《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》魔力ゼロ? 噓でしょ?

「さ、もう僕は行くよ。記憶を取り戻しにいかないと」

言いながら、僕はよいしょと立ち上がった。

「えっ!? もう行かれるのですか!」

「……當然でしょ」

君と二人きりなんて絶対嫌だし。

とは言えなかった。

「むむむ……エル様がそう言われるなら私も引き留められませぬ!」

引き留められても放ってくけどね。

とは言えなかった。

「ならば、エル様。私めはいつでも、召還にお応え致します!」

――召還。

そういえばそんな魔法もあった。

対象の魔が応じさえすれば、使用者はいつでも魔を呼び寄せることができる。

理的な距離を一瞬にして飛び越え、使用者の目の前に召還できるのだ。

「ふむ。いいね。それは便利だ」

特に戦うのが面倒くさいときとか。

「おお、いつか私めを召還してくださいますか? エル様!」

「うん。気が向いたらね。それまでずっとここで正座」

「かしこまりました! ですが私、の構造上、正座はできかねます……。どうしましょう?」

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「……なんでもいいよ。じゃーねー」

そうして僕は、永らく封印されていた一室を後にした。

のだが。

「どこだ、ここ……」

道に迷ってしまった。

考えてみれば當然だ。

僕はこの窟を知らない――記憶を抜かれているだけかもしれないが。

そんな狀況で、ひとりで窟を突破できるわけもなかった。

「なーんか、便利な魔法なかったかな?」

窟の出り口に転移する魔法とか。出り口がわかる魔法とかとか。

そんな魔法もあるかもしれないが、やはり記憶を抜かれているためか、どうすればいいのか忘れてしまった。

仕方ない。

かくなる上は、通りすがりの者に聞くしかあるまい。

幸いなことに、進行方向から戦闘音が聞こえる。

たぶん人間と魔が闘っているんだろう。

彼らに聞けばよい。

そう心に決めると、僕は細長い通路をひたすらに歩き続けた。ときおり壁に設置してある松明たいまつが、かろうじて視野を確保してくれている。

數分後。

「ふふ……年貢の納め時だな、化けどもが」

「俺たちに出會った不運を呪うがいい。経験値はもらうぞ」

――いた。

予想通り、通路で人間とモンスターが闘っている。

いま挑発的な言葉を発したのが、剣士らしき人間二人。

僕に背中を向ける格好で、魔と向かい合っている。

対する魔といえば――まだ小さなの子ひとりだった。

「うぅう……お、お母さん……」

目に涙をため、悲痛な聲を発する。

見た目そのものは人間と変わらない。強いて違いを揚げるならば、角と尾が生えていることくらいか。

戦況は人間たちに傾いているようだ。

片膝をつき、苦しそうなの子と、剣士たちが余裕そうに相対している。

――ちょうどいいか。

そう判斷した僕は、

「ねえ、ちょっといい?」

と人間たちの背中に話しかけた。

「「うわっ!」」

男たちはぎょっとしたように振り向いてくる。

「な、なんだおまえ!? いつからそこに……!」

「ちょっと道を聞きたいんだけど。出口ってどこかな?」

「お、おまえ空気読めよ……って」

男の視線が僕の頭部に向けられた。僕の角に気づいたんだろう、表が途端に険しくなる。

「なんだおまえ、こいつを助けにきたのか?」

「いやだから、僕は道を――」

「馬鹿が。そんなひょろい魔力で勝ち目があると思ってるのか?」

駄目だ。まるで會話になっていない。僕としては道を教えてくれれば充分なんだけど。

というか、いまこいつ、変なこと言ってなかった?

僕の魔力がひょろい? いったいどんな覚をしているのだ?

そんな僕の心境などつゆ知らず、男たちはヒソヒソと話し始める。

「おい、こいつちょろそうだぞ……? いい経験値稼ぎになりそうだ」

「ああ……といっても、あんまり経験値はくれなそうだけどな」

「やるか?」

「やっちまおうぜ」

そうして話し終えるなり、男のうちひとりが、急に僕に斬りかかってきた。

「うわっ!」

あまりに単調な攻撃。

避けるのは簡単だったが、僕はちょっとイラっとしてしまった。

攻撃を外し、うおっ、と言ってよろめく剣士に言葉を投げかける。

「ちょ、ちょっとひどくないかい!? 僕はただ、道を……」

「ちっ、うるせえな」

男は舌打ちをかまし、僕に向き直ると、またも剣を構えた。

「おめーは魔だろが。おとなしく斬られろや」

「はっ……?」

こんな暴ぼうぎゃくが許されていいものだろうか。

それとも、人間とは本來、こういう奴らだったのか?

ふと視線を橫に向けてみる。

さっきの小さなの子が、じわじわと剣士に距離を詰められている。

それでもなおけないようで、「お母さん……お母さん……」と悲しげな悲鳴をあげている。

――こいつら……!

僕のなかに怒りの炎が燃え上がった。

なにが魔だ。なにが人間だ。

そんなのにこだわることが馬鹿馬鹿しいと思うのは、僕がぼっちだったからか?

視線を戻し、いまだに斬りかかろうとしてくる男に目を向ける。

「後悔するがいい。僕に剣を向けたことを」

「わっはっはっはっは! 魔力もねえ奴が偉そうに!」

「すぐにわかるさ。――サイコキネシス」

僕が魔法を唱えた途端、エメラルドグリーンの輝きが男を包み込んだ。

苦痛をじたのか、男は「があああっ……!」と醜い悲鳴をあげ――それがやんだときには、エメラルドグリーンのも失せていた。

そして。

――おぎゃーおぎゃー。

さっきまで挑発的に剣を構えていた男は、大きな赤ん坊へと変異していた。

地面に寢そべり、手足をばたつかせながら、野太い悲鳴をあげる。

もう奴には理も知も殘っていない。ただの赤ん坊だ。

「お、おい、どうしたんだ!」

もうひとりの人間が、目を丸くして大きな赤ん坊に怒鳴りかける。

だが、返事がくることはない。

あいつはもう、言葉も剣も忘れてしまったのだから。

――催眠

僕の催眠にかかった者は、僕自が解こうとしない限り、決して解除されることはない。

「さて……」

僕はもうひとりの男へ、くるりとつま先を向けた。

「君はどうしてくれようかな? どうされたい?」

「ひっ……。お、おまえ、な、何者だっ……!」

「あれ、言ってなかったかな?」

僕は目元に皺を刻み、男へ向けて微笑んでみせた。

「大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ。世界最強にして、魔王より強い神様……らしいよ?」

「だ、大魔神……ば、馬鹿な……!」

「そうだね。君は《屈くっしん大好き人間》にしてあげよう。さ、死ぬまで屈してな」

數秒後、男は無言で屈を繰り返すようになった。

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