《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》《幕間》 魔王より強い神

――目覚めたか。

魔王城。

玉座の間。

魔王ワイズは玉座に頬杖をつき、ふうとため息をついた。  

――恐れていたときが來たか。

大魔神エルガーは強い。

魔王たるワイズさえ、奴の魔力が摑みきれない。

通常の魔であれば、《気》を探り、いまどの場所にいるのかがわかるのだが……大魔神にはそれが通用しない。

あまりに強さの次元が違いすぎるためだ。

しかし。

大魔神には、あまりに貧弱な弱點がある。

どこにでもいる平凡な魔――コトネ。

あのをうまく使えば、大魔神を再び封じ込めることも可能だろう。十年前の、あの日のように。

危険きわまりないが、計畫のためには、大魔神の封印は必要なのだ。

人間の使者は、殘念ながらコトネの暗殺に失敗したらしい。

仕方のないことだ。 

あの化けのような大魔神に適うわけがない。

どうにかして、大魔神の目をかい潛り、コトネを捕らえねばなるまい。

しかし。

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あののせいで大魔神の記憶がよみがえってしまった。

これは失態だ。植狀態だからと放っておいたのが仇になってしまったようだ。

場合によっては、あのも捕らえ次第、殺す必要もあるだろう。

そう。すべては計畫のために……

魔王ワイズはそこまで思索を巡らすと、片腕を前方に突き出し、魔力を発した。

忠実なる僕しもべ、ルーギウスに念を送る。

《ルーギウスよ。來い》

《……意》

ほどなくして、黒いローブをまとった人型の魔が、魔王の前にすっと姿を現す。

「特別任務を命じる。ニルヴァ市の住民――コトネを殺害せよ」

「コトネ……。誰か重要魔人ですかな」

「余計な詮索は無用。さっさと行け。まわりの者に気づかれぬようにな」

「……意」

そう言って黒ローブが姿を消そうとした、その瞬間。

《聞け! すべての魔、人間たちよ!》

「なっ……」

ふいに何者かの《聲》が聞こえ、ワイズと黒ローブは周囲を見渡した。

だが、もちろん誰もいない。

ここ《魔王の間》に無斷でる馬鹿者など、そうそういるはずがないのだ。

では、この聲はいったい……!

魔王と黒ローブが顔を見合わせていると、そんな疑問に答えるかのように、続けて聲が発せられた。

《私は大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ。世界の観察者にして、絶対の実力者。諸君等も聞いたことはあるだろう》

「だ、大魔神だと……?」

ワイズはかすれた聲を発した。

だが、十年前に聞いた奴の聲とは違う。

何者か悟られぬよう、魔法で聲を加工しているのか……!

しかも、世界中のすべての生へ向けて発信している……?

《此度こたび、私が諸君等に発信をしたのは他でもない。魔と人間の癒著ゆちゃくを、諸君等に知ってもらうためだ!》

なっ……!

魔王ワイズは思わずむせてしまい、激しくせき込んだ。

なぜそれを知っている。まさか赤ローブの馬鹿がゲロったというのか。

《魔の諸君は知っているであろう。現在、世界の各地で、不自然なタイミングで人間の襲撃が続いていることを。これは人間と魔が癒著しているからに他ならない。繰り返す。人間と魔は裏で繋がっている。別途、詳細については調査中である》

《私は悲しい。このような欺瞞ぎまんに満ちた世界が》

《魔と人間は、現在、戦狀態にあるはず。その両者が、裏では繋がっていることを私は斷言する》

《……そして宣言する。人間軍と魔王軍の両方を、ただいまより潰しにかかる!》

《世界は、この大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼが救済する!》

「ば、馬鹿な……」

魔王はもはやなにも言えなかった。

なんと大膽な宣戦布告。

大魔神といえど、世界中の者すべてを相手に勝利することは不可能なはずだ。

いったいなんのために……

《私の強さは諸君等の知る通りだ。もし今後、私と、私に近しい者の命を狙う者がいたとすれば……私は、容赦なく殺す》

「ま、魔王様……」

黒ローブが、なにかを察したかのように、震えた聲を発する。

「もしかして、いまのコトネというのは、だ、大魔神の……」

「や、やかましい! 貴様はなにも考えず、私の言うことを聞けばよいのだ!」

「む、無理です! 相手があの大魔神なんて……適うわけがありません! 無禮を承知で言います! この命令は破棄させていただきます!」

――これが狙いか。

魔王ワイズはギリギリと歯ぎしりをした。

大魔神の強さと恐ろしさは世間の誰もが知っている。

そんな悪魔にも等しい者が関與していると知ったら、たとえ魔王と命令とはいえ、コトネの暗殺は二の足を踏むだろう。誰だって自分の命は惜しい。

それでも、忠実な部下を従わせ、計畫を念に練れば、コトネの殺害は不可能ではない。いまのルーギウスは忠臣ちゅうしんとは言い難い部下であった。

のだが。

「魔王様!」

「いまの話は本當なのですか! 魔王様!」

扉の外から、多くの魔たちの聲が聞こえる。

いまの発信を聞いて、こちらへ駆けつけてきたに違いなかった。

「おのれ! あの大魔神めが!」

ワイズは拳で膝掛けを叩きつけた。

しばらくは混する魔たちの対処で手が一杯になるだろう。人間界の王――國王たちとも今後の方針を話し合わねばなるまい。

コトネ一のためだけに時間を割くことなど、當分は無理だ。

大魔神エルガー。

覚えているがよい。

今回はしてやられたが、最終的に笑うのは、この魔王ワイズである!

「ほう。あの魔神とやら、ずいぶん予想外な行に出ましたな」

「……ええ。あの引きこもりを彷彿ほうふつとさせます」

「引きこもり……。たしか、シュンという名前でしたかな」

「いかにも。我らが同胞は、彼の前に敗れました」 

「ふむ。まあ……あの同志は々変態すぎましたからな。しかしあれは別の世界線の話。大魔神エルガーとやら……どうくか、楽しみにしてますぞ」

【序章 ぼっちな大魔神の運命の再會 終】

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