《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》人間への距離

「人間界に招待か……はは、なかなか無い経験だね」

言いながら、僕は薄い笑みを浮かべた。

自分の神殿で、過去、人間界なんて腐るほど眺めてきた。

権力を不當に振り回す貴族や、上位者にびまくる中級貴族。手近なところでは、互いの好意の有無に悩む若き男や、仲睦なかむつまじい家族など、それこそ多くの流れを眺めてきた。

だが、実際に人間界の地を踏むのは初めてである。

そんなふうに考えていると、シュンの気遣うような聲が聞こえてきた。

「やっぱり……嫌か? 人間界にるのは」

「いや、そんなことはないさ」

僕はゆっくり上半を起こすと、隣に寢転ぶシュンを見下ろした。

「僕も永く生きてきたからね。魔も人間も、本質的には変わらないってことはわかってる。強いて言うなら、……うーん、民族的な違いかな」

「そうか……」

けれど、長い歴史のなかで、両者は飽きることなく爭い続けてきた。同じ種族では《義理》や《》などを重んじるのに対し、他種族に対してはそれがない。まさに當然のように、人間と魔はずっと闘ってきた。

「実はそこのコトネも、人間にげられてきたクチでね。……表には出してないけど、人間に対する恐怖や不安は殘ってると思うよ」

「…………」

シュンはそこで切なげに目を泳がせる。

「……俺も過去、同じことで悩んでな。人間界じゃ、魔なんて悪魔みてえな存在なんだよ。兇悪で知の欠片もねえ化けで、だから殺して當たり前って言われててな」

シュンはいったん言葉を切ると、同じく上半を起こし、目線をロニンとコトネに向ける。

數メートル先のキッチンでは、小さなの子二人が、キャーキャー言いながら調理を楽しんでいた。包丁の扱いが危ないロニンに、コトネがちらちらと目を向けている。

そんなロニンの後ろ姿を微笑ましそうに眺めながらシュンは言った。

「……すげえだろ? あいつ、あれでも魔王なんだぜ? 人間界ではすげー恐ろしい奴とか言われてたのによ。俺にはそれが信じられなかった。あいつだって同じ生きで、同じを持ってる。だから……」

「シュロン國――人間と魔が共存する國を作った。そういうことだね」

僕の言葉に、シュンはこくりと頷くと、ふうとため息をついた。

「……だが、ここの大陸はそう単純じゃねえみたいだな。創造神だけじゃなく、ナイゼルやルハネス……読めねえ奴らがうじゃうじゃいる。こりゃまさに、激の時代ってやつだな」

「ほんとにね……」

創造神だけでも厄介なのに、そこにルハネスという規格外な魔も現れた。

長らく歴史を見続けてきた僕でも、今後、勢がどうくのかまったく見當がつかない。それだけの大が集っているのだ。

でも……そんな狀況だからこそ、人間側でも魔側でもない、第三の道が拓けるようにしていきたい。それがシュン國王のみだということだ。

「あ、すっかり仲良くなったのかな」

ふいにコトネが會話にり込んできた。両手には大皿が載っている。なにやら香ばしい匂いが漂ってきて、僕は思わずごくりと唾を飲んだ。

コトネは二つの大皿をテーブルに乗せると、シュンに目を向けた。

「……私も正直、まだ人間は怖い。だけど、シュンさんを見てると……本當に私たちと同じで、人間も魔もそんなに変わらないんじゃないかなって思えるよ。だから――」

頑張って。

それだけ小さい聲で言うと、そそくさとキッチンに帰ってしまう。

まあ仕方あるまい。現時點では、あれが彼の限界だろう。コトネの両親は、いまでも人間たちを恨んでいるのだから。

僕もシュンに顔を向け、微笑んでみせた。

「……ま、できるだけやってみようよ。世界のあるべき姿ってやつを見極めるためにもね」

「ああ……そうだな」 

そのようにして、シュンとロニンをえた夕飯は、ごくごく平和に開始された。

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