《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》仮の姿

大魔神たる俺に適う者は、もちろん誰ひとりとて存在しなかった。

學生服というのは実に便利だ。

これを見ただけで、ほとんどの魔が油斷する。あとはサイコキネシスをかけて無力化すればいい。

実に簡単である。

「くそ、貴様、ただの學生ではないなっ……!」

そしていまも、俺に《眠れ》と命じられた騎士たちが倒れていく。

もろい。もろすぎる。

現在地は魔王城の小部屋。

エントランスからだいぶ進んできた。

ここまで來れば、魔王ワイズの私室までかなり近いと思われる。

実際にも、魔王の禍々しい気配をかなり手近なところにじる。

「やれやれ」

倒れた騎士を見下ろしながら、アリオスが言う。

「これは俺が來る必要なかったのではないか? おまえ一人で充分そうだが」

「いや、そうでもないさ」

「――なに?」 

アリオスが首を傾げた、その瞬間。

突如、目前の空間に、見覚えのある男が姿を現した。

黒ローブをにまとい、顔の半分を隠しているが、気配でなんとなくわかる。擔當教師にして魔王の側近――ルーギウスだ。二本のナイフを攜え、こちらに切っ先を向けてくる。

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「失態だな。まさか追われていたとは。……元警備隊アリオス、そして大魔神エルガー」

「ふん。貴様か」

アリオスは一歩前に進み出ると、同じく鞘から剣を抜いた。

「エル。おまえは先に行け。守らねばならない者がいるのだろう」

「……ああ。頼むよ」

俺はひらりと手を振ると、猛然と走り出し、先の部屋に向かった。

ルーギウスもそれなりの使い手だが、アリオスならばまあ心配ないだろう。それよりもコトネのが心配だ。

――無事でいてくれよ、コトネ……

ついつい駆け出しながら、俺は魔王のいる最奧部へ向けて突き進むのだった。

アリオスは油斷なく構えながら、ルーギウスのきを窺った。 

さすがは魔王の側近だ。

隙がほとんどない。

人混みのなかで何件もの拐を功させてきたのも、これなら頷ける。

「……迷ったかな。アリオスさんよ」

ルーギウスが口元を歪ませる。黒ローブを目深まぶかに被っているので、口元しか表が見えない。

「あんたの強さは知っている。だが、所詮はただの《警備隊》。俺の敵じゃないね」

「……ふん」

ルーギウスの安い挑発に、アリオスは鼻で笑った。

迷っているのはどちらだ。おまえはあの學生が《大魔神エルガー》だと知っていたな。そのうえで我々に勝負を挑むつもりか」 

「エルガーか……はっ」

ルーギウスはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「おまえの言う通りだ。たしかに奴は強すぎる。――だが!」  

高々にぶなり、ルーギウスは片手を天に掲げた。なにやら小袋のようなものが握られている。

「ついに俺は恐れを捨てたのだ! こいつさえ飲めば……たとえ相手が大魔神であろうとも関係ない!」

――薬か。

アリオスは一瞬で悟った。

一時的に神を高揚させる分でもっているのだろう。

だからこそ、大魔神に喧嘩を売るという、史上稀に見る愚行を犯してみせたのだ。

……愚か者め。

だけでは飽きたらず、いったいなんてものを……!

「ふふ……アリオスよ。おまえにも見せてやる。この俺の、真の力をな!」

「お、おい……!」

止める間もなかった。

ルーギウスは大きく口を開けると、袋の中をそのまま飲み込んだ。なかには數えきれないほどの錠剤がっていたはずだが。

「バリバリバリぼりぼり」

錠剤のかみ砕く音が嫌に大きく聞こえる。

そして。

――ぱさっ。

ルーギウスの片手から、空になった小袋が落とされた。

「グフ……グフフ……なんと心地よいのだろう……」

その狂気的な笑い聲には、さしものアリオスもぞっとしてしまった。

「ば、馬鹿者が……! 薬などに頼るなどと……!」  

「フフ、なんとでも言うがいいさッ! いやっはあー!」

口の両端をたっぷりに引き上げ、ルーギウスは的な笑い聲をあげる。

それだけではない。

奴の魔力が大幅に高まっている。

薬の効果なのかどうか知らないが、この力……さきほどのストレイムをも凌ぐ。

「ルーギウス! 答えろ!」

知らず知らずのうちにアリオスはんでいた。

「その薬……、よもや魔王も使っているわけではあるまいな!」

「へえ……。さすがは警備隊。察しがいいじゃナイか……」

やはりか。

そうでなければ、世界最強の大魔神に喧嘩を売るなど到底できまい。 

――聞いたことがある。

魔王ワイズは人間との戦爭に疲れ果てていると。

かつての力はもうなくなってしまっていると。

そんな魔王が、神的な安定を求めて薬に手を出し……そして、《國民》であるはずのにまで手を出し始めた…… 

雑な推理だが、ざっとこんなところか。

許せぬ。

いったい我々を、魔を――なんだと思っているのだ。 

俺たちだって生きている。意志を持っている。

それを踏みにじるような者は、たとえ敬していた魔王であろうとも許してはおけない。

「哀れな獣にひとつ、重大なことを教えてやろう。――《元警備隊》というのはあくまで仮の姿だ」

充分な気合いを込め、剣の切っ先をルーギウスに向ける。

「我が名はアリオス! 《闇の剣聖》にして、絶対の実力者である!」

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