《異世界で鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》48 エゴイスティック・ジャスティス

グラヴァードへの道のりにおいては、本來野宿など必要は無かった。

徒歩でも行ける範囲に町があったし、整備された街道も繋がっているからだ。

だが、吸鬼に支配された町を出したリリィは、以降、人里に寄り付こうとはしなかった。

行く先々で、自分のせいで・・・・・犠牲になってしまう人間を出したくなかったのだろう。

もっとも、彼が行こうが行くまいが、やがてこの國は吸鬼に支配される運命にあり、そして彼もそれを理解はしていたのだが――要するに悪あがきだ、見さえしなければ現実は確定しないのだから。

膝を立て、その上に手を置きながら、じっとリリィは揺れる炎を見つめていた。

パチパチと火花が散り、薄暗い森の中を照らす。

サーラはそんな彼に寄り添って、うつらうつらと頭を揺らしていた。

そして眠気の重力に耐えきれなくなった瞳は閉じられ、眠りに落ちる。

「疲れるのも當然か。せめて夢見ぐらいは良いと助かるんだが」

そう言いながら、微かな寢息をたてながら彼を見て、リリィは微笑んだ。

悪夢のような景を見たばかりだ、神的にも、そして的も疲弊しているはず。

いやむしろ、夢など見ない方がいいのかもしれない。

深い眠りに沈み、気づけば目が覚めている方が。

Advertisement

夢から覚めたまま刻々と過ぎゆく時間は、リリィの神すらも確実に削っていく。

サーラに耐えきれるとは思えない。

「かと言って私に耐えきれるとは限らないが」

むしろ覚が鋭敏な分、リリィの方が辛いかもしれない。

「ああ、わかってるさ、わかってるんだよ。どうせ今も見ているんだろう? 私をずっと、遠くか近くか知らないが、とにかく手の屆く場所からじっと、心が折れるときを今か今かと待ちわびて!」

靜かな森に、彼の聲が響き渡る。

もちろん、返事はない。

それでも確実に、彼の研ぎ澄まされた覚は、こちらを覗き込む異形の存在を捉えていた。

眠れない。

眠れるものか。

見知らぬ土地、見知らぬ森の中で、リリィはひとり、長い長い夜を過ごす。

◇◇◇

その後も、リリィは町に立ち寄るのは最低限に留めた。

資が盡き、やむを得ず商店を利用する必要に迫られた時も、店員がの店は利用しなかった。

そういった彼の行は、サーラから見ると病的にも見えた。

「あの……リリィ」

グラヴァードへの道のりの半分ほどが過ぎた頃だったろうか。

街道を歩きながら、サーラは恐る恐るリリィに話しかけた。

ここ最近は會話もめっきり減って、2人の間に距離が開きつつあったのだ。

無論、原因の大半はリリィにあった。

Advertisement

は王都を出てから一睡もしておらず、食事もまともにとっていない。

普通の人間ならとっくに倒れているはずだ。

それでも活を続けられるのは、騎士として鍛えられた強靭ながあるからこそなのだが――

「ねえ、リリィ」

――返事は無い。

はひたすら何かをぶつぶつと呟き、ひたすらに前に進み続けていた。

サーラの聲は聞こえていないようだ。

どんなに鍛えられていても、しょせんは人間。限界はある。

リリィはも心も限界を迎え、崩壊する直前だった。

それを最も如実に表しているのは、彼の表だ。

見開かれ、瞬きすら忘れ、走った目。

痩せこけたように見えるほど、青ざめた顔

笑っているかのように引きつった頬の筋

その有様は、まるで斷癥狀に苦しむ麻薬中毒者のようではないか。

常に見張られている、いつ襲われるかわからない、味方など誰もいない。

そんな思い込みが、彼を追い詰める。

いや、あながちそうとも言い切れないのだが。

しかし自分をすり減らすだけの強迫観念めいた思考など、言うまでもなく邪魔なだけである。

冷靜沈著な普段通りの彼なら、”考えるだけ無駄だ”とあっさり切り捨てて見せたはずだ。

それが出來ないのは、現狀が異常だから。

そして、カミラのみならず、出會う吸鬼全てに自分の価値観が否定されているような気がしたから。

Advertisement

「私は……間違っていない。正しいんだ、正義は勝つ、正しさは証明される。必ず、必ずグラヴァードへさえたどり著ければ……」

「リリィ……」

か弱いお姫様は、しずつ壊れていく騎士をそばで見ていることしか出來ない。

城という箱庭から出た彼は、あまりに無力だった。

◇◇◇

そして、城を出てちょうど一週間後。

たちはついに、グラヴァードにたどり著いた。

予定より到著時刻は遅れ、日は傾きつつある。

の夕日は薄い雲越しに空と大地を照らし、世界は妖しく紫に染まっていた。

そんな景の中、町の前で立ち盡くすサーラとリリィ。

いや――正確には、町の跡地・・ということになるのだが。

「馬鹿……な……」

王都を出てから、リリィは何度その言葉を呟いただろう。

しかし、彼が幾度となく繰り返してきた中でも、今回のはとびきり濃厚な絶を帯びていた。

から力が抜け、地面に膝をつく。

「は……はは……はははははっ……!」

眼前に広がるのは、草木すら生えていない、ただの更地だった。

王都を除けば王國でも1、2を爭うほどの巨大都市であり、なおかつ一大軍事拠點でもあったグラヴァード。

それが、跡形もなく消えていたのだ。

リリィでなくとも笑いたくなるし、現実逃避もしたくなる。

「なあサーラ、これは夢だろう? まだ私は昨晩の夢から覚めていないに違いない! なあ、そうだと言ってくれ!」

ぎょろりとした眼をサーラに向けながら懇願するリリィ。

その景と、錯するしき騎士を見て、き姫はなぜかやけに落ち著いていた。

まるで、この現狀を予測していたかのように。

自分同様に困しているはずだと確信してたリリィは、そんな彼を見て首を傾げた。

「サーラ?」

呼びかけにサーラは反応しない。

ただ、風にさらされながら砂を巻き上げる、グラヴァードのれの果てを見つめているだけだ。

しばらく沈黙は続き、そして彼はふと、思い出したように口を開いた。

「カミラは、リリィのことをしていると言っていたのです。誰よりも強く、深く、誰も葉わないぐらいに」

「……は?」

「ただリリィを自由にしてやりたい、幸せにしたい。出會ってからはずっと、それだけを考えていたのです」

「それが、どうしたと言うんだ?」

「彼は言ったのです。もしリリィが自分をれたのなら、お前も同じ場所に連れて行ってやろう、と」

リリィは解せなかった。

なぜこのタイミングになって、サーラがカミラのことを話し始めたのか。

そして、なぜ自分を魅了し、吸鬼に変えようとしたはずのカミラのことを、友人との思い出のように語っているのか。

「サーラは、吸鬼になりたかったのか? あんな、おぞましい化になってしまいたかったのか!?」

自分を想い吸鬼にった友人を”おぞましい”と形容してしまったことにを痛める。

それでも、リリィは問わずには居られなかった。

なぜなら彼は、常に正しき選択を行う騎士団長だから。

「別にそういうわけでは無いのです。でも……リリィと一緒に居るには、それしか方法が無いと思ったのです」

「今だってこうして一緒に居るじゃないか! それじゃあ駄目なのか?」

「わかっているくせに、リリィは白々しいのです。どうしてリリィの傍に居たかったのか、どうしてリリィに名前で呼ばれてあんなに嬉しかったのか、どうしてリリィと2人で旅をすることになってこんなに幸せだったのか。知らないとは言わせないのです」

それは、リリィが長らく目を背けてきた、サーラの本心だ。

もちろん知っていた。

知った上で、自分の中にある気持ちも含め、見て見ぬふりをしてきた。

なぜなら、自分は騎士団長でありだから。

そして、サーラは姫でありだから。

騎士と姫がし合うことなど許されないし、同士のなど以ての外だ。

常識が否定する、だから正しく生きるリリィも否定する。

単純で、楽で、けれど彼の意思は介在しない論理展開。

「カミラもきっと同じ想いだったのです。騎士団長であるリリィをする人なんて、誰も居なかったはずです。それでも、リリィは呪われたようにその立場に固執し続けた。報われないと知っていても」

「そんな私を救いたかった、と? はっ……繰り返し言うぞ、サーラ。だとしても、それがどうした。今、この狀況と何の関係がある!?」

苛立たしげに問い詰めるリリィに、サーラは落ち著いた様子で答えた。

「リリィを救う方法は2つあると、カミラは言っていたのです」

「2つ?」

「まず1つ目は、リリィがカミラをれること。共に吸鬼として生き、人間のしがらみを捨てることが出來れば、リリィを呪いから解放出來るのでは無いかと考えたのです」

「だがそれは……私が拒んだ」

「はい、そうなのです。だから自然に、計畫は2番目の方法を実行する方にシフトしたのです」

「その、2番目とは?」

問いかけるリリィの聲は、微かに震えていた。

なぜだか無に、それを聞いてしまうのが怖くなったからだ。

王都が陥落した。

グラヴァードが消滅した。

この國は、人間以外の者に支配されつつある。

もしもそのきっかけが、自分がカミラを殺したことだとしたら。

側から変えられないのなら、世界を変える」

「世界を、変える……?」

「文字通りの意味なのです。リリィの説得が無理なら、リリィの周囲の環境を変えてしまえばいい。呪いから解き放つのではなく、呪いを強制する何者かを排除する」

リリィに騎士団長であることを強制したのは、誰だったか。

両親だろうか、王だろうか、今は亡き騎士たちだろうか、兵だろうか、民だろうか――

「つまりは、人間の排除」

”目”があった。

あらゆる場所に、”リリィは正しくあるべきだ、なぜなら騎士団長だから”と決めつける、視線の群れが。

世界の至る所に。

時にそれはモラルと呼ばれ、時にそれはルールと呼ばれ、時にそれは同調圧力とも呼ばれる。

人間の世界に満ちる、息苦しいほどの行の枷。

それら全てが消えれば、リリィは騎士団長で居る必要はなくなる。

なるほど確かに、理にはかなっている。

「そんなこと……出來るわけが……」

信じられなかった。

だが現実として、リリィの目の前には、壊れゆく世界が存在している。

カミラはし遂げたのだ。

ただ、リリィのためだけに。

「いや待て、そもそもカミラはもう死んでいるはずだ! それがどうして、人間の排除など出來るというのだ!」

「吸鬼には、自分の命を犠牲にして、他者に吸鬼としての力をけ渡す能力があるそうなのです」

「だがカミラは私の目の前で死んだんだ!」

「吸鬼はあの程度では死なないのです」

「な……じゃあ、あの時カミラはまだ、死んで……いなかった?」

確かに、人間であれば致命傷になるほど深い傷を負わせたはずだ。

そしてカミラは倒れ、かなくなった。

あれがただの死んだふりなのだとすれば――そのは、どこへ行ったのか。

「しかし、死の処理は完了したと、私は兵士に報告をけたぞ?」

「はい、確かにカミラのは廃棄されたのです。ただし、ほぼ同時期に召喚されてきた異世界人の死と一緒に」

「異世界人だと? 彼らは高い魔力を持っていたはずだ、そんな人間に吸鬼の力が渡されればどうなるかわからないじゃないか! なぜ一緒に――」

「……そう指示した人間が、居たからなのです」

サーラは小さめの聲で、だがはっきりとそう言った。

うつむき加減に、暗い語調で告げる彼を見て、リリィは察する。

「まさか、サーラが……指示したのか?」

は小さく、首を縦に振った。

肯定である。

出來れば、考えたくはない可能だった。

しかし認められてしまった以上は、リリィもれるしかない。

「ああ、そうか。つまり――今のこの狀況を、間接的とは言え作り出したのは、サーラ、だったんだな。は、ははは、だから、だからグラヴァードが消滅しているのを見ても、揺しなかったのか……!」

「ただ、1つ言わせてしいのです」

「何をだ?」

「あの時、リリィがもしカミラをれていれば、無駄に命が失われることなど無かったのです」

「っ――!」

あまりに勝手な言い草に、リリィの頭に一気にが上った。

ただでさえ神が安定していない彼は、怒りのあまり思わず剣を抜く。

そしてその刃を、あろうことかサーラの首に當てた。

「ふざけるなッ! 王都やグラヴァードだけじゃない、王國全土で人が死んでるんだぞ? それも數え切れないぐらい沢山! それに対して何も責任はじないのか!?」

「王國なんてどうでもいいことなのです。父様も母様もしてくれなかった、リリィさえ居ればそれでよかった、だから誰が死のうと何とも思わないのです」

「サーラァッ!」

柄を握る手に、ぐっと力がこもる。

リリィの価値観において、彼は紛れもなく罪人だった。

民だけではない。

王も、大臣も、騎士も、王國を構する重要な人材がみな死んでしまった。

これはあまりに大きすぎる喪失である。

騎士団長の信じる”正しさ”に示し合わせるのなら、下す審判など1つしかない。

「殺すのですか?」

「殺さなければならない。確かに王國の復興には王族のが必要だ。しかしッ、その王國を滅ぼすきっかけを作った張本人を生かしておくわけには行かないだろう!?」

「リリィは、殺したいのですか?」

「殺さなければ、ならない!」

聲が震えている。

リリィとて、サーラのことを想っていないわけではない。

カミラの時だってそうだった、彼にもというは存在しているのだ。

だがそれを凌駕する義務が、邪魔をし、何もかもを臺無しにしている。

「そんなことは聞いていないのです。リリィ自の意思は、どう思っているのですか?」

「……わかりきったことを。カミラだってそうだった、サーラだってもちろんそうだ。殺したいはずなど、ないだろう。だがっ……!」

「だったら、殺さなければいいのです」

「そういうわけには行かないのだ! それが騎士団長である私が取るべき行であり――」

リリィよりも先に、サーラが心を読み取ったように言った。

「それを違えば、自分は自分で無くなってしまう、ですか」

それ以外を持たないリリィは、だからそれを失うことを何よりも恐れる。

簡単に言えば、彼の両親は、彼を育てることを失敗してしまったのだ。

いや、失敗というより、意図した通りなのだろうが。

それ以外の道を選べないように、逃げ道などどこにもないと諦めさせるために、あえてそれ以外の価値を全て否定した。

「そうだ、その通りだ。罵ってくれていい、恨んでくれてもいい。これはたぶん、全て、エゴなんだ。だがやはり、私には……これ以外の生き方は殘されていないんだ」

例え、みなに哀れだと言われても。

これは、の問題ではないのだ。

「最期に、1つだけいいですか」

「止めはしない」

そう言って、リリィは彼の言葉を待った。

き、言葉を紡ぐ。

死を目前にしても一切の恐れは無く、むしろこうなることもわかっていたかのように。

諦観と、を込めて。

「好きです、リリィ。例え殺されたとしても、世界の誰よりもしているのです」

笑っている。

笑っている。

笑っている。

ああ、それはいつまでも過去形にならない。

刃をらせ、首を落とし、命を垂れ流しても。

転がるい生首は、笑顔を崩さず、虛ろな瞳でこちらを見ている。

は、死んでもしかった。

突っ立ったまま、じっと彼の顔を見つめていた。

こんなに長く、お互いに見つめ合ったのは初めてかもしれない。

しかししばらくすると、サーラのは、まるで沼に沈むように消えていく。

黒い影の中に、飲み込まれていく。

「やはり見ていたんだな、吸鬼」

リリィは大きな聲で、誰も居ない空白へ向かって語りかけた。

「サーラの死をどうする……いや、私には関係ない話か。なあ、お前たちも、私を哀れだと思うか? 手にしたはずの幸せを自ら捨てる阿呆だと笑うか?」

別にそれでも構わなかった。

むしろ、今は無に、馬鹿にして笑い飛ばしてしい気分だった。

なにせ、姫を殺してしまったのだから。

王國を守るために姫と逃げていたはずなのに、王國の秩序のために姫を殺した。

矛盾している。

だが、リリィの判斷基準に従うのならば、そうするしかなかった。

「結局、全部サーラの言う通りだ。カミラさえ斬らなければ。カミラの気持ちさえれていれば。こんなことには、ならなかったんだろうな。まあ……どうあがいても、私にそんなことが出來るわけがないのだがな。ははっ……」

いっそ死んでしまいたい気分だったが、自殺はダメだ。

なぜなら、正しくはないから。

死に場所もなく、生き場所もなく。

矛盾だらけの正しさを抱えたまま、リリィは砂の大地を踏みしめ、行くあてもなく歩き始めた。

    人が読んでいる<異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください