學園は城下町の東方面に存在するようだ。

地図を頼りに歩いていると、やがて瀟灑しょうしゃな建が見えてくる。

あれが目的の場所――ノステル魔學園である。

全的に茶の煉瓦れんがで構されており、中央部分にはひときわ高い尖塔のようなものが天に突きだしている。

壁面には「打倒！　人間軍！」「打倒！　勇者！」などと書かれた垂れ幕があちこちに掛けられていた。

視線を下向けると、こちらも広大なグラウンドが見て取れる。また食堂や図書館のような施設も點在しており、さすが魔でも最高峰の學園といえる。

校門周辺は、すでに新品の制服を著た魔たちでごった返していた。試験は大きなホールで執り行われるようだが、それまでにはまだ三十分ほど殘っている。

各自、新生たちはぎこちない敬語で會話を広げていた。

「なにこれ。早く會場に行けばいいのに」

大きく欠をしながら、僕は人混みをってホールに向かっていた。

こんなところで立ち話なんかするよりも、せっせと會場で座って一休みしたほうが良いと思うのだが。筆記試験の勉強をしてもいいはずだ。

大きく腕をばす僕に、コトネはきょろきょろ辺りを見回しながら言った。

「たぶん……みんな、コネ作ろうとしてるんだよ」

「は？　コネ？」

「うん。ここにいる魔は、みんなお金持ちだったり、偉い魔の子どもだったりするから……」 

「へえ……興味ないね」

まあ、魔界の頂點に立つ學園らしいし、それも當たり前の現象か。

そんなことより、僕としてはコトネの両親に謝しなければならないだろう。それほど豪勢な學園に、僕まで學させてくれたのだから。

そんな話をしながら歩いていると、嫌でも新生たちの會話が耳にってくる。 

「しかし……我々の將來はどうなるんでしょうか。このままノステル魔學園にっていいものか」

「……先日の大魔神の表明ですね。たしかに、道を踏み外せば魔王様の地位は一気に揺らぐ」

「ええ。我々もの振り方を考えねばいけないのやもしれません。いっそストレイム卿きょうにすり寄るのも手かと」

「ふふ……それには同意しますが、あまり大聲で話しては危険ですよ」

「承知しておりますとも。しかし、この程度のことは誰もが考えていますでしょう」

――なるほど。

魔たちの世論はこんなことになっているらしい。

ストレイム……というのが何者なのかは知らないが、文脈から察するに、魔王の次に強力な魔なのだろう。

魔たちはそちらに寢返る可能がある……そう話していたわけだ。

「ふふ……」

知らず知らずのうちに、僕は薄い笑みを浮かべていた。

この調子では、いくら魔王とて心労を重ねているだろう。コトネやニルヴァ市に攻める余裕もないはずだ。

――いい気味だね。ざまあないよ。

けれど、このままワイズ魔王が殺されたりしたら大問題だ。その隙を狙って人間軍が攻めてこないとも限らない。そうやってコトネが殺されたりしたら元も子もない。

――まあ、うまくやっていくしかないか。

僕はそう心に決め、試験會場に向かっていった。