ゴーレムを運んで村に戻った私は、その日の夜のうちに全員を引き連れて集落を潰すことにしました。

ただし、全員を連れて行ったのは戦力しさにではありません。

潰したあとを考えてのことです。

例えどれだけ人間がたむろしていようとも、どれだけの天才魔法使いがいようとも、制圧には私一人居れば十分ですから。

まずは窟前に配置されていた新たなゴーレム2の撃破。

能は以前の4と同じようで、影を突き刺し側から魔力の循環を止めてやれば、容易く活停止しました。

「私たちの時はあんなに苦労したのに……」

一緒に來ていたは何やら唖然としていましたが、まあ確かに普通に戦っていたのでは苦戦する相手かもしれませんね。

そのまま窟に侵します。

おそらく罠なのでしょう、地面を踏むとの魔法が発する仕掛けが施してあり、幾度となく私たちを襲いました。

幸い、さほど威力は高く無さそうなので、迫る球は一つ一つ手のひらで握り潰していきます。

し手が焼けてしまいますが、問題ありません、すぐに再生しますから。

そして窟を抜けると、木槍を持った男たちが集落のり口を塞ぐように並んでいました。

槍には魔法が施してあるのか、淡くを放っています。

しかし、そこは割とどうでもいいのです、どうとでもなりますから。

最大の問題は――男たちが、自分たちの前にを並べ、まるで盾のように使っていることでした。

「へ、へへへ……どうだ、手が出せねえだろ？」

下品な笑いと、下品な聲と、下品な表と。

総じて汚未満の価値しか無い彼らは、私たちに向けてそう言いました。

ゴーレムにの皮を被せていたことと言い、彼らはどうも、私たちのことを”に手を出さない質を持った”程度にしか思っていないようです。

「ひょっとして、先導している君が半吸鬼デミヴァンプどもの長かい？」

囲む男たちのさらに向こう、小高い丘で偉そうに立っている男が言いました。

ですが、答える義理はありません。

「まあ、そういうことなんだろうな。つまり人形を撃破したのも、罠だらけの窟を無傷で切り抜けたのも、君の力と言うわけだ。大したものだな、賞賛に値する」

男は余裕を見せたつもりなのでしょうか、パチパチと拍手をはじめました。

そういえば、學校でもこういうのいましたね。

普段はそんなキャラじゃ無いくせに、相手よりも自分の立場が上と見るやいなや、急に偉そうになってくる人。

懐かしくもあり、そして今の私からすると稽でもあります。

「そこで聡明な君に提案なんだが、どうだろう、ここは退いてくれないだろうか。私としても無駄な命の浪費は避けたくてね、今、君たちに槍を向けている男たちは重要な労働力なんだよ」

「……」

「返事は無し、か。クレバーな話し合いを期待していたんだが、殘念だ……いいぞ、やれ」

偉そうな男が何やら指示を出すと、私たちの目の前に居る槍を持った男がき――盾にしていたの足に、槍を突き刺しました。

「あぁぁぁああっ！」

の悲痛なび聲が夜空に響き渡ります。

突然のことに、リーナ含む仲間たちにも揺が走りました。

「やはりだ、やはりそうだ。半吸鬼デミヴァンプはどういうわけだが同をす。理由は知らぬが、目の前でが傷つけられるとポーカーフェイスでは居られないらしい」

「人質のつもりですか？」

「ははははっ！　そら見ろ、さっきまで無視を決め込んでいたくせに今は自分から話しかけて來たじゃないか！　くはははははっ！　は……ああ、すまないね、質問に答えよう。答えはイエスだ、人質だよ。君たちがここで退けば彼たちは殺さない」

「彼たちも労働力では？」

「生憎、手先も不用で男のもえない穀潰しを置いておくほどこの集落に余裕は無いものでね。それでも利用手段が無いわけではないが、それ以上に、今の使い方の方が有効的かつ効率的だったわけだ」

つまりは、失われても良い命だったと。

男たちからも反論は出てきません。

満場一致ですか。

「これは優しい警告だよ、半吸鬼デミヴァンプ。ひょっとすると、ゴーレムや窟の罠を突破したことで、このアレクサンダーに勝てる気で居るのかもしれない。あるいは、君の後ろに居るレイア・ハーシグの力を借りる気で居るのかもしれない」

そう言いながら、彼の視線がレイアの方を向く。

「……レイアのこと、知ってるみたいですよ」

「うん、そうみたい。気持ち悪い。たぶん……あの男はアレクサンダー・オミクロンじゃ、ないかな。私も、見るのは初めてだけど」

「どういう男なんですか？」

「一応、天才魔法使いってことになってるみたいだけど……直接會ったことは無いから、実力は、よくわからない」

見たじ、今のレイアよりも強いってことは無さそうですけどね。

「しかしだ、仮にレイア・ハーシグの力があったとしても。私には勝てないんだよ、殘念だけどね」

「それは、どういう理屈ですか？」

「はははっ、そんなの決まってるじゃないか。力の差だよ、力の差。どれ、見せてやるか。君たちなど一瞬で消し飛ばせる、私の魔法を！」

アレクサンダーが手を天にかざすと、手のひらの上でバチバチと雷が走り、の球が生まれます。

それはしずつ大きくなっていき、やがて20メートルほどのサイズにまで膨張して、集落全を照らします。

「見よ！　これが私のまほ――」

私は手を開き、そしてすぐにきゅっと閉じました。

すると球は一瞬にして、握りつぶされたように消滅します。

「……は？」

「そろそろあなたの聲を聞いているのも苦痛になってきたので、終わりにしますね」

「ま、待てっ、そんな馬鹿なことがあるものか！　私の魔法がっ！　屬だぞ？　吸鬼が最も苦手とする屬だというのに――こんな、こんな簡単にっ！」

焦るアレクサンダー。

そんな彼の姿を見て、を人質に余裕をかましていた男たちにも揺が広がっています。

いいざまです。

でしたらその揺に沈んだ狀態のまま、寢てもらいましょうか。

私は頭上に意識を集中させ、夜の空に満ちる影たちを束ねて、こねて、きれいな球形を作りました。

意趣返しのようなものです。

「空が――」

男のうちの1人が、天を見上げながら呟きました。

その聲に反応して、彼らは一斉に空を仰ぎます。

「何だ……これは。空が、近づいてきてるのか？」

そう見えるのも仕方ありません。

集落よりも大きな球が、空から降ってきているのですから。

ここから見ると、視界を埋め盡くする漆黒が、じわじわとこちらに近づいてきているようにしか見えないのです。

それを見て、アレクサンダーは聲を震わせながら言いました。

「こ、こんな巨大な魔力の塊……わかっているのか、こっちには人質だっているんだぞ！？　こんなものを落とせば無事でいられるわけがっ！」

「安心してください、この影は――あなたたちしか、傷つけませんから」

私がを傷つけるなんて酷いこと、するわけないじゃないですか。

――そして、黒は集落に降り注ぎ。

何もかもを、塗りつぶしていったのでした。

◇◇◇

ダンッ！　ダンッ！　ダンッ！

リズミカルに、木の板に何かが叩きつけられる音が響きました。

は半吸鬼デミヴァンプに後ろから抱きしめられながら、頬を赤らめ、何度も何度も手に握る刃を振り下ろしています。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「そうそう、上手上手、その調子で次は足も切り落としてしまいましょうか」

「はあぁ……はぁ、はぁ……っ」

後ろから抱きしめる半吸鬼デミヴァンプが耳元で囁くと、は位置を変え、大きな板の上に寢そべる男の太ももの前に立ちました。

男のには至る所に生々しい傷跡があり、すでに両腕は切斷されてしまっています。

そこから流れるが地面に染み込み、周囲に不快な匂いが漂っていました。

ブチュッ！

が男の太ももに刃を振り下ろすと、刃はの半ばで止まり、った音を響かせます。

ニチャァ……。

それを引き抜くと、が絡みつく音がしました。

は骨に顔をしかめましたが、背後から抱きしめる彼が太ももに指を這わせると、「あんっ」とぎ、すぐに不快は失せたようです。

「ゆっくりやりましょう。焦ることは無いわ、もう、こいつは死んでるんだから。ね？」

「うん……うん、わかってる。私が、殺した、から」

「そう、上手に殺したわね。あの時のあなた、とても魅力的だったわ。死の解が終わったら、うんと可がってあげる」

「んぁ……ぁ、は……」

目の前にぶら下げられたご褒が、の思考を鈍化させていきます。

快楽への期待と、自分が今やっている行為が混ざり合って、死を解するという行為に興を覚えるようになっているのです。

こうなればもう彼は私たちの手のひらの上――

まあ、そんなことをせずとも、とっくに集落のたちは私たち半吸鬼デミヴァンプに心を開いていたんですが。

影を使って男たちの意識を奪った後、私たちは真っ先に集落のたちを保護しました。

その結果、発見された70名ほどののうち、無事なのはほんの數名のみ。

20名は今後食料として消費される予定だった人間だそうで、全に暴行の形跡が殘っていました。

また、殘り50名のうち、45名はアレクサンダーの手によって、子宮に非人道的な処置が施されていたようです。

的には、妊娠して子を孕むと、胎児が急速に長し、巨大な塊を産み出すように。

要するに、それもまた食料にするつもりだったのでしょう。

反吐が出ますね。

殘り5名のも、さほど良い扱いはけていなかったようで、他のたち同様に、むしろ私たちが現れた事を喜んでけれてくれました。

ただ殺され喰らわれるぐらいなら、を産み出す道になるぐらいなら、み者として使われるぐらいなら――半吸鬼デミヴァンプになった方がマシだと、そう考えたわけです。

これは私たちにとっては嬉しい誤算でした。

そもそも半吸鬼デミヴァンプから隠れるためにこんな集落に暮らしていたわけですから、強い抵抗をけても仕方ないと思っていました。

しかし、こうも人數が多いと魅了も大変ですし、男たちの処理もしなくてはなりません。

しでも効率的に進めるにはどうしたらいいのか――そこで私は思いつきました。

男の処理とへの魅了を同時に進行してしまえばいい、と。

すなわち、半吸鬼デミヴァンプが男の殺し方、及び解方法を指南しながら、親を深めていくという方法です。

これが存外にうまくいきまして。

たちの魅了及び吸は、集落の占領から2日ほどで半數が完了し、順調に進んでいました。

さて、男を殺すのは當然のこととして、なぜ解までする必要があるのか。

それは私とレイアが行っている、とある実験に使うからです。

本當は男のなどすぐに灰にしてしまいたい所ですが、死んでしまえばそれはただの。

皮を剝ぎ、細かく砕いてしまえば男のそれとはわからない。

ならばそこから再構築すれば――のにすることも可能なのではないか。

「最初にチグサ様が言い出した時は……本気かな、って思ったけど」

集落の片隅で実験を続けていたレイアに近づくと、彼は言いました。

「割と、やれば……できちゃうものなんだ。影って……何でもありなんだね」

「が當たらない場所は全て影ですから、それをれるというのは思っていた以上に萬能みたいですね」

私たちはついに完した果を前に、自分たちで作っておきながらし驚いていました。

ゴーレムに被せられていた皮を剝ぎ取り、男たちのバラしたから採取した材料で臓から骨格、筋に至るまで再構築。

魅了も吸も可能な新たなを與える――そんな馬鹿げた妄想が、ほんの2日で実現してしまったのですから。

さすがに皮の持ち主を蘇生することは出來ませんでしたが、これでしは死んだも浮かばれてくれるでしょうか。

そして、私たちの目の前で、ベッドの上に寢そべる、私たちが作ったが、ついにゆっくりと目を開きます。

脳も臓も見よう見まねで作ったなので、うまくいてくれるか不安なのですが。

「……う、あ？」

「おはようございます、ご機嫌はいかがですか？」

「おあ、よう」

返事をしたということは、知能は赤子並というわけでは無いようですね。

皮の記憶なのか、はたまたの記憶なのか、どこから學習したのでしょう。

それとも、構築で參考にした私やレイアの脳の機能をけ継いでいる、とかでしょうか。

などと々考え込んでいると、は自ら起き上がり、ベッドから降りようとし始めました。

私とレイアは慌てて彼の背中に手を當て、転ばないようにフォローします。

「チグサ、レイア、平気。私。立てる」

名前を呼ばれて、私たちは思わず顔を見合わせました。

名乗っても居ないのに。

目を覚ます前、を作る段階で、無意識のうちに記憶を吸収したとでも言うのでしょうか――まったく、というのは不思議なものですね。

しかし同時に、嬉しくもあります。

正真正銘、彼は私とレイアの子供のような存在なのですから。

◇◇◇

新たな命を生み出したことに達を覚えていた私たちは、かつて私が使っていた名前である”グラス”と名付けた彼と戯れることに夢中で、肝心なことをすっかり忘れていました。

そう、アレクサンダーです。

私が彼の存在を思い出したのは、グラスへの魅了が完了し、印が浮かび上がり、さあ吸を始めようか、と言うタイミングでした。

3日ぶりに、民家の一室に拘束された彼の元へ向かうと、自信に満ちていた天才魔法使いの面影はそこにはなく、すっかりやつれ、周囲には悪臭を漂わせた浮浪者を思わせる男がそこに居るだけ。

先日の空から落とした影が、よほど彼にとってはショッキングだったようです。

私はそんな彼の前にレイアとグラスと共にひょっこりと顔を出しました。

アレクサンダーは、私の顔を見るなり明らかに怯えています。

こうなってしまうと、以前のようなうざったさはじられません。

あるのは、足元を這いずる蟲のような不快だけです。

「こんにちは、元気ですかアレクサンダーさん」

「う、ううぅ……」

私が聲をかけても、彼は膝を抱えこまりながら、そんな聲を出すだけでした。

つまらないですね。

これでは、集落に暮らしていた有象無象の男たちと何も変わらないじゃないですか。

いや、実際、そんなものなのでしょう。

誰だって、男なんて、殻を剝いでしまえば似たような形をしていて。

だから、必要ない。ただので十分。

「一応、最後にあなたに見せたいものがあったんです。ほら、グラスも一応挨拶をしておいたらどうですか？」

「誰？」

彼が知らないのも仕方ありませんし、冷靜に考えると知る必要も無さそうですね。

しかし、アレクサンダーはグラスの外見を見て気づいたのか、目を見開いて彼の方を見つめています。

「そんな……なぜ……！？」

「ひょっとするとあなたは、の形をしたゴーレムを作れば、魅了も出來ないし吸も出來ないから私たちに勝てる、とでも思っていたのかもしれません」

図星だったのか、彼は無言のままでした。

私は話を続けます。

「淺慮ですね」

「対策としては……完璧な、はずだった……」

隨分とだらけな完璧ですね。

「どれだけ人間が完璧だとのたまっても必ず死角――もとい影は存在するんですよ」

「そんなものはっ！　だって、私は……ただ、土から作ったゴーレムに、人間の皮を、被せただけだったはずだ……！　それが、一どうなったら意思をもってき出すって言うんだ！？」

なるほど、土で出來ていたんですね。

まあ、今となってはどうでもいいことですが。

「あなたの策に対する私の答えはこうです。魅了も出來ず吸も出來ないのなら、それが可能なのを與えてしまえばいい、と」

「の、……」

「幸い、不要なは沢山転がっていましたから、有効活用させてもらいました」

「まさか……集落の、男たちを……？」

「はい。そして、あなたもですよ、アレクサンダーさん」

私はグラスに手招きをしました。

とてとてと小走りで近づいてくる彼を抱き寄せると、部のし上あたりに浮かんだ印をなで上げます。

「んああぁぁぁっ！　はっ、はぁうっ！」

「生まれたばっかりなのにこんな聲を出して、いけない子ですね」

「だって。チグサ。それ、気持ちいい……っ」

「じゃあもっと気持ちよくなりましょうね、グラス」

彼は生みの親である私をすっかり信用しているらしく、首に牙をつきたてても、抵抗1つ見せませんでした。

むしろ私の背中に腕を回し、強くしがみついて、もっともっととせがんでいるようです。

「はっ、ああぁ……ぉ、んふうぅ……はへっ、へええぇっ……！？」

牙が埋まると、グラスは口を半開きにしながらとりどりのぎ聲を咲かせます。

「チグサ様ばっかり、ずるいじゃないですか……私もいただきますね」

すると、近くで見ていたレイアもグラスに近づき、私とは逆方向の首に噛みつきました。

「あぁあああっ！　あひゃっ、ひ、ひうぅっ！　りょ、りょうほうっ、らめへっ、ひぃぃぃっ！」

倍の快楽に翻弄されるグラス。

吸速度も倍になり、彼のはみるみるうちに半吸鬼デミヴァンプへと変わっていきました。

さらにらかな抱き心地に、ほんのり冷たい溫、そして白くらかな。

しばし抱きとめていると、じきに彼は目を覚まし、赤い瞳を私に向けて笑うのです。

「……チグサ」

「はい、私はここにいますよ」

「うん……私、これで、一緒、なれた？」

その様がおしくて、私は自然と彼のを奪っていました。

思えばそれが、グラスのファーストキスだったのかもしれません。

そして私からを離すと、次はレイアに抱き寄せられて、セカンドキス。

舌を絡めての激しいキスをいきなり2度も経験し、惚けた表を見せるグラス。

婀娜っぽいその顔に、思わずする私でしたが――殘念ながら、彼を抱く前にやらなければならないことがあります。

その行為に意味があるかどうかはさておき、トドメは一応、彼の手で。

一連の私たちのわりを、呆然と見ていたアレクサンダー。

グラスは彼の方を無表に見下すと、爪をばして近づきました。

彼はようやく、そこで、自分が何をされようとしているのか気づいたようです。

「……まさか、私を、殺すつもりか？　やめろ、やめてくれへぇっ！　協力する、私の頭脳は役に立つぞ、必ずだ！　ここで殺してしまえば失われる技も沢山ある、生かすべきだ、私は生きているべきなんだ！」

「こいつ、殺していい？」

そう確認するグラスに、私は笑顔で頷きます。

彼は無価値ですから。

「待てえぇぇぇっ！　待てと言っているんだ、私を誰だと思っている、天才だぞ！？　あの稀代の天才、アレクサンダー・オミクロンなんだぞ！？　それが、そんな偉大な人間がっ、こんなクソみたいな場所でええぇぇっ！」

「知らない。うるさい。死ね」

緒も余韻もなく、グラスは彼のを切り裂き、一撃で仕留めます。

を深く袈裟斬りにされたアレクサンダーは、地面に倒れ、を垂れ流しながら、それでもなお喚きました。

「はぐぅっ！　ぐうぅ、あぁ、ありえない……私が、このような、無様な死に方をするなど……ありえる、ものかっ！　こんなのは……夢……夢に、決まって……い……」

しぶとい彼の脳天に、トドメの一撃。

頭蓋骨を貫通し脳を損傷させるその刺突は、脆い人間にとっては完全に致命傷でした。

特に何の慨もない彼はすぐさま私とレイアの方を振り向くと、甘えるようにに飛び込みます。

は大人ののものだというのに、仕草は子供そのもの。

そのギャップが、さらに可いんです。

ここは男のの臭いがして気持ち悪いので、アレクサンダーのの解は後回しにして、私たちは別の場所に移しました。

何のためか、なんて愚問です。

もちろん、3人でし合うために決まっているじゃないですか。

おっと、リーナも參加するでしょうから4人かもしれないですね。

◇◇◇

翌日、男全員の解及び、たちの吸を完了。

集落から引き上げ、人間をやめたたちは、元からの住人と共に村で暮らすことになりました。

また、ゴーレムに使われた殘りの人間の皮5人分にも命を吹き込み、新たに生まれた彼たちも共に生きていくようです。

廃墟と化していた家も使わなければ、さすがに急激に増えた人口には対処できませんから、これから村は忙しくなるでしょう。

私も手伝いを申し出たい所でしたが――本來はもっと早く片付ける予定だったのに、何だかんだで日數が過ぎてしまいましたから、申し訳ないですがこれ以上殘ることは出來ませんでした。

別れを惜しむ村の住人たちと、しばしの逢瀬を愉しみ、そして村を去っていきます。

行きは3人ですが、帰りは4人。

私たちから離れようとしなかったグラスを連れて、私たちは城へと戻ってきました。

「チグサ様、なんだか足取りが重くないかい？」

リーナにそう聞かれて、私は思わず足を止めました。

ええ、まったくその通りでして。

非常に足取りが重いのです、城に戻るのが憂鬱なのです。

「リーナ、あれだよ……あれ」

「あれ？」

「ミヤコとエリス。出かける前は、すぐに戻ってくるって言ってたのに……実際は、こんなに空けちゃったから」

「ああ、しかも新しいまで連れ帰ってきたから、怒られやしないかって落ち込んでたんだ！」

「ミヤコ？　エリス？」

「グラスはまだ知らないんだったね。その2人はチグサ様の大事な人なのさ」

「大事な人。どうして怒る？」

「大事な人だからこそ怒るんだよ、とはそういうものさ。グラスもチグサ様に一週間近くも放置されてたら悲しいだろう？」

「悲しい。怒る。チグサ、酷い」

酷いのはどっちですか。

もう十分落ち込んでるんですから、そこまで追い打ちをかけないでもいいと思うんですが。

「はははっ、ここまで骨にへこんでるチグサ様ってのもなかなかレアだから、つい面白くてからかっちゃうなあ」

「あんまり追い打ちをかけないでください。どう弁明するか必死に考えてる所なんですから」

「チグサ様、私に……良い案がある」

「嫌な予しかしませんが、聞きましょう」

「心外だよぉ……本當に良い案だと思ってるのに」

レイアがそこまで言うということは、本當にみゃー姉とエリスの怒りを解消出來る良い案なのでしょう。

しかし、この狀況において、私が許されるために必要な代償の大きさは計り知れません。

つまり私は、それが良い案だからこそ聞きたくないのです。

聞いてしまえば、否が応でもけれなくてはなりませんから。

「私が思うに……一週間、2人にチグサ様のを好きにしていい、と言えば許してくれると思う」

「ボクが思うに、それチグサ様死ぬと思うよ」

私もそう思います。

「でも……他に許される方法が思いつかないから」

「罪は重い」

グラスの言葉がぐさっと突き刺さります。

そうなんですよね、それもまた事実であり。

確かにそれぐらいのことをしないと、2人は許してくれそうにありません。

「一応、提案はしてみようと思います」

「骨はボクが拾ってあげるからね」

合掌しないでください。

あとグラスも真似しないでください、灑落になってないので。

◇◇◇

その後、城に戻るなりみゃー姉とエリスに詰め寄られた私は、すぐさまレイアの案を実行しました。

一週間、私を好きにしていい、と。

すると途端に怒りに満ちていた2人の表に笑顔が溢れ、目は妖しく輝き、気づけば私はがっしりと両腕を摑まれて、寢室へと連行されていました。

まんまと2人の策略にはまってしまったような気がするのは、私だけでしょうか。

この先に待つのは天國か、はたまた地獄なのか。

連れて行かれる私は、最後に一度だけ、助けを求めるようにレイアとリーナ、グラスの方を見たのですが――3人とも手をあわせて拝んでいる姿を見て、何もかもを諦めました。

それから一週間、それはもう好き放題された私は、文字通り死にそうな狀態になりながらもようやく解放されました。

ただし、2人の行為にはちゃんとがありましたし、気持ちは良かったので、必ずしも地獄だったわけではないのですが。