《異世界で鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》Ex6-4 シスターコンプレックス

散々の中を躙した千草の口が離れると、巫里はベッドに倒れて大きくを上下させた。

與えられたのは、今までの人生で一度もじたことのない、異常と呼ぶべき未知の覚。

らかでしっとりとしたれた時も、長い舌が口を余すこと無く弄んだ時も、そして生暖かいのような何かがや食道を拡張しながら通り過ぎていった時も――例外なく、巫里のは快楽に打ち震えていた。

苦しげに聞こえた聲だってそうだ、あれは痛みによるものなのではない、ただただ気持ちよくて思わず聲が出てしまっただけ。

心は拒んでいるのに、が抗えない。

それがとにかく悔しくて、巫里は腕で潤む目を隠しながら、力いっぱい歯を食いしばった。

「プライドって邪魔ですよね、人が幸せになれない理由の1つがそこにあると私は思います。れてしまえば、楽になれるのに」

ベッドの縁に腰掛けながら、千草は巫里の頬を指先ででた。

「……あんたの思通りになってたまるもんですか」

そのおぞましいこそばゆさに、巫里は千草を睨みつけた。

まだ戦意は失っていない、そう主張するかのように。

しかし憎悪を向けられた所で、彼が圧倒的不利な狀況にあることは変わりない。

どうやら隙を見て千草を仕留めようと考えているようだが、その程度は想定である。

「到底敵わないことはすでに理解しているはずなのに、それでも抵抗の意思を失わない強さは、一どこから來るものなのでしょうね」

「あんたにはわからないわよ……私には、守るべきものがあるの!」

「あははっ、まるで年漫畫みたいなセリフですね。ですが、世の中そうシンプルに善と悪に別れているわけではありませんよ。私が強引な手段に出た理由は、先程も言った通りです」

千草はベッドの上で巫里に馬乗りになると、顔を近づけながら言った。

そして四方八方から影がびたかと思うと、巫里の服を瞬く間にがす。

気づけば彼は、おそらく吸鬼たちが用意したであろうレースの付いた下著姿になっていた。

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訓練により鍛えられた腹筋や手足は、アスリートのように引き締まっている。

同じく違いの下著姿になった千草は、そんな彼を舐めるように観察した。

視線がの上をでていくような気がして、巫里は骨に顔をしかめた。

「仲間を傷つけられました。私にとって守るべきものを傷つけた、だから罰を下す。これのどこが悪だと言うのでしょう」

「人殺しの化に説明したってわからないわよ」

「吸鬼殺しの人間には理解できるとでも?」

「っ、あ……」

繊細な指先が太ももの側をでる。

思わず甘い聲を出してしまった巫里は、顔をそむけて悪あがきをした。

「わかっていますよ、話し合いなどした所で平行線をたどることぐらいは。ですから、私にできることなんて、半吸鬼デミヴァンプの素晴らしさをに教え込むことぐらいしか無いんです」

「だからって、こんな……おかしいわよ、同士で……!」

「慣れですよ。な、れ」

千草は耳元でそう囁き、そのまま彼の耳たぶにキスをした。

さらには耳の縁を舐めあげ、わざとらしく音を立てて口づけを繰り返す。

「ん、あっ、やめっ、そんなとこぉ……っ!」

「どうせ3日間は逃げられないんですから、楽しんではどうですか?」

ちゅっ、ちゅぱっ、と千草のれ、音を鳴らす度に巫里は面白いように反応を見せた。

「ひううぅっ」

先程までの気丈な態度はどこへやら、耳へのを繰り返され弱々しい聲をあげる。

拷問のように痛めつけられるのならともかく、このようなでられ方をされるとは想像もしていなかったのだろう。

訓練でも、痛みに耐えること以外は教えられてこなかったはずだ。

それに、かすことでそれ・・を発散してきた巫里は、ネットにり浸りだった扇里に比べると知識も経験も乏しい。

「やめ、なさい……よぉ、そんな耳……ばっかりぃっ……!」

「あなたがそっぽを向くからでしょう? 嫌なら私の方を見てください」

見たら見たで別の何かをされるに決まっている。

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だが耳への責めに耐えかねた巫里は、言われるがままに正面から千草と見つめ合ってしまった。

至近距離で赤い瞳に見つめられると、かない。

不覚にも、一瞬だけ”綺麗だ”と思ってしまった自分を恥じ、顔が赤らんだ。

「こんなに可らしいの子を、命がけの戦いに駆り出すなんて。とんだ人でなしも居たものです」

急に優しげな聲で言う千草。

目と目をしっかりと合わせながら言われると、敵だとわかっていても言葉がに染み込んでくる。

巫里自にそういった耐が無いことも災いしたのだろう。

一瞬、彼は警戒を解き油斷してしまった。

そこに千草のが降り注ぎ、半開きの隙間から舌がり込んでくる。

「む、ふぅっ……は、んちゅ……んふぅ、はぷ、ぷちゅ……っ」

人生二度目のキスは、一度目の暴なものとは異なり”巫里を気持ちよくしてあげよう”と、まるで人に向けるような慈が篭っていた。

そのギャップに、思わずを預けそうになってしまう。

気を確かに持て、と自分に言い聞かせながらどうにか踏みとどまったが、しかしの反応までは止められない。

顔を傾け、深くを重ねながら、丁寧に丁寧に舌全していく千草のきに、巫里はしずつ頭がぼおっとしてくるのをじていた。

「ぁん……む、ぁ、にちゅ……ちゅ、んぉ……お、ぅ……じゅぱぁっ……」

気づけば、巫里の中から抗おうなどという気持ちは完全に失せていた。

あれほど強く嫌悪を抱いていたはずだというのに、與えられる生の快楽がそれを上書きしてしまう。

だからこそ、悟ったのだ。

千草の言う通り、変に抵抗したところで無駄だ、と。

こういった行為に限れば、経験も技も、圧倒的に千草の方が上であることは間違いない。

何度か力づくで押しのけられないか試してはみたが、何故か・・・両手足にそこまで力がらなかった。

何かしらの対策が講じられていると考えるのが自然だろう。

すなわち、ここから逃げることは不可能なのだ。

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だったら、無駄な抵抗にリソースを割くよりかは、快楽をしつつ、自分の意思を強く持つことに全ての力を注ぐ方が賢かろう。

「ん……はぁ……ふふ、隨分と大人しくなりましたね。諦めた、という雰囲気でもありませんし、無駄な力を使うことを避けましたか」

「そ、そうよ……変に抵抗したって、どうせ得の知れない力で組み伏せられるだけだもの。だったら、三日間楽しむだけ楽しんで家に帰るほうが利口だわ」

「そうですか、そういう考えなら私も遠慮なく行かせてもらいます」

今まで遠慮してたのか――と巫里は心戦々恐々としていたが、顔に浮かべた不敵な笑みは崩さない。

先程のキス程度の快楽ならば、表を作る程度の余裕はまだ殘っている。

この調子で三日間耐えきれば、と作戦を立てる巫里だったが、

「んひううぅぅぅううううっ!」

千草が彼の右手を取り、その手の甲をぺろりと舐めた瞬間に、何もかもが頭から吹っ飛んでいった。

巫里は思い切り背中を仰け反らせながら、足の指をピンとばしてを震わせる。

「はっ、はひっ、ひ、いま、の……は?」

「”印”ですよ」

「しる、し?」

はここで初めて、自分の手に見慣れぬマークが浮かび上がっていることに気づいた。

ハートに悪魔のような羽の生えた、悪趣味なタトゥー――いつの間に、一何の意味があって。

訝しむ巫里の疑問に答えるように、千草は上機嫌に言った。

に魅了のための魔力が満ちたことを示すサインで、れられると強烈な快が與えられるんです。どうですか、すごかったでしょう?」

すごかったなんてものじゃない、ただの一舐めだけで脳細胞がいくつも死んで、馬鹿になってしまいそうな覚だった。

今でも視界がチカチカしており、は余韻に震えている。

「……ぜ、全然、すごくなんてないわ。余裕よ、余裕」

「ふふふ、無理してますね。本來は魅了狀態にあるしか味わえない快楽ですから、心が墮ちていない巫里が味わうとどうなるのか興味があったのですが、じ方は通常時と変わらないようで」

素直でない巫里を咎めるように、千草は彼の手の甲をつねった。

すると面白いようにぎ、のたうち回る。

「ひあぁっ!? んぁ、ぁおっ、はあぉおっ! そ、そぉ……れっ、やめ、ひぇえっ!」

さらに千草が爪で手の甲の印をカリカリと掻くと、その度に巫里はを紅させ、じわりと汗ばみながら、大きくを跳ねさせた。

ギシギシとベッドがきしむ。

手の甲でお手軽に弄ぶのも千草にとってはそこそこ楽しかったが、だが場所としてはいまいちインパクトが薄い。

そこで彼は、印に人差し指を當てた狀態で目を閉じ、その指先に魔力を集中させた。

そしてバチッ、と雷が走ったかと思うと、人差し指のきに合わせて印が移を始める。

「あっ、あっ、あっ!?」

「手の甲だけじゃつまらないでしょう? 別の場所でも遊んでみましょうか」

腕のラインをなぞり、まずは巫里の腋に停止した。

そしてくぼみに印を合わせると、溫かくしっとりとしたそこに指を沈ませていく。

「んおぉぉ……こ、こんな、場所ぉっ……!」

ただそれだけで、巫里は聲を震わせた。

千草は彼の手を取ると上にあげ、印が刻まれた腋をむき出しにする。

千草はそこに顔を近づけると、いたずらっぽく笑いながら言った。

かしたあとだからか、し汗臭いですね」

さらに腋に顔を埋め、すんすんと鼻を鳴らす。

「そんな恥ずかしいこと言わないでよぉっ!」

「恥ずかしいから言うんじゃないですか、スパイスのようなものですよ」

「変態じゃない……」

「今からここで気持ちよくなる巫里に比べたら、足元にも及びませんね」

そう言うと、舌をばして印の上をらせた。

「はぉっ、おぉおおん……ん、ふうぅっ、ひううぅぅううっ!」

にゅるりとした長い舌がるたび、巫里の脳に快楽がほとばしる。

逃げるようにをよじるも、腕をしっかりと抑えられているためきが取れなかった。

ぺちゃぺちゃというった音が繰り返される。

千草はわざと唾を多めに出しながら、彼の腋にまぶしていった。

そしておもむろに顔を離すと、腕を下げる。

巫里の腋は、ぬらついた狀態のまま閉じられてしまった。

「はぁ……はぁ……な……なに? どうしたら、いいの?」

「そのまま前後にかしてください」

「嫌……って言ったら?」

「強引にさせますよ、いかなる手段を使ってでも」

「ううぅ……」

巫里は骨に顔をしかめながらも、言われるがままにするしかなかった。

ぴったりと腋を締めた狀態で腕を前後させると、にゅちっ、にゅちっと千草の唾が絡み合って粘著質な音が鳴る。

「んふっ、ふううぅんっ……!」

不本意ではあったが、印の影響でその行為にすら快を覚えてしまう。

音が響く度に、合わせるように巫里の口からはっぽい吐息がれた。

「ふうぅっ、はぉっ、おふ、ひゅうぅっ」

自らの腋から漂ってくる唾の匂いすらも、今の彼には能的な香りであるかのように思えた。

にゅちっ、にゅちっ、にゅちゃっ――嗅ぐ度にが熱くなり、相乗効果で自然と腕のきも早まっていく。

「おおぉっ、んぁ、あはっ、はぁぁっ、ふんうぅっ!」

「自分で自分の腋をりながら気持ちよくなるなんて、変態以外の何者でもありませんね、巫里」

の癡態を前に千草も興しているようで、頬を赤らめながら耳元で囁いた。

すると巫里のきが止まる。

「う……」

「いいんですよ、止めないで。ああ、それともりが悪くなってきましたか?」

「ち、ちがう……私は、あんたに言われたから……」

「ええそうです、だから私の言葉はただの獨り言です。何も気にしなくていいんですよ。それよりほら、腕を上げて。また舐めてあげますから」

よほど先程のが気にったのだろう、巫里は悔しさを表ににじませながらも、ゆっくりと腕を上げ、腋をわにした。

また千草はそこに顔を近づけると、鼻を鳴らす。

「さっきよりもずっと酷い匂い」

「だから、わざわざ言わないでって……」

「いちいちリアクションする巫里が悪いんですよ」

「そんなのっ……んああぁっ!?」

の抗議を遮るように、千草の舌がびる。

「あっ、あふうぅっ、ふあぁんっ!」

ナメクジのようにねっとりとしたそれが印を舐めあげる度に、巫里はもはや口元に笑みすら浮かべながらいだ。

と言うからには彼は処だし、運ばかりに打ち込んできたせいか知識も乏しい。

思っていたよりも抵抗が見られないのは、彼の無知ゆえに、なのかもしれない。

たっぷりと唾を塗りたくり千草が顔を離すと、今度は自ら腋を締めてかし始める。

「本當に気持ちよさそうですね」

「そ、そうよぉっ、はぁんっ、気持ちいいのっ! こんなのぉ、あんっ、気持ちいいに決まってるじゃないのぉっ!」」

「半吸鬼デミヴァンプになれば、もっともっと気持ちよくなれますよ」

「ふううぅん……いぃ、いいぃ、これだけで、いいっ、我慢するぅっ!」

「そうですか。まあ、別にそれでもいいんですけどね」

実を言えば、千草には巫里を急いで墮とすつもりなどさらさら無かった。

ゆっくりでいい、早く終わるならそれでも構わないが、時間がかかるならかかるでそれも楽しいだろうから。

それよりも本命は――

◆◆◆

「あれー、おっかしいなー」

エリスは、ベッドの上で橫たわる扇里のを舐めるように観察しながら、首をかしげる。

千草と同じように魔力は注ぎ込んだ、魅了はされていないがは半吸鬼デミヴァンプになる準備が整っている。

それは間違いないのだ。

だが、なぜか――扇里のをどれだけ調べても、印が見つからない。

「失敗した? いやいや、そんなことは無いと思うんだけど」

「……私のに、何したわけ?」

「気持ちよくなるための細工。タトゥーみたいなのがのどっかに浮かび上がるはずなんだけ、ど……」

エリスはふと、異世界に居るラライラライのことを思い出した。

確かに彼の場合、印は”舌”に表れたはず。

つまり、必ずしもの外側に出るわけではないのだ。

「ねえ扇里、お口あーんしてみて」

「また変なことするんじゃ……」

「しないって。それに、さっきのも気持ちよかったでしょ?」

「それは……まあ、そうだけど……」

エリスの言う通り、扇里は口から影の形をした魔力を注ぎ込まれながら、今まで経験の無い快楽を全じていた。

巫里と違い、彼は知識がそれなりにある。

との経験はないが、自分の手ですることは多い。

その覚を知ってはいるのだ、だが大きさと言うべきか、量と言うべきか、とにかく押し寄せる怒濤の質量に圧倒されてしまったのだ。

”また味わいたい”。

間違っていると知りながらも、そうんでしまうほどに。

「じゃあ私の言う通りにして、さっきよりもっと気持ちいいのあげるからさ」

先程のを通り過ぎ、に染み込んでいく甘い覚を思い出し、ごくりと唾を飲み込む扇里。

そしてエリスから微妙に視線をそらしながら、大きく口を開いた。

エリスは口の中を覗き込むと、舌に、口蓋、頬の側と順番にチェックしていく。

「無いなぁ……どこに出ちゃったんだろ」

言いながら、彼は人差し指を扇里の舌に乗せてぎゅっと軽く押し潰す。

扇里は「んが」と気の抜けた聲を出した。

奧に赤い口蓋垂がぶら下がっている。

「んん?」

エリスは、ようやくそこで印を見つけた。

口蓋垂のさらに奧、に張り付くようにうっすらとハートのマークが浮かび上がっているのだ。

「うわ、こんな場所に出てるし。珍しいこともあるもんだ」

そのまま指を奧に進め、餌付く扇里に「ごめんねー」と軽く謝りつつ、印に指先でれた。

「あがっ、あおぉぉおおおおおっ!?」

すると扇里は、突如奧に走った電流のような覚に、仰け反りながら雄びを上げる。

エリスは満足げに笑いながら手を抜き取ると、まとわりついた唾を舐め取った。

「今のが印。ね、比べにならなかったでしょ?」

扇里はまだ余韻に浸り、ぼーっとした表を浮かべている。

視線も虛空を彷徨っており、まだ意識が戻ってきていないようだ。

「いきなりるのはちょーっと刺激が強かったかな。でも、さっきのは軽く指先でれただけ、もっとがっつりったらどうなっちゃうんだろうね。楽しみだよね?」

「あぅ……うぅ……」

きながらも、ゆっくりと頷く扇里。

それをさらなる行為に対する同意とけ取ったエリスは、彼を近づけた。

「ただ、さすがに普通の人間のをべたべたったら痛みも出るだろうし、その辺のケアもしながら可がったげる」

「キス……する、の?」

「するよぉ、私らのながぁい舌で扇里の気持ちいいとこ舐めたげる」

「舐める……さっきの、所……」

期待に扇里の瞳が潤む。

そんな彼を見て、エリスは歯を見せながら笑った。

「しししっ、扇里は素直でいいねえ。でもわかってる? これ、ただ気持ちよくなるだけの遊びじゃないからね。三日間耐えたら人間のまま逃してあげるっていうゲームなんだから」

忘れてはいない。

もちろん人間を辭めて化になりたいとは思っていないし、姉を裏切らないためにも三日間耐え抜いて見せるという使命はある。

だが――一方で、扇里は疑念も抱いているのだ。

果たして耐えて、逃げた所で、この世界に逃げ場所などあるのだろうか、と。

それに、巫里と違って扇里は無力だ。

一般的な子高生の平均よりも、能力で遙かに劣る彼が、抵抗を諦めるのは合理的ですらあった。

「んま、私としては扇里みたいなの子が気持ちよくなって、幸せになってくれればそれでいいんだけどさ。んじゃ始めよっか、まずはキスからで」

「……うん」

扇里が頷くと、エリスはを寄せた。

単純に”キス”と呼ばれる行為としては、これが初めてと言ってもいいのかもしれない。

2人の口と口が重なり、にゅるりとエリスの舌が扇里の口へと侵していく。

扇里は最初から口を軽く開いており、それを拒んたりはしなかった。

もっとも、舌を絡めあってのキスは彼にとって初めての経験なので、何をどうしたらいいのかなど全く想像も付かなかったが。

「んちゅ……れるぅ……んふ、ふううぅんっ……」

扇里から鼻がかったぎが零れる。

エリスの舌は巧みに彼の舌を本から絡め取り、自らの唾を絡めながら、丁寧にしていった。

初めてじる、他人の舌の

ほんのしざらりとしていて、けれど基本的にはにゅるりとしていて、想像していた以上に心地よかった。

他人のを味わうという行為も、扇里は自分で思っていた以上にすんなりとれている。

むしろ、甘い唾を舌の上で転がして、を通り過ぎ、の一部とする度に、エリスとの距離が近づく気がして――気付けば彼は”もっとしい”と思うようになっていた。

だが、半吸鬼デミヴァンプの責めがそんな甘っちょろいきだけで終わるわけもない。

エリスの長くびた舌は、扇里の舌を巻き取りながら更に奧へ進んでいった。

そして微かにしょっぱい奧にれ、印のある場所を舌先で上下に舐めあげていく。

「ふごっ、ぉ、おおぉっ、んぐっ、もごぉっ!」

エリスの口に塞がれた狀態で、くぐもったぎをあげる扇里。

一見してもがき苦しんでいるようにも見えたが、だが彼はエリスの舌を拒まない。

むしろ後頭部に腕を回して、催促するように抱き寄せている。

の壁を舐められる度に、扇里に與えられるのは快楽だけではなかった。

エリスは舌に魔力を込め、今後のにも耐えられるよう、を変質させていたのだ。

そのおかげで、扇里は全く痛みをじること無く、印から與えられる快楽を貪ることができた。

できれば生の人間の狀態のままの方が好ましかったが、そう出來ない場所に印が出てしまったのだから仕方がない。

「こ、か……はっ……はあぁ……ん、ふうぅ……ふー、ん……はぁ……ん……っ」

エリスはを離し、にゅぽっと明の雫が滴る長い舌を引き抜く。

明らかに人間のものと比べて逸した形をしたそれが、彼の口の中に収まり元のサイズに戻っていくのを、扇里は惚けた表で、を上下させながらぼんやりと見つめていた。

「キス1つ取っても人間よりずっと良いんだよ、それが半吸鬼デミヴァンプってわけ。今のでわかったでしょ?」

こくん、と頷く扇里。

確かに気持ちよかった、想像していたキスより遙かに何十倍も。

未だに、口の中がぴりぴりと痺れているほどだ。

「人よりも能力で優れ、高い魔力を持ち、爭いもなく、誰もがし合い、それでいて毎日が人間のでは味わえない快楽に満ちている……って説明してもさ、みんなまだ拒むんだよ? 私には、そうまでして”人間”にしがみつく心理が理解できないな」

「誰だって……化には、なりたく、ないから」

「扇里は私のことを化だと思う?」

扇里に向かって、至近距離で笑いかけるエリス。

人懐っこい、悪意などひとかけらもじられないその表に、扇里の心臓は跳ねた。

エリスは扇里の目から見ても、文句なしのである。

いや、彼に限った話ではない。

千草だってそうだし、思えば紗綾だってそうなりつつあった。

みな、同であろうと惹かれてしまうほどの貌を備えており、なおかつ表の裏側にある悪意のようなものがじられない。

いたずら心は存在しても、他者を傷つけるためのものではない。

らが扇里に見せているのは、紛れもなく相手を幸福にするための”善意”だ。

らを化だというのなら――人間はもっと、醜悪な何かと言わざるをえない。

だが半吸鬼デミヴァンプが人殺しであることもまた事実。

を命であると認識しない、そんな習によるものだ。

悪意はない、それは目の前の笑顔が証明している。

しかし、人殺しという行為は悪である、扇里の価値観がそう判斷しているから。

目に映る景と、脳との報との間に齟齬が生じ、彼わせる。

答えに窮した彼は、何も言わずに視線をそらした。

するとエリスは、その目すら逃すまいと両手で顔を抑え、まっすぐに見つめあう。

「扇里はいい子だね、頭ごなしに私たちを否定しない。先観に囚われやすい子だとこうは行かないの、人の話も聞かずに私たちを化ってさ」

「あたしは……」

「ねえ、なっちゃおうよ。気持ちよかったでしょ? ああいうの嫌いじゃないんでしょ? わかるよ、こっちの世界に來てからもう何人も仲間にしてきたし、扇里がそういうタイプの子だってことぐらい。だったらさ、毎日朝から晩まで嫌なことなんて何も考えないでいい、気持ちいいことだけ出來る私たちの世界においでよ。恥ずかしがらなくたっていい、絶対にそっちのが幸せだって」

エリスの指先が扇里の耳をくすぐる。

こそばゆいに、扇里は「ん……」と艶っぽくを鳴らした。

正直言って、惹かれるものはあった。

単純に快楽しか存在しない世界というのにもそうだし、何より”嫌なことなんて何も考えないでいい”というエリスの言葉に心が反応する。

嫌なこと。

家族のこと。

自分だけ仲間外れで、の繋がった家族なのに蚊帳の外にいるような気分になること。

孤獨じゃないのに、ふいに寂しさが襲ってくる。

家族とのれ合いですらその寂しさを消せないというのなら、特効薬なんてきっと人間の世界には存在しない。

それこそ、人外の力でも借りない限りは。

「まだわかんないかな、それともが薄れてきた? だったら、もっかい味わっておこっか」

「まっ――」

扇里の靜止はエリスの耳に屆かない。

2人は再びを重ねると、すぐさまねっとりと尾する蛞蝓のように舌を絡め合う。

一度の中にられると抵抗のはもうない。

から舌の裏、さらには付けに至るまで、余すこと無く舐られ、をくねらせる扇里。

そしてぞぶりと奧にそれが挿し込まれると、また脳を焼き焦がすような快楽が彼を支配した。

「ふぐっ、ぐうぅっ、んごおぉっ、ごっ、おぼ、んおおおぉおっ!」

扇里の腰は浮き、をさらけ出すように仰け反り、目はぐるんと上を向く。

しでも気を抜くと意識が吹き飛んでしまいそうな強烈な覚。

もはや自分がどこにいて、誰にこんなことをされているのかもわからなくなり、ただひたすらに”もっとしい、もっとしい”と本能がリピートしている。

それを表すように、彼の両腕はまたしっかりとエリスのに回されていた。

もちろん、抱き寄せられたエリスも彼のその行を見て、”もっと激しいのを期待されてる”と気を良くし、きを早め、大きくしていく。

「おご、ごぉっ……おふっ、ぐぶっ、ぶ、ちゅ……じゅぶっ、びゅ、はぼぉっ!」

ぐちゅ、ぐちゅ、と舌が唾を纏いながら、扇里のや食道を拡張していく。

気づけばエリスの舌も太く大きくなっており、ピンク塊が唾を撒き散らしながらピストンする。

の奧を突かれているのに吐き気は無い。

呼吸も出來ないはずなのに苦しくもない。

ただただ、理を押し流すような大漁の快楽が、扇里の正常な思考を奪っていく。

にゅぼっ、じゅぼっ、じゅぶぶっ!

およそ人の口から出る音とは思えない、激しくかき混ぜる音と共にひたすら送運を繰り返すエリスだったが、おもむろに舌をずぼぉっと引き抜く。

「はごおぉぉっ!? お……ん、おおぉ……ほ、ほぉ……」

引き抜かれる瞬間、扇里はひときわ大きくを仰け反らせた。

そしてぐったりとをベッドに投げ出すと、大きくを上下させて息を整える。

汗ばんだ頬に、髪が張り付いている。

エリスはそれを指で退けると、頬と額に軽くキスをした。

ギャップのある優しさに、扇里の心がぐらりと揺れる。

それを知ってか知らずか、今度はエリスが先程の大化した舌をでろんとばすと、彼の目の前で揺らす。

すぐに意図は察せた。

拒もうとも思わなかった。

滴るそれを、扇里は自ら大きく開いた口に含む。

「はぶっ……ん、ぼ……ほ、ぉ……ん、ぐっ」

エリスはかない、あくまでこれは扇里の意思で行われていることだ。

普通であれば絶対に飲み込むことは出來ないはずの大きさのそれを、扇里は躊躇なくずるずると飲み込んでいく。

口いっぱいにひろがるエリスの味と匂いに、頭がくらくらする。

先程まで與えられていた快楽への期待からか、自然とも熱く疼いた。

「じゅぼぉ……にゅ、ぷ、んぼっ、はぶ、ちゅうぅ……っ」

しかし扇里は、やられてばかりではいられない、と思ったのか、エリスの舌を奧へと導くのを途中で止め、その場で舐めしゃぶり始めた。

頬をすぼめながら、舌と涎を絡ませ奉仕する。

ぎこちないそのきに、エリスは快というよりは、おしさをじていた。

しでも自分に気持ちよくなって貰おうと必死になるその姿に、庇護が掻き立てられたのだろう。

エリスの手が扇里の頭をでる。

すると彼は、心地よさそうに目を細めながら、その調子でにゅぼっ、にゅぼっ、と頭を前後させながらしゃぶり続けた。

しばしそれを続けたあと、飲み込むのを再開する。

太いを通り過ぎ食道へと差し掛かると、扇里の首は外から見てわかるほどぼこっと盛り上がった。

「んごおぉ、ぉおおぅ……ふんっ、ん、っふううぅぅぅううぅぅんっ!」

印をざらりとした舌がるたび、意識が吹き飛びそうになる。

それを必死で繋ぎ止めながら、扇里はさらに奧へ奧へとエリスの舌を導いていった。

そして舌先が胃袋付近まで到達した時、主導権は再び移行する。

し離れていた2人のがぴたりと著し、エリスは暴に抜き差し、撹拌を始めた。

扇里のから獣の如きぎ聲が響き、腰が激しくくねる。

だがやはり、両腕はしっかりと相手のに回されており――彼は自らんで、人外の悅楽をれるのだった。

◆◆◆

「あぁ千草様、千草様ぁっ!」

巫里は発した兎のように千草に抱きつき、り付ける。

布ずれのこそばゆさすら、今の彼には至高の悅びであった。

なにせそれは、千草から與えられたものなのだから。

千草様は今の自分の全て。

も、心も、生き方も、時間も、何もかもを彼が與えてくれた。

だから心酔する、崇拝する、何よりも千草という存在を優先する。

ただそれだけで巫里は幸せだった。

だが――

「ん……あぁ、千草様っ、ふああぁぁ……っ」

千草はすることを許可するだけでなく、自らの手で巫里をでてくれる。

甘えてくる巫里を、心底おしそうに見つめながら頭をでてくれる。

神の寵けた信徒は、もはや言葉も失い、を震わせながら喜びを噛みしめることしかできない。

「私、半吸鬼デミヴァンプになれてよかったぁ。千草様のおかげです、千草様が私を捕まえてくれたから、そして私を許してくれたから、こうして人間では到底屆かない幸福を得ることが出來た。いくら謝の言葉を並べても足りません。ありがとうございます、ありがとうございます、好きです、大好きです、私の命をいくつ捧げても足りないぐらいしています、全てを捧げたいと思っています。も、心も、魂も、何もかもを。それでも私なんかのでは足りないでしょうけど、しでも足しになるよう自分を磨くことを忘れませんから。だからっ、だから千草様っ! 私を――」

溢れ出す思いを抑えきれず、雪崩のように言葉を並べる巫里。

した様子の彼を千草は微笑んだままそっと抱きしめると、耳元で「私もしていますよ」と一言だけ囁いた。

何千文字も、何萬文字も、彼への想いを羅列した所で――ああ、この一言にすら屆かないのか、と巫里は自分の矮小さを自覚する。

そして同時に、そんな偉大なる千草の寵けられることを、心の底から誇りに思い――

◇◇◇

――そこで、巫里は目を覚ました。

仰向けの狀態で右手を上にかざし、現実であることを確かめるように何度も閉じて開いてを繰り返す。

それを眺めているうちに、次第にぼんやりとした視界はクリアになっていった。

だが頭はまだ重い、寢起きだから仕方がないのだが。

はかざした手を下ろし、手のひらで顔を覆うと、大きくため息をついた。

「はあぁ……最悪。悪夢だわ」

夢のくせにはっきりと覚えている。

自分が千草にびた仕草でり寄る姿を。

確かに、昨日は正気を失っているとしか思えないほどれていたが、だが心はまだ抵抗を忘れていない。

だというのに、あのような夢を見るのは――

「どんな夢を見たんですか?」

真隣から聞こえてきたその聲に反応して、巫里の首はギギギと錆びたブリキ人形のようにぎこちないきで橫を向いた。

千草の赤い瞳とばっちり目が合う。

「おはようございますね」

笑いながら言う彼に、思わず巫里は頬を引きつらせた。

「まさか、あんたが見せてたんじゃないでしょうね?」

夢の中に現れるのは、妖の類の常套手段だ。

何でもありの”影”をる彼になら、その程度できたっておかしくはない。

「良い夢見だったみたいですね。初めての試みなので不安でしたが、楽しんでもらえたみたい嬉しいです」

「楽しめるわけないでしょうがっ! 悪趣味よ! あんた趣味が悪すぎんのよッ!」

「でも気持ちよかったでしょう? 夢の中なのに、まるで現実のようにじて」

「それとこれとは話が別よ!」

巫里は否定しない。

事実、夢だというのにには疼きがまだ殘っていたからだ。

もちろん、千草を前にして本音を隠しきれるはずもなく、全てお見通しだったが。

は巫里の首に手をのばすと、飼い犬にそうするように顎の下をでた。

「ふああぁうっ!?」

びくん、と過剰に反応するのは、現在彼の印がそこにあったからだ。

昨日は手の甲、腋、そしてに印を移させられたあと、最後は首を呼吸困難に陥るまで責め立てられた。

呼吸が出來ず、酸素も足りないはずなのに、不思議と苦しくはない。

そんな人間では味わえない覚を味あわされたまま、気絶するように眠ってしまった。

また昨日の再現をしようとでもいうのか。

千草は印の位置を下顎から首の橫にかすと、そこに口を近づける。

そして、キスマークをつけるように印に吸い付いた。

「んああぁぁっ、あ、くうぅ……っ!」

可能な限り千草の思通りにならぬよう、聲をこらえる巫里。

だが、必死に我慢する彼の姿こそが、何よりも千草を喜ばせていることに彼は気づいていない。

ちゅぱっ、とわざとらしく音を立てながら口を外すと、そこには真っ赤な跡が殘っていた。

今度は舌をばし、キスマークを上から舐め取っていく。

「ふううぅ、ん、ううぅっ、あ、ああぁっ、はあううぅっ」

吸われるのとはまた違う覚に、巫里は先程よりも大きな聲をらした。

どうやら彼は舐められるのが一番好みのようで、ちょうど今のように骨に反応が良くなる。

巫里が気持ちよくなってくれている、そう思うと千草の気分も高揚し、彼はさらにペースを早めてを続けた。

「んふふ、首を舐めていると、どうしてもその下にを流れるを意識してしまいますね。いっそこのまま吸ってしまうのも面白そうです」

「あ……ま、待って……約束がっ……!」

「なら抵抗したらどうです? ほら、牙がしずつ首に食い込んで行きますよ、わかるでしょう? ずぶぅっ、ての中に私がっていくのが」

千草は実際に巫里の首に口を近づけると、2本の牙を彼の首に突き立てた。

「あ……あぁ、んああぁ……っ!」

巫里は抵抗したいのはやまやまだったが、快楽にが震えて言うことを聞かない。

を空けられ、本當は痛いはずなのに、不思議と彼の首に走る覚は、熱い側に注がれるかのような痺れだけだった。

千草も千草で、本當は冗談のつもりだったのだが、こう首に食らいついてしまうと、吸鬼の本能が”本當に吸ってしまえ”と語りかけてくる。

やろうと思えばいつだってそうできた、けれどそうしなかったのは、”罰”と”演出”のためだったはず。

剎那の快楽にを任せてしまえば、それが臺無しになる――そう自分に言い聞かせる千草は、目を閉じ、気持ちを落ち著け、牙を引き抜いた。

そして手をかざし、影で傷を埋める。

「あ……あれ?」

「冗談ですよ、ルールはルールですから、巫里がまない限り私からを吸うことはありません。でも、隨分と抵抗が弱かったですね、本當は吸われたかったんじゃないですか?」

「ち、ちがっ……!」

一瞬でも”もうこのままでもいいか”と諦めてしまった自分を、巫里は猛烈に恥じた。

まだ二日目だ、諦めるには早すぎる。

それに扇里だってまだ戦っているのだから、ここで姉である自分が折れるわけにはいかない。

例えどんなに気持ちよくて、どんなにが彼たちの手や口を求めたとしても。

「……まだ、全然なんだから。タイムリミットは明日でしょう? ふふ、この調子なら……よ、余裕ね!」

「そうですね、余裕でしょうね。まあそれでも構いませんよ」

「昨日もそんなこと言ってたわね。どういうつもり? 私を仲間にするために連れてきたんじゃなかったの?」

「だって、まだメインイベントが終わっていませんから。その前に墮ちられたんでは、楽しみが半減してしまいます」

「何をするつもりなの?」

閉じ込め、姉妹を分斷しただけに飽き足らず、千草たちは何かを企んでいる。

巫里は敵意を剝き出しにして睨みつけると同時に、抵抗のを持たぬがゆえに不安で心を曇らせた。

「そろそろ頃合いでしょう、あちらの様子を見てみましょうか」

千草が壁に設置されたモニターに視線を移すと、それを察知したように電源がった。

映し出されるのはもちろん、下著姿の扇里とエリスの居る部屋の様子だ。

2人はベッドの上で膝立ちの狀態で抱き合いながら、深く舌を絡めている。

『んちゅ……むちゅっ、んふうぅ、はぶ、じゅるっ……んううっ、は、あんっ、エリスぅ……っ』

「せ、扇里……?」

扇里が靡に半吸鬼デミヴァンプとわる姿に、巫里は戸いを隠せない。

まだ妹も戦っているはず、だから自分も耐えなければ。

そう考えていた巫里の気持ちが微かに揺らぐ。

「扇里だめよっ、目を覚まして! そいつらは人殺しの化なのよ!?」

「無駄ですよ、今はあちらと繋がっていませんから。一方的に私たちが部屋の様子を見ているだけです」

「じゃあ繋ぎなさいよ!」

「嫌ですよ、せっかく盛り上がっているのに。それに水をさしたら私がエリスに怒られます」

都とエリスにたっぷり責め立てられた日の記憶は、未だに千草のトラウマだ。

「でも、あのままじゃ……」

「扇里が自ら半吸鬼デミヴァンプになることをみそうだ、と?」

「っ……」

巫里の不安は、モニターに映る彼の姿を見てさらに膨らむこととなる。

ねっとりとした唾が糸を引きながら、2人は口づけを終えた。

扇里とエリスは見つめ合いながら視線でディープキスをすると、ついばむように數回を重ねる。

『じゃああれ、やっちゃおうか』

『うん、しい。あれちょうだい』

扇里はそう言うと、大きく口を開き、さらに人差し指をの箸に引っ掛けてさらに広げる。

エリスの方は手を開いて指をピンとばし、それを舌を突き出しながら待ちける扇里の口に近づけていった。

「何をするつもりなの?」

エリスが手を口にれようとしていることも、それを見て扇里がうっとりと目を細めていることも、巫里には理解できない。

それでも事は進んでいく。

にまみれた粘にエリスの手は飲み込まれていき、その指先がれた時――『はおおぉんっ!』と扇里は大きな聲をあげた。

それに驚いた巫里のがびくっと跳ねる。

「あんな場所に印があるみたいですね」

「だ、だからって……あんなの、死ぬっ、死んじゃうわ!」

「傷つける意図はありませんから、エリスもちゃんとその辺は考えてると思いますよ。それにほら、見てくださいよ扇里の幸せそうな顔」

確かに彼は恍惚としていた。

だが、だからこそ、巫里は恐ろしいのだ。

あのような人ならざるもののわりを、自分の妹がれてしまっているという事実が。

『ん、おごっ、ご……ぐ、ぇ……んぐおおぉおおおおんっ!』

『扇里の中、ぬるぬるしててきゅうきゅう締め付けてきて気持ちいいよ、もっと奧にれるからねっ』

『ぐごおおぉおおおおっ!』

エリスの腕は、ずぶずぶと扇里のの中に沈んでいく。

口は顎が外れたように大きく開き、頬の皮も今にも千切れそうなほど張り詰めている。

そして何より、腕により広げられたが、の上から見てもぽっこりと膨らんでいるのが特別不気味だった。

もっとも、扇里はその膨らんだれ、皮越しにエリスの腕のを確かめるのが楽しくて仕方ない様子だったが。

「や、やめてっ、やめてよぉっ! 千草、ねえお願いだから、あのままじゃ扇里が壊れちゃう! 戻れなくなっちゃう!」

「そうするためにしているんですから、當然ですね」

「ふざけないでっ! 私たちが何をしたっていうの!?」

「だから、仲間を傷つけたと。それでも殺そうとしているわけでは無いんですから、優しい方だと思いますよ」

「どこがよ!?」

「気持ちよくしてあげてるじゃないですか。扇里だって、自らんであれをれている。それは見ている巫里だって理解しているんじゃないです?」

再びモニターに目を向ける巫里。

その向こうでは、唾を撒き散らしながら腕を出しれされ、見たことのない壊れた表で快楽をする扇里の姿があった。

確かに、自らんでいる。

確かに、幸せそうではある。

だが――人である巫里は、あれを正しい幸福としてれる事が出來ない。

「まあ、優等生である巫里に許してもらおうとは思っていません。無理でしょうから。あくまで、人を捨てるか、それとも姉を裏切らないために幸福を捨てるのか、選ぶのは扇里です」

自分を選ぶという自信があるのなら、本當は取りす必要もないのだ。

だが巫里は不安だった。

扇里との間に、薄氷のごとき些細なだとはいえ、壁が存在していたこと。

そして他でもない扇里自が、それをコンプレックスに思って家族との間に距離をじていたこと。

”そんなことは関係ない、私たちは家族だ!”と主張するのは簡単だが、それで彼が納得することは無いだろう。

姉も、そして父も母もその問題を知りながら、解決することが出來ないまま、今日という日を迎えてしまった。

もしもその微々たる隔絶が、致命的な結果を招くのだとしたら――

『がぼぉっ!?』

モニターの向こうで、にゅぽぉっ! と勢い良くエリスの腕が引き抜かれた。

がいくつも糸を引き、そして名殘惜しそうに切れ落ちていく。

『おっ、おほおおぉ……おぉん、ん、ほおぉ……ふうぅ……ふぅ……はぁ……』

扇里は引き抜かれる瞬間に與えられた強烈なの余韻に、口を半開きのまま放心狀態に陥っていた。

エリスはそんな彼を気遣うように、抱き寄せ、額や頬にキスを落とし、耳元での言葉を囁く。

気持ちが落ち著いてくると、今度は扇里の方からを突き出しキスをせがんだ。

そして2人は、まるで人がするように優しく、ゆるやかなフレンチキスを繰り返す。

『扇里……そろそろ気持ちは決まった?』

優しく語りかえるエリス。

問いかけられた扇里は、迷いを表に滲ませながらも、ゆったりと頷く。

「あ……あぁ、扇里……っ!」

姉の絶の聲は、2人の耳には屆かない。

千草は巫里をめるように抱き寄せたが、彼はもはや抵抗すらしなかった。

『でもね、吸の前にやってもらわないといけないことがあるんだよね』

『何を?』

『ふふふ、ちょっとした余興だよ。大丈夫、とっても簡単なことだから。それさえ終われば、私たちは正真正銘のの繋がった家族になれる』

『家族、に……』

エリスは扇里が家族に対し悩みを抱えていることを知らない。

だが、偶然にもそれに関する単語を聞いた時、彼がやけに大きな反応を見せることに気づいたのだ。

それを利用し、エリスはしずつ彼の心を絆していった。

もちろん人のでは與えることも味わうことも出來ない強烈な快楽も後押ししていたが、扇里が首を縦に振ったのは、”家族になれる”という言葉の影響が大きい。

無論、噓ではない。

半吸鬼デミヴァンプ同士はし合う、それはなからず同じが流れているからだ。

白金家と違って、そこに差別や別け隔てはない。

扇里のように、一人だけ仲間外れにされることもない。

『ナナリー、っていいよ!』

エリスが合図すると、ドアが開き、修道服にを包んだが姿を表した。

ナナリーは40代ほどに見える男を連れており、彼は部屋にるなり扇里とエリスの前に暴に転がされる。

『お父さん!』

「父さんっ!?」

モニター越しに、姉妹はほぼ同時に聲をあげた。

驚くのも當然だ、その男は、他でもない2人の父親だったのだから。

2人が家を出た時は仕事で不在だったが、巫里は本家に保護するよう求めていたはず。

だが本家もあっさりと陥落し――おそらくそこで捕まってしまったのだろう。

『扇里ちゃん……無事だったんだね!』

『うん、お父さんも生きててくれたんだ』

『ああ、みんなが殺されていく中、なぜか私だけはここに連れてこられてね。ところで巫里ちゃんは?』

『お姉なら、別の部屋にいるよ』

『そうか、巫里ちゃんも無事だったのか……よかった、本當によかったぁ……!』

そのリアクションに他意はない、ただ自分の娘が無事だったことを喜んでいるだけだ。

だが扇里には、自分の時よりも姉の時の方が父が大きく喜んでいるように見えていた。

の再會を客観的に見ていた巫里は、畫面に映り込む違和に気づく。

それは部屋にってきたナナリーの手に握られた、兇である。

普段はあまり見かけることのない、鉄製の斧。

なぜそんなものを彼が持っているのか――巫里は強烈な悪寒をじずには居られなかった。

『さて扇里、それじゃあ私たちが家族になるための儀式を始めよっか』

『なに、それ』

『本來は別に必要無いんだけどね、知っての通りこれは”罰”だからさ。こういうのも必要だってお姉様の提案でね』

「……別に私のせいにしなくてもいいのに」

事実ではあるが、ふてくされる千草。

それだけ多くの仲間が傷つけられたと言うことだ、もしこの姉妹が姉妹でなく兄弟だったとしたら、瞬時に灰にされている程度には彼は憤っていた。

ただし、それは負傷者の報告を聞いた時の話であって、今は隨分と沈靜化しているのだが。

しかしどうせ準備したのだし、と予定通りに事は進んでいく。

『ナナリー、それを扇里に渡して』

『意外と重いですから、片手では持てないと思いますので気をつけてくださいね、扇里さん』

『は、はあ……』

何が何だかわからずに、ナナリーから手斧をけ取る扇里。

が両手でそれを握ったのを確認すると、エリスは背中から抱きしめながら耳元で囁いた。

『じゃあ、それでお父さんのこと殺してみよっか』

『……へ?』

「なっ――」

全く想像もしていなかった言葉に、扇里は時が止まったかのように固まった。

別の部屋でそれを聞いた巫里もまた、同じように停止する。

――この人は何を言っているんだ。

殺せ? 殺せと言ったの? 誰を? お父さんを、私が?

そんな馬鹿な事――

する扇里は、半笑いでエリスに聞き返す。

『冗談、だよね? そんなの、無理に決まってるし』

「そ、そうよ、そんなこと出來るわけないし、扇里がするわけないじゃない! は、ははは、まさか千草、本気で気持ちいいだけ・・・・・・・で人の心がれると思ってるの?」

「私に未來予知はできませんので、ありのままの結果をれるしかありませんね」

ありえない、巫里はそう言い切る事が出來たが、余裕の表を崩さない千草に一抹の不安を抱いていた。

一方、モニターの向こうでは再びエリスが、優しい聲で扇里に囁いている。

『これは家族になるための儀式なんだって。扇里があの男を殺したら、すぐにを吸ってあげる。そしたら私も、そこにいるナナリーだって、お姉様もそう、みんなが扇里の家族になるの。の繋がった、誰もがし合った、扇里が一番しがってた家族に』

扇里は生唾を飲み込むと、が脈する。

巫里同様に、彼も”ありえない”と心の中では思っていたが、なぜか手斧を捨てられないでいる。

心臓の音がうるさい、けど一向に止む気配はなく、むしろ背中にエリスの溫をじる度に鼓は大きくなっている。

どくん、どくんと、自分の頭の中でめぐるふざけた・・・・考えが膨らむのと比例して、脈を打っている。

『君たちが何を企んでいるのかは知らないが、扇里ちゃんが私を殺すわけなんて無いだろう!? それよりも早く私たちを開放してくれ、もう退魔の組織も壊滅したんだ、抵抗はしないと誓うから! 頼むよ!』

無條件での開放をむ父の嘆願を、エリスは鼻で笑って一蹴した。

そもそも、男の言葉など聞くに値しないのだ。

すぐさま汚れたセンテンスを脳から追い出して、意識を扇里の方に戻す。

『そ、そうだよ、あ、あたしが、お父さんを殺すなんてこと……』

『でも、この人とは家族になりきれなかったんだよね。いいや、この人だけじゃない。お母さんとも、お姉さんとも』

『っ……』

エリスなりに頭を使い、扇里と一緒にいる間は彼の事ばかりを考えていた。

――なぜ家族という言葉に過剰に反応するのか、しかもネガティブな方向で。

千草が擔當している巫里と異なり、見たところこの扇里というには特別な力は無いようだ。

話によると、母親は吸鬼と戦う力を探すために”るーまにあ”と呼ばれる遠い國に旅に出たのだという。

イコール、母親にも力は宿っているということ。

また、父親も”本家”とやらに保護されていたことを考えるに、特別な力を持つ人間を管理する団との繋がりはある。

すなわち、扇里のみ仲間外れなのだ。

確かに今回、”ねっと”とか言うよくわからない技を使って妨害を試みたが、これは姉である巫里と協力してのことだという。

巫里は出來た姉なのだろう、妹が”自分だけが仲間外れになっている”という悩みにいち早く気づき、それをケアするために”ねっと”での工作を依頼した。

だが、結果としてそれが半吸鬼デミヴァンプを引き寄せることになってしまったわけだ。

は埋まらなかった。

いや、むしろ自分の失敗によって絶的な狀況を作ってしまったのではないかと気に病み、悩みはさらに深くなっているかもしれない。

扇里はまだ苦悩している、自分だけが家族になれていないということに。

そこにつける隙がある――

我ながら冴えてるな、とエリスは自畫自賛したい気分だった。

扇里の反応を見るに、おそらく彼の予想は的中している。

面白いように扇里の心は揺らぎ、人から化生の側へと傾こうとしていた。

『私たちは家族だよ、一度繋がれば絶対に離れない。どこに居たって、どんな時だって、扇里が私たちを想ってくれるのなら、同じだけ私たちも扇里のことを想ってる。同じ高さの目線で』

『本當……に? それは、本當、なの?』

『噓なんてつかないよ、私たちは。実際、私とお姉様だって他人だった。私とナナリーだって他人同士だった。でも今は――ほら』

エリスが目配せすると、ナナリーは彼に近づいた。

そして自然と引き寄せられるようにを重ね、激しく舌を絡める。

扇里の耳元で、らな水音と、2人の喜悅の聲がユニゾンした。

満足するまで長いキスをわすと、おしそうに見つめ合いながら互いの名前を呼び合う。

當然のことで、いつもやっていることで、ポーズだけなんかじゃない。

正真正銘、心の底から2人はし合っていた。

友人のように、人のように、夫婦のように、そして家族のように。

それを、一番近い場所で全てを聞いていた扇里はじていた。

『これが私たち。そして扇里もこうなるの、同じの中で一生を――永遠を生きていく』

『あたしも、同じに……』

『ずっとそうなりたかったんでしょ? だったら簡単なことだよ、あの男に斧を振り下ろせばいい。大丈夫、すぐにお姉さんも來るし、ししたらお母さんだって一緒になれる。でもあの男だけが邪魔なんだ、殺さないと』

『殺さないと……殺さないと、あたしは、いつまでも幸せになれない……』

エリスが耳元で口を開くたび、扇里の目つきが據わっていく。

覚悟を決めたような、わされているような――明らかに雰囲気が変わっていく娘を見て、父は焦った様子で聲をかけた。

『扇里ちゃん? お、落ち著いて、わされちゃだめだ!』

「そうよ扇里っ! 早くその斧を捨てなさい!」

聲が屆かないと知っても、必死に語りかける巫里。

だが、扇里には父の聲すらも屆いていない様子だった。

明らかに様子のおかしな妹に、巫里はそばにいる千草に疑いの目線を向ける。

「扇里に、何かしたの? どうせ心をってるんでしょ!? やめさせて、今すぐに!」

「確かに心をればやめさせることは出來ますが、彼の本心を侵すことが巫里のむことなんですか?」

遠回しに”自分は何もしていない”と主張する千草。

巫里は悔しさから強く歯を食いしばり、睨みつける。

「仮に斧を捨てないことが扇里の意思だったとしても! それは、に手を突っ込まれるとか頭のおかしいことをされて混してるだけなのよ、それを本心とは呼べないわ! あなたたちが本當に私たちのことを”してる”って言うんなら、辭めさせるべきじゃないの?」

「快楽と、家族の間にある見えない軋轢と。それだけなら、巫里の言う通り”本心”とは呼べないのかもしれません」

「……他に、何か理由があるとでも?」

「ネットでの工作もそうでしたが、扇里は一般的な同世代の子と比べて賢い子のようですね。だからこそ理解しているのでしょう」

千草はしなだれかかるように、ゆるりと巫里を背中から抱きしめると、エリスが扇里にそうしたように耳元に口を寄せる。

誰かの心を折ろうとする時、聲は近ければ近いほど効果的である。

微かな呼吸音すら聞こえる接な距離に、巫里はくすぐったそうにをよじった。

そのまま、千草は甘く囁く。

「仮にゲームに勝って外に出られたとして、半吸鬼デミヴァンプだらけの世界で生きていけるわけがない、と」

ぞくりと、二重の意味で巫里の背中に冷たいものが流れる。

瞬きすら忘れ、目を見開いた彼に向かって、千草は追い打ちをかけた。

「もちろん、約束は守りますよ。勝利した場合、私の仲間たちが自らの意思であなたがたに手を出すことはありません。ですが、親友も、馴染も、みぃんなし合って幸せそうにしているのに、あなたたちだけ蚊帳の外。傍にみんなが居てもひとりぼっち。そんなの、耐えきれるんですか?」

「せ、扇里が……扇里さえ居れば、耐えられるわっ……!」

「ですがその妹さんはそうでもないようですよ? 世界でふたりきりになっても生きていけると言うのなら、そのしいをもうしだけ、普段から彼に伝えておくべきでしたね」

「……っ」

足りなかった。

が、あとしだけ。

退魔の巫としての役目を果たしながら、學校に通い、部活にも參加して――そんな忙しい毎日の中で、扇里のために裂ける時間は限られている。

最近でこそ非常事態ということで彼を守るために近くに居たが、普段は顔を合わせる機會すらあまりなかった。

それでも仲が悪いわけではない、姉妹としての関係は良好な方で――いや、もしかすると、距離が離れているからこそ、”良い関係で無ければならない”と意識していたからかもしれない。

何にせよ、もう手遅れだ。

巫里が本家を捨てて扇里に寄り添っていれば、役目よりも家族を優先していれば、このような悲劇は引き起こされなかったのだろう。

「モニター、消しますか?」

それは千草の心からの優しさだった。

畫面の向こうでは、斧を握った扇里がエリスから離れ、幽鬼のようにふらりふらりと父親に近づき始めている。

「あ……ああぁ、扇里……ダメだよ。そんなの、絶対に間違ってるよぉ……っ」

それでも巫里はモニターから視線を外さない。

の強い責任は、千草も認めるところだ。

だからこそ本家の役割を捨てられなかったのだろうし、それゆえに扇里は救われなかった。

『やめるんだ、扇里ちゃんっ! 君はそんなことをする子じゃなかったはずだ!』

腰を抜かしながら、顔に冷や汗をびっしりと浮かばせて、じりじりと代していく父親。

それを追従して、表の死んだ扇里は距離を詰めていく。

『そんなこと、する子だよ、あたしは。家族がしかった……ずっと、あたしを見てくれる家族がしかった……』

『家族だっ! 僕やママ、巫里ちゃん、みんな家族だよ! 確かに扇里ちゃんには退魔の力は無いかもしれない、でもあんなもの本當は必要ないんだ!』

『必要だった! あたしには、なくともそれさえあれば、ずっと一人ぼっちにならなくて済んだんだから……!』

『それは違う! 扇里ちゃんを想ってのことだったんだよ。本家なんて碌な場所じゃない、人間のが渦巻き、権力闘爭ばっかりやってるどうしようもない連中ばかりが集まった場所だ、それに扇里ちゃんを巻き込みたくは無かった!』

『言い訳なんて聞きたくないッ!』

扇里の的な怒鳴り聲が、狹い部屋に反響した。

普段の彼からは想像できないその迫力に、父親はを竦ませる。

『もう遅いよ、何もかも、手遅れなの。お父さんもお母さんもっ! お姉は、ちょっと頑張ってくれたけど、でもみんな、あたしが本當にしいものを與えてくれなかった。それをくれる人がいる、くれない人がいる、じゃあどっちを選ぶかなんて、わかるでしょ? わかるよね?』

『せ、扇里ちゃん……』

父親も彼の決意を悟ったのだろう。

説得を諦め、恐怖に聲を震わせる。

目の前に居るのが自分の娘ではなく、ただの殺人鬼であるということを認めたのだ。

自らに向けられる視線が、娘に対するから他人に対するに変わったことを悟った扇里は、『にひっ』と場違いに笑った。

「扇里ぃ……っ」

巫里はとっくに瞳から涙の雫をぼろぼろ零して、頬を濡らしている。

一方で千草は無表に、モニターに映し出される家族の末路を眺めていた。

扇里の両手に、強い力がこもる。

もっとも、あまり運が得意ではない彼の全力などたかが知れていたが、それでも斧を持ち上げるには十分だ。

LEDの明かりに照らされ、刃が輝く。

『扇里、ちゃん……』

父親は表に諦めと絶を滲ませながら、を震わせ、今にも振り下ろされんとする刃を見つめる。

『じゃあねお父さん。あたし、幸せになるから』

そこで”だったら構わない”と言える父親なら、しは扇里の気持ちも変わったのだろうか。

いや――それは彼にとってあまりに都合が良すぎる妄想だ。

現実なんてそんなもの。

父親の最後の言葉は、『嫌だ――』という、裏返った聲で発されるひどくけないものだった。

ドチュッ!

骨が砕ける音と、が潰れる音が混ざり合う。

刃はまっすぐに彼の頭のど真ん中に突き刺さり、頭蓋骨を貫通し、脳を損傷させた。

幸運なことに即死である。

がバランスを崩し、ふらりと右側に倒れる。

すると突き刺さった斧がずるりと抜け、ぱっくりと開いた傷口からピンクが流れ出た。

「父さん……ああぁああああああっ、父さぁん……っ! うううぅ、ううぅぅあああああぁぁぁあああああああああっ!」

巫里は両手で顔を覆うと前に倒れ込み、咆哮する。

千草にはその気などさらさら無かったが、一応、背中をでてめた。

扇里は両手をだらんとぶら下げて、大きく肩を上下させながら、父親の亡骸をめる。

初めての人殺し。

手のひらにはじとりと汗が――いや、手のひらだけでなく全が濡れている。

”ひょっとすると自分は、とんでもない過ちを犯したのでは?”

そんな思考が浮かびかけた時、誰かが彼の肩を叩いた。

振り向くと、そこには何時になく明るい笑顔を浮かべるエリスの姿。

『いじわるなお願いしてごめんね、辛かったよね。でももう大丈夫、これで私たちは家族だからさ』

そう言って、扇里を抱き寄せる。

は力なくエリスの背中に腕を回した。

父を殺した、姉も裏切った、もはや縋る相手は彼しかいない。

『エリス……あぐっ!?』

甘えるために名前を読んだ次の瞬間、扇里の首に燃え上がるような熱が突き刺さった・・・・・・。

エリスの牙だ。

扇里が冷靜さを取り戻し、余計なことを考えないで済むように、とにかく早く吸してやるのが最高の救済だと考えたのだ。

『あ……んぁ、はあぁぁっ……すわ、れて……って、くる……エリスぅ、エリスうぅっ……!』

扇里は全を包むふわりと浮かぶような夢心地に、恍惚とした表を浮かべてを委ねた。

難しいことは何も考えなくていい。

今日からはエリスが家族で、無條件にし合えて、幸せで、それだけで十分なはず。

『ああぁぁぁっ、熱くて、冷たい……の。あたし……はあっ、変わってるぅっ、変わってくうぅぅんっ……!』

口から涎まで垂らしながら、吸の快楽に浸る扇里。

牙が突き刺さり、吸鬼の何か・・が注がれていく熱さ。

と共に人間が奪われ、溫を失った人外のへと置き換えられていく冷たさ。

その2つを同時に味わいながら、扇里は終わっていく。

「うぐうぅぅ……ふううぅぅ、ううううぅぅぅうううっ……!」

巫里は崩れ落ちた狀態で、変わりゆく妹の姿を睨みつける。

八つ當たりのように人差し指を噛み、を滲ませながら、怒りと悲しみと憎しみと失と――ありとあらゆるネガティブが混じり合ったを、うめき聲という形で吐き出していく。

無論、それだけでは足りない。

濁流のように流れ込んでくるは、巫里の中に蓄積し、彼の心を曇らせていく。

「せん、り……っ、父、さん……っ、うぅぅぅぅ……ッ!」

元々白かった扇里のは、半吸鬼デミヴァンプになってもさほどは変わらなかったが、それでも変化は明らかだ。

しだらしなかった型は適度に引き締まり、しかし部や部はさらに的な魅力を強調するように膨らむ。

にも、元の彼には無かった気が備わり、同をも引きつける魔しさを備えていった。

じわりと蝕むように広がっていったそれは、やがてつま先まで及び、全を包み込む。

そして、扇里は意識を失った。

エリスは彼の重みを確かめるように抱きしめて、慈しむように頭をでる。

それから5分ほどの時間が経過した。

完全に人のを捨てた扇里が目を覚ます。

赤い瞳で、自らを救い、でてくれたエリスの姿を見つめ、目を細める。

『おはよう扇里。おはよう、私のしい家族』

『エリス……ううん、今からは、お姉ちゃんって呼んでもいい?』

『もちろんに決まってるじゃん。だって家族だもんね』

『うんっ! にひひっ、お姉ちゃん大好きだよっ!』

扇里はエリスに抱きつくと、自らを押し付けた。

自らの妹が、化を姉と慕い、激しく舌を絡め合う景。

悪夢のような現実を、一切目をそらさず、巫里は見続ける。

「さて、それではメインイベントを始めましょうか」

千草は上機嫌に微笑みながら、巫里にそう告げる。

しかし彼の耳には聲が屆いていないようで。

今は目の前の現実をれ、処理するので一杯なのだろう。

だからきっと、彼はまだ想像すらしていない。

なぜ扇里が先に墮ちなればならなかったのか。

なぜ今までがただの余興に過ぎなかったのか。

それは――妹自の手で、巫里の心を折るということ、それこそが真の”罰”だったから。

はまだ知らない、何も、何もかも。

その時が來たら、巫里は一どんな絶を見せてくれるのだろう――嗜嗜好を持っているわけではないですが、と前置きしつつも、千草はその瞬間が楽しみで仕方なかった。

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