《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》これもある意味、り上がり

翌朝。

僕とコトネはいつも通り、學園に向かっていた。

心なしか、すれ違う魔たちはみな浮き足立っているように見えた。

魔王ワイズが失腳し、人間界に占領されるかもしれなかった狀況で――希の勇者が現れたからだ。

すなわち……新魔王、ルハネス。

彼がこの苦境を救ってみせたのだ。

実際、昨日の《対談》は見事だったと言う他ない。ナイゼルの裏をつき、こちらにも反撃の余地があることを知らしめたのだから。

結果的にはシュンに仲裁されたものの、首都を攻撃されては、いくら人間界であろうとも看過できない損失を追うことになっただろう。

英雄。

の勇者。

そんなふうにルハネスを讃える聲が圧倒的に多かった。

現在のような絶的な狀況にあっては、やはりカリスマのある人が求められるのだろう。城下町のあちこちで売られている報誌にも、ルハネスを持ち上げる記事が多かった。

――だが。

「みんな、わかってるのかな……」

學園への道を歩きながら、思わず呟いてしまう。

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首都を攻撃するということは、それがすなわち開戦の合図になるわけだ。城下町にも多くの人間軍が押し寄せるだろう。戦力的には不利なのに、このまま戦爭が始まってしまえば……多くの魔が死んでしまう。

それがわかっているのか。

もちろん、このまま指をくわえて人間軍の侵攻を待つのもナンセンスだ。その意味では、ルハネスの《威嚇》は素晴らしい偉業をし遂げたと言えなくもない。

だが。

降伏するでもなく、かといって攻め込むわけでもない――第三の道がしい。そのためにはシュンの提案した會議を功させることが必要不可欠だ。

「エルくん……」

コトネが不安そうに僕を見上げてきた。

「私もなにが起きるかわからないけど……一緒に頑張ろ。私たちならできるよ」

「ん。そうだね」

そんなやり取りをしているうちに學園に著いた。こちらも例にれず多ざわついてはいるが、通い慣れた校舎を見て僕はすこしほっとした。

壁面の時計は八時十分を指している。

あと二十分もすれば朝のホームルームである。その時間までどうにかして時間を潰すか……

「ん……?」

僕は顔をしかめた。

尋常でない気配をじる。

十……二十……それ以上の魔が、いっせいに學園に近寄ってきているようだ。

朝の學園だし、大勢の魔がやってくることは不思議ではない。

だが、この禍々しい気配は――明らかに異質だ。

「なんだろ……嫌なじ……」

昨日強くなったばかりのコトネも、薄々ではあるが違和に気づいたようだ。寒そうに両腕を抱えて震えている。

「コトネ。萬が一に備えておいて」

「う、うん……」

果たして、校門の手前に《それ》は現れた。

どうやら騎士たちのようだ。銀の甲冑かっちゅうをにまとい、おどろおどろしい風格を滲ませている。僕の見立て通り、その數は二十とちょっと。

だが、問題は奴らではない。

騎士たちの中央には馬車が陣取っている。

たぶん、それを護衛する形でここまで來たんだろう。騎士たちは油斷ならない視線を周囲に配りながら、馬車を學園に導している。

すさまじいまでの圧に押されてか、まわりの學生、そして教師たちでさえも、馬車から大きく距離を取っていく。そうして開かれた道を、実に悠々と、馬車が進んでいく。

――不安定な時勢だからって、なにもここまで大層な護衛なんて――

僕が眉をひそめていたとき、ふいに、馬車の部から聲が聞こえた。

「見送りご苦労。ここまで來れば充分だ」

「イエス、ユアハイネス」 

騎士たちが統制の取れたきで返事すると、馬車から見覚えのある男が姿を現した。

ルイス・アルゼイド。

一夜にして《魔王の息子》へとり上がった學生が、綽々(しゃくしゃく)たる振る舞いで馬車から降り立った。

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