《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》コトネのために②

「わぁ……!」

僕の背中にしがみつきながら、コトネが歓聲を上げた。

眼下にはすでに遠くなった地上の街や森、湖が、果てしなく広がっている。

ときおり通り過ぎる街が粒々とした點を放っており、それもまた可らしい。

見上げれば――自を覆い盡くさんばかりの星空。

地上で見るそれよりはるかにしい。

すでに日が沈んでいるとはいえ、暗闇に満ちた空もそれはそれで趣おもむきがあった。

――リトナ山脈。

リュザークの背中に乗り、僕たちはそこに向かっていた。

さすがは古代竜というだけあって、スピードはかなりのものだ。リトナ山脈は人里から離れた位置にあり、また険しい土地であるため一般の魔は近づくことさえ困難だが、このぶんならなんの心配もいらないだろう。

「綺麗……本當に……」

眼下の景を眺めながら、コトネがぽつりと呟いた。

僕もつられて見下ろすと、ちょうど小規模な街を通過したところだった。細々とした明かりが見て取れる。

「こうして見ると、さっきの悩みが……なんだか晴れてくるみたい……」

「そっか……」

それならば、魔法による転移を使わず、わざわざリュザークを使役した甲斐があったというものだ。世界の壯大さ、しさは、世界を監視してきた僕がよくわかっている。

「……エルくん、その、本當にできるの? 十秒で強くなるなんて」

「できるさ。そんなに難しいことじゃない」

「でも……私、強くなるには何年も修行とかしないといけないものだと……」

「それこそ思いこみさ」

僕は腹部にまわされた彼の両手をしっかり摑んだ。

「なんとか防いでみるつもりだけど……もしかしたら、本當に戦爭が起きてしまうかもしれない。そんなときに悠長に修行なんてしてられないでしょ」

「そ、それはまあ、確かにそうね……」

「大丈夫さ、コトネなら。一緒に強くなろう」

「うん!」

コトネは僕の背中に額を埋うずめた。

――リトナ山脈。

険しい山々が連なっているそこには、兇悪な獣が多く棲息している。

小山にも劣らぬ軀たいくを持つ大猿や、に飢えた白狼など、指折りの戦士ですら踏破が困難とされてきた。

実際にも、腕に自信のある戦士が乗り込んで、そのまま行方がわからなくなった例がいくらでもある。

それだけではない。

荒れ狂う大吹雪も、この地の危険さに一役買っている。

存分に防寒対策をしておかなければ、一日としてが保たないだろう。また視界が非常に悪く、一歩先の斷崖だんがいにさえ気づかないことがままある。まさに死を呼ぶ山脈といえよう。

なぜそんな危険地帯に、わざわざ足を踏みれた者がいるのか。

これは魔界に永く伝わる、《魔剣》の伝承によるところが大きい。

山脈のどこかに強力な魔剣が存在し、手にれた者は大陸でトップクラスの戦士になる――そんな伝承が語り継がれてきたのだ。

――正しくは、魔剣ではなく、魔が存在しているのだが。

そんな死の山脈を、僕はひょひょーとひとっとびした。もちろん、リュザークの力である。

ときおり変な鳥が襲いかかってきたが、適當に炎の魔法をぶっ放しておいた。うまくいけば、地上にいるかもしれない遭難者の食事になるだろう。

山脈の奧地には、こじんまりとした窟が存在する。

大魔神の神殿ほどではないにせよ、ここも長らく他人を遠ざけていた。そしてその窟に、件くだんの魔が住んでいるわけだ。

「さて、著きましたよ」

窟のり口を見つけたリュザークが、ゆっくりと地面に著地する。さすがは古代竜というだけあって、リトナ山脈の飛行を終えたいまでも何食わぬ顔だ。

「ありがとう。助かったよ」

「いえいえ、そんな! エル様のためなら、どこへでも一秒以に駆けつけますです、はい!」

するリュザークを放っておいて、僕とコトネは地面に足をつけた。

「さ、さささ、寒ぅい……」

コトネが両腕を抱えてぶるぶる震える。

たしかに寒い。

ごうごうと吹き荒れる大雪のなかを、學校の制服なんかで耐えられるはずもないのだ。

「ごめんね。すぐに終わらせるから、ちょっとここで待っててくれないかい。――リュザーク、彼の護衛は任せるよ」

「はい、お任せあれ!」

リュザークの敬禮を目に、僕はひとり、窟のなかにっていった。

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