《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》

僕は遙はるか地上に広がるサクセンドリア大陸を見下ろした。

やや視線を橫向けると、大海を挾んだ向こう側に、別の大陸が見て取れる。

それこそがシュンたちの故郷、クローディア大陸だ。

創造神ディストの企みにより、壊滅されかけたクローディア大陸だったが、その野は危ういところで破られた。

僕の目の前に立つ、國王シュンによって。

神と同程度の力を持つ彼と戦えば、その膨大なる魔力の余波より、一般の魔は死んでしまうだろう。下手をすれば街のひとつでも吹き飛ばしてしまうかもしれない。

だから空中に出た。

ここなら誰もいないし、なにかを壊す心配もない。僕とシュンは、特にそうと打ち合わせたわけではないが、無意識のうちに空に出ていたわけだ。無用な被害を出さないために。

「ふん。こりゃあいい」

目深に被ったローブの下で、シュンはにやりと笑った。

「あんたもそうだろうが、互角にやり合える相手なんていなかったからな。創造神との戦いなんて楽しめるようなモンじゃなかったし」

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「まあね。同だよ」

だからこそ楽しめる。

僕も、そしてたぶんシュンも戦闘狂ではないが、たまには思いっきりかしてみたいものだ。

「さて、いくよ。手加減しなくていいんでしょ?」

「ああ。俺も容赦しねえでいくぜ!」

僕とシュンはまたも同時に駆け出した。

「うおおおおっ!」

僕の突きはなった右拳が、シュンの拳と激突する。

ズコォン!

瞬く間に衝撃波が発生し、周囲の暗雲を掻き消した。

続いて耳をつんざく轟音。

この一撃の余波だけでも、魔力の弱い者は耐えられないだろう。 

だがここなら何の心配もない。

遠慮なく戦える――!

僕は右拳を引っ込めると、続けて右膝を持ち上げた。シュンの腹部に達しようとするところで、今度は彼の左手に阻まれる。間髪いれずにシュンの回し蹴りが見舞われるが、ギリギリのところで回避する。

紙一重の攻防がそれこそ果てしなく続いた。

僕もシュンも確定的な一撃は與えられていない。それだけ実力が拮抗していた。互いの攻撃はギリギリで防がれるか、あるいは避けられる。

知らず知らずのうちに、僕は笑っていたのだと思う。

なにしろ生まれて初めてなのだ。この僕と、同等以上にやり合える相手がいたことなんて。

いつしか、僕は思考を中斷していた。シュンの一挙手一投足のみに意識を投じ、もはや本能的な瞬間反応だけで対応する。

シュンも同様、瞬間的な反応で僕の攻撃を避けてくる。僕のきを目で見ずとも、こちらのきを捉えているようだ。

もはやそれは理ことわりを越えた、神同士の戦いであった。

――まだだ、まだいける。《俺》たちはまだ戦える!――

「いくぞ……」

僕――否いな、俺は無意識にもじ取っていた。

大魔神エルガー。

その本分とでも言うべきドス黒い何かが、の芯から沸き起こってくるのを。

自分のから、漆黒の霊気がもうもうと顕現されていくのを。

「…………!」

シュンもその異変をじ取ったらしく、表をやや強ばらせると、両腕を左右にばした。

二つの拳に濃な闇の粒子が濃していく。

固まっていく。

數秒後、シュンの手はニ対の剣が握られていた。

闇の雙剣――

ふとそんな言葉が脳裏に浮かんだ。

の魔力を現化させ、刃へと変化させた。この世のすべてを呑み込まんとするばかりの圧倒的なる闇を、俺はじ取っていた。

「こいつは昔、あの創造神をも倒した技でな。攻撃と同時に相手の生命力を奪う――まさに引きこもりに打ってつけのスキルってわけだ」

「……ふん」

引きこもり。

他者と関わるのが苦手で、長らく自分の世界にこもってきた者。

その意味では、俺とシュンはとてもよく似ていた。

どういう因果か、特にこれといった努力もしていないのに《強い》というところまで。

「いくよ。ついてこい、シュン」

「ああ。むところだぜ」

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