《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》ちょっと本気を出してしまった結果

このまま先に進むのもいいが、いかんせん、僕には記憶が殘っていない。

いまはできるだけ報を集め、そのうえで今後の方針を決めたいところである。

……ということで。

僕は眠れる古代竜の前に座り込み、奴の目覚めを待っていた。

「ふう……」

頬杖をつき、ため息を吐く。

さっきのパンチはさすがに力をれすぎた。

今度は気を失わない程度に痛めつけるようにしよう。

でないと、こいつからなんの話も引き出せない。

はたして數分後、古代竜リュザークは巨大な雙眸をぎょろりとかした。その大きな瞳が、僕の視線と合う。

――やっと起きたか。

僕は座ったまま、片腕を突き出し、魔法を使おうとした。この程度の相手、わざわざ立ち上がるまでもない。

だが、僕の魔法が発されることはなかった。

なぜならば――

「大魔神様……」

古代竜は両手を組み合わせ、狂気的なまでに聲のトーンを高めて言った。

「大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ様! お會いできて栄です! このリュザーク、あなたのためなら、たとえ火のなか水のなか……」

「…………は?」

「どうされましたか? 私めはあなた様の奴隷! もしなにかありましたら、二十四時間、いつでも私めをお呼びください!」

うん。間違いない。

頭を打っておかしくなってしまっったようだ。

「…………なんというか、その、ごめん」

「!? なんで謝られるのですか! はっ! もしや私、なにか無禮なことを……」

「いや、いいんだよ。気にしないでおくれ」

どうやら、思った以上に覚が鈍ってしまったらしい。

加減もわからずに戦うとこうなる。

自分は世界の誰よりも強い。

それをわきまえないと、こんな面倒なことになりかねないのだ。

それより、リュザークの奴、いま気になること言ってなかったっけ?

「なんだい、その……大魔神エルガーなんちゃらって」

「あなた様のお名前ではありませんか! 大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ様! 世俗の者には大魔神エルと呼ばれていたようですが、あなた様の名前を略すなんてなんと失敬なことこの上な……」

「わかった、わかったから黙って」

「わかりました! 黙ります!」

大魔神エル。

それが僕の名前か。

というか、自分の名前すら忘れるなんて相當の重傷だ。

やはり気になる。盟主という奴の存在が。

僕は盟主についてリュザークに聞いてみた。

ところが、竜は固く口を閉ざしたままなにも言わない。 

どうしたのか問うてみると、リュザークはたった一言、こう言った。

「黙れというお申し付けがありましたので……もう喋ってもよろしいですか?」

「……はぁ」

さすがにため息をじえない。

「うん、いいから盟主について教えてよ」

「かしこまりました! ではさきほどの《黙れ》という命令は取り消しでよろしいですか?」

「うんうん………………そうだね」

「ではお答えします! 実は私めも覚えておりません!」

「は?」

「本當であります! 綺麗さっぱり記憶を抜き取られております!」

――なるほど。

詳しいことはまだわからないが、盟主なる人は記憶を作する力でもあるのかもしれない。

そして僕は、まんまと記憶の大部分を持っていかれてしまったわけだ。理由まではわからないが。

自分の出所しゅっしょだけじゃない。

僕はまだ、なにか重要なことを忘れている気がする。

絶対に、絶対に忘れてちゃいけないのに……無理やり脳から封じ込められている、大切な記憶の欠片。

いったいなんだろう。僕はいったいなにを……

「ふう」

小さくため息をつく。

考えても埒が明かない。とりあえず、いまは先に進もう。

「リュザーク。教えてくれ。ここはどこだい?」

「はい! ここは《ニルヴァ窟》と呼ばれております! ここに住まう魔はみな強力でありますから、腕自慢の人間どもが頻繁に鍛えに來ます! なかでも私めは、この窟の一番の強者であり、したがってエル様のお力になるべく……」

「はいはい。もういいよ」

片腕を差しだし、古代竜の長話を制する。

ちなみに、こいつはいちいち《エルガー・ヴィ・アウセレーゼ様》と正式名で呼んでくるので、面倒だからエルと呼べ、と釘を差しておいた。

それにしても。

頻繁に人間が來る――ということは、かなり騒な場所なのだろう。

おそらく、人間・魔を含め、かなりの死者が出ているに違いあるまい。

にも関わらず、僕の封じられていたこの広間は、ちょっとした《華やかさ》があった。

各所に花が添えられているのだ。

暗くったにおいて、それらは儚はかなく、ぼんやりと輝きを放っている。

自然に生えた植とは思えない。

何者かが添えにきたとしか考えられないのだが、でも一なぜ、なんのために。

それも古代竜に訊ねようとしたが、また長い話になりそうなので辭めておいた。

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