。

「なあラライラライ、あんたはあたいのこと好きかい？」

「それはもちろんですっ、していますよ」

「それは、他の連中と同じように？」

「もちろんです、わたくしは全ての人間をし慈しんでいますから」

「そっか、あたいもあんたのこと好きだよ。でもさ――あたいと一緒に居ると、他の人間とは何か違う、って思ったりはしない？」

人間が、生きとし生ける全ての人間を平等にせる、などということがありえるだろうか。

アーシェラは思う。

もそそんな人間が存在していたとしても、それはきっと、””などではないはずだ、と。

「まさかアーシェラ、わたくしに何かしたのですか！？　おかしいと思ったのです、あなたと居るとが痛くて苦しくて……まさか、毒の類では！？」

「ふ……くく、あはははははははははっ！」

「な、なにを……なぜ、笑っているのですか？」

「だってさ、そりゃ……ふふっ、笑うに決まってんじゃん、子供みたいなこと言っちゃってさ」

「子供のようなことなど、私は――」

ラライラライはおそらく、を知らず、も知らない。

母親が失った家族は、い彼にその代役を押し付けた。

父親はのはけ口としてラライラライを使い、兄はまるで子供のように甘える。

そして苦痛に泣きび、必死に拒むと、父は彼にこう言ったのだ。

『これがだよ、ラライラライ。人間同士がし合うのは悪いことかい？　違うだろう？』

その瞬間、間違った価値観は誕生し、焼印のように彼の魂に刻み込まれた。

兄が長すると、父と同じくの発散をせがんでくるようになった。

すっかり使われる事に慣れてしまったいラライラライは、その要求をあっさりとけれる。

価値観はさらに歪んだ。

その後、彼が家族を失った経緯は明らかになっていない。

10代のラライラライが軍にった時には、すでに二度の墮胎を経験していた。

元より男好みのをしていた彼は、軍にると數多の兵士からいをけ、その全てをけれた。

『あいつは頼めばやらせてくれる』という噂が広まると、さらに大勢の兵士が近づき、それらも全てけれた。

結果、騎士となり今日に至るまで、彼は軍にってから合計8度の墮胎を繰り返し、その度ににタトゥーを刻んできた。

それは紛れもなく、彼にとってはであった。

していた、されていた、だからし合っていたのだ。

父が教えてくれたのだから間違いない、ラライラライはそう信じて止まなかった。

もし――本気で彼にをした誰かが居たとして、きっと彼はその告白をけれるだろう。

だが、ラライラライに心は生まれない。

その先にある結果、つまりは””が過程を無視して刻み込まれているからだ。

ならば、彼にをさせるには、そしてを矯正して正しい形にするには、何が必要なのか。

薬、魔法、手、あるいは呪い。

人のを直接変える”何か”を使って、強制的に、力づくで正すしかないのだ。

そして今、アーシェラには彼を正すための手段がある。

「ねえラライラライ、あんたは知らないだろうけどさ、その気持ちをって言うんだよ」

「何を言っているのですか、このようなものがであるわけがありません！」

「言っとくけど、あたいは毒なんて仕掛けてないからね。それに、痛くて苦しくて……それでも、あたいから離れたいとは思わないんだろ？」

「それは……」

ラライラライは、アーシェラにを預けていた。

恥じらいながらも、むしろもっと近づきたいとがんでいるのだ。

「あんたの””は間違ってたのさ。いや、本當はわかってたんじゃないのかい？　都合の悪い事実から目を背けるために、言い訳をしてただけで」

「何のことです？」

「最初にあんたが父親に抱かれた時、きっと痛くて気持ち悪くて泣きんだはずだ」

「違う、そんなことはありませんわ、わたくしは最初からけれて、笑っていました！」

「んなこたぁありえないね。その年齢の子供が大人をけれたら、下手したら死ぬんだよ？　それを笑ってけれるなんて生まれつきの聖じゃないと出來っこない。それともあんたは、処の母親の脇の下からでも生まれてきたってのかい？」

「それでも……ごっ、むがっ！？」

抗議するラライラライの口を、キスで塞ぐ。

その度に、彼の記憶にかかった魔法は暴かれようとしていた。

都合よく改変された、父親に最初に犯された日の、真実の姿が脳裏に浮かび上がってくる。

「やめて……お願いですから、もう、これ以上はっ」

「だったらあたいを突き放しな」

「出來ませんっ！」

「どうしてだい？」

「それは……その、アーシェラが……好きだから、ですが」

いくら魅了されているとはいえ、あのラライラライがここまでいじらしくなるとは。

アーシェラは今すぐにでも押し倒して、熱く滾る劣をかき混ぜたかった。

けどまだだ、あとひと押し、彼の心のしがらみを壊すには――

「でも違う、違うのです、これがであるわけが、わたくしに間違いなどあるわけがっ……！」

「どうしてそこまで否定するんだか、もう楽になっちまえよ」

「出來るわけ、ありません！　だって、だってこれが間違いだって認めたら――わたくしが今までやってきたことは、無駄にしてきた命が、全て消えて無くなってしまうではないですか！」

に刻まれた胎児のタトゥー。

あれはラライラライに殘された最後の人間であり、罪悪の象徴でもあった。

そしてもう一つ、彼には正さねばならない歪みがある。

それは母親だ。

辛うじて優しい記憶は殘っているが、母親が死んだせいでラライラライは父親に代用品として使われるようになった。

母親への憎しみ――墮胎衝と、母親への憧れ――罪悪。

その源にあるものは、結局のところ、”の不足”である。

父親は彼をさず、母親は十分にせないまま逝ってしまった。

だから、自らがだと信じてきたがまやかしだと認めてしまった時、彼から全ては消え失せる。

い子供が1人、荒野に投げ出されるような不安――それに抗えるほど、ゼロになったラライラライは強くない。

「あんたが”全て”だと思ってるそれはね、本當は”重荷”なんだよ。捨てて初めて、見えてくるもんもあるんじゃないか」

「そんなもの、見なくてもいい」

「怖いの？」

「當たり前ですッ！　アーシェラとて、自分が戦う力を失ったら恐ろしいでしょう？　それと同じことではないのですか！？」

「そうだねえ、確かにそれは怖いけど、無くたって歩いていけるよ」

「どうやって、ですか？」

不安に瞳を潤ませるラライラライ。

アーシェラはそんな彼を、さらにぐっと引き寄せると、至近距離で瞳を見つめながら告げた。

「あたいがあんたを支えてあげる」

どくん、どくん、どくん。

ラライラライは、今までで一番が高鳴るのをじていた。

自然とが近づいていく。

心と心が繋がりあった時、そこには引力が生じる。

きっと、2人を引き寄せているのはそれだ。

仮にその引力が”魅了”という魔法によって作られたものだったとしても、天然だろうが人工だろうが本は本。

2つのは1つになり――ほの暖かならかいを味わいながら、ラライラライは直した。

きっとこれは、わたくしにとってのファーストキスで。

ああ、確かにこれは――なんだろうな、と。

認めてしまった瞬間、今まで彼を構してた”間違った”という要素は、いとも容易く瓦解していく。

強がるだけの力ももう殘っていない。

が離れた時、そこに居るのは、中もほぼ空っぽで、立ち上がることすら困難な”素”のラライラライだ。

辛うじて殘っているのは、正しく子供として育てられた、母が死ぬまでの時間に蓄えられた要素だけ。

だから、彼はした。

素直に、心からの求を、言葉にしてアーシェラに伝えたのだ。

「アーシェラ、わたくしを沢山していただけませんか？」

「そのつもりでここに來たんだけど」

「あと……出來れば、母のようにしていただけると、嬉しいです」

「そりゃ難しいリクエストだけど、でもしいラライラライのお願いだもんね、聞いてあげるよ」

アーシェラはラライラライの頭をに抱きしめると、そのまま2人はベッドに倒れ込んだ。

頭をでられると、母にそうされた時の記憶が蘇る。

――わたくしはずっと、これを求めていた。

ラライラライの口元が緩む。

そんな彼の姿を見て、アーシェラも母本能が湧き上がってきたのか、がきゅんと締め付けられていた。

ゆったりとした時間が過ぎていく。

まだラライラライは墮ちて居ないが――もはや結末が見えいていることは、誰の目に見ても明らかだった。