《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》ちょっとは空気を読めるようになった大魔神

リノ。

正直、彼はよくわからない魔だった。

僕と話すときだけ、なぜだか顔を真っ赤にし、口調も辿々(たどたど)しくなってしまう。

そしてリノがいると、コトネもまた不機嫌にな(っているような気がす)るのだ。こちらも理由は不明である。

とはいえ、コトネとリノの仲が悪いわけでは決してない。いまも、教室に向かいながら、僕の目前でコトネとリノが談笑しているからだ。

「あの……コトネさんって、エル君と、その、どういう関係なんですか?」

「うーん。馴染みっていうのが一番近いかも」

「……じゃあ、付き合ってるわけじゃないんですか?」

「えっ!? ど、どうなんだろ。十年前は結婚の約束したんだけど、いまは……」

「十年前ですか。それならまだチャンスありですね」

「な、なんで嬉しそうなの?」

「あ、ごめんなさい。なんでもないです。うふふ」

「そうよねえ。うふふ」

二人して笑い合っている。意外に仲良いのかもしれないな。

「…………」

僕は目を閉じ、周囲の気配を探ってみる。

……ふむ、異常はない。

朝から不審な気配を探しているが、いまのところは大丈夫そうだ。この近辺にはなくとも拐犯はいない。

アリオスとの事聴取では、リノは街中で白晝堂々さらわれた――ということがわかった。

それで誰にも気づかれなかったのだから、犯人はかなりの手練れといえる。たとえ周囲に多くの魔がいたとしても、まったく油斷はできない。

「さて、著いたぞ!」

そこまで思考を巡らせたところで、先頭を歩く先生が歩みを止めた。

「ここが、一年間おまえたちが通うことになる教室だ! 覚えておけよー」

言いながら、若手らしい男の教師が、キラリと歯をらせた。やや茶がかった短髪に、熱を讃たたえたかのような赤い目。両耳の上に生えた黒い角が特徴的か。

えっと……名前はたしか、ルーギウスといったはずだ。いまから一年、僕たちの擔任となる教師である。

爽やかな好青年といったふうの教師に、生徒たちがキャーキャー騒ぎ出す。……コトネとリノ以外は。

「なんだ、君はああいうのタイプじゃないのかい」

冗談めかしてコトネに問いかけると、彼は澄まし顔で答えた。

「私の相手はもう、十年前から決まってますぅ」

「へぇ。一途なことで心したよ」

「エルくんも、……他の人に気を取られないでね?」

「はいはい」

言い合っている最中、リノが険しい顔つきをしていたが、れてはいけない気がして黙っておいた。

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