《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》大魔神は気まぐれです

二十分ほど歩いただろうか。

會話もなく歩いていると、やがてが見えてきた。

どうやら出口に辿り著いたようだ。

「この窟を出ると、近くに私たちの街があります。どうですか? ちょっとだけでもいいです。立ち寄っていきませんか?」

そう言って、うるうるした瞳で問いかけてくるものだから、僕としては驚愕せずにはいられない。

「仕方ないね。すこしだけ、だよ」

出口を出た後は他にやりたいことがあった。

だが、こんなすがるような目で見られては仕方あるまい。

それに報収集だって大事だ。

の言う《街》とやらで、なにか重要なことが聞けるかもしれない。

そんなやり取りをしているに、外の世界に出た。

――森。

一言で表すならば、そんな場所だった。背の高い木々が集しており、地面には雑草やら枯れ葉などが所狹しと散らばっている。

ふと視線を上向けると、暖かなが僕の目をらかくた。大きく息を吸い込むと、汚れのない空気が肺に流れ込んでくる。

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「ねえ」

僕は、隣に立つに話しかけた。

「僕さ、初めてかもしれない。外に出たの」

「え!? 本當ですか!?」

「うん。……さ、街にいこうか」

「は、はい!」

「お、おお……! おぬし、生きておったか……!」

街に到著した僕たちを出迎えたのは、白髭をたくわえたゴブリンと、その護衛らしき魔たちだった。

ゴブリンはかなりの高齢らしい。ふらついた作で、の子に両手を差し出す。

「よかった……よかった……心配したんじゃ、本當に……」

「し、市長さん……」

涙を溜めるゴブリンに、は悲しそうに目元を歪ませた。

「その、私は無事だったんだけど……お母さんと、お姉ちゃんが……」

「なに……やられたのか? あの二人が……」

「うん……人間がいきなり襲いかかってきて……それで」

――ニルヴァ市。

窟から一番近いというその街は、の故郷でもあるようだった。

街……というよりは、ちょっとだけ発展した村のようなものだ。

見渡す限り、煉瓦製の家や商店、飲食店などが並んでいるが、まわりが森に囲まれているからか、木や草がそこかしこに生えている。

頑丈そうな煉瓦の壁が外周を覆っていて、それなりの発展はしているようだが、人もなさそうだし、村と思っても差し支えなさそうである。

……と、そこまで考えてから、僕は市長に目線を移した。

「市長さんだっけ? 心配してたってことは、人間が襲ってくるのを予期してたってことかい?」

「……ほ、あ、あなたは……」

目を見開く市長に、僕は「ああ、失禮」と言って話を続ける。

「紹介が遅れたね。僕はまじ……じゃなくて、エル。通りすがりの冒険者さ」

危ない危ない。

うっかり魔神と言いかけるところだった。

余計に騒がれると面倒だ。なるべく自分の素は隠しておきたい。

……といっても、僕自、自分のことわかっていないんだけどね。

僕の自己紹介に、市長は首をぶんぶん縦に振ると、同じくふらついた作で両手を差し出してきた。

「そうですか……あなたがこの子を助けて……もう、なんとお禮を言ったらいいか……」

「いや、それは大丈夫だよ。結果的にだしね」

僕は肩を竦め、市長の握手に応じた。

「それで、えっと、なんの話でしたかな」

「君の話さ。この子を心配してたっってことは、人間に襲われる予がしてたんじゃない?」

「それは、そのう、えっと……」

頭が回らないのか、市長が口をどもらせる。

「市長。ここは俺が」

代わりに、市長の護衛らしき男が一歩前に出た。こちらはオーク、たくましい豚の鼻を持ち、筋骨隆々のを誇る半半獣の魔だ。

「さきほど、この街にも人間の襲撃があってな。その仲間たちが窟にも行ったかもしれない……そう予想できたわけだ」

「襲撃って……マ、マジかい?」

「ああ。三人しかいなかったからなんとか追い返せたが……しかし、こちらも深手を負ってしまった」

そう言うオークの片足はたしかに負傷していた。膝部分に盛大に包帯が巻かれており、かなり歩きにくそうだ。

しかし、人間たった三人を相手に、追い返すのが一杯とは… 

やはり僕が眠っていた間に、世界になにかが起きたようだ。

僕の記憶が正しければ、魔は人間よりはるかに強かった。それがこんなにも逆転するとは……

「しかし、おまえ。エルとか言ったか」

「えっ?」

いきなりオークに《おまえ》呼ばわりされ、僕は目を見開く。

「本當にその子を助けたのか? 人間を撃退してくれたのは有り難いが……その割には、まったく魔力をじない」

「……へえ。なにが言いたいのかな?」

「おまえが魔ヅラした人間かもしれないってことだ」

「ねえ、ちょっとやめてよ!」

の子が僕たちの間に割りる。

「エルさんは本當に私を助けてくれたの! だって、エルさんは大魔……」

そう言いかけたの子の頭を、僕はぽんと叩く。

かばってくれるのは嬉しいけれど、大魔神とは言ってほしくない。

あとで記憶を抜いておくかな。

「……ふん。それならいいんだがな」

オークは不満そうに腕を組むと、一歩後ろに下がった。

市長はしばらくあたふたしていたが、數秒後、僕にへこへこ頭を下げた。

「申し訳ないのうエルさん。我が街にも、それなりの事があるのです」

「いや、構わないよ。せっかくその足を治してあげようと思ったけど……まあ、気が削がれたね」

「は? 足を治す? 彼の足は全治三ヶ月ですぞ」

「へぇ。そりゃ大変だ」

「……よくわかりませぬが、エルさん、しばらく宿を用意させます。今後の行き先が決まるまで、よろしければゆっくりしていってくだされ」

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