《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ

「あ、あんたって奴は……!」

コトネの心中に怒りの炎が燃えさかった。魔王を睨みつけ、最大限に低い聲音で告げる。

「いったい、なにが目的なのよ……! 大勢のの人を苦しめて、それに十年前だって……!」

「クク、おかしなことを言う」

そこで魔王はコトネの顎あごをくいっと持ち上げた。

「儂わしは魔王。魔界を平和に導くのが目的だ。それ以外になにがある?」

「っ……!」

「おぬしは知らぬだろうが、この世界は様々な《しがらみ》に満ちておる。まもなく世界は史上最大の混迷に陥おちいるだろう。儂もそれをじておる。ゆえに……」

言うと、魔王ワイズは骨だけの手でコトネの二の腕をさすりはじめた。冷たく刺々しいが伝わってきて、コトネは思わずを震わせる。

「儂には癒しが必要なのだ。極限まで疲れ果てたとき、心ともに癒してくれるが……」

そのとき、コトネは聞いた気がした。

この部屋のどこかに閉じこめられているであろう、生徒の聲を。

「…………」

魔王の言う《しがらみ》が、実際にどんなものなのかはわからない。世界がいまどんな危機に瀕しているのかも、正直実が湧かない。

けれど。これだけは言える。

「魔王ワイズ。あんたは……間違ってるわ」

「ほう……?」

二の腕をさすっていた手がぴたりと止まる。

「世界の平和のために、多くのを犠牲にして……自分の國民を傷つけて……彼たちも本來、《平和》に暮らすべき魔じゃなかったの?」

「…………」

「もう私は負けない。あんたなんかに取り込まれない!」

十年前、エルは私を守るためだけに封印させられた。

今度は私が頑張る番だ。

たとえどんな辱めをけようとも、絶対に、こんな奴に屈するわけにはいかない。

「ふん。無知な小鳥がよくさえずる」

ワイズはくぐもった聲を発すると、コトネの両腕を摑み上げた。

「おぬしは黙って儂の奴隷でいるがよい。可そうな儂に癒しを與えるためにな……」

「っ……」

魔王ワイズの手が、今度は別の箇所へ――

「おおおおおおおッ!」

突如、どこからか大聲が響いてきた。

直後、魔王ワイズは後方に大きく吹っ飛んだ。冷たい骨のから、コトネはやっと解放された。

「――すまない。待たせたな」 

「エル、くん……」

大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼは凜然りんぜんとした威厳を漂わせ、コトネの前に舞い降りた。

「悪いな。俺がついていながら、おまえを拐させちまうなんて……」

――俺?

コトネは気づいた。

エルの周囲に、漆黒の雷のようなものが點滅していることに。

バチバチと弾けるような音も聞こえる。

心なしか、エルの両目も赤みを帯びている気がした。

怒ってる……

でそうじた。

口調の変化といい、こんな彼は見たことがない。

まさしく大魔神たる風格を放っている。

「すぐ終わらせる。悪いが、しばらく待っててくれ」

そう言って、エルは魔王のもとに歩み始めた。

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