ひどい話だ。

警備隊の隠蔽質いんぺいたいしつが、まさに事件の助長に一役買っているわけである。

それどころか、犯人はさらに調子に乗り、犯行のペースを速める可能が高い。

街を守るはずの警備隊がかない――それでは、犯人を裁ける者がいないからだ。

――けない話だ……！　魔を守るはずの警備隊が……我が可さになにもできないとはっ……！――

僕は思い出していた。警備隊の闇に対し、義憤に駆られているアリオスを。

「あ、あの……」

またしても會話に割り込んでくる者がいた。メガネをかけた子生徒……同じくが事件に巻き込まれたと証言した子だ。

人見知りなのだろう、彼はしばらく目をうろちょろさせていたが、やがて辿々しくも言葉を発した。

「ごめんなさい……私も詳しく話を聞きたいんですけど……いいですか？」

「あ、ああ……。別にいいけど」

正直、僕としては非常に助かる。報は多いほうがいいからね。

隠蔽質の件だけはうまくかわしつつ、僕は自分が持っている報を子生徒に話してみせた。被害者が異常に多いこと、犯人は手練れであり、人混みからでも容易に拐してしまうことなどを。

その間、子生徒は靜かに話を聞いていた。目を閉じ、ときおり小さな悲鳴をえながら。

そうして話し終えたとき、彼はたった一言、

「ひどい……」

と呟いた。

「警備隊のこと、前からずっとひどいと思ってたけど……お姉ちゃんだけじゃないんだ。みんな……見捨てられてたんだ……」

「…………ということは、君のお姉さんは……」

僕の問いかけに、子生徒はコクりと頷いた。

「大好きなお姉ちゃんでした……。私と違って綺麗で、それでいて誰にでも優しくて……困っているヒトを放っておけなくて……。犯人には、そういうところが好都合だったのかもしれません」

そんなお姉ちゃんが、ある日、急に姿を消したんです、と子生徒は言った。

「いままで、姉が門限を破ったことはありませんでした。それが何日も帰ってこなくて……私は母と一緒に警備隊の門戸を叩きました」

だが。

――年頃の娘ならよくある話だろう？　我々は忙しいのだ。《その程度》のことで手を煩わせるな――

それが警備隊の返事だったという。

――そんなわけありません。姉は絶対、なにか重大な事件に巻き込まれているはずなんです。忙しいのであれば、しだけでも構いません、姉のために捜査してくれませんか……――

そう言って子生徒は警備隊に追いすがったという。

「妹の私にはわかるんです。これは単なる家出でも、ましてや外泊なんかじゃない。そう訴えても全然聞いてくれなくて……最後には……」

そこで子生徒は顔をしかめ、そっぽを向いた。

最後まで言われずともわかる。

男子生徒の知り合いと同様、突き返されたのだろう。

警備隊の連中は、被害者のことよりも、自分たちの地位を重んじたのだ。

「なんて、ひどい……」

コトネが悲痛に表を歪ませた。

そんな彼の頭をぽんと叩き、僕は背後を振り向いた。

「――だってさ。君はどう思う？　……アリオス」 

「え……？」

「む……？」

その場にいた三人が目を丸くする。

「ほう。気づいたか。さすがだな」

「……ていうか、気配を隠してすらいなかったでしょ」

凄腕の警備隊――アリオスは真顔で息をつくと、こちらに歩み寄ってきた。茶のレザーコートをにまとい、やや重たい足取りで近づいてくる。

「……こんなところにどうしたのかな？　ここは若者だけがれる場所だよ」 

「……最後に、おまえとだけは話しておきたくてな」

「最後……？」

突っかかる言い方だった。

僕が黙りこくっていると、アリオスはたった一言、思いもよらない言葉を発した。

「たったいま、俺は警備隊を追い出された。上からの通達でな」