《異世界で吸鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》46 ラスト・エスケープ
哀れなどと今更言われたところで――リリィはすでに言われ飽きていた。
例えばカミラも、きっと同じように彼のことを思っていたはずだ。
そして自もそう思っている。
哀れである。
どれだけ理想を追い求めた所で、そこに自分の幸福など無いと言うのに。
國のため、王のため、両親のため。
つまり自分のみを何も持たぬ彼を見て、誰もがそう思うのだ。
「そうだ、哀れだよ私は……だが、これまでの人生を無駄にしないためにも、今更後戻りなどできんさ」
サーラの部屋に向かって駆けながら、リリィはそう自嘲した。
しかし、ここまで1人も兵とすれ違わないとは、さすがに妙だ。
マディスの言っていた通り、兵がになった時點で、すでにこの城が占領されたも同然だったのだとするのなら。
誰の姿も見えないこの城の狀況も、吸鬼たちの作戦のうち、ということなのだろう。
「そう言えば、兵といえばグラスもそうだったのか。ああ、どうりで馴染みのある覚を覚えたわけだ」
彼の頭に浮かぶのは、黒髪のしい兵のことだ。
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もちろんグラス――すなわち千草の中に、カミラからけ継いだ力があることをリリィは知らない。
だから彼は、千草と出會ったときにじた懐かしさを、”同じ種族だから”という理由で納得することにした。
特に障害も無く、リリィはあっという間にサーラの部屋にたどり著く。
急時だ、ノックは不要だろう。
暴にドアを開けると、窓の近くで退屈そうに外を見ていた彼は、驚いた表でリリィの方を見た。
「なっ――ノックもしないでいきなりどうしたです?」
説明をしている暇はない。
リリィは大でサーラに近づき、その手を取った。
「今は何も聞かずに付いてきてください」
「……わ、わかったのです。すぐに理由は説明してくれるのですね?」
無言で頷く。
そして彼を一旦窓の側から退かし、リリィは剣を抜いた。
彼とて人の域を出られないだけで、剣の腕は達人と呼ばれる領域程度には達している。
リリィはサーラからは視認することが出來ないほどの速度で剣を振るい、窓を破壊する。
「ここから出るのですか?」
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あえて言葉では答えない、返事は首肯だけだ。
リリィはサーラのを抱き上げて、迷いなく窓から飛び降りた。
「ひゃあぁぁああああぁぁっ!?」
ここは城の3階、普通の人間であれば死んでいてもおかしくない高さだし、ましてや軽裝とは言え鎧を纏い、あまつさえ人間1人を抱えた狀態でば即死は免れない。
サーラの絶も仕方のないことだ。
しかし、リリィは両足でしっかりと著地する。
さらには、特に怪我もない様子で駆け出した。
「し、心臓に悪いです……」
「申し訳ありません、姫様。ですがもうしだけ我慢してくださいね」
まずは第一に、城から離れなければならない。
その後のことは、安全域まで逃げ切ってからだ。
リリィは城を囲む堀を飛び越え、城下町へと向かい、人通りのない道を選んでまずは廃棄街を目指した。
普段は絶対に使うことのない、廃れた路地裏を走り抜けていくリリィと、その腕に抱えられたサーラ。
サーラは頃合いだと思ったのか、おずおずとリリィに尋ねた。
「なぜ、城から逃げなければならなかったのです?」
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リリィは躊躇った。
ここで彼に、父親の死を伝える必要があるのか、そんな葛藤があったのだ。
だが、隠していたっていつかは気づかれる。
ならば、一刻でも早く傷が癒えるよう、今のうちに伝えておくべきだろう。
「城はすでに吸鬼に占領されています。騎士団は私を除いて全滅、王もすでに死んでいる可能が高いのです」
「そんな、騎士団が!? それに父様も死んでいるなんて……」
サーラは驚きはしたが、さほどショックをけている様子ではなかった。
彼は、王から父親としてのを注がれたことはなかった。
ただ同じ建に住んでいるだけの他人と言っても良い。
どんなにのつながりがあったとしても、関係構築を放棄してしまえば、死んでもこの程度のリアクションしか出てこないのだろう。
「まさか、カミラが?」
「そんなはずはありません。彼は私が間違いなく殺しましたから」
「……そう、でしたね」
自分を人外に変えようとした忌むべき存在であるにもかかわらず、サーラはカミラをさほど嫌っていない様子だった。
それが余計に、リリィの心を揺さぶるのだ。
やはりカミラを斬ったことは、間違いだったのではないか、と。
◇◇◇
リリィが先の道に誰も居ないことを確認すると、後ろで待つサーラに合図を送った。
同時に駆け出し、次の角へと移する。
それを繰り返し、2人は確実に廃棄街へと近づいていた。
だがその道中、リリィは街に起きた異変に気づいてしまう。
「もしや、ここもなのか」
「どうかしたのです?」
「考えすぎだと思いたいのですが、どうやらそうも行かないようです」
ここまで見かけた人間は、全てだった。
路地裏から大通りの方を覗き見た時も、歩いているのは全員が。
いくら平日の晝間で、男が働いている時間だったとしても、これは異常だ。
まるで城の兵たちと同じではないか。
「おそらく、街の人間もすでに吸鬼化しているのではないかと」
「全員が、です?」
リリィが首を縦に振ると、サーラは青ざめた。
城どころか、王國最大の町がすでに人外の輩に占拠されている。
それは國家を揺るがす一大事である。
「でも、吸鬼なのに平気で晝間も出歩いているのはおかしいのです!」
「見た目もカミラとは違い、ひと目で吸鬼だとはわかりません。おそらくは――新種か、あるいは進化したのか」
「そんなの、相手にして勝てるのです?」
「とりあえず見つからないように進むしかありません。確かこの先に、廃棄街につながっているがあったはずです、まずはそこまで急ぎましょう」
ペースを早め、サーラが付いてこれるギリギリの速度で進行する。
そうしてたどり著いたのは、かつて千草とエリスが廃棄街から城下町へと移するために使った、あのだった。
先にリリィが四つん這いになって通り抜け、廃棄街側の安全を確かめると、サーラを呼び寄せる。
もちろんの大きさが違うので、サーラの方はあっさりと抜けることが出來た。
そして真っ先に姫のスカートに付いた砂を払うリリィを見て、「こんな時まで気にしないでいいのです」とサーラは苦笑いを浮かべる。
確かに、これから町を出て逃避行だというのに、いちいち汚れた程度で気にしていたは時間がもったいない。
ひとまず無事に城下町を出でき、安堵した2人は、周囲の探索を始めた。
廃棄街の人口はそうなくはない。
だが城下町と違って、こちらでは出歩くの姿すら見かけることはなかった。
「誰もいないのです?」
サーラは不安げにリリィの手を握っている。
元々獨特の雰囲気を放つ場所ではあったが、無人だとまた異なった趣の不気味さがあった。
「もしかすると彼たちは、廃棄街に居た人間も全て城下町に住まわせているのかもしれません」
「そうなのですか」
「あのアーシェラとラライラライが、吸鬼になったことで親しくなるほどですから。そういった習を持つ生きなのでしょう」
「それは……悪いことなのです?」
それは子供らしい、純粋な疑問だった。
リリィは答えに詰まる。
それは彼自もし前に通り過ぎた道であり、なおかつ今でも答えが見つけ出せていない問いだ。
「今はとにかく進みましょう、考えていても埒が明きません」
「……わかったのです」
し強めに手を握って、リリィはサーラの手を引いた。
そして無人の廃棄街を、さらに町の外へ繋がる””を探して進んでいく。
かつては沢山の人が住んでいたであろう、様々な廃材を重ねて作られた巨大な建造も、今ではもぬけの殻だ。
せいぜい蟲やネズミが住み著いているぐらいで、人の聲は聞こえてこない。
がらんどうを呆然と見上げていたリリィの太ももを、サーラが指でつついた。
そちらに視線を向けると、彼は見惚れてしまうほどまっすぐにつぶらな瞳を向けて、口を開く。
「吸鬼にしか居ないことはなんとなくわかるのですが、それでは男はどこに行ってしまったのです?」
確かに、この町にはとほぼ同數の男が居たはずだ。
それらはどこに行ったのだろうか。
リリィはマディスの末路を思い出す。
死を弄ばれ、自ら死をんだ彼は、こう言っていたはずである。
『あいつら、ボクも含めて男のことを微塵も”生命”だとは思ってないみたいでさ』
だとすれば、すでに殺されていると考えるのが妥當だが――
「あとリリィ、さっきからあっちの方角で変な匂いがするのです」
「どちらですか?」
サーラの鼻は敏なのか、リリィでは嗅げない匂いも知しているらしい。
2人はその匂いの方向へ向かって歩き出した。
最優先事項は出だが、消えた男たちの行く末も同じぐらい気になっていたのである。
サーラの覚に導かれて移すると、徐々にリリィもその”臭気”を嗅ぎ取れるようになっていた。
確かに、風に乗って生臭い匂いが流れてきている。
しかもこの方角は確か、城下町で出たゴミを集めていた、ゴミ山のある向きではなかったか。
「酷い匂いなのです、一何が……もごっ!?」
「シッ、靜かに。誰かいます」
リリィはサーラの口を手で塞いだ。
そしてにを隠し、鋭い眼差しで山へと向かう人影を見つめる。
そのは、男の死らしきを引きずりながら、ゴミ山へと向かっていた。
「姫様、可能な限り足音を小さくしてついてきてください」
「わ、わかったのです」
小聲でそう言いわすと、2人はの後をつけた。
彼は鼻歌など歌いながら、上機嫌に歩いている。
引きずられている男の年齢は、20代だろうか。
おそらくと同じぐらいだろう。
そして左手の薬指に指を付けていた。
既婚者――ひょっとするとの夫だったのかもしれない、そんな考えがリリィの脳裏をよぎった。
やがて目的地・・・に到達した彼は、男の死を暴に投げ捨てた。
「ひっ!?」
「っ、姫様!」
それ・・を見た瞬間、思わずサーラは恐怖に聲を引きつらせた。
その音に反応して、が2人の方を振り返る。
「誰かいるのー? 隠れてるってことは、人間?」
間違いない、彼は吸鬼だ。
だがもう気づかれてしまった以上、隠れ続けるのは難しい。
リリィは剣を抜き、あえてを曬した。
いざという時は、サーラひとりでも逃げられるように、囮になるつもりだったのだ。
「うわ、騎士団長様じゃん! こんなとこで會えるなんてラッキー! 見たところまだ半吸鬼デミヴァンプにはなってないんだね。ってことは、もしかして町から逃げてるの?」
「馴れ馴れしいな」
「だって、別に騎士団長様をどうこうするつもりは無いもん」
彼の言う通り、敵意はじられない。
もし本當に、殺すつもりが無いというのなら、ここで敵対するのは悪手かもしれない。
なぜなら、リリィには勝てるという確証が無いからだ。
化と會話をわすというだけでも屈辱的ではあるが、実利を取って、まずは剣を収めた。
「聞いてもいいか?」
「うんうん、なんでもいいよっ」
「これは……何だ? 何の目的があって、こんなことしている?」
「何って――」
はちらりと山の方を振り返って、笑いながら言った。
「男の死って邪魔じゃん、臭いし汚いし。他の魔と違って私たちは死を食べるわけでもないから、どこかに処理場作っておかないと溢れちゃうの。だからこうして、山にしてるってわけ」
言葉から一切の悪気はじられなかった。
マディスの言う通り、彼たちは男を命として認識していないのだ。
ゴミ程度にしか考えていない。
だから、始末した死を廃棄街に投げ捨て、山のように積み上げる――このようなことが出來てしまう。
「さっき捨てたの、それはお前の夫じゃないのか?」
「元夫ね、今はもっと好きな人が居るから。って言うか夫だったってことも思い出したくないかな、元々お見合い結婚で、好きでも何でも無かったし」
「やはりそうだ……」
「何が?」
「私にはそれが、正しい価値観だとは思えないと言っているんだ! 間違っているものか、間違ってたまるものか……!」
「よくわかんないけど、でも騎士団長様は、不幸そうだよね」
「だからどうした」
「私は幸せだよ。ううん、私だけじゃない、みんな幸せ。人間を捨てて半吸鬼デミヴァンプだらけになった世界には、今まで無かった笑顔が溢れてる」
「だから、どうしたと言っている!」
「それって……そんなに悪いことなのかな」
まるでサーラが先程リリィに尋ねたように、彼は言った。
リリィを苦悩させる問いの答えは、”間違っていない”と斷言しながらも、まだ見えてこない。
正しいと言い切れる選択はそこにあるはずなのに。
それはなぜか――簡単なことだ。
選び続け、貫いても、リリィに幸福は訪れない。
「騎士団長様も早く諦めなよ、そしたらきっとわかるよ。それが笑っちゃうぐらい無駄なものだった、ってことに」
そう言って、は去っていった。
死の山の前に1人立ち盡くし、俯くリリィ。
サーラは恐怖に竦むでしずつ彼に近づき、そして後ろから抱きしめた。
「姫様……」
「こんなところ、早く出た方が良いのです」
「そう、ですね」
「行くのです、遠くに。リリィがむ、まだ人間が無事でいられる場所へ」
リリィは頷きながらも、渦巻く疑念を消せないでいた。
人が無事で居られる場所はあるかもしれない。
だが――自分がむ場所など、この世のどこに存在するというのだろう。
人類最後の発明品は超知能AGIでした
「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
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