悪夢を見る。

中をぬめりとした異形が這いずる夢だ。

異形はやがてキシリーの口から側へと侵しようとするが、固く閉じられそれは葉わない。

だから他のを探した。

人間のというのは、自らの意志で閉じられるの方がない。

おぞましい流生を相手にした時は、あまりに無力だ。

侵された。

下半から顔面に至るまで、ありとあらゆるからにり込まれ、うねり、ふくらみ、吐き出す。

どれだけ外側からの刺激を遮斷しても、側から変えられてしまってはどうしようもない。

キシリーのは変えられていった。

細くしなやかに鍛えられた肢は、醜く膨らんだ化となり、人よりも自らを襲う異形と似た姿になる。

仲間だ。

お前は仲間だ。

耳でうねる異形が、繰り返し彼にそう囁いた。

キシリーは首を橫に振り、必死で抵抗する。

だが一方で、こうも思う。

もし彼のが魔法を拒絶しなければ、もし彼が普通の人間で鍛えられた神を持ち合わせていなかったら。

とっくに、楽になれていたのかもしれない、と。

そして異形の”本”がキシリーの眼前に現れ、こちらを覗き込む。

アーシェラにも見える、ラライラライにも見える、だが自分自にも見える。

そいつは自らの頭蓋をキシリーの口にツッコミ、無理やりの中にり込もうとした。

ゴギッ。

顎の骨が外れた。

ブチブチと頬のが斷裂する。

も避け、首から大量のが溢れた。

そしてヤツは心臓にまでり込むと、同化し、脈を始める。

は汚染、または置換される。

裂けた首から流れ出すが黒く淀んだ。

が、致命的に作り変えられていく。

それでも――キシリーのがじているのは痛みではなく、思わず恍惚としてしまうほどの、強い快で――

◇◇◇

――小鳥のさえずりで、目を覚ました。

酷い悪夢だ、まだ頭がガンガンと痛む。

あれだけ鮮明でリアルな夢を見たということは、脳が睡眠に墮ちきれていなかったのだ、さぞ淺い眠りだったのだろう。

キシリーは薄っすらと開いた瞳で窓の外を見た。

閉じられたカーテンの隙間から、太のが差し込んでいる。

朝がやってきた。

部屋には誰もいない。

酷い夢を見たせいか、今のキシリーは妙に傷的になっていて、ただそれだけのことが、無に嬉しかった。

出來ればもっとのを浴びたい。

そう思ってベッドから降り、立ち上がると――が、いつもより重いことに気がついた。

下を向くと、そこには見慣れないの塊があった。

橫を向き、姿見と向き合う。

そこに映る自分の姿は、およそ自分だと思えないほどふくよかで、らしく。

とても、”奴ら”が好みそうな形をしている。

「……っ、ぅ……」

キシリーはこみ上げる吐き気に、口を押さえながら洗面所に急いだ。

そして、臺に胃袋の中を一気に吐き出す。

昨日はほとんど食事を取っていないので、容はほぼ――彼・・のであるはずだ。

それが余計に、彼の悪寒を増幅させた。

キシリーは空吐きするまでそれを繰り返し、ようやく落ち著いた頃に、肩で息をしながら正面にある鏡で自らの顔を見た。

言うまでもなく顔は悪い。

それは大した問題ではないのだ。

だが、自分の手でると、その覚がある。

くすぐったいような、昨日の出來事を想起させる微かに甘い覚が。

口の中だって、ずっと無味無臭だったのに今は胃酸の味がする。

言うまでもなく、それはラライラライに作り変えられた影響だ。

「ううぅ……っ、く、ふううぅぅ……っ！」

キシリーは、これまで積み上げてきた実績によって、”自分は強い”と言う自信を持っていた。

的にも神的にも、與えらた命令は確実に遂行出來る、それだけの実力が自分にはあると自負していたのだ。

だが、常軌を逸した敵とぶつかった時、人間の想像の範囲にある自信など、容易く崩れてしまう。

ずっと、涙どころか、弱音すら許され無い場所で生きてきた。

親に甘やかされたこともない、だからきっと、まともに泣いたのは自分が生まれた瞬間ぐらいのものだ。

そんなキシリーは、今――正気のまま自分が変えられていく、そんな絶を前に、初めて涙を流していた。

頬を伝った雫は顎から滴り落ちる。

中にはを濡らすものもあった。

涙がしょっぱい。

その味をじてしまうということすら、絶の一端である。

キシリーは、洗面臺の縁に強く握った拳を置き、強く歯を食いしばって、うつむきながら、ひたすらに涙の雫を落とした。

「可哀想に、辛いことがあったのか？」

「……ッ！？」

気配は無かった。

だが突如聞こえた気配に反応して、眼前の鏡を見る。

すると自分の背後には、いつの間にかアーシェラが立っていた。

ぞわりと鳥が立つ。

おそらく”影”とやらを使って部屋に忍び込んだのだろう。

影は世界中どこにだって存在している、それをる力などもはや何でもアリだ。

反撃すべきだ、どのような狀況であってもそうできるよう鍛えられ、躾けられてきたはずだ。

だが――キシリーは反撃など無意味だと言うことを、すでにに教え込まれている。

アーシェラが、背中から優しく抱きしめた。

もはや、キシリーは抵抗の意思すら示さなかった。

「悲観する必要はない、前のよりずっと抱き心地がいいからな」

「そんなの、私はんでない……！」

「んでいないわけじゃないんだよ、知らなかったんだ。知れば誰でもむ、誰もがしがる、そういうもんだ」

アーシェラの甘い囁き。

キシリーは鏡越しに彼を睨みつけ、反論した。

「でも、私はそうは思ってない」

「先観のせいだな。確かに今の私は化だ、半吸鬼デミヴァンプだ。だが、そんなものはただの呼び方の違いだろう？」

「仲間を殺したくせによく言う」

「そんなの今更じゃないか、騎士なんてみんな人でなしの人殺しだ。あたいも、キシリーも。だったら、今更人間をやめたところで何が変わるって言うんだ？」

人殺しで、人でなし。

確かに騎士とは、そういう人間たちの集まりだ。

キシリーだって理解している、別に自分が彼たちの心への侵を拒んでいるのは、そんな理屈めいた理由からじゃない。

「そんなに意地を張るなら、また楽にしてやろうか？」

「やめてっ！」

「違う違う、今回はそこまでは・・・・・弄らない。ただ、ほんのしだけ、キシリーの嫌悪を取り除くだけだ」

「だからそれが……っ！」

アーシェラの手のひらがキシリーの目と額を覆い盡くす。

「（ああ、また――あれが――）」

くちゅっ。

頭の中で音がしたと思うと、キシリーのが、アーシェラの腕の中でびくんと震えた。

◇◇◇

「はぁ、っは……昨日、ラライラライにを変えてもらったの。それがっ、すごく、気持ちよくてっ。の中、ぐちゅぐちゅ、ってしてもらうのも良かったんだけどぉ、今も、こうやって抱き合ってるだけど……んあぁっ、はぁぅ……前と、全然、違うのっ！」

「そうか、今まで誰にられても何もじなかったんだもんなあ、夢中になる気持ちもよくわかる」

「うん、夢中なの。昨日の夜も、ずっと自分で自分のってて、それだけでも、すごかった、ん……っ、だけどぉ。やっぱり、アーシェラや、ラライラライにってもらった方が……ずっと、気持ちい……っ」

キシリーはベッドに腰掛けるアーシェラにしがみつきながら、その耳元で、今のがどれだけ素晴らしいものか熱弁していた。

そうしている間も、をこすりつけることは忘れない。

満な同士を押し付けあい、変形させる度にキシリーは「っは、ぁ」とった吐息を吐き出す。

そんな彼を抱きしめるアーシェラは、優しく微笑みながら、頭や腰、そして時折部をでていた。

れられている方も、その手のにうっとりとしている。

「んっ、んっ、んうぅっ。っはぁ……あぁ、なんで、こんなに幸せなのに、私……っ、嫌がってたんだろぉ……っ」

「ほんのし先観を取り除いてやるだけでこの通りだ、人間ってのはつくづく面倒な生きだって思うよ」

「ありがと、アーシェラぁっ。私、こっちの方が、ずっと、いいっ！」

「そうだろう？　あたいもそっちのキシリーの方が好きだよ」

「嬉しいっ、私も、好き……っ、んあぁっ……！」

アーシェラの膝の上で、いが上下に揺れている。

キシリーはそれを続けるだけでも十分満足だったが、そろそろアーシェラの方もより強い刺激がしくなってきたようだ。

肩に手を置くと、しの距離を離してから、だらしない表のキシリーと向き合う。

そして口を開いて顔を近づけると――彼も自然と口を開き、うように舌を見せびらかした。

最初は舌先同士をれさせ、じゃれあうように絡める。

ったそれが當たる度に、ぺちゃ、ぴちゃ、と軽めの水音が響いた。

それだけで我慢できなくなると、アーシェラはさらに深く相手の舌を舐りはじめ、やがて口を重ねて頬の側の粘をこそぎ落とすようにした。

「はおっ……お、ふ……ん、ふぅっ……」

奧にまで屆くアーシェラの熱のこもったキスに、キシリーは必死で鼻で呼吸しながら対応する。

「（気持ちいい、いいよぉ……アーシェラ、もっと……もっと奧、奧にぃっ……！）」

キシリーがそうむと、アーシェラはまるで心の聲を聞き屆けたかのように、さらにの奧へと舌を挿し込んだ。

「んごっ、おおぉおっ！？」

奧へ、奧へ――人間では到底屆くはずのない場所まで、ずるりずるりとアーシェラはり込んでいく。

影でただの人間であるキシリーのを変えられたのだ、アーシェラ自が変えられない道理は無い。

彼は力を使って、舌をばしていた。

今はまだ咽頭で屆く程度だが、まだまだ人外のは変貌していく。

「おっ、おおっ、ん、ほごっ、おおぉっ！」

にゅるりと食道を通り、の味を確かめながら、アーシェラの舌は潛り込んでいく。

を塞がれ呼吸はできなかったが、不思議と苦しさはじなかった。

ただただ、自分のに大好きな人がってきている、その幸せと快楽で頭の中がいっぱいになっている。

だが聲は、微かに空いた隙間から発されているため、くぐもったような、かすれたような、奇妙な音になっていた。

「んおぉぉおおおぉおっ！」

そしてついに食道を通り抜け、胃袋にまで到達すると、キシリーはひときわ大きく吠え、を仰け反らせる。

すると同時にアーシェラの舌がずるりと食道の半ばまで引き抜かれ、自分のの側がり上げる覚に、キシリーは目の前がチカチカするほどの強烈な悅びをじていた。

そしての痙攣が落ち著くと、再び舌は奧へとり込んでいき、胃の中をき回る。

キシリーはなすがままにを預けながらも、自分の口いっぱいに溢れているぬめったの塊を、健気に舌で舐めていた。

臓をでられるという異様な狀況にも、先観・・・を削ぎ落とされた彼はじない。

むしろ、人間であったら絶対に不可能な行為に、”自分はされているんだ”という思考を深めていった。

「（いっぱい……いっぱいぃ……アーシェラが、私の、中ぁ……っ。ずっと、吐いてるみたいなのに……それが、いいっ……の……）」

アーシェラの舌は更にび、胃のスペースを全て埋め盡くしつつあった。

キシリーのお腹はぽこりと膨らみ、その中を満たすものが蠢くたびに連してく。

側も、外側も、全てをアーシェラに満たされていた。

五全てが、彼に支配されている。

命令を遂行し、それに応じた報酬をけ取る。

それこそがキシリーにとっての至上の幸せだった。

だが、これは――無償で與えられる、曰くと呼ばれるこれまでの価値観とは明らかに隔絶した、全を包み込む幸福は――今までの人生全てが間違いだったと、快楽によって思い知らされる。

人外にをやつせば、これがいつでも手にる。

そして、これを與えてくれる誰かにも、同じようなものが與えられる。

確かに、だ。

人には実現不可能な領域にある、あまりにも偉大なる、だ。

知ったら、誰だって、溺れたくもなる。

「ふ、ふごっ……が、うぅ……んぉ……おおぉん……っ」

獣のような聲を出すキシリーを見て、アーシェラは頃合い・・・だと悟った。

自らのを変えてまで相手に奉仕をするのは初めてだったが、それでも、どうしたら一番気持ちよく出來るかは想像が付く。

その想像どおりに――アーシェラは、キシリーのを満たす舌を一気に引き抜いた。

「か、ひゃっ！？　んごぉっ、おごおぉぉぉおっ、んおぉぉおっ、おおぉぉぉおおぉぉおおおおおっ！？」

ズルズルズルズルゥッ！

これまでとは比べにならない衝撃に、キシリーの眼球がぐるりと上を向いた。

脳でバチバチと電流が流れ、それに反応しても力した狀態で痙攣する。

大量の唾を口元から撒き散らしながら、永遠とも思えるほど長い時間、胃袋を、食道を、そしてをり上げられ、彼は幸福の頂きへと上り詰めていた。

全て引き抜かれたあとも彼の痙攣は収まらず、口元をどちらのかわからない唾でべったりと濡らし、を半開きにしながら、放心狀態となっている。

アーシェラに支えられていなければ、とっくに崩れ落ちていただろう。

「（が……すーすーする……いない……アーシェラが、いない……また、埋めてしい……よ）」

キシリーは奇跡的に気絶していなかった。

あれほど強烈な覚を脳に叩き込まれれば、意識を失うか、あるいはとっくに壊れていてもおかしくはないというのに。

騎士に選ばれるほどの強さがあるからこそだ。

それでも――もし彼が”先観”を取り戻したとしても、先程の覚は一生刻まれたままであろうが。

「じゅる……っ、人間は……ほんと、不思議だねえ。こんなに気持ちいいのに、なんで”人間じゃないから”って理由だけで拒むんだか」

「うん……ふしぎぃ、にんげんより、ずぅっと、いいのに……」

「それを理解してるキシリーはいい子だねえ。ご褒だ、同じようにしてあげるよ」

アーシェラはキシリーの口の中に指を突っ込むと、彼の舌をつまんだ。

そしてそのまま、力任せに一気に引き抜く。

「はごおォォおおっ！」

ずるぅっ、とキシリーの舌がびていく。

服を唾で濡らす彼の舌の先端は、へそのあたりでぷらぷらと揺れていた。

「おぉ……うひょ……ひゃひ……ひょれ……」

舌がびているせいでうまく喋ることが出來ない。

だが、どうせすぐに喋らなくなるのだから構いやしない。

し合う2人には必要最低限の意思疎通さえあれば十分なのだ。

なにせ、最も重要な――”しあっている”と言うお互いのは、疑う余地もないのだから。

そしてアーシェラは自らも同じ長さにまで舌をばすと、大量の唾を滴らせるそれをれ合わせ、絡めだす。

意図を察したキシリーも、自ら相手の舌に巻きつけ始めた。

2人の口からびた手は、編むようにわりうねる。

「は、あふ……ふぁっ、んうぅ……っ」

「へっ、へぇっ……お、おぉ……えぅ、ぅ……ん」

べちゃ、にちゃ、と言う粘質な音と、相手の甘い聲だけが聴覚を埋め盡くしている。

あたりで絡み合っていた2人の舌はしずつ上へと移していき、やがて互いの口でもごもごと蠢きはじめ、そして先程アーシェラがそうしたように、キシリーは相手の奧へと舌を挿していった。

負けじとアーシェラも、再びキシリーのに舌を埋沒させていく。

「んごっ、おごっ」と苦しげな聲にも聞こえるぎをあげながら、ししょっぱい食道の味を楽しむキシリー。

その後、胃まで満たすと、今度は2人同時に一気に引き抜いて、同じ快を共有して、心を繋がりを深める。

落ち著いたらまた舌を絡めて、奧まで沈めて、引き抜き。

何度も何度もそれを繰り返して、顔が唾でべとべとになったって、むしろその匂いや味が興を高める。

好きだとか、してるだとか、數え切れないほど口にした。

それでも足りなかった。

その瞬間、2人は確かに、世界中の人間が誰も到達できない領域まで深く深くし合っていたからだ。

相手ので、臓を満たす。

そんなし方が、人間に出來るものか、と。

◇◇◇

それから、キシリーが力を使い果たし眠り、目を覚ますと――眠っている間ずっと抱きしめていたらしいアーシェラの姿が視界にった。

”先観”は、すでに元に戻っていた。

正常な価値観を取り戻したキシリーは、自分が何をしたのか全て思い出し、そして口のから変えられたがそのままであることを悟ると、抱きついたまま嘔吐した。

口から溢れるのは自らが飲み込んだアーシェラのだけだったし、それがを通り過ぎる覚すら気持ちよくて、もう後戻り出來ないと思い知らされる。

吐いて、泣いて、心が折れて。

それでも”正常さ”にこだわる自分の中の人間に辟易した彼は、アーシェラの耳元でつぶやいた。

「私を……壊して。元に、戻らないようにして……」

その懇願に、アーシェラはこう答えた。

「壊れるんじゃない、を知るだけさ。そして正しい形になるんだ」

「それでもいい。だから……お願い」

ぎゅっと抱きつくキシリー。

それから、彼の部屋から響いたおよそ人間のものとは思えない聲は、だが――唯一この城においてまともな人間である彼にも、彼にも屆くことはなく。

みどおりである。

心は壊され、隙間にを注ぎ込まれ、都合の良い形になるまで形されて。

心の底から半吸鬼デミヴァンプという存在をけれるようになるまで、合は続いたのだった。