《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》魔王の次に強い魔

魔王城。エントランス。

俺はごくゆっくりと正面口の扉を開け、室を見回した。

広大なホールに、いくつもの小扉が並んでいる。正面には長い階段がびており、その最奧部から禍々しい気配をじる。おそらく魔王ワイズの魔力だろう。

そして。

ここエントランスには、多くの魔たちが存在していた。

壁面に連なる騎士ナイトたちや、せわしくきまわっている幹部級の魔まで。

彼らは全員、高級そうな鎧をにまとっていた。警備隊が使用していたものとは質が明らかに違う。

當然といえば當然だが、警備隊よりも、魔王城に務める魔のほうが格上のようだ。

そんな彼らの視線が、いっせいに俺たちに注がれる。

「な、なんだ、學生か……?」

「さっき一瞬だけ外が騒がしかった気がするが……?」

「もしや侵者……?」

実にうるさい連中だ。

とっとと黙ってもらおう。

俺は右手を突き出し、ほんのわずかだけ魔力を解放した。

「おまえたちは眠れ。起きたときには俺たちの存在を忘れていろ」 

「うあ……」 

突如、騎士たちは力したかのように両腕をだらんと降ろした。涎を垂らし、獨り言をぼやいている者もいる。

「ネムル……オレタチハネムル……」

「ワスレル……」

「ワカッタヨ……パパ……」

ガチャン。

騎士たちが一斉に倒れ、大ボリュームの金屬音が室に響きわたった。全員が健やかな寢息をたてている。これでしばらくは意識が戻らないだろう。

「……やれやれ、空恐ろしいな。それが大魔神の力か」

アリオスが呆れたようにため息をつく。

「仕方がないだろう。これが一番手っ取り早い」

「ふん。まあ確かにな」

アリオスはまたしても呆れたように肩を竦める。

そんなことより。

俺は意識を研ぎ澄まし、周囲の気配を探った。

じないか。やけに弱々しい気配を」

「……ああ。それもかなり多い。やはり生徒たちは城に監されているようだな」

そして今度は、コトネをもそのに取り込まんとしている。

斷じて許してはおけない。絶対に。 

「おや。あなたたちは……?」

ふいに聲が聞こえた。

小扉のひとつから、ルーギウスも顔負けの好青年が姿を現した。水の長髪を腰のあたりでまとめ、実に優雅な所作で歩み寄ってくる。 

――なんだこいつ、俺のサイコキネシスが効かなかったのか……?

俺のそんな疑念に応えるかのように、アリオスが好青年に敬禮をした。

「これはこれはストレイム郷。魔王様と謁見なさっていたのですかな」

――ストレイム。

たしか學試験前、験生たちがその名を口にしていた気がする。

おそらく、魔王の次に強いとされている魔だったはずだ。

仮に魔王ワイズが失腳したら、彼が次期魔王になるとされている。

それならば頷ける。いまのサイコキネシスは思いっきり手を抜いたのだ。魔王レベルの相手には効かないはずである。

ストレイムは腰に片手を添えると、苦笑いを浮かべた。

「まあ、そんなところですが……なんですかこの狀態は。なにかの訓練?」

「まあ、そんなところです」

俺は小さく頭を下げた。

「失禮ながら、ここはとても危ない。お帰りになったほうがいいかと」

魔王ワイズを殺したら、次はこいつに魔王になってもらおう。だから無事に帰してあげることにした。

ストレイムはわはは、と大きな聲で笑った。

「魔王様に匹敵する私に《危ない》ことなんてそうそうありませんが……次に用事がありますので、お暇させていただきましょう。それでは」

ストレイムはそう言って片手をあげ、魔王城から退出していった。

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