《異世界で鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》Ex6-5 イコノクラスム

それからモニターの電源が切れても、巫里が落ち著くまで數時間を要した。

もっとも、父親が死んだのだから、”落ち著く”と言ってもひとまず會話が出來るようになった、というだけなのだが。

その間もずっと千草は彼に寄り添って、文句一つ言わずにめ続けた。

「あんた……人間、だったのよね……」

いかんせん久しぶりの會話だったので、それが自分に向けられた言葉だと気づくのに千草は數秒かかった。

「……ええ、そうですよ」

「どうして? どうしてこんな、殘酷なことができるの?」

千草は、”はて?”と首をかしげる。

「男が一人死んだだけです、これのどこが殘酷なんですか?」

は今更あえて言うことでもないだろうが、本気でそう思っていた。

男が死んだことなど、路端の石ころを蹴飛ばすよりも些細なことだ。

「……っ!? あんたはっ、あんたってやつはあぁっ!」

床に橫になっていた巫里は勢い良く起き上がると、すっとぼけた顔をした千草のぐらに摑みかかった。

抵抗は容易い、だがあえて千草は何もせず怒りをけ止める。

「死んだのよ、父親が! 大事な大事なの繋がった家族が! だってのにそれが、殘酷じゃない!? ふざけんなふざけんなふざけんなあぁぁぁぁっ!」

「ごめんなさい、本當にわからないんです」

「だから化なのよあんたはっ!」

「ふふっ、つまり私は今のになる前から化だったわけですか。ああ、なるほど、だから――みんな私のことをれてくれなかったわけですね。そういう理由で、そういう理屈で」

巫里はその時、初めて千草の素の表を見たような気がした。

自嘲気味に、全て諦めたように投げやりに、乾いた笑いを繰り返す。

空虛で――彼の人生には何も無かったのだと、話を聞くまでもなく理解できてしまった。

「ねえ巫里、人間とか半吸鬼デミヴァンプとか関係なしに……父親死んだからって、なんで悲しいと思うんですか?」

「あんた……本気で、言ってるの?」

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「はい、本気ですよ。父親ってそんなに価値のある存在ですか? ただの男のうちの一人ですよね。いや、私の場合は母親もよくわからないんですが」

そこで巫里は、自分の怒りが空回って居たことに気づいた。

この狂った世界を作り出した張本人は、なるほど家族の”本當の”を知らなかったのだ。

「……はは……はははっ、あはははっ! そっか、そうだったんだ、あんたさ、知らないくせに知った風な口聞いてただけじゃない!」

急に千草が哀れで矮小な存在に思えた。

これは要するに、スケールの大きなただの八つ當たりなのだ。

自分が手にれられなかったが世界に溢れている、そんなものは認められない、だから壊してしまおうという――そう巫里は結論付けた。

「あんたの作る世界になんて無いわ、で繋がらないと実出來ないなんてなんかじゃない!」

「両親のセックスで生まれてきた子供が何を言ってるんですか?」

「それは結果じゃない、し合ったからその……わったのよ。わったからし合ったわけじゃないの! それを知らないくせにに満ちた世界を語るなんて稽だわ!」

「そうですか、他人に恵まれた人には理解できないのかもしれませんね。ですが――私はそうは思いません」

千草は平靜を崩さない。

裝っているわけではない、巫里に否定されても全く歯牙にもかけていないのだ。

のある家族が存在することは否定しない。

例えば異世界で半吸鬼デミヴァンプとなったレングランド家。

たちは人間をやめる以前から確かにし合っていたし、白金家のように隠れた軋轢を抱えているわけでもなかった。

それでも、あの頃より今の方がずっと仲睦まじくやっている。

親と子供とその子供と、3人でわり、さらに子供を産んで幸福を広げている。

し合えなかった家族も居て、歪んだを抱えた家族も居て、そんな人たちは半吸鬼デミヴァンプになることで救われるでしょう、扇里のように」

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「扇里は救われてなんかないわ!」

「まあ、それはあとで本人に聞けばいいじゃないですか。そして仮に元からし合っていた家族が居たとして、彼たちは半吸鬼デミヴァンプになることでより多くの幸せを手にすることができるんです」

「父親を犠牲にしても?」

の父の死に様を思い出し、巫里の目に涙が浮かぶ。

「ええ、それを差し引いたってプラスですよ、圧倒的にね」

しかしそれを見てもなお、千草は笑顔すら見せてそう答えた。

「命に勝るものなんて無いわ!」

「同ですね、私もみなの命は価値あるものとして大事にしたいと思っています。だからこそ、仲間が傷つけられた時に怒ったんじゃないですか」

「それは――」

巫里は反論しかけて、途中で止めた。

おそらく、無意味だ。

どんなに討論を重ねても価値観そのものがわっていないのなら無駄でしかない。

とか人間とか関係なしに、本的に、巫里と千草では考え方が違うのだろう。

命の価値だってそう。

千草にとっては、男はそもそも命を持った存在として認識されていないのだ。

死んだ所で悲劇ではない、殺した所で罪ではない、當然のこと。

この世から汚れを払った、むしろ正義だ――そう考えているのかもしれない。

「言葉で理解し合えるとは思わない。でも斷言するわ、間違ってるのよ、あなたは」

「すぐに正しいと思えるようになりますよ」

「私は扇里みたいにはならない」

「そうですか、なら本人の前で主張してみたらどうです? エリス、扇里、遠慮しないでっていいですよ、別に立て込んでるわけじゃありませんから」

千草がり口に向けて呼びかけると、ドアが開き1人のが姿を表す。

「扇里……」

「やっほー、お姉。元気だった?」

気に手を振って巫里に笑いかける扇里。

親を殺した直後に、なぜそのような表が出來るのか。

理解できないを通り越して、もはや憎たらしかった。

「っ――なんでなのよ……ねえ扇里、あんた父さんを殺したのよ? なのに、なのになんでそんな平気な顔してんのよぉぉおおっ!」

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「どうでもいいじゃん、そんなこと」

千草と似たような反応を見せる彼を前に、巫里は痛する。

ああ、本當にもう、妹は人間ではなくなってしまったんだ、と。

「……あなたはもう、扇里じゃないわ」

「私は私だよ、中は何も変わってないよ。お姉のことが大好きな妹のまま」

「気持ちの悪いことを言わないでっ! 扇里は死んだの、もう居ないの! あんたなんて妹じゃない、人間じゃないんだから妹じゃないっ! あんたはただの、私の大事な家族を殺した化よッ!」

を剝き出しにした巫里の心無い言葉は、扇里のに突き刺さる。

ショックをけないわけがない。

なにせ、彼の中は、彼がそう言ったようにさほど・・・変わってはいないのだから。

を曇らせ、俯く扇里を見て、巫里はを痛める。

だが心を鬼にして自分に言い聞かせた、こいつは妹などではない、敵なのだ、と。

「扇里を使って私を絆そうとしてるんなら、見込み違いで殘念だったわね。これでも私は扇里と違って退魔の家系の人間なの、吸鬼相手にそう簡単に心を開くと思ったら――」

強がりを連々と並べる巫里。

扇里はうつむいたままじっとその言葉を聞き続けた。

「それはどうでしょうね」

千草は薄っすらと笑みを浮かべてそう言った。

憧れていて、自慢できて、けれど屆かない。

そんな優しい姉に、ひたすら罵倒され続ける。

これはある意味で、今まで全く変化の無かった姉妹の距離に生じた、進展・・とも呼べるものなのかもしれない。

変化はあった、それがめるものか離すものかという違いはあるものの、脈に雁字搦めにされるように凝り固まっていたは、こうして今、綻びを見せている。

父親を殺した、人間を捨てた。

つまり、どうせ今以上に扇里が巫里に嫌われることなどないのだ、だったら――やりたいようにやってしまえばいい。

扇里の口角が持ち上がる。決意が固まる。

止まっていた足をかし、一歩二歩三歩、と大きめの歩幅で、ベッドに座る姉に近づいた。

「お姉」

「な、なによ……何をしたって無駄なんだからね……!」

そう言いながらも、扇里がどう出るのか予想出來ない巫里の目には、微かに怯えが混じっている。

恐怖がその程度で済んでいるのは、おそらく心の何処かに”妹が自分に酷いことをするわけがない”という甘えが殘っているからだろう。

扇里はそんな考えを吹き飛ばすように、巫里の左側にを寄せながら腰掛けると、右手で彼のお腹をでた。

冷たいると、巫里の腹筋にきゅっと力が籠もる。

「ぁ……せん、り……?」

「今まで十年以上も言葉をわしてきて、結局通じ合うことは出來なかった。でも、で繋がりあえばきっと理解出來ると思うから。お姉のこと、あたしが沢山気持ちよくしてあげるからね」

「や、やめ……っ!」

扇里の指先が、巫里のへその下あたりをでる。

れる妹の指のは、そのまま上・に移し、へそを広げるように指先をくぼみに差し込んだ。

中指、人差し指、薬指、小指――

「ぁ、お……お、ごおおぉっ……!? う、うそ、よ……は、っほ……んぉ……っ、こ、こんな……こんな、とこ……!」

さらに親指まで飲み込み、ずぶんと手首から先を全て飲みこんでしまった。

「はあぁぁぁ……すっごい、お姉の中、暖かくて気持ちいいよ。もっと奧にれて、中をかき混ぜてあげる」

「ひうぅっ、いや、だぁっ! いやあぁぁっ!」

巫里の抵抗も虛しく、扇里の腕はさらにずぷぷと彼の腹に飲み込まれていく。

そして肘近くまで埋まると、巫里のを探るように、ぐちゅりぐちゅりと手を波打たせ、宣言通り彼をかき混ぜた。

そんな扇里の指先が最初に捉えたのは、胃だ。

文字通りの意味で胃を握ると、壊さないように優しく優しくみしだく。

「う、ぷっ……うげっ、がっ、あがっ……! ぎ、ぎぼぢ……わる、いぃっ……!」

「でもその気持ち悪いが、気持ちいいんだよね?」

吐き気がこみ上げてくる。

だがその吐き気が、なぜか心地よくじられ、巫里の溫を上昇させた。

異常だ、明らかに普通じゃない。

だが”気持ちいい”、その一點だけでを任せようとする自分が居ることに、巫里は絶した。

「違う、違う、ちがううぅっ! よぐっ、なん、かあぁぁっ……あ、いぎ、いっぎゅううぅぅぅっ……!」

歯を食いしばり、側から湧き上がってくるに耐えるも、聲までは抑えきれない。

「素直じゃないなあ、お姉は。私知ってるよ、だってさっき、お姉ちゃんに沢山教えてもらったから。人じゃじられないこと、人じゃ與えられないもの。全部、全部っ」

「はおおおぉっ、お、ごっ、ぶ……!」

胃袋を捕まれ、指を波打たせながら牛のを絞るように握る。

そのきに合わせて、巫里は口の端から涎を零しながら悶えた。

「ちょっと橫にずらして……っと」

扇里が腕の向きを変えると、巫里の腹部からぐちゅりとをかき分ける音がした。

「お、このぬるぬるしてるのは肝臓かな?」

「ひっ……」

「んー、胃よりも反応が悪いかな、じゃあもっとイイとこ探さないとね。今度はもっと奧に……上に、っと……」

「あっ、があぁぁぁあああ!」

扇里の二の腕までが、ぞぶりと沈む。

姉の溫と、と臓のぬめりを楽しみながら、ついに彼の手は肺にまで到達した。

そこを指先ででると、巫里の様子が明らかに変化する。

「はっ、はっ、はっ、はひっ、ひゅぅっ……!」

「あれ、なんか呼吸が変なじ。おーいお姉、大丈夫?」

「ひゅううぅっ、ふううぅっ、んっ、ふぐ、かひゅっ」

巫里のがガクガクと震え、視線も定まっていない。

さらには全から脂汗がにじみ出て、顔も悪くなっているようだ。

「別の場所にした方が良いかもしれませんね」

「肺のらかいじ好きだったんだけどなー……千草様がそう言うなら仕方ない、か。じゃあこっちはどう?」

扇里が次に手をばしたのは、人においてもっとも重要な臓である心臓であった。

脈打ち、全を巡らせるそれにれながら、彼は恍惚とした表を浮かべる。

一方で巫里は、自分の心臓に何かがれている、そんな異様な覚に恐怖をじていた。

――だがそれでも、思わず聲がれてしまうほどの快は消えない。

「ぅあうっ……っ、あ、はっ、扇里……やめ、てっ……!」

「やだ、やめない。だってお姉の中では、あたしはもう扇里じゃないんでしょ?」

「そん――なっ、あぁぁあああっ!?」

扇里が心臓を手のひらでそっと包むと、巫里の全がぞわっと粟立つ。

「うーん、やっぱ胃が一番リアクション大きいような……」

「命を握られてる覚があるので、素直に楽しめないんじゃないでしょうか。し手伝いましょうか?」

「お姉がそれで気持ちよくなれるならお願いしよっかな。千草様がやることなら間違いないだろうしっ」

近くに立って傍観していた千草は、巫里に近づくと、彼の首にれた。

そこには、昨日散々弄んだ印がまだ浮かんでいる。

「ぁ……あぁ……」

巫里の目は大きく開かれ、半開きになった口は、怯えているのか小刻みに震えている。

千草はそんな彼の印を首から移させ、ちょうど心臓の真上へと持ってくる。

そして彼の手が黒いもやを纏うと、ずぷんっ! との中へとっていった。

「あああぁぁ……あぁっ……!」

扇里の場合は、一応””を広げるという形でに侵していたが、これは違う。

はおろか傷口すら無い場所から、腕を側に突き刺しているのだ。

普通なら死んでいる。

だが――今はただ、くすぐったいゾワゾワとしたにまとわりついているだけだ。

痛みもない、きに支障もない、それでもきすら取れないのは、目の前で自分のに起きている景が脳の理解の範疇を超えてしまったからだ。

千草は目的を果たすと、素早く手を引き抜いた。

そして、手を汚した桃らしきものを舌で舐め取る。

「にひひっ。そっか、印を心臓に移植したんだ。確かにこれなら、心臓の度が低いお姉でも楽しめるかも」

「でしょう? 壊してもすぐに再生すれば問題ありませんから、あとは好きにしてください」

「うん、ありがと千草様。じゃあ行くよお姉、気絶しないように歯を食いしばっててね」

「いやだっ、もうやめ――て、へえぇぇええええっ!?」

それはほんのし、人差し指の先でつついただけ。

けれど、巫里は陸に打ち上げられた魚のようにを跳ねさせた。

そのリアクションを見た扇里は、姉が人外の快楽を思う存分に堪能してくれている、と嬉しくて無邪気に歯を見せながら笑う。

しずつ慣らしていこうね、お姉。もう人間なんかじゃ満足できなくしてあげるから」

「はっ、はっ、はあぁっ、あぁぁあああっ!」

「今度は握ってあげるからね……ほら、あたしの手がお姉の心臓を包み込んでるのがわかる? きゅってすると死んじゃいそうなぐらい気持ちいいでしょ?」

「あっぐうぅぅぅうう! うぐっ、うぎいいぃぃぃ……ッ!」

「それにしても、心臓って他のとこよりいんだね。食べたらコリコリしてて味しそうだと思わない?」

「お、おぼっ、わっ、はああぁっ、んおぉぉおおおっ!」

「思わないんだ。そっか、お姉ってモツとか苦手だったもんね、あたしも特別好きってわけじゃなかったけど、今なら好きな人の気持ちちょっとわかるかも。だってこんなにんでるだけで気持ちいいんだもん」

「ほっ、ほおぉおんっ! んぉっ、おぉほおおおおぉおぉ……っ」

「きゅっ、きゅっ、て力をれるとお姉すっごく気持ちよさそうだね。にひひ、でもこうやって握ってると、思わず潰しちゃいそうで怖いな――こんな合に」

ぐちゅっ!

扇里はほんのおふざけのつもりで、巫里の心臓を握りつぶした。

「はぎゅっ!?」

巫里は頭のてっぺんから爪先までピンと力を張り、全力でのけぞる。

そのまま放置しておけば、死は免れない。

だが姉の命の中樞を潰した妹は、笑顔を崩さなかった。

「あー、やっぱ潰されると気持ちいいんだ。大丈夫、すぐに治るから」

扇里の腕を伝い、巫里のの中に影がり込んでいく。

それは握りつぶし、変形した心臓にり込むと、修復し、元の形へと戻していった。

その間、およそ1秒ほど。

酸素の欠乏により意識を失うことすら許されず、再生した心臓は何事も無かったかのように平然と鼓を再開させた。

「あたしはお姉を殺したりなんかしないよ。姉妹として、ずっと一緒に居たいんだもん。あたしが人間を辭めたのは、そのためでもあるんだから」

「は……あぅ……人間、の……まま、で、も……」

「無理だよ、お姉。どんなにお姉があたしのことを想ってくれていても、あたし自が納得できないから。だからこれはただのワガママだし、嫌われて當然だと思う。それでもこれは――」

扇里の笑みが、寂しさで微かに翳る。

「あたしたちが変わるには、必要なことだったんだよ」

そこに確かに自分の妹の面影を見た巫里は――もう彼のことを、”扇里ではない”と自分に言い聞かせることすら出來なくなってしまった。

なぜなら、巫里は彼の悩みを知っていたから。

理解して、退魔のと天秤にかけて、どちらを優先するか考えて。

そんなことをしてきたからこそ、考える間もなく妹のことを優先することが出來なかったからこそ、扇里を救うことが出來なかった。

その自覚があったから。

もう否定できない。

例えそれがれの果てだとしても、妹である以上は、親のが目の前の化と繋がってしまう。

「はぁ……はぁ……扇里……もう、やめましょう、こんなこと」

「どうして? やだよ、お姉にもっと気持ちよくなってしいもん」

「そんなのっ、私はんでないのよ……お願いだから、私の言うことを聞いて?」

「ごめんねお姉。今は、あたしのワガママを通すって決めてるから」

「あ……あぁ……扇里ぃ……っ、ぐっ、おぉぁぁぁああああっ!」

扇里はずるりと腕を肘まで引き抜くと、今度は腕で巫里の腹の中をかき混ぜ始めた。

胃も肝臓も膵臓も脾臓も象徴も大腸も何もかもを撹拌し、ぐちゅぐちゃと人から鳴ってならない音を響かせる。

そして巫里が死ぬ直前で、影で治癒するのだ。

や脳からは、一切の不快なが取り払われているので、狂しながら首を振り、髪をかきす巫里も、じているのは快楽だけ。

自分の手がれていない場所が一箇所も殘らぬように、扇里は余すこと無く姉のを味わっていく。

「……もう私の出る幕は無さそうですね。あとは姉妹水らずでごゆっくりどうぞ」

すっかり蚊帳の外にされてしまった千草は、こっそりと部屋から出ていく。

ふたりきりになった部屋の中では、いつまでもグロテスクな音と、巫里の獣のような咆哮、そして扇里の笑い聲が響いていた。

◇◇◇

3日目。

昨日の激しいわりは深夜遅くまで続き、巫里が目を覚ましたのは正午に差し掛かろうかという時間だった。

制限時間まであと12時間、それを耐えきれば彼はここから開放され、二度と吸鬼襲われることも無くなる。

だが――隣で寢息を立てる扇里は、その時どうするのか。

寢顔は以前と何ら変わらない、は白くなっている気もするが、元々白い方だったのであまり違和も無い。

「目を覚ましたら、以前と同じ扇里のままだったらいいのに」

葉わぬ願いであることは知っている。

昨日味わった、臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる心地よい・・・・覚は未だに殘っている。

いくら意識がトんでいたからとは言え、途中からあのおぞましい快楽にを委ねていたなどと、思い出すだけで寒気がする。

それだけはっきりと記憶している出來事を、夢だと言い切れるものか。

それでも――と願わずには居られないほど、狀況は絶的なわけだが。

とて出路を探そうとしなかったわけではない。

外に見張りが居る様子もなく、またモニターが付いている時以外は、監視カメラが作している風でもない。

だが、肝心のドアが、不思議な力でとにかく強固にロックされており、巫里程度の力では突破できそうになかった。

見張りが居ないのは、あの千草とかいうの、彼なりの自信の現れなのだろう。

それは決して過信などではない、彼が今まで対面したことの無いような強大な力を持っていることは、未な巫里にだって理解できた。

となれば、やはり方法は1つだけ。

耐えるしか無い。

耐えて、耐えて、耐え抜いて、そして――

『仮にゲームに勝って外に出られたとして、半吸鬼デミヴァンプだらけの世界で生きていけるわけがない』

――ふと、昨日の千草の言葉が蘇る。

扇里はそう考えたからこそ、追い詰められた末に父を手にかけ、自ら人間を捨てた。

その気持ちはよくわかる。

いや、父親を殺したことを許すつもりはないが、それでも絶するに十分すぎる理由があったことは理解できた。

巫里とて、考えると目眩がしそうになるほどだ。

それでもまだ彼が”人間”にしがみついているのは、母が生き殘っているからだろう。

ルーマニアに渡ってから連絡は無いが、きっと吸鬼を屠るを見つけ出し、助けに來てくれるはずだ。

そうなれば、自分たちに手を出さないと約束した以上、常に一緒に行していれば、母に危害を加えることも難しくなるはず。

「私はまだ1人じゃない……」

そう、ひとりではない。

だが、そうなった時、扇里はどうなるのだろう。

”本當の家族”を求めて人間まで捨てた彼を、果たして巫里は見捨てることが出來るのだろうか。

「……いや、違うわ。私たちはもう道を違えたのよ、考えるだけ無駄だわ」

そう言いながらも、巫里は隣で眠る扇里の橫顔をでる。

幸せそうな寢顔を見て、反的にほころぶ頬。

口ではどうとでも言える。

しかし本心は。

いざそのときになって、妹を見捨てられるかと言えば――答えはおそらく、ノーなのだろう。

「ん……」

小さな聲を出しじろぐ扇里に、巫里は驚き慌てて手を退けた。

はただ妹をでていただけだ。

だというのに、それを気取られてはいけない、なぜなら扇里はすでに敵なのだから――と、無意識レベルで自分のいてしまったことが、無に悲しく思える。

は彼を敵とみなし、しかし本心は妹のままだと主張する。

ならば先程無意識でこの手をかした意思は、どこの誰のものなのだろう。

強いて言うなら本能か。

い頃から訓練により刻まれてきた、退魔のを継ぐ者としての。

「(それが、この子をこんなことになるまで追い詰めたんじゃない。そのくせ責任も取らないで扇里を避けるなんて、ほんと無責任なやつね)」

手のひらを見つめながら、巫里は苦笑いを浮かべる。

そして、拳を握ると同時に瞳を閉じた。

からこみ上げ、涙腺を緩ませるを、視界を塞ぐことで噛み殺したのだ。

「お姉?」

暗闇の世界に救済のように降り注ぐ妹の聲。

どうやら巫里の一連の作のせいで彼を起こしてしまったらしい。

目を開き、微かに潤む瞳でその姿を捉える。

「にひぃ……おはよっ」

扇里は以前と変わらず、無邪気にふにゃりと笑って言った。

むしろ変わり果てていてしかった、それなら今度こそ諦めもつくだろう。

だと言うのに。

ああ、だというのにどうして――昨日あれだけ狂った表を見せたくせに、ふいに人間のような顔をするのは、卑怯だ。

「おはよう、扇里」

の人間味にそのまま付き合えば、また人間に戻ってくれるだろうか。

霞を摑むよりも馬鹿らしい、そんな一縷とも呼べぬほど小さなみに手をばすように、巫里もいつも通りを裝って返事をした。

だが、聲が震えている。

笑顔もどこかぎこちない。

そんな姉の表を心配した扇里は――それが自分のせいだと理解した上で、手をばし、頬にれながら言う。

「えっと……なんか、ごめんね、お姉」

自分が言うべき言葉ではないことは理解していた。

だがそれでも、今にも泣きそうに歪む姉の表を見ていると、言わずにはいられなかったのだ。

扇里の言葉を聞いて、巫里はついにこらえきれなくなった。

今にも崩れそうな涙腺を必死にささえていた壁は、くしゃりと紙のように決壊し、雫が零れる。

「そういうの、言わないでよ」

「ごめん」

「まるで人間みたいなフリしないでよ……!」

「ごめん、それは難しいかな。あたし、大して変わってないし」

「噓つかないでよぉ! 化のくせにっ、父さんを殺した、化の癖にいぃぃ……っ!」

ぼふっ、と巫里のが崩れ落ちる。

扇里のに顔を埋めて、力のっていない拳で何度も何度も彼を叩いた。

本気で恨んでいたし、怒ってしたし、涙を誤魔化すためでもある。

それら何もかもを理解した上で、扇里は巫里のを抱きしめた。

――確かにあたしが悪い、けど悪いことをしなくちゃならないと思った。

全ては承知の上だ。

父を殺したこと――は、おそらく彼が人間なら後悔しただろうし、今はそのこと自を忘れてしまったかのようにケロっとしているのは、間違いなく彼が人外になった影響ではあるが。

しかし、半吸鬼デミヴァンプになったこと自は、悔いてはいない。

家族を得るために。

家族になるために。

「お姉、顔をあげて」

扇里の言葉に、巫里は悔しそうに口をへの字に曲げ、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらも、彼の方を向いた。

右手が頬にびる。

涙の雫を指で拭い、そのまま扇里はを寄せた。

抵抗は無い、すでに抗うことは諦めている。

どうせ、激しく舌を絡められるのだろう――そう決めつけ、こまらせて警戒していた巫里は、しかしキスがほんの數秒間、を重ねただけで終わり、拍子抜けする。

そしてまた、向き合い、見つめ合う2人。

巫里が、先程の行為がまるで人同士が何気なくわすような口づけだったことに気づいたのは、それから數秒後のことだ。

頬がみるみるうちに赤くなっていく。

巫里は、ついでに紅した耳を人差し指と親指で軽く摘むと、

「かわいい」

と、彼もほんのりと頬を染めながら言った。

「な、な……何を言ってるのよ急にっ!?」

「急にじゃないって、あたし前からお姉のこと可いと思ってたよ? 今は以前よりも強くそう思える。何回だってキスしたいし何回だって抱き合いたいし、いくらでも気持ちよくなってしい」

「やめなさいっ! 姉妹でこんなことするなんておかしいのよ……」

「昨日散々れておいて、今更じゃん。それに、それは人間の理屈だよ、お姉」

「私はまだにんげ――んっ!?」

口答えは許可しない、と言わんばかりに今度は強引に口づけし、言葉を遮る扇里。

ねっとりとしたきで舌が挿し込まれるが、巫里にはその作には、昨日とは違いどこか慈しみのようなものがじられた。

姉妹だから? しだけ人間らしさを取り戻してる?

……いや、おそらくは違うだろう。

昨日とのギャップで、巫里の心を開かせようとしている、そういう作戦なのだ。

だが、一瞬でも”姉に対する優しさ”のようなものをじ取ってしまうと、忘れることは出來ない。

そもそも、彼がそう言ったように、姉妹でディープキスなどその時點で異常なのだが――昨日の常軌を逸したけてしまって、覚が麻痺しているのだろう。

巫里もおずおずと、ぎこちないきで舌を絡め始める。

「ん……ふ、ちゅっ……んんぅ……ふぅっ……」

から、鼻がかった甘い聲がれだすまでに、そう時間は必要なかった。

ちゅぷ、ちゅぱ――と、そう広くない部屋に、姉妹の奏でる音が響く。

姉が自分を求めてくれたことが嬉しくて、扇里は鼻息荒く、明らかに興した様子だった。

しかし、今日は優しくすると決めたのだ。

に流されて暴になりすぎないよう自制しながら、姉の口を舐り、唾をまぶしていく。

巫里は舌に、扇里の溫と味をじながら、目をつむり、うっとりとした表を浮かべていた。

「(これが……巫里の味。ずっと一緒に居たのに知らなかった、巫里の一部……)」

それは本來、の繋がった家族はれてはならない場所。

正常な神狀態の巫里ならば、それを理解した時點でを離しているだろう。

だが、扇里の巧みな舌使いに理を溶かされた今の彼にとっては、”近親者である”という認識は快楽を増幅させるスパイスにしかならない。

妹でも構わない……いや、妹だからこそ――さらに大膽に舌をかし、斷の果実を味わっていく。

どうせ、今日が終わればもう扇里と合うことは出來ないのだ。

「(なら今だけは、これから先の一生分の前払いだと思えば、この程度のスキンシップぐらい……いい、よね)」

沈んでいく、溺れていく。

まだ泥濘の中にあっても呼吸はできる、酸素は殘っている、だから大丈夫だ、と繰り返し自分に言い訳をして。

扇里からのキスが終わると、今度は巫里から押し倒した。

慣れない行ではあったが、を押し付け、自分から扇里の口の中を舌でまさぐっていく。

妹は何も言わずに姉のそれをれた。

拙いきで、けれどそれがおしい。

そのキスが終わると、すでに巫里の瞳は”次”を期待して濡れていた。

どくん、どくん。

2人の心臓は、張り裂けそうなほどに高鳴っている。

特に巫里の方は、の高鳴りが強くなれば強くなるほどに、全を包み込むようなゾクゾクとした覚を味わっていた。

それは心臓に移された”印”の影響なのだが――今の彼はそんなことはすっかり忘れてしまっている。

扇里のが耳から首へと、首から鎖骨へと、そして元へとしずつ降りていき、右手は背中のブラのホックに向かった。

ぷつん、とそれが外れると、下著を支えるのは互いの著しただけになる。

巫里も負けじと妹のブラのホックを外し、2人は布越しに著させた狀態で靜止する。

今更姉妹同士でを見せあったからと言って何なのだ、という話ではあるのだが。

しかし、なぜだかそれが、無に特別なことに思えたからだ。

越えてはならない一線が、そこにあるような。

近親者としての? 姉妹としての? 同としての? それとも、人間とそれ以外としての?

きっと全てだ。

全てが混ざりあって、壁になって、本來は理がそれを知して暴走を止めるための障害になっているのだろうが。

が茹だった彼らにとっては、それもまた、気分を高める調味料にしかならない。

下著がベッドに落ちる。

固く抱き合い、素れ合わせ、口づけをわし、互い以外に存在しない閉じた世界に沈み込んでいく。

部屋に甘く濃な匂いが満ちるほど、2人は姉妹でシテハイケナイコトを幾度となく重ね、タイムリミットが來るまでし合った。

◇◇◇

いつの間にかベッドの下に用意してあった服を纏った2人は、殘りない時間を、ベッドに並んで橫になり、指を絡め手を繋いだ狀態で過ごした。

わす言葉はないが、1つ1つに萬が込められていたように思える。

いや、込められていてしいと思ったのは、おそらく巫里の方だけであったが。

そんなピロートークに、ノック音が終わりを告げる。

ドアを開き、部屋にってきたのはもちろん千草だ。

の姿を見た途端、巫里はがばっと上を起こすと、眉間にしわを寄せ睨みつけた。

人間にしては中々の殺気を放っているのだろうが、鈍なのかじていないのか、千草は変わらぬ様子で笑みを浮かべ、拍手を始める。

ぱちぱちぱち。

空気を読まぬ乾いた音に、巫里はさらに不機嫌そうに眉の傾斜をきつくした。

「巫里、おめでとうございます。ゲームはあなたの勝ちです、二度と私たちは手を出さないと誓いましょう。どうぞ、お帰りください」

接客でもするように、まっすぐに背中をばし、出口へと手で案する千草。

は約束通り、勝利者を解放しようとしているだけだ。

苛立っているのは、まだ迷いが殘っているから。

巫里の視線が扇里に向けられる。

「じゃあね、ばいばい」

人間のままでもいいから一緒に居てしい――そう言ってくれることを、心のどこかでんでいた。

だが扇里は殘酷にも、あっさりと別れの言葉を口にして、ご丁寧に手まで振っている。

「(ならそれでいいじゃない、化が自分から別れると言ってくれているんだから。喜んでれなくて何が退魔の巫よ!)」

自分に言い聞かせる。

「(それに私にはまだ母さんがいるわ、みんな居なくなったわけじゃない。例え世界中が奴らに支配されたとしても、2人でなら生きていけるはず――)」

二度、自分に言い聞かせる。

そこで千草が、おもむろに言い放った。

「ああ、そういえばルーマニアに旅立ったと言うお二人のお母様ですが」

「っ……母さんが、どうかしたの?」

このタイミングでわざわざ告げるということは、巫里にとって都合の悪い報であることは間違いない。

張から、彼は生唾を飲み込む。

「そんなに怖い顔しないでください、仲間を観がてら送ってみたんですが、どうやら無事だという話をしたかったんです。ええ、本家が壊滅したと言う報もあちらにはっているようで、知人の家にを寄せて平和に生活しているそうです」

「そっか……無事、だったんだ……」

「知人というのも元々親しい友人だったんだとか。どういう繋がりかは知りませんが、楽しそうに笑っていたそうですよ」

「良かったね、お姉」

「うん……良かった、本當に良かったぁ……」

千草が姿を表してから、初めて笑みを浮かべる巫里。

だが安堵したのもつかの間、彼はすぐさまとあることに気づく。

――本家が壊滅した・・・・・・・と言う報も・・・・・っている・・・・・?

姉妹の母はそれを知っている、つまり自分の夫や娘たちが危険にさらされていることも知っているはずなのだ。

だというのに、なぜ……楽しそうに笑っているのだろう。

すぐに日本に戻ってくるべきだ。

いや、それは傲慢な考え方かもしれない、なにせ本家が壊滅するほど危険な事態が起きているのだ、自分の安全を最優先するのならそのままルーマニアに留まるべきだ。

……でも、帰ってくるものだとばかり考えていた。

「母さんは、その……私たちについては、何て?」

「直接接したわけじゃありませんから、そこまではわかりません。一応心配はしてるんじゃないですか?」

「一応じゃなくって! ほら、その、戻ってくるつもりだったとか、荷をまとめてたとか、それぐらいわかるんじゃないの!?」

「そんな素振りは無いようですよ、旅券を取った形跡も見當たらない、と」

「そ、そんな……噓よ、母さんは……私を助けに……」

例え世界に味方が誰も居なくても、家族さえ殘っていれば生きていける。

そんな彼の自信が、音を立てて崩れていく。

うつむき、絶する巫里に向かって、千草は変わらぬ様子で呼びかける。

「それはさておき、約束は約束ですから。ゲームの勝者はどうぞ、ここから出て自由になってください」

「う……あ、あぁ……」

それでも巫里は立ち上がった。

が敗北を認め、本能が別れを拒んでも……に刻み込まれた白金巫里ではない何か・・が、彼に”誇り高き人間であれ”と命令するのだ。

「あとこれも、忘れないで下さいね」

立ち上がり、よろよろと出口へ向かう巫里に、千草は一振りの刀を手渡す。

的にそれをけ取ると、脳に響く聲がさらに強くなったような気がした。

冷たい木の溫度が、白金巫里を否定する。

思えば、それが全ての元兇だった。

初めて刀を握らされたあの日、あの瞬間、巫里と扇里の間には決定的な隔たりが生じ、そして巫里自も與えられた自由のうちの大部分を失った。

対価として手にしたのは、優等生として褒め稱えられる暮らしや、妹にも憧れの視線を向けられるほどの明晰な頭脳、人間離れした運能力。

そんなものはしくなかった。

ああ、そう、そんなもの・・・・・なのだ。

どんなに賞賛の言葉が降り注いでも、自分が長したとしても、そこには――そしてその先にも、巫里がしたものはない。

例えば、毎晩家族で囲む食卓や。

例えば、週末に父の運転する車に乗って出かける時間が。

巫里が手にれたかったものは、その程度のものだったはずなのに――

刀を摑んだ手が、ぶらんと垂れ下がる。

扇里は彼がここから出ていくのを止めないだろう。

千草もおそらく、ゲームは終わったのだ、と積極的に干渉してくるつもりはない。

一切合切が、巫里に委ねられる。

苦痛と共に正義を貫くも、墮落と共に幸福を手にするも、彼の意思次第。

「ねえ扇里、私と……一緒に行かない?」

第三の選択肢など存在しない。

ダメ元で試してみるものの、振り向いた瞬間に見た扇里の表を見て、一瞬で返答が予想できてしまった。

「無理だよ、それは出來ない」

「私のを好きにしていいからっ! だから……お願いよ、扇里」

「それでもお姉は人間のままで居たいって言うんでしょ? だったらやっぱり無理だよ、だってあたし、本當は今日もずっと、お姉のが吸いたくて必死で我慢してたし」

その我慢も、これ以上一緒に居ては限界を迎えてしまう、と。

人間のままで居たいという巫里の意思を尊重した、扇里なりの優しさとけ取ることもできる。

だから、何も言えなかった。

人間のまま扇里と共に生きるなどという都合の良すぎる選択肢は――わかりきっていたことではあるが、最初から無かったのだ。

「じゃ、じゃあ……私がを吸わせれば、一緒に、居てくれるの?」

「當たり前じゃん。あたしが半吸鬼デミヴァンプになったのは、そうなればいいと思ったからだよ? 家族がしかった。でも一番は、お姉と本當の家族になりたかったから。お姉があたしと生きるために、退魔とかいうわけわかんない役目を捨てて人間を辭めてくれるなら、あたしはもう永遠にお姉のことを離さない。ずっと、ずっと、誰よりもし続けるから」

けれど巫里が扇里を選ばないのなら、彼は別の人間をしてしまう。

自分以外の、誰かのものに。

あれだけ、今日一日かけて、好きだと、していると、これまで言えなかった言葉を繰り返し繰り返し聞かせてくれた妹が――

ガタンッ、と巫里の手のひらから刀がこぼれ落ちた。

象徴が、失われる。

威厳と地位、自縛と呪詛、巫里のペルソナを作り上げてきたそれら土臺が、砂のように崩れてゆく。

から力も失われ、がくんと膝をついた。

「お姉……」

自分から扇里をれると、そう言うまではれないつもりだった。

だが苦しむ姉の姿を見て、居てもたっても居られなくなり、思わず立ち上がり、歩み寄り、膝立ちになって抱きしめる。

巫里はそんな妹の背中に腕を回すと、を預けた。

父の死の記憶は、未だ鮮明に瞼の裏に張り付いている。

悲しみもある。憎しみもある。だがもう戻らない命を嘆いても仕方ない、という諦めもあった。

最終的に、追い詰められた人間が守ろうとするのは他人じゃない、自分だ。

「(ごめんね、父さん)」

それで父が赦してくれるとは思えなかったが、自作自演の免罪符ぐらいにはなる。

ほんのし軽くなった心。

巫里は扇里に抱きついたまま言った。

「ねえ、扇里……」

の「ん?」と言う相づちを聞いてから、一旦深呼吸を挾んで、本題を切り出す。

を吸って……私を、吸鬼に変えてしいの」

扇里の両腕が、さらに強く巫里を抱き寄せた。

「そしたら、ずっと一緒に居られるのよね? 今までよりももっと近くで、姉妹として生きていけるのよね?」

揺れる心を象徴するように聲は震えている。

扇里はそんな言葉に対して、行で返事をした。

立ち上がり、巫里に手を差しべる。

そして彼を引き上げると、ベッドの前に立たせ、足と足の間に膝を挿し込みながら、優しく、しかし強引に押し倒した。

もう自分の出番は無いだろう、とひっそりと部屋を出て行く千草。

そんな行に誰も気づかないほど、2人はすっかり自分たちだけの世界にり込んでしまっていた。

巫里は潤んだ瞳で、頬を赤く染めながら、うように扇里を見上げる。

「せん、り」

「お姉、大好き」

軽くれ合わせてから、扇里の口は巫里の首に近づいた。

大きく口を開き、に吸い付くと、鋭い牙がぷつんと皮を貫き、を穿つソレの形に掘り進んでいく。

「ぅ、あ……あぁ……」

痛みを警戒してこまっていた巫里のから、力がふっと抜ける。

注ぎ込まれる赤熱した快楽に、その必要は無いと気づいたのだろう。

”人”を包し、守っていたが開くことで、そこから人間を構する重要な要素が溢れだす。

半吸鬼デミヴァンプは鉄の匂いのするそれを舌で転がし、味わいながら嚥下した。

代わりに注ぎ込まれるのは、人間ではない何か。

なくとも”人の生命”にとっては毒になるそれを、巫里は吸いやすいよう自ら首を差し出し、喜々としてれた。

半開きの口からは赤い舌が見え、端から涎と、小刻みなぎ聲が溢れている。

扇里は、自分の溫に比べると高い熱を孕んだそのが、姉のから自分のへとっていくたび、を重ねた時とは違う類の充足をじていた。

憎き退魔のが巫里のから失われていく。

自分と同じものが注ぎ込まれていく。

これでようやく、自分と姉は同じ家族になることができる。

半吸鬼デミヴァンプになってよかった、人間を辭めてよかった、今は心の底からそう思う。

おしい姉の香りが、彼が変わってゆく度に強くなっていく。

口にじる溫も失われてゆき、も健康的なから白みのさしたへと変わっていく。

支配が満たされ、獨占が増幅する。

行為を続けるほどに、扇里は『お姉はあたしのだ』という思いを強くしていった。

「あぉっ、お……は、へ……っ、んあぁ……扇里……せんりぃっ……」

吸い取られていく倫理、朦朧としていく意識、快楽に埋め盡くされていく思考。

それら中にあっても巫里の中で、扇里という存在ははっきりと、寶石のようにり輝いていた。

いや、むしろ他が霞んだ分、より鮮明な郭がじられる。

「(これが、本當の家族になるってこと……なのかな。頭の中が、扇里でいっぱいになってく……あぁ、扇里、扇里、扇里っ!)」

父が死んだことも、母が見捨てたことも、何もかもが巫里の中から欠落していく。

今はただ、この世界で一番おしい妹のことだけを考えていたい。

れ合わせて、を重ねて、舌を絡めて、のありとあらゆる部分でつながっていたい。

おそらく今の彼ならば、昨日のように臓をかき混ぜられたとしても、その行為自を、自ら腹を開きながられるだろう。

ありとあらゆる行が、無條件で肯定的にれられる。

巫里の中で、扇里はそんな存在に昇華しようとしていた。

「ぁ……あ……せ……ん……」

そして意識を失う寸前まで、巫里の瞳は扇里の姿を寫し、巫里の脳は扇里で埋め盡くされていた。

人としての姉が死んだことを確認すると、扇里はその冷たい両頬を両手で包み込み、眠るように死んだその顔を見ながら自然とにやつく。

「お姉の、すっごく味しかったよ。聲も可かったし、見た目だって……元々人だったのに、き通ったみたいに白くてすべすべになって、も……にひひっ、いやらしいの。あたしをってるみたい。早く生まれ変わったで、あたしを求めてしいな。あたしもお姉のことしいから、2人で何回も何十回も何百回も何千回も何萬回も! 世界が終わるまでし合おうね、お姉っ」

扇里の手が巫里の死で回し、全に頬ずりをする。

さらに、あまりにしくなった姉の姿に、目覚めまで我慢できなくなった彼は口づけまで初めてしまった。

「んちゅっ、ちゅぅっ……はあぁ、お姉、お姉っ、らかいも最高だよ、キスしてるだけでイっちゃいそうなぐらい気持ちいいよぉ、半吸鬼デミヴァンプ同士の姉妹キスっ、好きっ、最高ぉっ。早く目を覚まさないかな、目を覚ましてお姉からもあたしにキスしてくれないかな。好きっ、好きっ、好きっ! はあぁ、お姉……んっ、ちゅぷ、はむぅ……れるっ、じゅ、ちゅぱぁ……っ」

加えて、舌まで絡め始める扇里。

自分から”吸鬼にしてしい”と懇願された時點から、ずっと彼の興はピークの狀態だった。

それでも吸が終わるまでの間は姉を心配させてはならないと、どうにか抑えてきたのだ。

しかし事が終わり、あとは巫里が目覚めるだけとなり、自制の必要が無くなってしまったため、もはや止めることはできなくなってしまった。

扇里はかない巫里のと歯を舌で強引にこじあけ、甘い唾を大量に流し込んでいく。

しばらく一方的なを続けていると――がしっ、と扇里の頭に巫里の両手が回され、強く引き寄せた。

同時に、今まで止まっていた巫里の舌が激しくき始め、堪えのない不埒な妹の舌を絡め取っていく。

「ふぐっ、んぐうぅっ!?」

「はぶっ、ぶちゅうぅ、んっ、ふうぅん……っ、ぢゅぱっ、ちゅ、ぺちゃぁっ……」

「んっ、んー……んふぅ、ふっ……ん……っ」

最初は驚き戸った扇里だったが、人でなくなった巫里が目覚め、自分のに応えているのだと気づくと、潤んだ目を細めてうっとりとそれをれた。

し口が離れた瞬間に見える2人の舌は、蝸牛の尾を想起させるほど、ぐちゅりと深く絡み合っている。

一方的に扇里が巫里をするだけではない、対等にし合うわりがそこにはあった。

それがかつての2人がんだ本當の姉妹の姿なのかはさておき――以前よりも近くに相手をじることができる、それだけは確かだ。

例え間違っていたとしても、それでいい。離れているよりそっちの方がずっといい。

にゅぱっ……と2人の舌が糸を引きながら離れると、姉妹はに満ちた瞳で見つめ合った。

「今更だけど……もっと早くにこうしていればよかったわね」

「そんなこと言ったってしょうがないし。今はただ、やっとお姉と同じ場所で生きてけることを、喜ぼうと思う」

「……そう、ね。その喜びに比べれば、後悔なんて些細なことだもの」

力も心も満ちている。

縛り付けていたあらゆる苦しみからも解放され、ただ相手をおしいと思う気持ちだけが殘った。

かつての巫里なら、今の彼を”愚か者”と罵っただろう。

けれど、本當の愚か者はどちらだったのか。

まあ、そんなことは――今の彼たちにとってはどうでもいい、些細なことなのだろう。

◆◆◆

部屋から出てすぐの廊下で、私は巫里と扇里の事の顛末を聞き遂げていました。

無事に結ばれたようでよかった。

私に家族のあれこれはよくわかりませんが、姉妹が得の知れない団の都合で引き裂かれて言い訳がありませんからね。

舌を絡める音に、互に響くぎ聲……と室の音を聞く度にほっこりしていると、足音が近づいてきました。

曲がり角の向こうから姿を表したのは、ナナリーです。

は私の姿を見るなり、わかりやすく頬をほころばせると、小走りでこちらに近づいてきました。

「おつかれさまですわ、主さま」

まさか、ねぎらいの言葉をかけるためだけに來たのでしょうか。

本部殲滅と言い、白金家の父親の死掃除と言い、最近彼には何かと面倒な役目ばかり任せています。

むしろそれを言いたいのは私の方なのですが――とナナリーを抱き寄せると、「そちらこそおつかれさまでした」と囁き、を重ねます。

は瞳の端に涙すら浮かべながら歓喜し、キスを甘しました。

そのまま私たちはたっぷりと數分間にも及ぶ唾換を終え、を離します。

「んは……はふぅ、見返りがしくて、盡くしているわけではございませんのに。主さまはお優しいのですわね」

「一方的に盡くされるだけが私達の関係では無いと思っていますから。ところで、何か用事があって來たんじゃないんですか?」

「いえ、それは……そろそろお暇ができるのではないかと思い、期待して來てみただけですので」

つまり、期待以上の果は得られたと。

本當に會えるかもわからないのにわざわざ足を運んでくれるなんて、可らしいじゃないですか。

報いたいと思うのは當然のことだと思うのですが。

「ナナリー、よかったらこのまま私の部屋に來ませんか?」

「よろしいのですかっ!?」

すごい食いつきようですね、そこまで反応が良いとったかいがあるというものです。

「ああ、ですが……無理はしなくていいのですよ、主さま」

「無理なんてしてませんよ?」

「いいえ、表が優れませんわ。調が優れないのでしたら、わたくしがに良い料理を作って參りますが」

そんなつもりは無かったんですが、ナナリーから見てそう見えると言うことは、気持ちが落ち込んでいるのでしょうか。

思い當たる節が無いわけではないんです。

異世界でカミラと一つになってから今日に至るまで、私は様々な家族の形を見てきました。

それらを思い出す度に、私の脳裏に浮かぶのは、私自の両親の姿。

私を捨てた母と、を騙りながら私を傷つけ続けた父。

高校でいじめていた彼らも含めて、今までは”どうでもいいこと”と位置づけてきました。

ですが、エリスやみゃー姉、ナナリーたちとの関係を深め、これまでの人生では手にれることが葉わなかった幸せを抱えるごとに、その異・・が視界の端に映り込むのです。

「ほら、そうやってまた……」

ナナリーのらかな手のひらが、私の頬に當てられました。

は心配そうにこちらを見つめています。

「確かに思うところはありますが、ナナリーを抱きたいと思っているのは本気ですよ? 正直言って、今回は蚊帳の外になることが多くて求不満ですから。間違いなく、これは私のです」

「主さま……あなたが、そう言われるのなら。しでも気分が晴れるように、わたくしも頑張りますわっ」

あんまり張り切られて、暴走したエリスやみゃー姉のようになられても困るのですが。

しかし私は彼の健気さに心を打たれ、きゅうっとが締め付けられます。

同時にこうも思うのです。

おしい人々を心配させるぐらいなら、いっそ始末をつけてしまった方が良いのではないか、と。

世界が幸福で満たされても、私が満ちていないのなら意味がありませんから。

母も、父も、そしてかつてのクラスメイトたちもみな――墮として、殺して、それでおしまいにするべきなのでしょう。

    人が読んでいる<異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~>
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