《異世界で鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》Ex5 たまにはこんな茶番でも

いつからか、塾の帰り道にある公園で時間を潰すのが日課になっていた。

羽蟲がたかる街燈がぼんやりと照らすベンチに座り、本を読んだり、明日の予習をしたり。

苦痛だとは思わなかった、寂しいとも。

むしろ家に居る方が苦痛だったし、だからこそ私はここで可能な限り時間が過ぎ去るのを待っていたのだ。

うちの両親は、とても仲が悪い。

仲がいい頃の姿を見たことが無いから、きっと私が生まれる前からそうだったんだと思う。

喧嘩をする度に『離婚してやる』とか言ってるけど、それは本気では無いらしい。

なぜなら、私が獨り立ちするまでは、離婚してはならない義務があるからだそうだ。

私は生まれてしまった。

だから、ちゃんと育てなければならない。

2人はそう思っているらしい。

そんな環境の中で育っていったからか、私は両親からのというじたことが無かったし、誰かをすることも無かった。

友達は多い方だ、學校でも塾でも、両親の機嫌を取るためにに付けた笑顔は、それだけで人を寄せ付ける。

ふいに私は街燈を見上げる。

私は蛾燈、彼らはあの蟲たち。

どちらが醜いとか、どちらが愚かとか、そういう話じゃない。

親には子供を育てなければならない義務があって、人間は人の良さそうな相手に近づいていく習があって、ただそれだけの話。

私の笑顔にが篭っていない以上、そこに集ってくる人間たちは私の人間ではなく、ただ人の良さそうな笑顔があるから、という理由で反的に近づいてきただけ。

は、そこには無い。

だから私も、彼らには抱かない。

私は今日もベンチで暇をつぶす。

けれどそんなある日、ベンチには先客が居た。

スーツのよく似合う、黒髪のショートヘアの

格のきつそうな顔をしていて、なかなか近づきがたい。

けれどあのベンチは數ない私の領地だから、別の場所を探そうという気にもならなかった。

「何?」

私がし離れた場所から見ていると、彼は低い聲でそう言った。

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それが相當怖くて、無視してベンチに座ってやろう、って言う私の気概は一気に萎えてしまった。

けどやっぱり、他に居場所なんて無くて。

「座りたいの?」

「……はい。いつも、ここで時間を潰してるので」

「ああ、そうだったんだ。じゃあ私が邪魔しちゃったわけね、ごめん」

そう言って立ち上がろうとしたを、私はとっさに引き止めた。

「いえっ! あの、別に私のってわけでもないですし。だから、その……お姉さんは、まだ座ってていいです」

「そう? じゃあお言葉に甘えて」

は上げかけた腰をおろし、もう一度座る。

そして足を組むと、攜帯端末とにらめっこを始めた。

私は一人分の隙間を空けて、同じベンチに座る。

そして、し落ち著かない気持ちで、読みかけの文庫を開いた。

しかし、が眉間にしわを寄せながら、ぶつぶつと何かを呟き始めたので集中出來ない。

気づけば私は彼の方を見てみて、彼もふいに顔をあげると私の方を見て。

が吹き出すと、私も思わず笑ってしまった。

夜の公園に、私たちの笑い聲が響き渡る。

この頃の私たちはまだ、互いの名前すら知らなかった。

◇◇◇

の名前が”恭子”と言うことを知ったのは、それから一週間後、私たちが3度目に會った時のことだ。

なぜ名字では無く名前だけ名乗ったのかと言えば、

「最初から下の名前で呼びあった方が親しみやすいからよ。流花るかに名字を教えたら、それにさん付けして呼んじゃうでしょ?」

とのこと。

私は思わず手を叩いて納得した、確かにこうでもしなければ、私が恭子さんを恭子さんと呼ぶことは無かっただろうから。

は平日になると、二日に一度、この公園に現れる。

なぜ隔日なのかと聞くと、「頻度に特に意味は無いわ」と言っていた。

その証拠と言わんばかりに、恭子さんは出會って一ヶ月もする頃には平日は毎日通うようになっていたし、二ヶ月もすると休日すらやってくるようになった。

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休日に見る私服の恭子さんはいつもと違ってらしくて、最初に見た時は心臓が止まるかと思うぐらいドキっとした。

何度も見て慣れた頃でも、悸は収まらない。

かと言って、平日の恭子さんが素敵じゃないかと言うとそんなことはなく。

はクールな顔つきに、黒のショートヘアと、高めの長、細つきでスーツがよく似合うのだ。

出來るキャリアウーマンのオーラがすっごい出てて、それはそれで良い。

ちなみに長は167センチなんだとか。

私は156センチだから、隣に並ぶとかなりちんちくりんに見えてしまう。

――なんて言っていると、

「流花の栄養は、どう考えてもここに行ってるんでしょうが!」

と言いながら、を鷲摑みにされた。

確かに大きいけど、走ると痛いし、肩がこるし、將來的に垂れるしで良いことはあまり無いと思うんだけど。

しかも、……まれちゃったし。

その日は、家に帰ってもドキドキが収まらなくて大変だった。

要するに、私はたぶん、恭子さんの事が好きなわけで。

というやつだ。

を知らずに育ってきた私は、どこに住んでるのかも、何歳なのかも、何の仕事をしているのかも知らない大人のに出會って、初めてを知った。

相手は同だけど。

でも、唯一無二のに、そんなことは関係ない。

恭子さんには関係あるかもしれないけど、私にとっては関係ない。

だから、私はを自覚して、割とすぐに告白した。

「好きです、付き合ってください!」

ってびっくりするぐらい捻りのない言葉で、頭を下げながら、手を差し出して。

ひゅるりると風が吹く。

冷たい空気にさらされてすっかり溫度の落ちた手を――

「いいよ、私も流花のこと好きだから」

そんな優しい聲と共に恭子さんのらかな手が包んでくれた時、私は泣きたいぐらい嬉しかった。

と言うか、泣いた。

泣いて、苦笑いする恭子さんのに抱きしめられて、私たちは人になった。

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この時、私は高校二年生の16歳。

恭子さんは25歳だった。

◇◇◇

高校を卒業して、地元の國立大學に合格した私は、恭子さんと同棲することにした。

意外なことに言い出したのは恭子さんの方だったりする。

私の両親が不仲なこととか、家からの仕送りをけ取らず一人暮らししたがっていることとか、全部わかった上で提案してくれたらしい。

いきなり甘えるのもどうなんだろうと思いつつも、私は首を縦に振った。

きっと、恭子さんとの同棲生活は、今までの人生で一番幸せな時間になる。

そんな確信があったから。

そして始まった新生活は、慣れない環境、初めてのバイト、そして2人きりの部屋に、とあまりに未験のことばかりで。

きつかったし、楽しいことばっかりじゃなかったけど、恭子さんが一緒だったから乗り越えることが出來た。

そんな毎日にしずつも適応していって、余裕が出てくると新しい趣味にチャレンジしたり、恭子さんと旅行に出かけたり、出來ることも増えていった。

忙しいほどに時間は早く過ぎていく。

気づけばのように一年目は過ぎ、二年目も夏季休暇までは順調に流れて、秋がやって來た。

この季節になると、いつも恭子さんと出會った時のことを思い出す。

最初は得が知れなくて、聲をかけるのも怖かったのに、すぐに打ち解けて。

そして今では――朝、目が覚めると、隣での恭子さんが寢ているような関係になっている。

出會った時から髪型も見た目もほとんど変わっていない。

短い黒髪をでると、恭子さんは「ん……」と口角を上げながら聲を出した。

かわいい。

こう言うと彼は絶対に照れて、ちょっと怒るから本人には言えないけど、でもいつも思ってる。

かっこいいし、きれいだし、可い。

それが恭子さんだ。

そんな彼が無防備に眠る見て、私はがぽかぽかと溫かい気持ちになった。

ついつい、頬が緩んでしまう。

けれどそんな至福の時間も長くは続かない、時計に目をやった私は急速に現実に引き戻された。

「やばっ、恭子さん寢坊だよっ!」

「んんぅ……」

恭子さんは朝が弱い。

大聲をだして、を揺らした程度じゃ起きないのだ。

寢覚めの良い私と同棲する前は、部屋は目覚まし時計だらけで、毎朝騒音のオーケストラを奏でていたらしい。

けれど不思議なもので――

「もう、仕方ないなあ……ちゅっ」

私がキスをすると、しの王子様は、すぐに目をさますのだ。

「ん……おはよ」

そして私に微笑みかけると、手のひらで頬にれる。

引き寄せられ、二度目のキス。

……って、そんな悠長なことしてる場合じゃないんだった。

「恭子さん、遅刻するってば! 時間がギリギリなのー!」

「へ? あ……うわやっば!?」

恭子さんはベッドから飛び出すと、慌てて上著を纏い支度を始める。

「流花、スーツの準備しておいて!」

「わかった、朝ごはんは?」

「軽く食べてく!」

私もしでも時間が短出來るように、と彼の著替えや朝食の準備やらを慌ただしくはじめ――別に毎日がこんな時間ギリギリなわけじゃないんだけど。

でも、概ねこんなじで、私たちは人らしい朝を過ごしている。

――でもそんな毎日に、ほんのしのほころびが生じたのは、いつごろだっただろうか。

明確にいつかはわからない。

けれど數ヶ月前はすぐ傍に居たはずの恭子さんとの間に、今は距離をじる。

変化は些細だった。

寢覚めが良くなって、目覚めのキスをする必要がなくなったとか。

寢る時も、ソファで座る時も、間にしの隙間が出來たとか。

仕事も忙しくなって、飲み會が増えて、帰りが遅くなったとか。

してる、好きだ、って言ってくれる回數が減ったとか。

些細だけど、確実に。

私が、じゃなくて――恭子さんの方が、距離を取ろうとしている。

それをじられないほど、私は能天気じゃない。

恭子さんの気持ちはわからないでもない。

話を聞く限りじゃ、どうやら彼はレズビアンってわけじゃないみたいで、以前は普通に彼氏も居たらしい。

いわゆる、バイセクシャルってやつなのかな。

だからきっと、付き合い始めてすぐの頃は新鮮さもあったんだと思う。

でも、もう付き合い始めて4年が経ち、私だって20歳になった。

恭子さんが気持ちよくなってくれるように、楽しんで貰えるように、々勉強して頑張ってるつもりなんだけど、限界はある。

テレビでイケメン俳優が出てきた時とか、町でカッコイイ男の人とすれ違った時とか、彼は明らかに興味を示していて。

結局、普通が一番いいのかもしれない。

でもね、恭子さんには私と別れたって代わりは居るかもしれないけど、私には誰も居ないんだ。

両親も、友達も、もちろん人なんてもってのほか。

今までも、そしてこれからも。

ただ1人、恭子さんだけが、私の世界で輝いていた。

◇◇◇

冬のある日。

原チャリを走らせてバイトから帰ってきた私は、テーブルに広げられたカップ麺を見て頭を抱えた。

「またこんなのばっかり食べて、作っていけばよかった」

「んな面倒かけらんないって、私はこれで十分だから」

「でも、無理にでも用意しとかなきゃ、恭子さんいつも不健康な食事しかしないじゃない」

同棲を始めた最初の頃は、彼のズボラっぷりに驚かされたものだ。

食事はコンビニ弁當かカップ麺で済ませようとするし、平気で數日洗っていない食をシンクに溜め込もうとするし、服は洗濯カゴから直接取ろうとするし。

でも、それで私の中にある彼のイメージが崩れたかと言うと、そうでもない。

以前からその片鱗はちらほら見えてたから、まあ、それでも想像以上だったわけだけど。

「そんなのばっかり食べてたら病気になっちゃうよ」

「いいのよそれで、どうせ長生きするつもりなんて無いんだしさ」

「長生き、してもらわなきゃ困るから」

「なんで?」

「先に死ぬのは私の方がいいもん」

拗ねたように言うと、恭子さんは困った顔をして、人差し指でトントンと機を叩いた。

困らせたくはない、特に食事中は気分が良いほうが味も良くじられるものだから。

でも――まるで私と添い遂げるつもりは無いって言われてるみたいで、腹が立った。

重いなら重いって言ってくれても構わない。

私はそのつもりだよ、ずっと、最初から。

「……お風呂沸かしてあるから、さっさとりな」

「恭子さんっ」

「外は寒かったろ? を溫めないと、流花の方が風邪引くじゃない。言っとくけど私、看病とか得意じゃないからね」

「知ってるけど……」

「なら大人しく年上の言うことを聞きなさい」

諭すように言われると、流花は黙っていることしか出來なかった。

重い足取りで部屋を出る。

テレビのニュースでは、最近話題になっている大量殺人について報じられていた。

いっそ私を殺してくれればいいのに。

恭子さんと別れるぐらいなら、そっちの方が――きっと彼の心に私という存在を刻み込めるだろうから。

お風呂に向かいながら、私はそんなことを考えていた。

◇◇◇

週末、珍しく私のバイトも休みで、久しぶりに一緒に過ごせると思っていた。

けど、1つがうまくいかなくなると、何もかもの歯車が合わなくなっていく。

「今日は実家に帰るから」

朝食の時、恭子さんは無表でそう言った。

私の手が箸を握ったまま止まる。

テレビからは相変わらずニュースが流れている、けれどキャスターの聲は耳にはってこない。

「え? 獨りで?」

「そりゃね、流花のことは家族には黙ってるし」

知ってるけど、わざわざ言わなくてもいいのに。

私はが苦しいほど締め付けられ、痛みに耐えるために下を噛んだ。

「明日じゃ……ダメ、なの?」

絞り出すように言う。

相変わらず恭子さんは無表だ。

「もう帰るって言っちゃってるし、食事とか用意してくれてるらしいから、無理かな」

「……そっか」

一緒に行っちゃダメ? とは聞けなかった。

以前の私にならともかく、今の私には、そんなことを聞く厚かましさは無い。

だって自信が持てないから。

本當に、恭子さんは、今でも私のことを好きで居てくれてるのかな、って。

食事を終えて、準備を終わらせると、恭子さんは部屋を出て行く。

私が小さく、

「いってらっしゃい」

と言うと、恭子さんも無な聲で、

「いってきます」

と返した。

ガチャン、と閉まるドア。

私はひとり、取り殘される。

殘響が鳴り止む頃、瞼から力が抜け、自然と目を瞑った。

時間を置いて、真一文字に結んだが震え始める。

「ふ……ふううぅ、ぅ、ううう……っ」

やがてからも力が抜けた。

膝から崩れ落ち、座り込んで、天を仰ぐ。

「うううぅぅぅうう! きょうこ……さん……恭子さんっ……! うあああああぁぁっ!」

重力に導かれて、いくつもの涙が落ちる。

いっそ枯れてくれればいいのに、一度溢れ出したその雫は、日が暮れるまで止まることは無かった。

◇◇◇

夕焼けが、カーテンの閉められていない部屋を照らす。

結局、何もしないまま時間が過ぎ去ってしまった。

夕食を作る気力も湧いてこず、けれどどうしてもお腹は空いてしまって。

恭子さんが居たら、『相変わらず流花は食いしん坊ねえ』なんて茶化してくれるのかな、と考えつつ重いを起こした。

足を引きずるように洗面臺へ向かう。

鏡に映る自分の顔は酷いものだ、目は真っ赤だし、顔は腫れているし、冷たい水で洗い落としても気休めにしかならない。

けれど、今更化をする気分にもなれない。

私はそのまま服だけを著替えて、財布を手に外へ出た。

すれ違う子供たちをみて、今こんなに寂しい気分を味わっているのは、世界中で私だけなのかもしれない、なんて自己的な傷に浸る。

最寄りのコンビニまでは歩いて5分。

気だるげな店員の聲に導かれ、中にる。

って真正面にあるコーナーに並ぶお弁當を見てると、どうしても恭子さんの顔がちらついて、なかなか選べなかった。

そのせいで、いつもより時間がかかってしまった。

店から出る頃には、いつの間にか空は宵に支配されていて、紫が全に広がっている。

天上を見上げているうちに微かな明るさも失せ、夜がやってきた。

さすがに今の狀態で夜の街を獨りで歩くのは心細い、私はし早歩きでマンションへ戻ろうとした。

けれどその途中、公園の手前で足を止める。

そこで私は、不思議なものを見かけた。

いや――私が不思議なものと言うのはおかしいのかもしれないけど、でも普通は外で見かけるものじゃないから。

「恥ずかしくないのかな……」

私はそれを見ながら、小さな聲で呟いた。

公園の真ん中で真正面から抱き合いながら、絡み合う2人のの姿。

ただじゃれ合っているならまだしも、微かに聞こえる聲は明らかにぎ聲だ。

左側の黒髪の大人しそうなの子がタチなのかな……人って見た目によらないんだね。

の人はOLっぽい。

昔の私と恭子さんも、あんな風に見られてたりして。

とは言え、私たちの場合は恭子さんの方がタチなんだけど――って、この狀況でそんなこと思い出したって慘めになるだけか。

あまりジロジロ見ているものでもないし、もう帰ろう。

そう思って公園の前を去ろうとすると、「んああぁぁぁぁっ!」とひときわ大きなの聲が聞こえてきた。

思わず苦笑いを浮かべてしまうほど、周囲に響き渡っている。

もうし自重すればいいのに、と最後にもう一度2人の方を見ると、そこでは私の想像を越えた行為が行われていた。

噛み付いている。

黒髪のの子が、もう1人のの人の首に噛み付いて、が出て……それを、飲んでる。

「なに、あれ……」

私の頭の中は真っ白になった。

違う。

あれは、場所を選ばず盛ってる人同士なんかじゃない。

もっと別の、もっともっとおぞましい何か。

私はふと、ネットで見たとある噂のことを思い出した。

『今回の殺人事件の犯人、吸鬼らしいよ』

そんな荒唐無稽な都市伝説。

けれど、なぜか信じる人が多くて、それは噂を広めた張本人の話がやけに的だからと聞いている。

「まさか、あれが吸鬼?」

確かにを吸っている。

そして吸われている方のはとても気持ちよさそうな顔をして、を震わせていた。

気のせいか、も、噛まれている部分を中心に白くなっている気がする。

やがて吸は終わり、はぐったりと倒れ込んだ。

黒髪のは、しなだれかかってきた彼を優しく抱きしめる。

その時――の目が、一瞬だけこちらを向いた。

剎那、ドクンと心臓が跳ねる。

あまりに赤い、よりも赤い瞳に、私の魂が抜かれたような気がした。

本能が訴えている、あれは出會ってはいけない存在だ、と。

それに、今更だけど――2人が抱き合っているさらに奧、そこに、まみれの死が倒れていやしないだろうか。

幻覚じゃない。

そうだ、やっぱり、あれは、殺人鬼なんだ。吸鬼が犯人だったんだ。

――私は咄嗟にその場から走り出していた。

泣き疲れてはボロボロだったけど、それでも必死に、しでも早く公園から離れられるように。

そしてマンションにると、エレベータのボタンを押し、けれど中々降りてこないからまどろっこしくなって階段を走る。

部屋は4階にある。

駆け上がるうちに息が切れる、太ももの筋がパンパンに張っている。

震える手で鍵を握り、に挿し込み、開き、り込むように部屋にった。

そしてすぐさま、鍵を閉める。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

まだだ、まだ安心できない。

私はうまくいてくれない足で、ほぼ四つん這いの狀態になりながら寢室にり、恭子さんの匂いが染み付いている布団に潛り込んだ。

の死が、の赤い目が、記憶に焼き付いている。

何度首を振っても消えてくれそうにない。

「恭子さん……何で居ないの、恭子さん……っ」

私は必死で大好きな人の名前を呼ぶ。

そうやって彼の顔を思い出すことで、悪い記憶を追い出そうとしたのだ。

そうこうしているうちに、疲れ果てた私は、いつの間にか眠ってしまっていた。

◇◇◇

目を覚ますと、夜が明けていた。

コンビニで買った弁當は、そのまま床に投げ捨てられている。

ベッドから這い出た私はそれを手に取ると――ぐぅ、とお腹が鳴った。

昨日から何も食べていない、空腹になるのも當然だろう。

リビングにると、まだ恭子さんは帰ってきていなかった。

今日はバイトの日だ。

髪もボサボサで、目も真っ赤で、酷い有様だけど、休むわけにはいかない。

時間にはまだ余裕がある、どうにかメイクで誤魔化そう。

なにはともあれ、まずは空腹を満たすことだ――そう重い、弁當をレンジにれて、待つ間はテレビでも見ようと椅子に座った。

またニュースが流れている。

『現在、私は昨晩発見された新たな死のうちの1が発見された公園の近くへと來ています――』

映し出された風景は、私のよく知るものだった。

昨日、あのを見た場所だ。

「……やっぱり、現実だったんだ」

一晩明けて、夢のような気もしていたけれど、ニュースで流れているということはそうじゃないみたい。

死んでたんだ、あの人は。

じゃあ、を吸われていたの人はどうなったのかな、今までの死が出たなんて話は聞いたことが無いし、行方不明なんて話も出ていない。

いるのかもしれない。

町の中に、普通の人間のフリをして、紛れ込んでいるのかもしれない。

そう思うと無に怖くなってくる、ずっと私なんかが巻き込まれるわけがないって高をくくってたけど、急に近な出來事のようにじてしまう。

私は恐怖心から、とっさに攜帯端末を手に取った。

恭子さんなら、恭子さんの聲さえ聞ければ、すぐに安心できるはず。

そう思って連絡を取ろうとして――私は手を止めた。

もし、そこで別れを切り出されたら?

もし、私たちの関係に取り返しの付かない亀裂が出來てしまったら?

それは、たぶん、私が死ぬよりも、恐ろしいことだ。

そんなことになるぐらいなら、殺人に巻き込まれた方がずっと良い。

ピー、ピー、ピー。

レンジが鳴った、食事はすでに溫まっている。

私は攜帯端末を仕舞うと、一日ぶりの食事を口にすることにした。

◇◇◇

その日のバイトは、顔を見てんな人に心配されたけど、どうにか凌ぐことが出來た。

そして帰り道。

暗い空を見上げると、昨日の記憶が蘇る、また恐怖がやってくる。

耐えきれなくなった私は、結局、恭子さんに連絡してしまった。

たぶんもう、部屋に帰ってきてると思うから。

「どうしたの、帰りの時間だよね?」

電話口に聞こえる恭子さんの聲を聞いて、覚めきっていた心が一気に熱を取り戻した。

する。

やっぱり私には、この人が居ないとダメなんだ、って。

「何してるかな、と思って」

「んー……タバコ吸ってた」

けれど、私の淡い希は、すぐに打ち砕かれる。

「え? あ、あれ、辭めたんじゃなかったっけ」

「吸いたい気分だったの、別にいいじゃない」

良くない。

全然良くない。

だって、タバコは、私が高校生の時、キスの時に匂いがするのが嫌だって言ったから、辭めてくれたはずだったのに。

あの時は、ああ私のためにそこまでしてくれるんだって、家に帰ってベッドの上で転げ回るぐらい嬉しかったのに。

今は、もう、それも――

また泣きそうになる。

けどここはまだ、バイト先の目の前だ、さすがに泣くのはまずい。

元をぎゅっと握りしめて、どうにか耐えた。

ああ、でも、やだな、やだなあ。

なんで、私、頑張ってるのに、恭子さんのことこんなに好きなのに、どうしてしずつ離れてっちゃうんだろ。

「……っ」

「流花?」

「な、なんでも……無い、よ。もう、切るね」

「いや、待ちなさいよ。本當は何か用事があったんじゃないの?」

「ただ、ちょっと、本當に、聲が聞きたかっただけだから」

「……」

返事はない、無言だ。

もう切って良いのかな、これ以上続けてるのは、辛いよ。

「……は」

恭子さんの吐息が聞こえた。

ため息に聞こえて、呆れられたんじゃないかって思って、またがきゅっと痛くなる。

けど、それは私が思ってた意味とは違ったみたい。

「流花、本當に大丈夫なの? 迎えに行こっか?」

「あ……」

それは本當に久々に聞く、優しい恭子さんの聲で。

私が大好きな恭子さんの聲で。

もう二度と聞けないんじゃないかって思ってたから、急に、涙がこぼれ落ちた。

「い、いい、の。だって、恭子さんも、疲れてる……っ、もんねっ!」

「これぐらいで遠慮しないでいいって、すぐに車走らせるから」

「遠慮なんて、してないから。すぐに帰る、恭子さん寢ないで待っててね!」

「……ふふっ。ん、わかった、待ってるわ」

帰ると、マンションの外で恭子さんが待っててくれて、顔を見るなり私はに飛び込んだ。

もちゃんと抱きしめてくれた。

その日の恭子さんは、部屋に戻っても昔を思い出すぐらい優しくて、私は思う存分甘えることが出來た。

でも、わかってるよ。

その日だけは優しかったけど、こんなの同にすぎない。

ただの気休めだ。

またもとに戻って、私たちは離れていって。

しずつ、終わりが見えてくる。

取り返しのつかない、たぶん、私の人生の、終わりが。

◇◇◇

それからさらに一週間が経った。

私は日曜のバイトを終えて、ふらりと途中でビルに立ち寄って、その屋上に上った。

今日は酷い有様だった。

先週より、顔も、気持ちも、も。

いくつ失敗したっけ、その度にみんな心配してくれてたな。

やだな、私、足引っ張ってばっかりだ。

思えば、きっと恭子さんにとっても私は重荷でしかなくて、ずっと邪魔者だったんだと思う。

だってさ、あんな素敵な人だもん、男の人だって放っておかないよね。

29歳なんて遅すぎたぐらい。

本當はもっと早くに結婚して、子供を産んで、もっともっと幸せになってるべきだった。

『これ、どうしたの?』

気づかなければよかった。

そしたら、もうし長く、夢を見ていられたから。

けれど昨日、先週実家から恭子さんが持ち帰ってきたその封筒を見つけて、聞いてしまったから。

だから、終わった。

『ああ、それは……』

言葉を濁す恭子さんに、私は嫌な予がしていた。

けれど聞かずに目を背けるなんて用なことはできなかったから、そのまま黙って言葉を待った。

すると彼は、苦しそうに言う。

『お見合い寫真。母親がどうしてもって言うから、今度けることになってさ』

一度言葉にしてしまえば、あとは楽みたいで。

すらすらと、まるで用意していたかのように、恭子さんは死刑勧告を羅列した。

『私もいい年だしさ、そろそろ結婚してを固めなさいって』

『まあ確かに、周りにも結婚したり子供産んでる友達増えたし』

『私もいい加減に、そういうのを考えてもいいのかなって』

そろそろって、何?

いい加減にって、何なの?

友達がそうだから、どうして真似しなきゃならないの?

私は――何だったの?

『なんで……なんで私が居るのに、そんな話けちゃうのっ!?』

『お互いに大人なんだから、それぐらいわかるでしょ?』

『わかんない、わかんないよぉ! 私はずっと一緒が良いっ、死ぬまで恭子さんの人で居たい!』

私の必死の言葉を聞いて、彼は呆れたように言った。

『私も流花のことは嫌いじゃないけどさ、一生添い遂げるとか、この年になるとそういう夢を見るのは無理かな』

夢、じゃない。

夢なんかじゃ、ない。

想いがあれば、たったそれだけで葉えられるものなのに。

結局、恭子さんの心は、もう私には無いんだって気づいて。

その日はふらふら寢室に向かって、ベッドに倒れ込んで、そのまま寢た。

翌朝起きると、日曜なのに恭子さんは出かけていた。

『仕事に行ってくる』、そんな書き置きだけがテーブルの上に殘されていた。

こんな時でも律儀にバイトに行こうとする私の倫理観が、このときだけは恨めしかった。

そして――今に至る。

なぜこんなに高いビルの屋上にわざわざ來たかというと、あえて説明なんて必要ないと思う。

恭子さんの居ない世界なんて意味が無い。

両親はとっくに離婚してて、友達だって言ってくれる人にも本當は私は興味なんて無くて、大學にも、バイト先にも、恭子さんの代わりに支えてくれる人なんて居なくて。

私は孤獨になってしまった。

他人により掛かる幸せさを嫌というほど知らされてから、弱くなった上で、捨てられてしまった。

もう、いいよね。

うん、いいよ。

どうせ誰も悲しまない、私も悲しくない、だからさよなら、私をしてくれない世界――

「大事な命だというのに、簡単に捨てるなんて勿無いですよ」

フェンスに手をかけた私の背後から、誰かの聲が聞こえた。

さっきまで気配は無かったのに。

急いで振り向いた私は、そのの姿を見て――呼吸すら忘れて、目を見開き、驚愕する。

「先日、目が合いましたよね」

「あなた、は……」

「元人間、現半吸鬼デミヴァンプの日向千草と言います、よろしくお願いしますね」

千草と名乗ったは、殺人鬼とは思えないほど人懐こい笑みを浮かべた。

それを見た私の心は、勝手に警戒を解こうとする。

ダメ、絶対にダメ、こんなやつに心を許すなんてこと、あっちゃいけない。

「そう警戒しないでくださいよ、殺すつもりなんてありませんから」

「じゃあやっぱり、あの時に公園で死んでたのは……」

「はい、私が殺しました」

千草はあっさりと、悪びれずに言い切った。

私は戦慄する。

同時に、気づいた。

はたぶん、男を殺したことを、悪いことだとは思ってないんだ。

それが半吸鬼デミヴァンプという生きだから。

「そんなことどうでもいいじゃないですか」

そんなことなものか、人が1人死んでるのに。

でも、なくとも千草は、本気でそう思ってる。

下手に刺激をしない方が良い、ここは話を合わせておこう。

「それより、あなたの話をしましょう」

「私の?」

「ええ、まずは名前から教えてください」

逆らえば危険だと思った。

だから本當は教えたくないけど、私は自分の名前を告げる。

「北谷きたたに流花」

「そう、流花さんって言うんですね。では流花さんはなぜここで飛び降りて死のうとしていたんですか?」

「それは……好きな人に、嫌われたから」

「確かにショックでしょうが、死のうとするなんて、その人がよっぽど好きだったんですね」

それは、今更確認するまでもないことだ。

最初で最後のだと思った。

そうであってしいと願っていた。

「もし良ければ、詳しい話を聞かせてもらえませんか?」

正直、素直にける必要はない。

けど斷れば何をされるかわからなかったし、何よりどうせ私は死ぬんだ。

だったら、相手が吸鬼だろうとなんだろうと、全部吐き出してしまおうと思った。

私は語る。

恭子さんとの出會いから、人になって、同棲して、幸せな生活を送って、そして今に至るまでを。

千草は親になって聞いてくれた。

他人の沙汰なんて退屈なだけだろうに、一言も聞き逃さないように、しっかりと耳を傾けて。

「……今更ですが、人ってだったんですね」

「うん、そうだよ」

「そして流花さんが20歳で、恭子さんが29歳と。聞いた所、流花さんに問題があるようにも思えませんし、やはり原因は年齢でしょうか」

「恭子さんもそう言ってた。いい年だから、そろそろ結婚しないといけない、って」

「面倒ですよね、そういう人間のしがらみって」

本當にそう思う。

鬼はそういうの無くて楽そうだな。

いや……吸鬼は吸鬼で、それなりの悩みがあるのかもしれない。

「何歳でもいいよ、私と一緒に生きていくんじゃダメなのかな」

「人間の理屈ではそうは行かないんでしょうね。人は年を経るほど、的な行を否定し始めますから」

「大人になるってこと?」

「臆病になるとも言えます」

私と一緒に居るのって、そんなに勇気が居ることなのかな。

自信あるんだけどな。

きっと、恭子さんも、幸せにしてみせるって。

でもそうも行かないんだろうな、それが人間の常識ってやつで。

人間の、常識。

人間の――

「ねえ、千草。ちょっと聞いてもいいかな」

「どうしました?」

「あの時、公園でを吸ってたの人。どうなったの? 死んじゃったの?」

「死なせたりはしませんよ。今は私と同じ半吸鬼デミヴァンプとして、想い人と幸せに生きています」

それを聞いて、私の中に、悪魔的な考えが芽生え始めていた。

恭子さんが私に別れを切り出したのが、私を破滅へと導いたのが、人間の常識だとするなら。

「あなたたちは、どうして男の人を殺すの?」

「要らないからです。し合うのにも、子をすのにも、何もかもにもだけ居たら十分じゃないですか」

私たちに必要なのは、きっと人間にとっての非常識だった。

理屈を壊してでも突き抜ける、子供っぽい的なが。

「もし、もしもね……」

ごくり、と唾を飲み込んで、いた。

私は、何を、言おうとしているんだろう。

本當は、もっと早くに千草を無視して飛び降りるべきだったのに。

恭子さんのためにも、私はそうするべきだったのに。

私は、酷く勝手で、好きな人とか言いながら彼の都合をこれぽっちも考えてなくて、要するに――裏切ろうとしている。

何もかもを。

積み上げてきた、全てを。

でも、仕方ないよね。

だって……私はずっと、そのまま積み上げていきたいと思ってたんだもん、壊したくないって思ってたんだもん。

だったら、ズルして、元に戻そうとするのは、當たり前のことだよ。

「私がを吸って吸鬼になりたいって言ったら、千草はそうしてくれる?」

私の問いに、千草はにぃ、と寒気がするような笑みを浮かべた。

そして一歩、二歩とこちらに近づき、言った。

「もちろん。私たちはあなたを歓迎しますよ、流花さん」

歓迎、されてしまった。

もう逃げられない、私は恭子さんを手にれるために、人を止めようとしている。

はさらに耳元に口を寄せ、囁く。

「怖がることはありません、を任せるだけでいいんです。痛いことも苦しいことも無いんです、全て、ただただ気持ちがいいだけですから」

良かった、痛いのは嫌だと思ってたから。

でも……無償の快楽なんて、この世にはきっと存在しない。

何か代償を払わなければならない。

この場合、捧げるのは私の人間としての命になるんだろうか。

ああ、どうしよ、全然想像できないな。

鬼になるって、どんな気分なんだろ。

◆◆◆

二日が経った。

流花が帰ってこなくなって、二日も経ってしまった。

リビングにはいくつものチューハイの缶が転がっていて、たった二日居ないだけでこんな有様になってしまうのか、と笑ってしまうほどの汚さだ。

何もかもを委ねていた。

どうやら流花は、ここの家賃や食費を私が払ってることを忍びなく思ってたみたいだけど、それは違う。

私はあの子が居ないと、何もできなかったんだ。

私がもっと昇進して、給料も高くなれば、専業主婦として流花を養いたいぐらいで。

それを……だってのに、私は……。

ヴゥゥゥゥゥ――

テーブルの上に置かれた攜帯端末が震える。

ディスプレイには上司の名前が表示され、私が電話に出るのを待っている。

私はそれを摑むと、八つ當たりするように壁に投げつけた。

「うっさいのよぉおおおおっ!」

跳ね返り、床にぶつかり、棚の下にり込む。

それでも端末はうるさく震え続けていた。

會社を無斷欠勤したんだから、そりゃ上司だってご立腹だろう。

だけど、んなことはどうでもいい。

謹慎にでもクビにでも好きにしたらいい。

流花が居ない、流花が居ない、流花が居ない、流花が居ないッ!

ああちくちょう、なんだって私は、わかってたくせに、知ってたくせに、どうしてこんなに苦しんでるんだか!

好きだった、ずっと。

出會った時から、この子は私の運命なんだって思った。

同じなのに、ずっと年下なのに、この子以外は絶対にありえないって。

だから、気持ち悪いって思われるかもしれないけど、毎日公園に通うようになって、いつ流花がやってくるのかってそわそわしながら待ってた。

でも、告白する勇気なんて無かった。

だって私は社會人で、あっちは高校生。

割と犯罪だしね、もういっそこのまま彼長してくのを見守れたらいいと思ってた。

なのに、さ。

告白されたの、流花から。

顔を真っ赤にして、もじもじして、その場でびたいぐらい可らしい姿を見せながら、私に『好きです』って。

夢でも見てるのかと思った。

こんな都合の良いことがあるのか、私なんかがこんな幸せを手にして良いのか。

しかも、オーケーしたら流花ったら泣きながら喜んでくれてさ。

泣きたいのはこっちだっつーの、大人だから泣かなかったけど。

いや、噓。

本當は目が潤んでたと思う。

そんぐらい、至福の瞬間だった。

付き合ってる間も、流花ったら本當にはしゃいでてさ。

毎回會う度に思うわけ、この子は天使かよ、って。

キスしても喜んでくれて、勇気出して押し倒しても笑ってくれて、挙句の果てには私が相手なら何されても嬉しいなんて。

本當は、サルみたいに盛っちゃいたいぐらいだった。

毎日自分の家に連れ込んで、押し倒して、し合いたかった。

だから、手元に置いときたいって思った。

家庭に問題があるってことも知ってたから、大學合格が決まったらすぐに會いに行って、私と一緒に暮らそうって。

正直、斷られたらどうしようってかなり怖かった。

いきなり同棲とかハードル高すぎるし、思いし。

でも――二つ返事で、オーケーしてくれたた。

しかもしかもっ、流花はまた泣いて喜んでくれたわけ!

これがどれだけ嬉しいことかわかる?

世界で一番好きな人が、私に好かれて喜んでくれている、誰よりも私のことだけを見ていてくれるのよ!?

この幸せさえあれば、私は何だって出來る。

無敵なんだって、その時は思ってた。

それから、同棲を初めて、倦怠期なんて縁のない日々を送って、流花は私が好きで、私も流花が好きで――

変に大人っぽいを演じようとして、カッコつけてたから、中々私から流花を求めることはできなかったんだけど、それでもたまに流花の方から求めてくれたりして。

この子も私のことを好きなんだってじる度に、私は神様に謝したい気分になった。

でも――好きになればなるほど、同時に神様を恨みたくもなってくる。

私はだ。

流花もだ。

そりゃあ昔に比べれば、同者に対する當たりは弱くはなったけどさ、それでも萬人が認めてくれるかって言うとそんなわけはなくて。

當然だと思う、常識がどうだ、権利がどうだって言ったって、人は男とじゃないと子供が作れなくって、それが普通なんだから。

どんなに聲高にんでも、嫌がる人は居る。

その人の価値観を強制的に変える権利は、私には無いんだから。

そして直面するのは、あまりに悲しい現実。

私じゃどうあっても、流花のことを幸せになんて出來ないんじゃないか、って。

例えば、テレビに映るイケメンタレント。

例えば、町ですれ違った顔の整った男

そっちのが、私なんかよりずっと、流花のことを幸せにしてくれるはず。

そう思うと、急に私が流花と一緒に過ごすことが間違いのように思えて。

いや、たぶん本當に間違いで。

だから――別れるべきだ、と思ってしまった。

私は流花と釣り合わない。

であることを差し引いても、流花の価値と、私の価値の間には、天と地ほどの差がある。

流花の幸せを想うなら、一刻も早く流花を私っていう呪縛から解放して、もっと良く出來た誰かの元に行くべきなんだ。

そう心の底から思った。

好きだからこそ、を引かなければならないこともある。

私は無理してルカニ冷たく當たって、吐き気を催しながら流花を傷つけて、お見合いなんて無理な話まで進めて。

母からけ取った寫真に映ってた男の人は、まあ一般的には良い件の部類にるんだろうけど。

でも本當は、これっぽっちも興味なんて無く、こいつと結婚しようだなんて微塵も思えなかった。

んで――結果として、流花は部屋に帰ってこなくなった。

それがみなんだから別にいいじゃんって思うけど、はは、いざこうなってみるとそんな簡単な話じゃなくて。

どこ行ってるんだろ、友達の家かな、でも泊めてくれるぐらい親しい友だちなんて居たっけ。

だとしても、財布とか々、手ぶらで家出することなんてあるのかな。

流花も私の事を好いてくれている、その度合はさておき、好意の存在自を疑ったことはない。

これで自殺とかだったらどうすんの、私。

ああ、そういや今、この町じゃ大量殺人が起きてるんだったよね。

殺人鬼に殺されてたりしたらどうなんの、私。

死ぬよ。

罪悪もそうだし、流花が居ない世界なんて耐えられんないもん。

死ぬに決まってんじゃん。

そしてあの世で流花に罵倒されて、ボコボコにされて、私は謝り倒して、それでも許されないんだ。

當たり前だよね。

私なんかが、きっとこの世で一番しくて可い天使である流花のこと、傷つけたんだから。

「流花……ごめん。でも、私にはこれしか思いつかなかったんだ、流花が、幸せになるために……」

獨りよがりってことぐらいわかってる。

流花には何にも伝わってないよね、ただただ無意味に傷つけてるだけだよね。

でもほら、私、馬鹿だからさ。

流花が思ってるほど大人でもないし、本當は甘えて甘やかして駄目になっちゃいたいタイプの人間だからさ。

の程をわきまえず、下らない人間だって自覚があるくせに、流花と人になっちゃうとんだ大馬鹿だからさぁ。

それ以外思いつかなかったし、さんざん傷つけておいて、自分でやったことなのに、都合のいい妄想しちゃうんだよ。

もう流花は帰ってこない。

何もかも手遅れだ、だって私自がやったことなんだから。

でも、もしかしたら帰ってくるかもしれない。

あれだけ傷つけても、それでも私のこと嫌いにならないぐらい流花は私のこと好いてくれてて、『お願いだから捨てないで』って縋り付いてくれるかもしれない。

ふふ、ふふふふ、あはははははは。

吐き気するよね。

なにそれ、都合良すぎ、死ねよ。

とんだクズだ、こんなヤツの所に帰ってこない方がいいよ、流花。

幸せに出來ない。

私じゃ、私なんかじゃ、流花のことは幸せに出來ない!

わかりきってんのよぉ!

じゃあわかってんなら諦めろ! 諦めてしまえ! あんたなんか、あんたなんか、あんたなんかあぁぁぁっ!

「ううぅぅ……ぁぁぁぁぁあああああッ!」

私はソファの上で膝を畳んでこまりながら、頭をかきむしった。

自分を恨んで、自分を嫌いになって、自分を殺せるなら、誰も苦労はしない。

ってそういうものだ。

が”自分は流花に相応しくない”って理解してても、それでもしがってる。

聲を聞かせて、笑いかけて、抱きしめて、好きって言って――次々と求が湧き上がってくる。

もう諦めてしまえ。

諦めないと。

諦めてよ。

諦めろ。

諦めろ、諦めろ、諦めろ。

私は必死で自分に言い聞かせる。

すると――

ガチャ。

鍵が、開く音が聞こえた。

がびくっと反応する。

「噓……でしょ?」

合鍵を持っているのは、流花だけだ。

だから、鍵を開けるのは流花だけのはずで。

喜んじゃ駄目なのに。

今、突き放せば、きっと流花は私から解放されるのに。

湧き上がる歓喜がとまらない、に溜め込んでいたもやもやした黒いが流れているように、ぼろぼろと涙が溢れる。

流花がそこにいる、帰ってきてくれた。

ただただ、その喜びが、あらゆるネガティブなを凌駕して私を突きかす。

気づけば、私は立ち上がり、玄関へと駆け出していた。

そして開くドアの前で立ち止まる。

ドアノブが回り、微かに開いた隙間から冷たい風がり込み、そして、そして――開いた先には、流花が、立っていた。

諦めるとか言ってたくせに、自分で突き放したのに、いざ流花の姿を見ると、暖かさが私のいっぱいに広がる。

「流花あぁぁぁぁぁっ!」

我慢できなかった。

私は衝的に、彼の名前をびながら、両腕でそのらかで溫かいを力いっぱい抱きしめていた。

◆◆◆

おそらく、平日の今の時間には恭子さんは部屋には居ない。

帰宅前に部屋に戻り、彼が帰ってくるのを待つ。

そして帰宅と同時に、千草様から與えられた”影”の力で両手足を拘束。

逃げられない狀態にしてから、寢室に連れ込み、押し倒し、魅了して吸する。

はただの人間だ、半吸鬼デミヴァンプの力に抗うはない。

計畫はうまくいく。

絶対に逃がすもんか、恭子さんは一生、永遠に私とし合うの。

それ以外の未來なんて、私が許可しない。

きっと恭子さんは化になった私から逃げようとするはず、だって人間だった私も捨てようとしてたんだもん、こんなになっちゃったられてくれるわけがない。

どんな手段を使ってでも、場合によっては彼を傷つけることになっても構わない。

そう、強く覚悟していた。

でも――

「流花あぁぁぁぁぁっ!」

部屋のドアを開いた瞬間、待っていたのは、目を真っ赤に腫らして泣いている恭子さんの姿で。

「え……?」

そもそも部屋に恭子さんが居るとも思っていなかったし、居たとしてもいきなり抱きしめられるとは思ってなかったから、私は影を使うことなんてすっかり忘れて、その場で棒立ちになってしまう。

苦しいぐらい強く、彼の両腕が私のを締め付けた。

「流花ぁ、ごめんね! 私、私すっごい酷いことしてた! 取り返しがつかないぐらい、流花のこと傷つけてた! ごめん、ごめん、何回謝ったって許してくれないだろうけど、本當にごめんっ!」

「え、えと……恭子、さん?」

何を謝られているのか、私はさっぱりわからない。

「やっぱ無理だったのよぉ、私が流花と離れるなんて。私なんかじゃ流花のこと幸せに出來ないってわかりきってた! なのに、なのに……ごめんねぇ、私なんかが流花のこと縛り付けて。でも、一緒がいい。流花が居ないと、私もう、駄目なのよぉ……!」

……まさ、か。

そんなこと?

恭子さん、そんなことで、私と離れようとしてたの?

なにそれ、じゃあ私、何のためにこの二日間――

「許してくれなくても良い、このまま捨てられても仕方ないと思ってるわ。もしかしたら別れを告げるために戻ってきたのかもしれないし」

「そんなのっ、そんなのできるわけないよ! 私がどれだけ恭子さんのこと好きだと思ってるの!? 私には恭子さんしか居ないの! 恭子さん以外っ、誰のことも好きになれないの!」

「流花……」

「何で恭子さんが泣いてるの? 泣きたいのはこっちだよぉ、恭子さんに捨てられたと思って死のうと思ってたのに! 恭子さんに捨てられたと思ったから人間辭めちゃったのにぃ!」

「……ん?」

これじゃあ私が1人で空回りしてたみたいだ。

あのまま死んでたらどうするつもりだったの? 恭子さんも一緒に死んでてくれてたの?

天國で一緒になれるならそれもそれでいいけど、幽霊だとれないかも。

それは嫌だ。

恭子さんとれ合えないなんて、地獄に行くよりずっと嫌だ。

「待って、流花。さっき……何て言ったの?」

「だからぁ、恭子さんに捨てられたと思ったから人間辭めちゃったの! 半吸鬼デミヴァンプになったの!」

「……? でみ……何? え、えっ、どういうこと? 人間辭めるって、何かの例え?」

ああ、そっか。

恭子さんは何も知らないんだよね。

「そのまんまの意味だよ」

「待ってよ流花、さすがに混してる今の私でも、そんな話信じないからね」

「ねえ恭子さん、こんな噂聞いたことない?」

私は一旦を離すと、気持ちを整えながら、落ち著いてゆっくりと話を始めた。

「最近起きてる大量殺人は、吸鬼の仕業だって」

「ネットで流れてる噂よね。吸鬼なんてオカルトな存在、実在するわけがないわ」

「そう、でもね、あれ本當だったんだ。私ね、この二日間、殺人鬼――ううん、吸鬼の所に居たの」

そして私はにやりと笑う。

鋭く尖った牙を見せつけるように。

「何その犬歯……確かに前はそんなに尖ってなかったかも。でも、キスした時に危なくない?」

を吸う時以外は危なくないよ、ほら」

「うわっ、丸くなった! こんな真似、普通の人間に出來るわけないよね。ってことは、本當の本當に……」

「うん、吸鬼になっちゃった」

そう言い切ると――

「……」

「……」

恭子さんは私を見たまま黙り込んで、私も釣られるように黙ってしまった。

十秒ほどそのまま見つめ合っていると、恭子さんは困ったように言った。

「……よく見たら、目も赤くなってるし」

「吸鬼になるとこうなるんだって」

「ふぅん……で、流花は吸鬼になって、私をどうしようとしてたの?」

「魅了って力があって、それがあったら、恭子さんは私を捨てずに一緒に居てくれるんじゃないかと思って。なんかもう、全部無駄になっちゃったけど、えへへ」

思わず笑っちゃうぐらい臺無しだけど、別にいい。

恭子さんが私を好きなままでいてくれるなら、それが一番なんだから。

「えへへって……ほんとどうしてこんなに可いのかしら、この子は」

「恭子さんが前は絶対に言わなかったようなことを言ってる……」

「本音ではずっとそう思ってたの。もう泣きながら抱きつくなんてみっともない姿見せちゃったんだし、無理して大人の振る舞いする必要もないじゃない」

思ってたんだ。そっか、思ってくれてたんだ。

恥ずかしいけど、嬉しい。

頬に両手を當てると、ぽかぽかと熱くなっていた。

「ま、殺人鬼とか々気になることはあるけど、流花が無事なら何だって良いわ」

「でもどうしよう、恭子さんを吸鬼にするために戻ってきたのに、捨てられないならその必要も無いよね」

「私を?」

「うん、そしたらずっと一緒にいられるし、同士でも変だとは思えないし、あと恭子さんと私の子供も作れるって!」

「それほんとなの?」

「その代わり、男の人がゴミみたいにしか見えなくなるけど、別にいいよね!」

「ゴミって……あ、もしかして被害者が男ばっかだったのって……そのせい?」

「そうだよ、だって要らないでしょ?」

恭子さんは苦笑いを浮かべている。

変なこと言ったかな。

私が好きなのは恭子さんだけだし、だったら最初から男なんて要らないし、それが死のうが生きてようがどうでもいいのは普通のことだと思うんだけど。

「……人間を辭めるってそういうこと、か。でもま、私も流花が居れば他はどうでも良いクチだし、それでいいのかな」

恭子さんはぶつぶつと小さな聲で何か言っている。

よくわからないので、私は首を傾げておいた。

すると彼の手が、私の頭にぽんと乗せられる。

「流花が私のことを想って選んだ道なら、私は何だってれるわ」

「それって、を吸ってもいいってこと?」

「吸われて、私が死んで終わりとかじゃなければね」

「それは絶対に無いよ! あと痛くもない、すっごく気持ちいいから!」

「噛まれてるのに気持ちいいって、それはそれで怖いわね……」

恭子さんの気持ちはわからないでもない。

私も最初はそうだったから。

怖くて、全強張ってたけど、でもいざ牙がを貫くと、がかぁっと熱くなって、目がチカチカして、思わず聲が出ちゃうぐらい気持ちいいんだから。

きっと恭子さんも、その時になればわかってくれるはず。

「で、まずはどうすんの? いきなり吸う……んなら、二日も空けなくていいはずよね」

「恭子さんの中に私の力を注ぎ込む必要があるから、一日ぐらいはずっとれ合ってなきゃいけないかも」

「なるほど、つまり一日中いちゃいちゃしてればいいわけね。じゃあ早速寢室に行きましょう」

「うんっ!」

理解が早い恭子さんで助かる。

そうして私たちは、以前と変わらず人間同士の人だった頃のように、腕を絡めながら寢室に向かった。

思ってた展開とは全然違うけど、恭子さんが一緒だったらなんだって良い。

「そう言えば、吸鬼になったら大學とか會社とかどうなっちゃうのかしら。まあ、私の場合は二日連続無斷欠勤の時點でヤバそうだけど」

「休んじゃったの?」

「流花が心配過ぎてそれどころじゃなかったの。自業自得とは言え、ね」

「んふふー、そっか、私が心配だったんだ」

たぶん笑い話じゃないんだけど、私は嬉しい。

大事な仕事をほっぽりだしてまで、私のことを心配してくれてたんだから。

私たちは會話をしながら寢室にり、ベッドに並んで腰掛ける。

「流花も大學は卒業しときたいんじゃない? 何か夢があるから必死に勉強して國立にったんでしょうし」

「夢なら葉うからどうでもいいかな」

「そうなの?」

「恭子さんと同じ業界にって、あわよくば同じ會社に社するのが私の夢だったから」

それを聞くと、彼は一瞬きを止めて、直後にため息を吐いてうなだれた。

けど、その表には笑顔が混じっている。

「まさかそれで、私が通ってたのと同じ學科を選んだの?」

「そういうこと」

「よくも今まで黙ってたわね」

「言ったら恭子さん、きっと”自分のせいで流花が進路を変えたんだ”と思い込んで罪悪を持つんじゃないかと思って」

「うっ、確かにそうね……今みたいな狀況にならなきゃ罪悪で潰れてたかも」

でも、今の笑顔を見る限りじゃ、罪の意識に苛まれているようには見えない。

私たちを縛る人間の世界のしがらみは、順調に消えつつある。

それだけでも、私が人間を辭めた甲斐があるというものだ。

「まあ、きっと仕事も大學も心配しなくたって平気じゃないかな、吸鬼パワーでどうにかなっちゃうと思う」

「魔法みたいね」

「魔法そのものだって言ってたよ。だから時間もお金も別もどうとでもなる、って。もう、恭子さんは私のことだけを考えてたらいいの」

眉唾ものの話だ。

を見なければ、私だって信じなかったと思う。

「にわかには信じがたいけど、流花が言うなら本當なんでしょうね。ま、理屈なんてどうだっていいわ、流花と一緒に居られるなら、私は地獄だろうと天國だろうとどこにだって付いていくから」

言って、恭子さんは私の頬に手を當てた。

顔が近づいてくる。

私は反的に目を細めた。

「だから――好きなように、私をそっち側に連れて行くと良いわ、流花」

不敵な笑みを浮かべる恭子さんは、やっぱりかっこいい。

鬼に変えられて、仲間だという綺麗なの人を沢山見てきたけど、どこへ行ったって、一番は恭子さんしか居ない。

同士がれ合う。

それを合図に、私たちの永遠を誓う儀式は始まった。

◆◆◆

千草とエリスは、2人の様子をこっそりと向かいのビルの屋上から見ていた。

肩をれ合わせながら並ぶ2人。

恭子が流花を押し倒し、事が始まった所で、エリスが口を開く。

「お姉様、これなーんか違わないかなあ」

「何がですか?」

「思ってた展開と違うってこと。事前に聞いてた話だと、恭子っての人が全力で流花を拒んで、強引に押し倒す流れになると思ってたのに……」

エリスの目に映るのは、ベッドに倒れ、恭子に顎をでられながらけた表を見せる流花の姿だった。

「二重の意味でネコなんだけど!」

「本人が幸せそうならそれでいいんじゃないですか」

「うーむ、しかし人間に攻められる半吸鬼デミヴァンプって……」

の強い弱いだけでは無いと言うことですよ。それに、彼たちは他の大多數と違って以前から人同士だったわけですから、決まった役割というがあったんでしょう」

半吸鬼デミヴァンプになると言っても、別人に変わるわけじゃない。

あくまで人であった頃の自分を殘したままで、より幸せな人生を送れるように変わるだけ。

完全に何もかもを書き換えるわけではないからこそ、広げていく価値があると千草は考える。

「さて、これ以上の野次馬は無粋ですね」

「2人だけの世界ってじだもんね、邪魔したら馬に蹴られそう」

その馬すらも蹴飛ばす力が彼らにはあるが、そういう問題ではないのだ。

「ええ、ですのでそろそろ次に向かいましょう」

「あれ? もう次が決まってるんだ。どんな人なの?」

「事件の犯人が吸鬼だと流した人に目星が付きましたので」

「あー、あれってただの當てずっぽうじゃなかったの?」

「どうやら確信を持っているようですよ。中々に厄介な相手でした、影を使っても海外経由の書き込みを特定するのは難しいですから」

「ねっと、ってやつ? 私それよくわかんないなー」

會話をしながら、屋上の半ばまで移する。

そしてその場で影が2人を包み込み、次の瞬間にはもろとも姿を消していた。

世界中の人々を幸せにするために、彼たちは今日も暗躍し続ける。

同時に、數え切れないほどの死の山を築き上げながら。

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