通された先は無機質な四角形の部屋だった。

長機と、向かい合う形で椅子が二つずつ。

余計なものは一切ない。

その椅子のひとつに、の子の魔がちょこんと腰かけていた。

紫のショートヘアに、くりっと大きな瞳。丸っこい顔は非常に可らしいが、事件に遭ったためか、口元が堅く結ばれている。そして我ながら不謹慎だと思うが、おっぱいもなかなかのサイズである。

の子は見覚えのある制服を著ていた。おそらく、同じノステル魔學園の生徒だろう。

と、そこまで考えたところで、アリオスが僕に目配せをしてきた。座れ、ということだろう。

僕は頷き、コトネと隣り合って座ることにした。生徒の隣にはアリオスが腰掛ける。

「あれ」

まず話の口火くちびを切ったのはコトネだった。

「もしかして、私たちと同じ新生さん？」

「ん？　知ってるのかい？」

「うん。試験のときに見たような……」

マジか。まったくわからなかった。

まあ、僕が他人のことをろくに見ていないのは今に始まったことではないが…… 

「そうだ」

答えたのはアリオスだった。

「試験の帰りに、謎の魔に襲われた……と、これだけ窺っている」

數秒の間。

やや重たい沈黙のあと、生徒はゆっくりと、そして靜かに話し始めた。

「……そうです。試験の帰りに、急に口元を抑えられて、それで……」

耐えられなくなったのだろう。

生徒は目に大量の涙を滲ませ、両手で顔を覆った。ひっく、ひっく、という嗚咽が室に響きわたる。

こりゃあ重傷だな。

事件のことを思い出すだけで、ここまで負のが押し寄せるとは。よほど怖い思いをしたに違いない。

「安心しなよ」

僕はできる限り優しい聲音で言ってみせた。

――サイコキネシス発。

生徒の心を癒すよう、ほんの軽い暗示をかけながら、僕は続けて言葉を発する。

「大丈夫。犯人はもう君を襲わない。僕たちがそうはさせない」

調子に乗って《僕たち》などと言ってしまったが、言っちゃったものは仕方ない。

「だから元気出して。僕たちは犯人とは違う。君を大切に思おう」

「あ……」

瞬間、生徒は顔から手を離し、自の両手をしばらく凝視していた。

やがてゆっくりと僕に目を向けると、辿々しい口調ながらも明確な言葉を発した。

「ありがとう、ございます……。なんだか元気でました……」

「そうかい。ならよかったよ」

いつものように微笑みを浮かべると、生徒はなぜか頬を赤らめ、そっぽを向いてしまった。

「ん？　どうしたんだい？」

「いえ……なんでも、ありません……」

（……コ、コトネ。エルはいつもあんなじなのか？）

（天然のたらしなのは間違いないかと）

脇でコトネとアリオスがヒソヒソ話し合っていた気がするが、よく聞こえなかったのでスルーしておいた。